梅雨が明け、夏の始まりが密やかに近づいて来たそんな季節。場末の喫茶店で懐かしくも珍しい物を見かけた。
自分の中ではいつも皮肉気で饒舌な方ではなかった印象の強かった男が随分と柔らかな表情で楽しげに話しており、一瞬、見間違いかと思ってしまう。それでも、特徴的なアホ毛に濁ったその目から自分の知っている彼なのだと伝えてくる。
何事かと思って動揺をしていると、その向かいに座る存在を見て緩く苦笑と納得と零れてきてしまった。
容易く手折れそうなほどに身体は華奢で、抜ける様な白さの肌と髪。そんな儚げな容姿の子がほんのり頬を染めて親しげに話しかけてくればどんな偏屈な男だって緩んでしまうのは当然だ。
”ありゃあ凛がショック受けるのも仕方ないわな”
好いた男が自分よりずっと可愛らしい女とタダならぬ関係だと見せつけられた上に、好みが自分と真逆だったと思い知らされるなんて思春期には致命傷以外の何物でもない。いまだ傷心中の自分の後輩を思い浮かべて心の中で念仏を唱えておく。南無三だ。
さて、珍しいものを見たことで自分の中の悪戯心がムクムクと疼いて来たのを感じ、時計を確認すれば次の予定までは余裕がある。そのうえ目の前には可愛い娘と懐かしい友達の姿。
これを素通りしちまうってのはあまりにロックじゃない。
そう自分の中で結論が出た瞬間に私”木村 夏樹”はその喫茶店の扉を開いた。
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「よう、ダンナ。随分とマブイスケ連れてんじゃねぇか」
「…夏樹か」
私が楽しげに笑って話しかけると彼”比企谷 八幡”は綻ばせていた表情をしかめて不機嫌を隠そうともせずに返事をするので思わず笑ってしまう。相も変わらずに人付き合いの下手くそさは健在らしい。
「おいおい、久しぶりに会った友人に随分冷たい反応だな。ロックじゃねえぜ?」
「いつ友達になったんだよ…。というか、流れるように席に座らないで貰っていいですかね?」
「なんだよ、鎌倉までバイクで遠乗りしたり、箱で一晩中ロックを語ったりしたんだから十分友達だろ?ついでに言えばアンタはもう一般人で、私だってoffだ。プライベートに誰と一緒にいても問題はない。そうだろ?」
「前半はほとんど仕事だったんだけど…なに?最近のパリピって友達感こんながばいの?マジべーわ」
ぶつくさと言いつつも本気で追い出しにかからなのだから人の良さも健在だ。そう思って笑い、急な闖入者に戸惑っている可愛い娘ちゃんに改めて声を掛ける。
「ああ、急にお邪魔しちまって悪かったよ。私の名前は”木村 夏樹”っていうんだ。ハチとは前に一緒に仕事してた事があってな。懐かしくてつい声を掛けちまったんだ」
「は、はじめまして。”戸塚 彩加”です。八幡とは高校の頃からの、その、”友達”なんだ!!」
はにかむ様に”友達”という彼女に思わずこっちまで赤面しちまう。いや、遠目に見ても可愛らしかったけど実際に間近で話すと凶悪に可愛いなこの子。こりゃあ思わず顔も緩むし、横槍入れられたら不機嫌にもなりますわな。
「かー、”友達”だってさハチ。お前も隅に置けないぜ?」
「…うぜぇ」
彼女のあまりの可愛さに思わず肩を組んでからかってやると深い溜息をつくもんだから笑ってしまう。これでボッチだと言い張るのだからそのポーズだって随分と微笑ましく感じちまう。
ニヤニヤしながらハチをこずいてると彩加が頬を膨らまし始めたので慌てて身体を離す。
「ああ、悪かった。そりゃいきなり来てこんなベタベタされたんじゃ気分も悪いよな。調子に乗り過ぎたよ」
「い、いや別に、大丈夫。……でも、ちょっと嫉妬しちゃった、かな?」
「…天使かよ」
「天使に決まってんだろ」
殺人的な可愛さに見惚れていると、間髪いれずにハチが訂正を入れて来たので彼女に見えない様に机の下で拳を交わす。ココに、教会を立てよう(崇拝)。
「で、何しに来たの?帰る?」
「もう、八幡!久々に会った友達にそんなこといっちゃ駄目だよ!!」
彩加ちゃんの彫像の型を取るには幾ら積めばいいのかを考えているとハチが不機嫌そうに問いかけて来たので我に返る。あと、マジ彩加ちゃんかわいいな…。
「ああ、忘れてた。この前はマユが迷惑かけて悪かった。それを伝えて置きたくてね」
「マジで笑えねーよ。松永が確保に来なきゃマジで刺される一歩手前だ」
「あー、悪かったって。今はチーム全員で厳戒監視中さ。風呂どころがトイレまで見張ってるから安心してくれよ。仮に脱走してもGPSをくくってるからすぐに確保できる」
「…聞いといてあれだけど今をときめくスターの私生活じゃねぇな」
あれだけの事をされても、ほっとしたような、わるい事をしたかのような微妙な顔を浮かべるのだから大概にこの男もアマちゃんだ。その甘さも個人的には嫌いではないが、心配にはなる。
「他の奴らは…元気か?」
触らなくても、見なくても許されるであろう事に向かい合う姿勢は尊敬できるが、心配にもなる。
「年頃な奴らは一時期荒れたり沈んだりしたがね、ベテランの楓さんや瑞樹さんが上手く纏めてくれたよ。層が厚いのはやっぱり他じゃ真似できない強みだよ。ただまあ、ちょっと時間がかかりそうなのは何人かいるがね」
一番顕著なのは”ありす”と”小梅”だろう。
最初っから懐いていた小梅が誰もいない空間に手を伸ばして『君も触れないんだね…』と悲しげに呟くのは良いとしても、心を開ききったアリスは依存に近い形になりかかっていたのだろう。裏切られたと感じた心のささくれが、厚かった心の壁を更に硬く閉ざしてしまっている。文香が根気よく付き添っているが、どうなるかは何とも言えない。
「……そうか」
「まあ、それもなるようにしかならないからな。気にすんなよ」
「お前も、文句があるなら今のうちに言っとけよ」
沈み、怯えつつも、そんな事を言うこのお人好しに思わず笑ってしまう。
こんな男だからこそ、私も笑って続けられるのだろう。
相談くらいはしてくれたらと思ったのは確かだ。
いや、正確にはアンタは何度だってして来たのに私たちが受け取らなかったのが原因なのだろう。でも、きっと今回の件を見送ったとしても別れはそう遠くはない未来の話だった。
どんだけ騒いでも、引きとめても、押しとどめても変って行く物は止まってくれないし、無理に引きとめても何時かは無理が出て歪んじまう。だから、アンタが去ったのは何にも気にする事じゃないんだ。
後は残されたこっちの問題なのさ。止められなかったちっぽけな自分の非力も、変わって行った仲間の道も、全部呑みこんで進んでいくしかないんだ。数少ないチャンスを掴んでいながら、それが出来ないならソイツだって去って行くしかない。私たちがいるのはそういう世界なんだから。
「…案外、ドライなんだな」
「バンドをやってりゃね、こういう事も少なくない。だから、いつだって笑って送り出すようにしてんのさ。友情と思い出はくさりゃしないんだから、その方がロックだろ?」
そういって締めくくった私を見て、ハチは小さく笑って吹き出す。
「くく、やっぱりお前、男なんじゃねぇの?こんなに女にカッコよくされたんじゃ立つ瀬がねぇよ。絶対に付いてんだろ」
「おいおい、彼女の前で下品な話なんてすん――――」
戸塚・夏樹「「へ?男(女)?」」
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蛇足
夏樹「まじかー。こんな可愛い生物が、えー、まじかー。べーわ、まじっベーわ」
戸塚「あの、その、ごめんね。あんまりカッコいいからてっきり…てっ、これも女の子には失礼だよね。えーっと、、、」
八幡「もう性別:戸塚と性別:イケメンで良いんじゃない?小さい事に拘んなよ」
夏樹「そうかなー、でも、確かにあんまり拘んのもロックじゃねえよなー。そうしとっかー」
戸塚「ぇぇぇぇ、納得しちゃったよ…」
夏樹「まあ、でも納得だよ。あれだけ美人に囲まれて平然としてっからまさかと思ってたけど…性別:戸塚じゃしょうがねえよなー。可愛いもんな彩加ちゃん。親しくもなっちゃうよなー」
八幡「…ん、なんかどっからか腐の波動が。海老名さんか?」
夏樹「よっしゃ!俺は二人を応援するぜ!!アイツらにも上手く説明しといてやんよ!!ついでに、今日これから昔の身内を集めたライブやるんだ!!二人もぜひ来てくれ!!」
戸塚「え、いいの!!僕ライブとか行った事なかったから凄い楽しみ!!いこうよ、八幡!!」
八幡「ん、あ、ああ。いいけど。…なあ、夏樹、親しくってなんの「そうときまりゃ早速いこうぜ!!今夜は最高のライブにしてやるぜ!!」
戸塚「わーい!!ありがとう!!」
――――――後日、元アシストP”八幡”が二刀流だったという噂がながれ、ありすの人間不信は深まり、文香の頬はほんのり赤く染まったそうな。
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プロフという名のあらすじ
戸塚 彩加 性別:戸塚 22歳
説明不要の大天使である。癒される。
スポーツドクターになった。靭帯を痛めてリハビリで寄りそわれたい。
戸塚の別作はこちら →https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5463858
木村 夏樹 性別:イケメン 18歳
説明不要のビックロッカー”なつきち”である。多分、ステッカー張ってる車がライブにいっぱい来る。
バイクをもっているため、たまに仕事の移動でハッチーとツーリングを楽しんだり、出張先のライブハウスに連れ回したりと普通の友達みたいな感覚。
可愛いものに目がない。