比企谷、P辞めるってよ   作:緑茶P

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しぶりん、到来。


その3

プロフという名のあらすじ

 

 

 佐久間 まゆ  女  16歳

 

 皆さんご存知、仙台の星”ままゆ”。優しく、気立ても良く、美人で、一生懸命という何拍子も揃ったスーパーアイドルである。東北女子らしく”毛も深けりゃ情も深い”との名言に違わず色々拗らせている。やだ、東北恐い。

 

 

 

 小早川 紗枝  女  15歳

 

”舞子はーん”ならぬ”紗枝はーん”でお馴染みの彼女。京都人特有の言葉づかいは一見嫌みに聞こえるが、京都人特有の奥ゆかしさを理解すると気遣いに溢れている事に気付かされる。

 

紗枝「せっかくどすから、ぶぶづけでもたべなはれ」

 

さて、貴方はどっちに聞こえました?

 

 

 松永 涼    女  18歳

 

 クールであり、パッションであり、キュート。万能系イケメン女子である。アイドル部門でも珍しい常識人であり、危険分子のお目付け役でもある。最初は胃を痛めていたが、最近は息するようにお世話しているので良いお母さんになりそうだともっぱらの噂である。『おまえがママになるんだよ』待ったなしである。

 

 

―――――――

 

 

 

 聞き覚えのある、と言うと少し語弊があるかも知れない。

 

 涼やかで、その名に相応しい澄み渡った声は聞いたことがないくらい弱々しく震えていたから。

 

「…そんな日数経ってねぇのに久々に会った気がするな、”渋谷”」

 

「っ!!」

 

 彼女の目深にかぶった帽子と眼鏡の奥の瞳が意図的に取られた距離感に不快感を表すが、あえてそれを気がつかない振りをして、ゆっくりと周りを見渡す。

 

「武内さんが居ないって事は…用があんのはお前の方か。どうした?向こう二月分くらいの引き継ぎと書類に関しては個別に作ったファイルに纏めてるから「比企谷」

 

 見え透いたその場しのぎの言葉を弱々しい声が遮る。

 

「仕事、辞めるって…本当?」

 

 半ば予想していた問いかけ。そして、紡がれぬ事を願っていた言葉だ。

 

 あの時、彼女達の前で問われなくて本当に良かった。たった一人でこれなら、全員分のならばきっと耐えきれなかったかも知れない。終わりが見えている物語に、あるはずのない未来にみっともなく縋りついていたかも知れない。でも、役割を終えきった今だから偽りなく笑って答える事が出来る。

 

 ほんのり苦さを伴いつつも、本心から、笑えるのだ。

 

「ああ、この前話した通りだ。どうした?弁当のグレードが落ちて早速、俺が恋しくなったか?」

 

「……なんでか、聞いても良い?」

 

 茶化すように問いかけた言葉は絞り出すような彼女の言葉に塗りつぶされてしまう。

 

 俯いた彼女の表情は窺う事が出来ないが、震えるほど握られたその指は怒りか悲しみか。或いはどっちも混ぜ込まれたものなのか、俺には分からない。だが、嘘だけは吐くべきではないのだろうと小さくため息をつき、言葉を紡ぐ。

 

「俺が、お前らにしてやれる事はもうやり切ったからさ」

 

「ッツ!!そんな事は「あるんだよ」

 

 凛が俺の胸倉を掴み掛かり、激昂するのを遮る自分でも驚くほど冷めた声が出た。

 

「そんなこと、ないよ…」

 

「あるんだよ、”凛”」

 

 かつてと変わらぬその呼び方に彼女の顔がくしゃりと歪む。それでも、俺はもうその溜まった滴を拭う資格は無くなったのだから手をそっと震える彼女の手へと重ねた。

 

 最初は、楽なバイトだと思ったのだ。

 

 支給された車で指定された場所に指定された時間で送り届けるだけ。空いた待ち時間でちょっと設営や雑務を手伝えば更に追加報酬。決め手は無口であればある程に好ましいというのも魅力的であった。送迎対象がアイドルの卵たちだと知った時にはさすがに肝を冷やしたが、”無口”という点で納得もした。余計な因子はちょっとでも省きたい業界として、それはある種のステータスですらあったのだから、自分でも雇われた理由は驚くほど納得できた。

 

 だが、こっちが無言を心がけているのに好き勝手に暴走する彼女達に思わずツッコミを入れてしまったのが運の尽き。案山子かと思っていた運転手が移動中の暇つぶしに使える事が分かると仕事は一気に面倒になったのだ。やれダジャレの品評会だの、おすすめホラーだの、世界一可愛い娘のヨイショだの乗せる度にどうでもいい事に付き合わされる地獄と化した。

 

 気がつけばバイトを紹介した先輩は消え、アイドルに同伴してたマネージャーも減り、雑用をこなしていたはずの二ーちゃん達も居なくなって、アイドルは倍増していた。

 

 人は減っても、増え続けるアイドル。

 

 それらが頭打ちになるまでには事務所のスタッフは三人までになっていた。

 

 そこで、辞めればよかったのだ。楽な仕事がそうじゃ無くなった。たったそれだけの話でいつものようにバックれてしまえば良かった。与えられた仕事を投げ出せば自分はお役御免。ただのバイトに責任感なぞ不必要。そう思って実行した事だってある。

 

 そんなときに送られてくる一言は決まって『彼女達、待ってますよ?』という悪辣なメールだ。

 

 人の仕事に好き勝手文句言いつつ、ステージが終わった後に満面の笑みを浮かべてくる彼女達を人質に取る悪辣な事務員からの一言が俺を働かせ続けた。

 

 どうせ辞められぬならと、全てのスケジュールを網羅して、金に飯、メイク、発注、全てを最適化して纏められる物は纏め、彼女達の自助努力で出来るものは全てをやらせるようにした。

 

 常務に目をつけられて厄介事に巻き込まれもした。

 

 彼女達個人の悩みを打ち明けられ、彼女達も人なのだと気づいた。

 

 

 

 そうして、

 

 

 

 馬鹿みたいに働いているうちに、彼女達は、手も届かぬほどの星となっていた。

 

 

 

 

”自分が押し上げた”などと自惚れる事が出来るほど恥知らずではない。彼女達は最初こそどん底であったものの、その中でも誰にも負けない輝きを放っていたのだから何時かそこに至っていたのだ。

 

 それに気がついたときにふと見回してもうひとつ気がついた。自分は何にも持っていない事に。

 

 大学四年の単位ギリギリで就活未定。バイト三昧で使う暇のなかった莫大な貯金通帳。絵に描いたようなクソ野郎がそこにいた。

 

 もう一度、彼女達を仰ぎみれば嫌でもまた気づいてしまった。自分のやって来た事は、もう、彼女達には必要のない事なのだと。

 

 人も、予算もないからこそ重宝されて来た。トップアイドルになった彼女達の周りには器用貧乏な自分には及びのつかないほどの一流がその席に名乗りを上げている。

 

 それでも、何か無いかと言い訳を探して絶望した。

 

 原石を見つけ、宝石へと磨き上げたのは自分では無い。

 

 武内さんの並はずれた真摯さと情熱がそれを彼女達に決意させていたのだ。

 

 無から有を絞りだす様なちっぽけな運営資金をココまで膨らませたのは自分では無い。

 

 ちひろさんの化け物じみた経営能力があってこその運営だったのだ。

 

 考えれば考えるほど代えの聞かない大役を演じていたのはいつだってあの二人だ。俺はいつだってその補助だけで、二人がやって見せた事なんて出来やしない。誰にだって出来る仕事なのだと思い知った。

 

 自分は、4年間、代用品、、、だという事も忘れていた本物の大馬鹿野郎だったのだ。

 

 常務からの正社員の誘いに揺らがなかった訳では、ない。

 

 それでも、彼女達以外の誰かに自分が全力を出すのはどうしたってしっくりこなかったのだ。

 

 だから、例え就職が失敗していたとしても武内さんの元に残る事は無かっただろう。

 

 あれは俺にとっては、仕事、、では無かったのだから。

 

 じゃあ、何だって?言わせんな恥ずかしい。

 

 

「…言ってよ。コレが、最後なんだし、さ」

 

 掴んだ胸倉に押しつけるように頭を寄せる凛の声はわななくように震えていて不覚にも笑ってしまう。

 

 普段は生意気で口うるさいコイツラだが、こういう所だけは似通っている。みんな揃いもそろってひねてしまってやがるのは誰の影響なんだか。…俺か?

「お前らは俺の”夢”だった。お前らが叶ったなら、もう俺はあそこに未練はねぇよ…言わせんな、恥ずかしい」

 

 慣れない事を言ってる自覚はあるが実際口に出すのは恥ずかし過ぎて死にそうだ。

 

 勘弁してくれよと深く溜息をついていると凛は人のシャツに頭をごしごし擦りつけ、俺のポケットからハンカチを抜き取って盛大に鼻をかんだ……おい、ポケットに戻すな。

 

 盛大に顔をしかめている俺を彼女は軽く両手で突き放し、そのまま結構強めに俺の胸板にパンチを放ってくる。

 

「…辞めた事、後悔させるから。泣きつくなら、今のうちだよ?」

 

「おう、やってみろ。ずっと見てやるから」

 

 真っ赤な目じりや垂れてる鼻水を啜りながらも不敵に笑う彼女は、どんな撮影の時より輝いて見えて魅力的で思わず頭を撫でてしまう。こうやって気安く触られる事を嫌っていた彼女が今だけは誇らしげに笑っているのがちょっと惜しくなってしまう。

 

 見上げた星に手は届かずとも、その名と、物語を俺は生涯忘れはしない。

 

 何度だって見上げてそれを語ろう。

 

 だって自分はかつてそれが夢追うタダの少女だった事を知っているのだから。

 

 

 

「…えっと、その、比企谷君?そちらが前の会社の方で良いのかし、ら?」

 

 がっつりワールドを展開していた所に遠慮がちな声を掛けられ急速に現実に引きもどされ、状況を認識する。

 

 気まずげな雪ノ下。

”なんかの撮影?””カメラどこ?”などと騒ぐ周りの客。

 今さっきまで言っていたハズイ台詞を反芻、爆死←いまここNEW!!

「ち、違います!!いや、違わないんだけど!!違います!!」

 

 爆死して自分の痛さに気付いた瞬間に密着していた凛から大幅に距離をとる。なんだこの浮気現場を見られた亭主の様な反応。もちつけおれ。

 

「だ、大丈夫よロリコン谷君。私は誤解なんてしていないわ。そうよね、いくらアナタでも未成年に手を出すほど落ちぶれてはいないはずよ…。YESろりーた、NOたっち」

 

「お前も大概動揺してんな!!?てか凛そこまで幼くねえだろ!!」

 

「嘘よ!!完全に変質者の目をしていたくせに良く言えたものね!!この犯罪谷君!!」

 

「てめぇ!!」

 

~けんけんがくがく~

 

 

 喧々諤々と混乱している俺たちが言い合いをしていると、後ろから震える様な手によって中断された。

 

「ひ、比企谷?そ、その人とど、どういった関係?」

 

 なんかさっきよりも形容しがたい表情をした凛がわなわなと雪ノ下へと指を指すが、一体こいつはどうしたんだろうか?ロリ呼ばわりされたのがそこまで腹たったのか?若く見られるのも嫌とかマジで思春期ムズイな。

 

 一方、指を差された雪ノ下はさっきまでの剣幕はどこえやら行ったのか、若干頬を染めつつこちらに一歩距離を寄せてくる。

 

「と、突然、そう聞かれると困るモノね。なんと言ったら良いのかしら。…そうね、彼とは親しくさせて頂いてるわ」

 

 ん?まあ、付き合いもそこそこ長いので表現に困るのは分かるのだが、普通に会社の同期とかでよくないか?雪ノ下にしては珍しいミスだがもしかしてまださっきの動揺から立ち直って無いのだろうか?

 

「し、親しい・・・仲っ!?」

 

「そう、とっても、親しくさせて頂いてるの」

 

「?????????!!!!???」

 

 な、なんだこの二人のやり取り?意味は分からないが、ひたすら空気が重いぞ?周りの客もなんか帰っちゃったし。なんなの?

 謎の緊迫の視線の交錯は一分ほど続き、凛がよたよたと出口へと向かって行く。

 

 状況はさっぱり分からないが、あんな状態の女の子を一人で帰らせるのはさすがに不味かろうと彼女のあとを追おうとすると急に強い力で腕を引っ張られ、近くの椅子へ腰を落としてしまう。

 

”ジョゴゴゴゴゴゴゴゴゴオゴオオゴオゴ”

 

 目の前に置かれたカップにやたら高い位置からポットのお湯がそそがれ、立ち上る湯気の先にはにっこりほほ笑む雪ノ下。

 

「さて、”簡単な運送業”と言っていたバイトが何であんな可愛い女の子が関わってくるのか、じっくり教えてちょうだい?比・企・谷・君?」

 

 微笑むその姿は天使のはずなのだが、なぜこんなにも悪寒が止まらないのか…誰か詳細キボンヌ。

 

――――――

 

 

 

346 デレマス詰め所

 

 

 

松永「…えーっと?みりあちゃんの解読によってだいたいの経緯は分ったし、アイツなりに考えて辞めたってのは分かるし応援してやりて―んだが、そろそろ立ち直れよ凛?」

 

凛「…ぜsdfgyじlぺsrtfyふいpdrfyふじこl」

 

みりあ「ふむふむ、まだまだ立ち直れないってー」

 

松永「めんどくせーな。別に”彼女”確定って訳でもないなら良いじゃねーか。大体、それよりも恥ずかしいやり取り前半にしといて何言ってん「背f対klphjgdjcldkfvbsンdあぁぁぁぁ!!!!」

 

みりあ「そこに触れるな!!?だって」

 

松永「お、おう。みりあちゃんマジ万能翻訳だな…。人語の発音じゃなかったぜ(ゴクリンコ」

 

紗枝「まあ、しかし、えらいよわりましたなぁ?まさかほんまに退職とは思いまへんでしたわ~」

 

茜「むむ?確かにずっとフォローしてくれてた比企さんが辞めるのは確かに残念ですが、割り切り系の紗枝さんがそういうのはめずらしいですね!!やっぱり、紗枝さんも寂しいんですね!!分ります!!」

 

紗枝「んー?まあ、寂しいし、あの人ほど丁度ええ人もおりまへんですけどウチが言ってるのは多分別件どすえ?」

 

茜「どういう事です?」

 

紗枝「だって、プロデュース業やめるーゆうことは『アイドルに手―だしてもおっけー』ゆうことやろ?そなことあらへんと思うけど、比企谷さんがもしその気の娘がおったらなんやコロッと騙されんか心配なんよー」

 

 

 

その他「「「「「「「!!!????」」」」」」」」」」

 

 

 

 スッ

 

 

松永「待てよ、まゆ。…何処行くんだ?」

 

まゆ「…お手洗いですよー?」

 

松永「なら鞄は必要ねぇよな?置いてきな」

 

まゆ・松永「「……」」

 

まゆ「うふふ、今日はメイクのノリがわるくっ―――て!!!(クラウチングスタート」

 

松永「逃がすな!!あのマジきちなにすっか分かんねーぞ!!」

 

その他「おえーーー!!逃がすな――!!」

 

 

 ドタドタと綺麗なお城には似つかわしくない騒がしい喧騒と共に美城常務の怒声が今日もけたたましく響き渡り、武内Pの胃痛は今日も深まるのでした、とさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗枝「みんな行きましけど、いかへんでええんどすか?」

 

 

「…………あんたのそーいう所嫌いや」

 

 

 

 

 

 

 

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