比企谷、P辞めるってよ   作:緑茶P

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(´ω`*)残暑も厳しい中で今日の更新は有料リクエス『周子と八幡の初夜』!!

リクエストくださる皆さん本当に嬉しくて毎回張り切っちゃいます!!ありがとう!!(糞デカボイス

(・ω・)さあ、今日もなんでも許せる広い心でいってみよー!!



甘く、蕩けるようなジレンマを

「おーしっ、そんじゃあ我らが舎弟“ハチ公”の残り少ない独身期間を惜しんで―――乾杯だオラアッ!!」

 

 夜の繁華街の片隅にある小汚い居酒屋。その喧騒の中でもよく響く軽薄な声が乾杯の音頭を高らかに取った時はその場にいる誰もがチラリと目を向けたが、酒の席。ソレも音頭の通りならそのハイテンションも頷けるものとして、その視線を自らの卓へと戻していった。

 

 何よりも、その声に合わせて杯を酌み交わした面子が傍目から見れば明らかに堅気ではないのであれば猶更のこと。

 

 音頭を取ってガハガハ笑う男は派手に染められた銀髪に厳ついサングラス。それに悪趣味な柄シャツに身を包んだお手本のようなチンピラで、ソレに向かい合うように座り呆れた視線を向けている二人だって大した差はない。

 

 2mに届きそうな巨躯をスーツに包み込み品よく杯を乾す偉丈夫は明らかにどっかの組の若頭にいそうな風貌で、その隣で苦笑いを漏らす男も細身ながらその暗く澱んだ瞳は何人か埋めた事があると言っても疑うモノはまずいないだろう。

 

 そうね、俺なら速攻でその店を出ていくレベルで関わりたくない集団なので気持ちは良く分かる。

 

 そんな独白を俺“比企谷 八幡”は心の中で呟いて更に苦笑を深めるのであった。

 

「おーい、ハチ公。テメーの為にわざわざアメリカから駆けつけてやった俺様に対して随分とノリがわり―じゃねーか! おらっ、もっと景気よく飲み干してエンジンかけろや!!」

 

「お前の喧しさに呆れてモノも言えないだけだろう、内匠」

 

「あぁっ? 祝いの席で騒がないでいつ騒ぐんだよ、相変わらずアホか武内」

 

「このやり取りも346日米対抗ライブ以来と思うと感慨深いもんがありますね……」

 

 和やかな酔い絡みから一転してガンを付け合う二人の緊迫感にいよいよサラリーマンたちが慌てて店を逃げ出していく様子を横目にしつつ、せめてもの店への罪滅ぼしでビールを追加注文した。

 

すんません、ウチの元上司達の柄が悪くて……。

 

 こうしてお互いに悪態を掛け合っている姿は正に“道を究めた方面の方々”にしか見えない二人だが、本来はこんな湿気た居酒屋にいていいような二人ではないのだ。

 

 かつて俺がバイトしていた芸能界最大手である“346プロダクション”。

 

 そんな大企業の中から一切の下地も助力も無いまま未だに伝説として語られる“シンデレラプロジェクト”を立ち上げ、アイドル群雄割拠の時代にその名を知らしめた稀代のプロデューサーであり、いまだに『魔法使い』と恐れられる“武内さん”。

 

 その大学時代からの同期であり悪友であった“内匠”さんは素行の悪さと強引さで左遷に左遷を繰り返された先―――神奈川の茅ケ崎支店では日本最後のロックアイドルグループと呼ばれた“炎陣”を。更にデレプロとの激戦の結果で飛ばされたアメリカでは『IDOL』という概念を作り上げ、未だかつてない莫大な市場を気づきあげた“怪物”。

 

 あの激動の時代から俺がデレプロを辞めて既に7年が経とうとしている。

 

 その間にも二人の情熱は絶えることも無く燃え盛り、今では二人揃って346の方針を決めてしまえる程の重役にまで上り詰めた。

 

 そんな芸能界の大御所の二人がまるであの頃と変らないやり取りをしているのを見ていると思わず懐かしさと、愉快さが先だって笑えて来る。

 この光景が見れただけでも今日の飲み会を、無理を言って開いた価値はあるのかもしれない。

 

「………やめだ、舎弟の門出祝いでお前に構ってる時間が勿体ねぇ」

 

「元はといえば、お前のバカ騒ぎのせいだろう。んんっ―――改めて、比企谷さん。来週にせまった結婚式、おめでとうございます」

 

「―――いえ、逆に二人に来て貰えて本当にありがたいです」

 

 俺から漏れ出た笑い声にピタリといい合いを止めた二人がバツ悪そうに、それでも心から祝福してくれているのが分かって―――俺は深々と頭を下げた。

 

 そう、コレは俺が

 

“比企谷 八幡”という男が独身でいられる残り僅かな期間での、最後の機会だろうから。

 

 無駄にしないように、かつての恩人たちに心から頭を下げもう一度盃を掲げた。

 

 

「「「独身最後の夜に」」」

 

 

 寂れた居酒屋でもガラスの鳴り響く音は変わらず澄んで、綺麗な音を鳴らした。

 

 

――――――― 

 

 

「しかし、“よーやっと”って感じだよなー。てっきり俺はデレステ解散ライブをしたら速攻で結婚するもんかと思ってたぜ」

 

「まだあの時は自信をもって横に並べる自信が無かったっすから…」

 

「相変わらず師弟揃って小難しく考える奴らだ。“楓ちゃん”も“周子ちゃん”も随分と泣かされたと思えば思わず涙が出てくらぁ……」

 

「いや、お前に言われる筋合いはない。向井さんがアメリカで浮気をしたお前を殺しに行くのを止めるのに何度骨を折ったと思っている」

 

「ケジメつけてからはスグに責任取っただろーが。グチグチ言うなっ!」

 

 あーだこーだとほぼ貸し切りになった飲み屋の卓で好き勝手に会話の花を咲かせていると急に内匠さんに痛い話題を刺され思わず眉を顰めてしまう。

 

 思い出すのは俺がデレプロを辞めてからの間の事。

 

 ただの少女だったあいつ等がみるみる内に眩い星になっていくのを見送っていく中で、誰よりも隣にいた少女が―――自分の最愛となる“塩見 周子”が手も届かない高みに上っていく光景で俺は彼女達に依存し始めている自分に気が付いて多くの静止も振り切り346を後にした。

 

 武内さんのように導く事も出来ず、内匠さんのように強引に引っ張り上げる事も出来ず、経理の鬼であったちひろさんのように千里先まで見渡すことも出来ない凡人の俺をお人好しのあいつ等はきっと見捨てる事が出来ないから。

 

 もっと高くに登れるはずの道を、自ら降りてしまうだろうから。

 

 そんないつか訪れる憐憫と同情に塗れた悲劇を享受する事が怖くて俺は全てを放り出して逃げ出したのだ。

 

 そこから、雪ノ下のコネで何とか今の会社に滑り込み“何者”かになるために死に物狂いで働いてきた。

 

 それでも足りなくて。

 

 偶然に再会したアイドル達の言葉を聞く度に、一人芝居の自己満足を打ちのめされて。

 

 最後に――― 一番、傷つけたくない少女を泣かせてしまった。

 

 だが、それでも星に灯った燈は消えることなく俺を照らして、また手を取ってくれた。

 

 まぁ、語れば長い。聞けば“なんでそんな遠回りを”と誰もが目を剥くそんな物語の末に俺はようやく彼女を抱き留める事が出来た。

 

 かつて偶然から拾った妹分の少女に、『愛してる』なんて言葉を気兼ねなく伝え、抱き留めるのに掛かった時間はなんと驚きの“8年”。文句を言われてもぐうの音もない。

 

 ちなみに、武内さんは楓さんと解散ライブ終了―――というか、楓さんが解散ライブに普通に結婚指輪を付けて出演したので速攻でバレたし、内匠さんはライブが終わった直後に拓海を迎えに来てそのまま市役所に向かって、そのままアメリカに連れて行ってしまった。

 

二人の行動力から考えると返す言葉も無いのである。

 

 そんな事をつらつらと振り返っていると、武内さんと言い合いをしていた内匠さんがふと思いついた様にこちらを向き、嫌らしい顔をして俺の肩を組んでくる。

 

「んで、もう周子ちゃんとの同棲も半年くらい経つんだろ?―――毎晩やりすぎて腰がソロソロきつくなってきたんじゃねぇーのぉ??」

 

 普通に呑んでた酒を吹き出した。話題の転換がジェットコースターかな?

 

 というか―――その話題は不味い。

 

「貴様、相変わらずゲスでクズだな」

 

「はぁ~? 大切なことだろーが! というか、お前だって結婚してからポンポコとガキを仕込んでんだから人の事いえねーじゃん」

 

「そういう問題ではないっ! というか、今はそのことは関係ないし―――なにより、お前が言うなっ!!」

 

 ぎゃんぎゃんと再び仲良く喧嘩し始めた二人。

 

 年甲斐なく張り合えるライバルがいるというのはとても素晴らしい事だと思うのだが、二人揃って子供の数まで競わなくていいと俺は思うのだけれども。

 実際、二人がパートナーを娶ってからは頻繁に妊娠報告が世間を騒がせていて今はもう武内さんは2人と妊娠中の1人、内匠さんは双子も含めて4人。夫婦仲が宜しいようで何よりです、はい。

 

 そんな二人を眺めつつ、脳内で揺らめく悩みをいうべきかどうかを迷って―――ビールを流し込んでその振り子に最後の一押しを加える。

 

 どうせ、この流れを流せばもう機会は訪れず、一人で悩む羽目になるのだから。

 

 

「その―――――お二人は、初夜ってどうやって迎えました?」

 

 

「「―――――は?」」

 

 

 俺の苦し気な問いに、騒がしかった声はピタリとやんで

 

 信じられないモノを見るかのような視線が二つ注がれたのであった、とさ。

 

 

 

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「裏切り者の門出を祝して~?」

 

「「「かんぱーい☆!!」」」」

 

「殺意が全然隠せてないやないか~い」

 

 社会人になって、お酒を嗜むようになってから贔屓にしているこじゃれたパブに集ったかつてのユニットメンバー達の音頭についつい苦笑とツッコミを漏らしてしまった。

 

 家出中に今の旦那に拾われ、紹介されたデレプロでは管理人時代からアイドルになった時まで数多くの友人を作る事が出来たが、未だにこんなに際どいネタで笑い合えるのはこの“LIPPS”のメンバー達が一番だ。

 

「あら、一人の男を取り合った仲なのに満面の笑みで祝われる方が気持ち悪いでしょう?」

 

「おやおや~、しばらく凹んでた“奏”リーダーが言うと説得力がありますな~」

 

「こらっ、“志希”ちゃん、めっ! 部屋で普段見もしない失恋映画を見まくって浸ってたのは秘密だって約束したでしょ!!」

 

「いや、現在進行形で全部ばらしてるからフレちゃん……。まぁ、何はともあれ、いよいよ来週が結婚式だし久々の面子で今日はパーと盛り上がろ☆――――ようやく私達も諦めきれる訳だし(ボソッ」

 

「いやいや、そんな複雑なアレなのにホンマよく私刺されへんかったなぁ……いやマジで」

 

 最後の美嘉ちゃんの奴が一番重くて怖い。大切なことなのでもう一度言うけど 怖いわーん。

 

 まぁ、そんなちょっとした引っ掛かりはあるものの、それでもこうして独身最後の飲み会を企画してくれるだけの友情があり、絆がある。ソレを今は素直に喜び、最近ようやく慣れてきた酒精で緩く口元を湿らせた。

 

「ふぅ……まあ、何はともあれ、おめでとう周子。今日くらいは広い心で惚気話にも愚痴にも付き合ってあげるわ」

 

「そうそう、今日くらいはぶっちゃけちゃいなよ。同棲も半年となれば色々な不満も溜まってるでしょ?」

 

 口の軽い志希フレコンビにアイアンクロ―で口の中に熱々のアヒージョを放り込んで折檻を終えた奏ちゃんが苦笑と共にそんな事を呟けば、美嘉ちゃんもソレに便乗してくる。

 

 うーむ。大人な二人である。

 

 “おに―さん”こと私の恋人である“彼”と長い時間の末に結ばれ、ようやく同棲にまで漕ぎつけたのがようやく半年前の事。

 

 電撃記者会見で婚約した事を発表してから随分と世間様を騒がせもしたのだけれども、まあ、アイドルも卒業してタレント業を地道にやってきた成果か今も乾されることも無く芸能界でお仕事を貰えている。

 

 向こうは向こうで建設業の監督さんなんてやっているものだから帰りは遅く、休みは少ない。

 

 そんな二人での共同生活だから愚痴も惚気も溜まる程に一緒に居られていないというのが現状なので何を話した物かと頭を少しだけ捻る事になった。

 

「えー、なんだか味気ないなぁ。フレちゃんもっとラブラブな話聞きたーい!」

 

「同棲生活というよりはルームシェアみたいな感じだにゃー」

 

「なははっ、まあ意外とそういうもんやって。そもそもが家出を拾われた頃からおにーさんがデレプロ辞めるまで毎日のように顔を突き合わせてたわけやし、今更住む家が一緒になったくらいで気恥ずかしさも感じる訳あらへんやん」

 

 ケラケラと笑う私になんだか肩透かしを食らったかのような表情を浮かべる仲間達。

 

 だけども、私達はそうなのだから仕方ない。

 

 イチャイチャもベタベタするのも憧れが無いわけでは無いけれども、

 

 そんな事よりも二人して寝ぼけ眼で歯を磨いて、食後のコーヒーを啜りながら交わす短い朝の会話や、泥だらけだったり汗まみれだったりする彼の作業着を洗ったり、お互いのその日に合った事を寝る前にゆるゆると語るそんな時間があるだけでもはち切れてしまいそうな幸せに包まれているのだから。

 

 “あぁ、この人の一番星になれたんだな”と思えるこの生活がずっと欲しくて、ソレを手に入れた。

 

 これ以上はちょっと贅沢だろう。

 

「と、いいつつ勝ち組の余裕を微笑みで表現する周子ちゃんなのであった。……あー、やってらんねーすわー。志希ちゃんもうお腹いっぱいすわー」

 

「勝手にナレーションいれんといてーや」

 

 しまった。顔に出ていたか。

 

 他の面子もなんだか呆れたような顔でこちらを見ているのでどうもそうらしい。いやはや、実に照れ臭い。

 

「お幸せそーでなによりでーす。……んでー、そんな幸せ絶頂の周子ちゃんの“夜の生活”の方はどうなのかおねーさんに聞かせてごらーん?☆」

 

 にひひっ、と意地悪気な顔に切り替えたカリスマさんが卑猥な指をして詰め寄ってくるのに他の面子も眼の色を変えて詰め寄ってくる。

 

「確かに、気になるわね…」

 

「もう毎晩ぬっちょぬっちょのべっちゃべちゃなんでしょー! フレちゃんそういうのには詳しいのだっ! 処女だけど!!」

 

「んふふ~、今まで溜まってた分を取り返すくらい乱れた生活を送ってた気配がするじゃにゃ~い?」

 

 どいつもコイツも初恋を拗らせた処女共なだけあって耳年増な部分をこれでもかと発揮してニマニマと、興味深々と言った具合であれこれ好きな事を聞きだそうとしてくるのだけれども――――

 

「………………」

 

 無言で静かに目を背ける私の異変にやがてその場の空気は冷えていき、誰かが口ずさむ。

 

「……まさか、」

 

 相談すべきか、しないべきか。

 

 悩む間の沈黙は何よりも雄弁な“肯定”となって。

 

「「「「私、ちょっと用事が出来て」」」」

 

「おいコラ待たんかい、ぼけぇっ!」

 

 一斉に剣呑な気配を醸し出して席を立つ雌豹たちに飛び掛かり、全員を無事に着席させるまでしばしの時間格闘をする羽目になったのであった。

 

 そう。

 

 恥ずかしながらこの“塩見 周子”。

 

 最愛の男と同棲を半年もしながら―――いまだ“純潔”なのである。

 

 

 ほんま、頭の痛い問題が私達夫婦の間には未解決のまま転がっていた。

 

 

 

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「ハチ公、お前まさか……」

 

「………比企谷さん、コレは真剣な質問なのですが―――機能は正常ですか?」

 

「正常ですよ。健全するくらいに正常ですから二人揃ってその労わるような眼を辞めてください」

 

 俺は勇気を振り絞った事を早々に後悔して二人の疑念を強く否定した。

 

 この二人がこんな息を揃えて何かをするという貴重なシーンは出来ればこれ以外の場面で見たかったぜ…。

 

 だが、そう聞きたくなる気持ちは分からないでもない。

 

 俺の嫁となる周子。彼女の容姿はメンバーの顔面偏差値がバグっていると話題になったLIPPSの一角を担う程であったし、タレントになってから髪を伸ばした彼女は神秘的な魅力すら身に着けて未だにファンを増やしている。そして、そのスレンダーな身体にアクセントを加える凹凸も豊かで、肌は本当に透き通る程に白く滑らかだ。

 

 ドラマに彼女の水着シーンが出ると話題になっただけでその回の視聴率が跳ね上がってトレンド入りを果たすような漫画から出てきたような女、ソレが周子である。

 

 そんな日本どころが世界中の男子が羨む“恋人”という地位に収まった男が同棲をしているにも関わらず未だに清い身である理由なんて心か体に重大な問題を抱えている意外にあり得ない。俺だってそう思う。

 

 だが、それでも―――その数少ない例外になってしまった俺にだって言い分がある。

 

「……………いや、同棲してからの初デートでそういう空気になった時に その、泣かれまして」

 

「「――――っ!」」

 

 その一言に、二人が息を呑み揃って額に手を当てた。

 

 なんとなく、事情を察してくれたらしい。これだから出来る男達というのは無駄がなくて助かる。

 

 念のために言っておくが、無理やり迫って――とかではない。

 

 あの日のデートは最初こそは気恥ずかしさがあったモノの二人で街を歩き、くだらない事を駄弁りながら話している内にいつもの様に軽口を叩き合って昼飯を食う頃には自然体でデートを楽しめていた。

 

 映画を見て、道端の猫を構い、二人の生活に欲しそうな小物を見て回って、家に帰って夕食を二人で作った。どこにでもいそうな“カップル”の平和な休日は―――食休みのコーヒーを飲んでいる時にどちらからともなく自然と身を寄せ合って、最後のイベントを迎える。

 

 緩やかなキスの応酬と、長年にわたりお互い言いそびれていた愛の言葉を何度も何度も繰り返し囁きあった二人。

 

 ただ、事件はそこから始まった。

 

 お互いの服を緩やかに解いて生まれたままの姿になった時に周子の身体がびくりと大きく震えた事に気が付き、慌てて彼女を気遣えば“何でもない”と繰り返すばかり。

 ただ、その身体は明らかに強張っていて―――遂には空元気で笑顔を作っていた彼女の瞳から雫が零れ落ちた。

 

 そして、そこで俺は女性にとっての“初めて“がどれほどに恐ろしい事なのかという事に思い至り、必死に彼女を抱きしめて謝り倒す。

 

 それに、周子が何度も泣きながら謝り返してくる事のなんと心苦しい事か。

 

 “ちゃんと出来なくて”、“ビビりでゴメン”と何度も泣きながら震える彼女に俺の狂ったように煮えたぎっていた獣欲はすっかりとなりを潜めて、ただただその後は周子の柔らかで細い身体を壊さないように抱き留めて一晩中愛してると伝え続けようやく彼女の涙は止まってくれたのであった。

 

 そこから、二回目になる機会はお互いの多忙さもあって中々めぐり込んでこずに、なりそうな雰囲気の時もお互いにあの時の記憶が蘇ってお互いに軽いキス程度で済ませて穏やかな時間を過ごす事を選んできてしまった。

 

 いや、うん。まぁ……お互いにビビりまくった結果として結婚式を目前に控えてもまだ清い体のままという今時は珍しいカップルはこうして生まれたのである。

 

 ただまぁ、流石にもうしんどい。

 

 一緒に暮らしているアイツの飯は美味いし、時間のある時は俺の小汚い作業着も嫌な顔せずに洗ってくれるし、一緒にいるだけで気楽で楽しい。だが、あんな美人の嫁さんを前にして半年間の禁欲はもうホントにキツい。

 

 何回自分で抜いてもアイツの風呂上がりを見るだけですぐに勃つもん。美人の嫁さんを貰ってこんな苦行に挑むことになるなんて当時の俺は思ってもいなかったし――――やりてぇんすわ。実直にいっちゃえば。

 

 でも、また泣かれたらと思えばそっちはもっとキツイ。

 

 そんな性欲と嫁への愛の板挟みの末に俺は頼みの綱となる元上司に無理を言ってこうした場で泣きついている訳である。

 

 笑いたくば笑え。だが、泣いてる嫁を無理やり襲えるクズだけが俺に石を投げられるのだと心するがよい。こっちは真剣に悩んでいるのだ。

 

「ふーむ、まあ、“初めて”ってのにはありがちなパターンだが……故にムズカシイ問題だぜ、こりゃあ」

 

「こうなると男の我々ではなんとアドバイスしたモノか……“待つ”という選択肢も半年、いや、周子さんとの出会いから数えれば7年以上。その葛藤を想えば余りに酷です」

 

「………ちなみに、どっちの嫁さんも知り合いだからスゲー聞きにくいんですけど、二人は嫁さんとどんな感じだったんですか?」

 

 俺の哀愁漂うSOSに一切笑いもせずに真剣に腕を組んで悩んでくれる二人にちょっとだけ安堵の息を漏らしつつ酔いの勢いを借りて聞いてみる。

 不躾なのもマナー違反なのも百も承知だが今だけは真剣に少しでも手がかりが欲しいのである。

 

「ウチの拓海も初めてでちょっとはビビってたが……まあ、あの性格だからな。普通に俺がリードして慣れるまでゆっくり馴染ましたら普通に行けた」

 

「本来は公言する事でもないのですが、事態の深刻さから緊急事態と判断します。……楓さんも初めてでしたがこっちは向こうがノリノリでしたね。むしろ、襲われた感があります」

 

「………ダメだ、参考になんねぇ」

 

 聞きだしといてあんまりな感想だが、当たり前といえば当たり前の話。

 

 各家庭の事情が自分の家庭に通じる訳が無いのだ。

 

 他所は他所、ウチはウチという母ちゃんの名言が今は酷く俺を責めたてるぜ……。

 

「まぁ、飲め飲め。今回ばかりは力になれそうにないが愚痴くらいは付き合ってやっからよ。―――大将、焼鳥と焼酎追加で頼むわっ!!」

 

「………ふむ、責任は取りかねますが所見を述べても?」

 

「―――へ?」

 

 ぐたりと卓に崩れ落ちる俺を気づかわし気に背を叩く内匠さんに勧められるまま焼酎を飲み下していると、腕を組み黙考を繰り返していた武内さんがそんな言葉を呟く。

 

武内さん――――あんた、最高の上司だぜ。

 

 

 

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「で、なに? 結局は最初の失敗からビビッてやってない訳?? マジ???☆」

 

「いや、美嘉ちゃんは体験したことないから分からんのやって! 普通にビビるわあんなもん!!」

 

 人の旦那を公然と寝取りに旅立とうとする狼たちを必死に抑え込んで再開したLIPPS会議は立場が一転してみんなの冷ややかな視線に晒されて私が身体を縮こませるという構図で始まり、ピンク髪の処女カリスマモデルが生意気な事を言い始めたので必死に反論する。

 

「いや、しゅーこちゃんがこんなに純情だったとは予想外だにゃー。ゆうて日本人の平均なんて10~15㎝で幅も3cm前後。そこまで長引かせるものでもないでしょ~?」

 

「へ?」

 

「「「「え?」」」」

 

 志希ちゃんがケラケラ笑いながら指でスケールを作ったのを誰もが興味深く眺め、何かを納得したのか釣られて笑っている光景を目にした私だけが首を傾げ、また空気が凍った。

 

 え、あれ? いや、調べたことないけどそんなもんなん?

 

 だって、あの日見たおにーさんの“アレ”って……。

 

「周子、落ち着いて。きっと気が動転してたのよ。よーく思い出してみれば案外大した事が無かったりして貴方の悩みなんて簡単に解決するかもしれないわ」

 

 奏ちゃんの言葉に一理あると思い直して少しだけ頬に熱が溜まるのを感じつつあの日の事を思い出してみる。

 

 えーと、向かい合わせで抱き合いながら固いのを感じて下を覗いた時がこんな角度で…確かおに―さんのが臍超えてこのへんまで来ててぇ、太さは恐くて触れんかったから自信ないけど……なんやろ、私の手では余りそうやったから……あ、小さめのズッキーニくらいかも知らん?

 

 いや、ウチかて処女やけど多少の知識はあるし覚悟もあったはずなんやけど―――え、改めて聞くとサイズ感おかしくない?? 棍棒やん、もうソレ。ふつーに凶器やん??

 

 私の意見に同調を求めて周りを見渡せば誰も私の言葉なんて聞いておらず手で作ったスケールを自分の下腹部にあてて顔も真っ赤に夢想に耽っている真っ最中。人の旦那でやめーや。

 

 おいこらっ、おもむろに席を立つな志希ちゃん。トイレに行くならバック必要ないでしょっ!?

 

 

――――― 

 

 

「こほんっ、ふむ、私達はあの男を少し甘く見ていたようね……」

 

「「「異議なし」」」

 

「なんなんこの会議……」

 

 日本中が憧れる大スターたちが成人してからこんな思春期真っ只中だだもれな話題に熱上げてると知ったらファン泣き崩れるで、ほんま。というか、ママさんがもう既にドン引きしてるやん……次回から来づらくて敵わんわ。

 

「というか、相談する相手完全に間違ってるよなぁ……アタシ」

 

 がっくりと項垂れて切り替えたウーロン茶を啜る。

 

 いや、こんな回りくどい事せずに旦那に素直に話せばいいだけの話なのは分かっているのだが、どうにもあれ以来から気を使ってそういう空気を見事に排除してくれているからこちらから言い出すのはどうしたって恥ずかしいし――――あまり大きな声では言えないが“大切にされている感”が凄く心地よくてヌクヌクとソレに甘えてしまってきた。

 

 だが、我慢させているというのも痛い程に良く分かるし、“そういう事”をしてあげたい気持ちは確かにあるのだ。

 

 問題はやり方だ。

 

 無策に行ってもまた二の舞になるだろうし、あんまり甘えすぎててソレが原因で浮気なんかされたら私は多分ふつうに自殺するし、彼を殺してしまう。そんなバイオレンスな展開はこの前出たドラマだけでお腹一杯。しゅーこちゃんは幸せ家族ホームバラエティー路線の家庭を目指している。

 

 それを満たせる方法がどうしても浮かんでこないから皆に相談したのだが結果はご覧の有様。うーむ、こまったなぁ。

 

「はい!」

 

「はい、フレデリカさん」

 

「フレちゃん達が周子ちゃんの代わりに相手をしてあげる!」

 

「殺すぞマジで」

 

「――ひえっ」

 

―――― 

 

「はーい!」

 

「はい、志希ちゃん」

 

「もうめんどくさいから薬で襲わせる、とか」

 

「……悪くないけど、その後のおに―さんが罪悪感で死にそう」

 

「めんどっ」

 

――― 

 

「はい」

 

「はい、奏ちゃん」

 

「“傘”に“貴方の貞操”と説きます」

 

「……その心は?」

 

「―――開くも閉じるもあなた次第」

 

「うまいっ―――フレちゃん、スピリタス注いであげてー」

 

「はいはーい♡」

 

「ちょっ、まっ!!」

 

―――― 

 

「ちょっとは真剣に考えーやっ! 大喜利大会しとるわけやないねんっ!!」

 

 奏ちゃんのせいで最低な下ネタ大喜利や川柳を読み始めたアホ共に活を入れるものの、みんなスピリタスやウォッカの飲み過ぎで完全に酔っ払いと化し始めていてもうケラケラ笑うばかりであるこんちくしょう。

 

 そんな中で、一人だけ混じらずに腕を組んでいた美嘉ちゃんが顔を真っ赤に染めつつも、何かを覚悟したようにゆっくりと手をあげた。

 

「……はい、美嘉ちゃん」

 

「いや、私も多分そんなの見たらビビるからえらそーな事言えないんだけど、さ。でも、ずーっとそんな状態でもいられない訳だし――――ちょっとずつ慣れていくしかないんだと思うんだ」

 

「――――美嘉ちゃん」

 

「いや、これマジのあれだから本気で恥ずかしいんだけど、昔そういう記事のコラムを書くとき調べたんだけど勢いで“が―っ”とやっちゃうのが全部じゃないみたいで……その、“ポリネシアン式”ていうのがあるの。

 

 直接的なのは期間中に絶対しないんだけど、その期限まではお互いの身体を抱き合って眠ったりキスしたり、撫で合うだけ。その、なんていうのかな、来週の結婚式を終えれば本当の意味での“初夜”な訳じゃん?

 

 その時までに、恥ずかしくてもアイツと話し合ってさ―――“ソレ”もアイツの一部なんだって思えるようにゆっくりと受け入れていくのが良いと思うんだ」

 

 その顔はなれない話題で照れている部分もあるのだろうけれど、瞳は真摯に真っ直ぐと私を見つめて必死に言葉を紡いでくれる。

 そして、優しく見守るような微笑みの中に―――ちょっとだけ心の中で押し殺した悔しさと後悔を隠しきってくれる本当に優しすぎる彼女。

 

 それが、苦しくて、嬉しい。

 

 私がデレプロを裏切り、クローネのメンバーとして立ちはだかった時のダンスバトル、ダンスと歌声に込めた全力で彼への想いを語り尽くした親友で、恋敵。

 

 その彼女がこうして押し出してくれるのだから、自分は本当に人に恵まれすぎている。

 

 彼女だけなく、凹んでいる自分をバカ騒ぎで元気づけてくれる友人達も、競い合って自分を新たな高みに連れて行ってくれるライバル達も、馬鹿だった自分を導いてくれた恩人たちも―――何より、暗い闇に捕らわれて自暴自棄になっていた自分を掬い上げてくれた大好きな彼。

 

 その全てに、私は嬉しくなって  

 

 少しだけまた泣いた。

 

 私は、強くなってから――――ちょっとだけ、泣き虫になったみたいだ。

 

 

 

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 武内さん達との呑み会は俺の相談に一段落がついた所で、呑み直しとなり今度は懐かしい話題や最近のメンバー達の事となって会話に随分と花が咲いた。

 

 年長組で新たな恋を見つけたモノも要れば、新しい企画に燃える若手組に対抗心を抱いて張り切るモノ。幼かった年少組も、高校生組もそれぞれが進むべき道を決めて力強く活動を続けている話はなんだか無性に嬉しくなる。

 

 それが、かつてのような眩さに目を眇めるようなモノではなく、駆け上がっていくその姿を見守れる気分に近しいのは成長か、老いかはまだ少し判断がつきがたい。

 

 そんなこんなで久々の元上司という名の友人達との楽しい会合は、二人を家で待つ奥様方からの帰宅を尋ねるメールでお開きと相成る。

 

 別に朝まで飲み明かしても怒るような二人でもないだろうけれども、帰りを待つ人を置いてまで遊び明かそうとするほどに彼らは無思慮でもない、いい旦那なのである。

 

 そんな二人のように成れるかどうか考えて、苦笑を漏らした。

 

 他所は他所、ウチはウチ。

 

 だけれども、泣かせる事だけはすまいと彼女にプロポーズした時の誓いだけは新たに締め直して新居に帰り付けば―――向こうも懐かしの面子との女子会は早々に解散したのか家に灯りが灯っていた。

 

 一瞬だけさっき武内さん達にした相談が頭によぎるが、根本的に示された解決策は遅効性のもので焦ったところでどうにもならん。日を改めてのんびりと周子と話し合えばいいと思い直して玄関のカギを開けたのであった。

 

 

――――

 

 

「あ、おにーさんお帰りーん。随分早い解散やったんやね?」

 

「楓さん達と子供の寝顔みる時間を奪う訳にはいかんからな。気づかいの出来る元部下なんだよ」

 

「なんやの、みんな尻に敷かれとるだけやん。コーヒーのむ?」

 

「ん、たのむ」

 

 リビングのソファーで一足先にシャワーを浴びたのかパジャマに身を包んだ彼女は俺の軽口にカラカラと笑いながらコーヒーを入れるために腰を上げ、俺は素直にソレに頷いてソファーにゆったりと座り込んだ。

 

 ちょっとだけ“子供”という単語にしまったと思いはしたが彼女は気にした風もなく鼻歌交じりでコーヒーを入れてくれているので考え過ぎだと安堵の息を吐いた。

 

「そっちこそ早かったな。他の連中はどうだった?」

 

「なはは、みんな久々に羽目を外して早々に酔いつぶれちゃった」

 

「年長組から何も学んでないのか、アイツ等は……」

 

 何度かかつてのデレプロメンバー達と飲む機会があったのだが、年長が飲酒を控え始めたかと思えば今度は酒を嗜むようになった高校生組が着実に呑み助になり始めていたのを思い出してついつい苦笑が漏れ出した。

 

「ん? お前はあんま飲んでないんだな」

 

「元々あんまり強くもないし、3杯目からはずっとウーロン茶。結婚式も目前に花嫁のげぼ塗れの姿も見たくないやろ~?」

 

「餃子とビールの匂いを漂わせて人の背中でがなってた姿は今でも覚えてるけどな」

 

「えぇい、何時までも昔の話をほじくるいけずめっ!」

 

「ばかっ、零れるこぼれるっ」

 

 入れて貰ったコーヒーを啜りながら揶揄えば、ムッとした彼女がべしべしと肩を叩いてくるのに軽く応戦している内に―――ふとした瞬間に目が合って、そのまま軽くキスを交わした。

 

 柔らかくて、温かい。そんで、その後に二人して“新婚みたいだ”なんて笑い合う心地いい時間を共にして今度こそ身を寄せ合ってのんびりとソファーに凭れた。

 

「なぁ」

 

「なんだ?」

 

「その、言い辛いんやけど―――“夜の事”をみんなに相談して、さ」

 

「―――な」

 

「ごめんっ! 勝手にそういうの話してホンマごめんっ!! でも、このままおにーさんに我慢させ続けたくなくて……さ」

 

 咄嗟に口から出掛けた驚きを漏らす前にそんなしおらしく謝られてはもう何も言える訳がない。というか、俺が何を言えた口だというのか。

 

「いや、その、……びっくりしただけだ。てっきりもうそういうのは触らない方が良いのかと思ってたし――――もっと言えば、俺も勝手に武内さん達に相談してたし…」

 

 

「「………っぷ」」

 

 

 しばらくキョトンとした周子と気まずげな俺が見つめ合う数秒を経て、二人揃って吹き出してしまった。

 

 阿保らしい。=阿呆らしい

 

 こんなお互いに気まずい想いをして誰かに相談するそっくりな所も、一番最初に話し合うべき人間にお互い誰よりも遠慮していた事も。

 

 でも、そういうもんなのかもしれない。夫婦ってのは。

 

 まだ、言い切れないけれどもソレはきっと大切に想い合っているゆえの温かな“ヤマアラシのジレンマ”という奴だろうから、謹んでその痛みを楽しませて頂こう。

 

「ほんま、お互いしょうもないなぁ」

 

「まぁ、俺ららしいと言えばらしい……ほんで、なんか上手い方法は見つかったか? 言っとくけど、勢いとか、薬とか、浮気で解決とかは論外だからな」

 

「なはは、その案は大分初期に出てきたわ。みんなの思考もお見通しやねぇ」

 

 クツクツと未だにお互い喉を鳴らしながら、なんとなくあいつ等が言いそうなのを適当に上げて見れば見事に当てられたらしい。脳みそが俺もアイツ等も一切進歩していない事が可笑しくてまた笑っていると、周子が少しだけ雰囲気を変え緊張と甘さが混じったモノに変えて俺に寄りかかってくる。

 

「うん、ほんで、美嘉ちゃんがうちら向きの奴を必死に考えてくれてな……その、期日内にゆっくり抱き合ったりして身体を慣れさせていくっていう奴なんやけど、さ」

 

「……まさかの発案者だな、ソレは」

 

 意外さと的確な提案になんと言えばいいのか迷ったが、普通にありがたい。というか、元々が人の恋愛関係には世話焼きさと細やかさを持ち合わせている彼女が最も親身で分かりやすいサポートをしていたので、普通に一番適任だったのかもしれない。

 

「そっちは?」

 

「………まぁ、その、“武士はくわねど…”的なアレだな」

 

「なんやの、参考にならへんなぁ」

 

 ニュアンスは違うが武内さんの提案も全く同じものだったので一瞬だけ打ち明けるか迷ったが、ココはわざわざ醜聞を広める事は無いだろうという判断で飲み込んだ。

 少なくとも、男同士の会議でそんな案が出たというのは少しだけ画面が芳しくないのでココはカリスマ様の御威光に縋らせて貰おう。

 

 何より―――

 

「………ちょーっと、反応が素直すぎへんかなぁ」

 

「むしろ、反動か知らんけど我慢しきれるかが自信無いな、コレ」

 

 今まで必死に押し隠してきた最愛の妻を抱けるかも、という期待を持たされただけで痛い位に膨らみ始めたマイサン。ソレを少しだけ恥ずかしそうに眼を逸らす周子が可愛くてこれから始まる地獄とその先の天国に今から頭がどうかしそうになってしまう。

 

「期間は?」

 

「折角やし、ここまで来たなら結婚式終わった後のハネムーンで、とか考えとるけど……大丈夫、かな?」

 

「…頑張る。ルールは?」

 

「えーっと、軽く調べた所によれば初日は…その、全裸で、見つめ合って同じベットで寝るんやって。あの、触るのも無しで――ずっと見つめ合って、好きな人の事を焼き付けるらしい、よ?」

 

 普段から飄々としている周子が恥じらいつつも、何度も俺の顔や、躰、股間をチラチラと見やるその仕草だけで俺の理性はもうグズグズにされかけているのに――――まだ、一日目なんだけどコレ本当に大丈夫? おれ、結婚式中に大変な事になちゃうじゃない??

 

 そんな不安と期待と絶望が入り混じる中で、とりあえず俺は完全に獣になりつつあるポンコツな脳みそを冷やすために風呂へと向かうのであった、とさ。

 

 

 

 

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 さて、そこからの事は語ろうとすると“長く苦しい日々だった”という一言に尽きる。

 

 美嘉の教えてくれた方法というのを二人であの後に調べて実践してみたのだが、厳しく制限された行動の全てが愛する相手の一挙手一投足を意識させる生殺しのまま性感を高め合っていく恐ろしい儀式であり、結婚式のために長期休暇を取っていなければ確実に職場でエライ事になっていた自信がある。

 

 あの“塩見 周子”が顔を真っ赤にしながらも蕩けた顔で枕元にいて襲い掛かれないまま緩やかな時間を過ごす事を考えて頂けば想像がつくだろうか?

 

 正直、寝てらんないっす。

 

というか、お互いの両親を迎い入れた時に強面の周子の親父さんの相手をしてる時でも周子と肩がぶつかるだけで反応して本気でヤバかった。

 

 それでも何とか堪え切れたのは、結婚式の打ち合わせや段取り。ソレと346メンバーやや同級生達との呑み会が重なって毎日が精も根も尽き果てるくらいにクタクタになっていたおかげでもあるのだろう。

 

 苦労の甲斐あってか、結婚式は華やかで、和やかに進んでいき―――二人揃って祝ってくれる人達の温かさに少しだけ泣いて無事にフィナーレを迎えたのであった。

 

 役場に書類を出すだけでなく、こうやって自分達を支えてくれてきた人々に感謝と想いを伝える事で俺達はようやく本当の意味で“夫婦”になれたのだと思う。

 

 そんで、感動の披露宴の後の2次会3次会はだれもが羽目を外して高らかに笑い、踊り、祝ったせいでそんな余韻も吹っ飛ぶほどに大騒ぎ。

 

 俺たちらしい結婚式だったと、死ぬまで語れる事だろう。

 

 

そして、そのまま二日酔いで痛む頭を押さえて旅立った――――常夏の島で俺達は遂にその日を迎えたのであった。

 

 

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 二人で何をするでもなく手を繋ぎ、あてもなくブラブラと散歩なんかをして緩やかな時間が流れるその南国でのんびりとした時間を過ごし、その初日を俺たちは終えた。

 

 華やかな街並みも、華美な商店も、賑やかな観光地も―――いま、隣で歩く最愛の相手への意識を逸らすには余りにちっぽけに思え、ただただお互いに口数も少なくつながった手だけを意識して果てしなく澄んだ海に夕日が沈むのをただ待った。

 

 そして、一番星が地平に輝いた事を確認した二人は何を言うでもなく自分たちの部屋へと戻り、溜まりに溜まった感情を無言のまま身体で示す。

 

 荷物も何もかも玄関に放り投げ、お互いの衣服を興奮で震える手で引き剥がす様に剥きながらベッドに飛び込んでひたすらに抱きしめ合って貪り合うようなキスを交わしあう。

 

「わるい周子、ちょっともう、限界だ」

 

「おにーさんっ、ウチもヤバいかもっ。あたま、ちょっとおかしくなって、やばい」

 

 キスの合間に絞りだしたお互いの言葉は本当にひどいもんで知性の欠片もありゃしない。

 

 だが、単純明快なその言葉だけが“嘘”も“恥じらい”も無くシンプルにお互いに響いて行為の熱はひたすらに高まっていく。

 

 周子に至っては、あれだけ怯えていた俺の一物を自ら求める様に腰をくねらせ、俺はそんな単純な事がひたすらに嬉しくどこまでも興奮が高まって―――もう、なにもかもを思考することを投げやって最後に、本当に最後の理性を絞りだした。

 

「周子―――いいか?」

 

「―――きて、おにーさん」

 

 荒い吐息の中にお互いの耳元に蕩けきった声が響き、俺達は夢中になってその快楽にるつぼへと堕ちていき、その部屋からは朝になっても激しい物音と嬌声が止むことは無かった、とさ。

 

 

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 眩い光がカーテンの隙間から差し込み、海風の香りがゆるりと肌を撫でたのを感じ、目を覚ます。

 

 広々とした海外スイート特有の解放感溢れる部屋の中で起床した俺が体中に圧し掛かっていた何かから解放されて清々しい気分に浸って一番最初に思ったのは“海外でも朝チュンはあるのだな……”というすっとぼけた感想であった。

 

 そんな俺が次に意識を向けたのは自分の胸元でその柔らかな身体を丸めている嫁さんだ。

 

 朝日に照らされるその銀糸の髪はさらりとして俺の胸板を擽り、小さな品のいい寝息とは対照的に涎を垂らして気の抜けきった顔で俺に抱き着くその姿は猫の様で非常に愛嬌がある。

 

 見れば見る程に美人で、可愛く、ほっとけない―――最愛の女のそんな姿が手元にあることが言葉に出来ないくらいに俺は嬉しくて、呆れる程に抱いたその身体をもう一度抱きしめて幸せをかみしめた。

 

「ん、んぁ……あさから、苦しいってば」

 

 それに、寝ぼけ眼で起き出して答える彼女がやっぱり愛おしくてゆっくりと唇を重ねて、緩やかに声を掛ける。

 

「周子、愛してる」

 

「ん、うちも―――どんぶり一杯に愛してるよん♡」

 

 まさに、お腹いっぱいの幸せという奴に浸りながら考える。

 

 さて、今日は彼女とどんな“毎日”を重ねて行こう?

 

 そんな贅沢過ぎる悩みに俺は、残りわずかとなったこのハワイでの思い出作りに頭をこね回し始め――――俺の間違い続けた青春は、今日この日に報われる為に合ったのだと幸せに茹だった脳みそでピリオドを打った。

 

 俺の人生、そう考えれば悪くないもんである。

 

 

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比企谷 八幡 男 26

 

 死にモノ狂いで働いたおかげか現場では今や責任者に近いくらいに出世。社内では同期の社長令嬢とくっつき天下を取ると思われていたがまさかの周子とくっついたせいで阿鼻叫喚の地獄絵図を作りだし結婚式でも気まずい空気を漂わせた伝説の男。

 

 嫁との念願のSEXを迎え、彼のひねくれまくった青春は終わりを迎え幸せな家庭を築いていく事となった。

 

 

比企谷 周子 女 26

 

 最愛の男を長い年月の末に射止めた執念の京女。ラブラブで順風満帆な生活だったが根が良家の娘だったためか乙女な部分が出て旦那を生殺しにしてしまった。

 

 だが、友人たちの助けと助言もありハネムーンで見事に克服し、夫婦の営みに今度はドはまりしてソレはそれで仕事に影響が出て大変だったらしい。もう、べっちょべちょのぬっちょぬちょだ。

 

 そのおかげか初産から双子を賜った。正にハッピーエンド。

 

 結婚式では旦那の会社の社長令嬢に挨拶に行き、「私、猫が好きなのだけれどどうしても好きになれない品種がいるの」 「はぇ?」 「―――泥棒猫だけは、大っ嫌いなの」 「――――」という修羅場を密かに迎えたとかないとか…そういう噂がある。




('◇')ゞもっと読みたい人は全部pixivにあるであります!→https://www.pixiv.net/users/3364757/novels
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