プロフという名のあらすじ
美城常務(専務?) 女 ピー歳
荒らぶるシンデレラ達をまとめ上げる鉄壁の女”ミシロ・サン”。破天荒過ぎる彼女達とそれを容認するP達にかつてぶちぎれ大幅な整理(大乱闘)を行った事があり、業界内では多くの賞賛を浴びている。社内では好き勝手に言われてるが対外的にみれば至って普通で有能な取締役。むしろ、今までがやばかった。頭痛薬が友達。チッヒとは親戚関係であるらしい。
今西部長 男 50代?
いつも笑顔で人を安心させるような人物。修羅場は華麗に避け、終わったころに現れ纏めて手柄を掻っ攫ってゆくその超人的嗅覚が彼をこの地位まで押し上げた。まさに管理職の鏡である。闇が深い。
――――――
明かりも落ち切った社内で唯一光を上げている部屋を見かけ立ち寄ってみれば、見知った顔が眉根を寄せて唸っていた。
「精が出るな、ちひろ」
「美城さん!!どうしたんです?こんな遅くまで!?」
「それはこっちの台詞だ、馬鹿もの」
時計の針はもう深夜と言っても差し支えなく、幾ら仕事熱心とはいえ限度がある。だいたい、自分が定めた就業規約には残業時間上限が明記されているのだから気軽に破られても困るのだ。
「だいたいお前がココまで残らねばならない程の企画など今は動いていないはずだろう?」
「えー、えへへへへ」
片眉を上げて問い詰めれば気まずげに笑ってお茶を濁す彼女に溜息をついて呆れてみる。美城の分家である彼女とは昔からの顔なじみであるが、こういう時の誤魔化し方の雑さは全く変わらない。その事がどうにも自分の深い部分をくすぐってくる。
「どれ、見せてみろ。常務自ら手伝ってやるなんてめったにない機会だぞ?」
「あっ、だ、駄目ですよう!!」
疼いた悪戯心が彼女の手元にある資料をかっさらい、それを取り返そうとする彼女を身長差で圧倒する。昔からよくやったこの悪戯に懐かしさから笑いが込み上げてくるが、それも奪った資料の中身を見る度に冷えていく。
「……何だ?このどんぶり勘定の予算請求は?」
「………まあ、新人さんですし。今からそれの訂正、というか、アドバイスと言いますか…」
私の冷めた声を聞いたちひろが”あちゃー”と言わんばかりの顔で俯くがそれに斟酌していられるほど今の私に余裕はない。
新年度からシンデレラプロジェクトには大幅な増員を施した。むしろ、今までの体制が異常だったのであってこれで正常になったとすら言える状態だ。その分の予算増減だって織り込み済みではある。だが、それでもこの予算請求は酷過ぎる。
このままいけば、半年も立たずに初期予算を超えるのは明白だ。
「必要な経費ならそれも一種の戦略だろう。だが、これは少々無駄が多すぎる」
「…今まで一丸で動いていたプロジェクトが、数班に分かれての行動ですからね。重複するものもありますし、トップアイドルのご機嫌とりに使う予算は前の倍以上です。絆を積み重ねていないプロデューサーとアイドルだったら…まあ、適整かもしれない数字ですね」
「…前の数値を見せつけて。それを参考に作りなおさせれば良いだろう。お前がココまで残ってしてやる事はない」
「それに素直に従ってやり直してくれるような方々でしたらよかったんですがねぇ?」
皮肉気に笑う彼女の顔に眉をしかめてしまう。新しくシンデレラ運営に入れたメンバーはそこそこにベテランと新人を折り混ぜている。だが、346という大手からスタートを切って育った彼らには”極限状態”というものに親しみがない。むしろ、自分たちのアイドルにどれだけの価値があり、どれだけ会社から引き出せるのかを熟知しているだけに質が悪い。
そんな先輩を見た新人たちがどうなるかなど火を見るより明らかだ。
「再編が、必要か?」
「いまはまだ、としか」
簡潔なやり取りには冷たい意志が宿っているのを感じ、奪った資料をデスクの上に放り溜息をつく。大多数は粛清をしたつもりでもこういった事は何度だって起こりうる。それを理解していたつもりであってもやはり徒労感はぬぐえない。
「なんだ?言いたい事があるなら聞いてやるぞ?」
投げ出された資料を無機質に眺める彼女に声を掛けると、こちらを見ないまま言葉を紡いだ。
「…なんで比企谷君の退職を認めたんですか?」
向けられた声に先ほどの無邪気さはなく、かつてのゾッとするほどの冷たさを彷彿させられる。
「ふん、お前のプランではあっちから頭を下げてくる予定だったのだろ?私が頼まれたのはそこまでで辞める人間を引きとめる義理なんてないさ」
「嘘ですね。それなら顔だしNGだった有名建築家の独占ドキュメンタリーと大手ゼネコンのスポンサー入りが同時に来た理由だって一切誤魔化さずお話してくれるんですよね?」
「…まだその事は公表してないはずなんだがな」
「舐め過ぎです」
誤魔化すように遠くに視線をやっても視線は緩まない。今回のお怒りはどうにも誤魔化されてくれるレベルではないようだと観念して深くため息をつく。まあ、こんな現状になっている責任は自分のせいでもあるのだから仕方なくはあるのだろう。
「向こうから提示されたのはあくまで”本人の意思の尊重”だ。圧力と引きとめ無しに彼がこちらを選択するならこっちが丸儲け美味しいプランだった。私としては勝算の高い賭けだったつもりだがね。結果はご覧の通りだ」
いつぞやのアイドルとの送別会があった時には期待もしたがそれも不発に終わったならば残った実を取るべきだと判断したのは経営者として当然の事だ。残らなかった事の要因をこちらに求められても困る。
そういって腕を組み溜息をつけば彼女は本当に不思議そうに首を傾げた。
「…おかしいんですよ。美城さんの引き止めに抜けたがあったとしたって、4年間できっちり心の底まで追い詰めたはずなのに。ここ以外の選択肢なんて思い浮かばないくらいきっちり仕上げたはずなのに、急にこんな妨害が入るなんて完全に予想外です。何度だって私の予想を超えて来た彼でも絶対に越えられない数値に設定したのに…計算が、合いません」
そう呟く彼女の中ではきっと膨大な数式が巡り、全ての可能性を意のままに操る方程式が渦巻いているのだろう。その鬼子とすら呼ばれた化け物じみた能力が今まで間違った事なんてほとんど見た事がない。彼女にとっては人も、経済も全てが計算式でしかないのだ。
だが、だからこそ今回の失敗に気がつく事はないのだろう。完全な数字として全てを計算式に当てはめる彼女にはそれは不確定な因子過ぎるだろうから。この頭でっかちな幼馴染が、それを考えるきっかけにでもなってくれるのならば今回の件はお釣りがくるくらいかもしれない。
「比企谷の”友人”が手を差し伸べたそうだ。チャンスだけならば作ってやれるかも知れないとな。そっから先はアイツの実力だったのだろうさ」
「”ともだち”…ですか?」
私の言葉に今度こそ本当に理解が及ばないと言った顔を彼女は向けてくる。だが、その意味は私がどんなに言葉を尽くしたところで伝わりはしないだろう。計算をし尽くした先に残るその”何か”だけは自分自身が見つけねばならない。
少なくとも、私はかつての格好つけたがりの友人にそう教わり、まだその答えを探しているのだから。
懐かしい記憶を思い出した私は軽く苦笑を洩らし、壊れたロボットみたいな挙動で”友達?”と連呼するちひろの頭を叩いて再起動させる。
「ほら、いつまでバグっているつもりだ。さっさと帰り支度をすませろ。送ってやる」
「いたっ!?で、でもまだコレを直さないといけませんし…」
「その予算請求した馬鹿者どもを朝一で私の部屋に呼べ。それで解決してやる」
「ひえーーーーー」
私の横暴な解決方法に目を回す振りをしているが口もとのにやけを隠せて居ないのだからお互い大概な性格だ。まあ、どうせ一度は暴君で通した名だ。こんな時くらいは有効活用してやろう。
そう考え、久々に武内の奴をいじめる切っ掛けに心を躍らせつつ口元を綻ばした。