いやぁ、ネタが湧かない湧かない。頑張って今回形にしてみまして、次回はようやくベヒモス戦ですね。
こんな小説をちょくちょく読んでくださっている読者の方々、感謝しかありません。長い目で見守ってくださると、とても嬉しく思います。
あと、読者の方々が、こんな感じがいいんじゃない?こんなキャラクターを出してみたらいいんじゃない?というような意見があったら是非感想送ってくれると嬉しいです!
では、『化け物の咆哮』。どうぞ!
「・・・燕返しっ!」
暗く、深い奈落の上。たった一本の石橋の上。ある者は剣を、ある者は槍を、ある者は斧を、ある者は杖を持って己の命を守る為に力を振るっている。
「ちっ、雫!少し下がれっ!」
「了解っ!」
俺と雫は目の前の怪物を相手にしながら、ヒット&アウェイで確実に、そして着実に傷を増やしていく。例え他よりも自身の能力が高かろうと、自分は戦場を経験したのは初めての素人。
命あっての物種と言うように、安全を確保しながらも、拳で、刀で斬りつけていく。
グゥルルルルルゥオオオオオォォォォォォ!!!!!
怪物が叫ぶ。殺意を込めて、ただ俺達を殺そうという意思だけを込めて。
「鉄、拳、聖、裁っ!!」
突進してくる怪物に対し、全力の拳を振るう。本人から教えられた・・・今なお教えられている全力の、全開の拳を振るう。
「ちぃっ!硬いっ」
まるで鉄のようだと思った。しかし、それだけだ。今の俺は彼女とほぼ同化している。経験が、彼女が戦ってきた記憶が、竜よりも柔らかいと告げている。竜を沈めることができるのだ。ならば、それ以下を下せぬ筈はない。
拳を振るう。いままでのようにヒット&アウェイではなく、超近距離での連続打撃。攻撃をいなし、その拳すらも砕き、真正面からその力を挫く。
グルゥオゥ?!?!
まさか自身が力負けすると思っていなかった怪物は、驚愕に目を見開く。しかし、そんな隙を俺は見逃す程甘くはない。・・・チャージは出来た。ならばあとはぶちかます。
「愛を知らぬ偽りの竜よ、ここに。星のように!『 荒れ狂う偽りの竜よ (タラスク)』! 鉄・拳・聖・裁!」
怪物に拳が沈む。硬直し、血を垂れ流して力なく床に頭を垂れる・・・完全に沈黙。
「・・・ごふっ」
「ケイッ!」
血を吐きながら、何故こうなったのかと、俺は思い出し始める---
オルクス大迷宮の内装は、入り口を見た時に思ったのと同じ感想だった。確かにある程度の規模として営業するのなら、こういう事をする必要があるのは分からなくはないが---
「はぁ、ある意味夢を壊されたな」
周りを見てみると、あからさまに落胆した様子のクラスメイト達の姿が見えた。といっても、もうすぐ戦闘があるのだから、気を抜かないで欲しいのだか・・・。
そんな事を考えていたら、壁の隙間という隙間から、灰色の毛玉が出てきた。
「よし、光輝とケイ、雫は前に出ろ!交代で敵に対しては対応してもらう!あれはラットマンという魔物で、すばしっこいが大したことはない。冷静に対応しろ!」
メルドさんに指名されたので、取り敢えず前に出る。今回自身に憑依させる予定としては、乖離性ミリアサから持ってこようと思っている。
「憑依、『妖精 ミディール』」
正直、召喚士として召喚をして戦うべきなのだろうが・・・。
「ふっ!」
憑依した時に現れた剣で、ラットマンを斬り払う。
憑依して力を手に入れても、経験が伴わなければ、その力を十分に扱う事なんて出来ない。慢心は許されない。慢心をすれば、失ってしまう。大切な、守るべき---を・・・。
「---イ。・・・ケイ!」
ふと、雫の声が聞こえて、腕を止める。改めて周囲を確認してみると、既に周りのラットマンは全て殲滅し終わっていた。・・・あれ、俺は何を考えていた?
「はぁ、ケイ。今までろくに戦う相手とか居なくてちょっと物足りなかったのかもしれないけど、他のみんなが戦う分まで倒しちゃったら、意味ないじゃない・・・」
いや、そんな事よりも大切な事があるはずだ。そうだ、守らないと。失う前に、早く、早く。強くならないと。また失ってしまう。
「ははは、まぁ、今回はケイがやりすぎて殲滅してしまったが、本来はこう簡単には出来ない。お前達は三人から四人でパーティーを組んで、安全を確保してから戦うんだ」
「「「はいっ!」」」
その言葉で、一階層は締めくくられた。そのまま二階層、三階層と順調に進んでいき、二十階層まで来る事ができた。次の階層の、二十一階層の階段までいったら、今回の訓練は終わりらしい。
狭い空間で、縦に並んで移動していくと、違和感のある場所が見えた。よく目を凝らして見ると、カメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物にみえる。
「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」
メルドさんがそう言うと、擬態ゴリラはその擬態をといてドラミングをした後、こちらに飛びかかってきた。すぐに後ろに下がろうとするが、後ろにはクラスメイトがいる。
「ッ!憑依変更ッ、『ルーラー ・聖女マルタ』!」
すぐさまマルタに憑依を変更。飛びかかってくる擬態ゴリラに対して、拳で殴りかかって粉砕する。多少拳に響いたが、これぐらいならばスキルの『天性の肉体(海)』で回復できる。
「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」
メルドさん、それは俺が拳で対抗する前に教えてくださいよ。なんにせよ、既にこちらに飛びかかってきたロックマウントの一体は倒した。なら後は残った奴を片すだけだ。そう思い、擬態を解いた別個体のロックマウントを見据える。直後、
グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!
部屋全体にロックマウントの叫び声が響き渡る。すると、臨戦態勢を取っていたクラスメイトが動かなくなる。
「えっ、どういうこと?!」「な、なんで動かないんだよっ!」「動けっ、動けぇっ!?」
「落ち着けっ!これはロックマウントの固有魔法“威圧の咆哮”だ!しばらくすれば動けるようになるっ!」
しかし、その隙にロックマウントが動かないとは限らない。近くにあった岩を両腕で掴んで俺と雫に目掛けて投げてくる。そして、飛んでくる最中に岩が形を変えてその正体を現す。ロックマウントが投げた岩は、同じロックマウントだったのだ。両腕を開き某怪盗のように飛びかかってくるが。
「それは悪手だ」
岩だから空気抵抗があってもある程度の速度が出たが、腕を開けばもろに風を受ける。つまり、急速な減速。しかも柔らかい腹を見せてくれているのだ。それを逃すほど、俺も雫も甘くはない。
「砕けちれっ!」
「遅いっ!」
俺は拳で、雫は刀で。砕き、一刀両断する。奥にはまだロックマウントが残っているので、クラスメイトが元に戻るまでここから動けない。
そんなふうに考えていると、他のクラスメイトよりも先に硬直から立ち直った光輝が前に出てきた。
「光輝?」
「っ。僕は足手まといなんかじゃない・・・!」
光輝が何かを呟いた後、すぐさま詠唱に入った。それも、周囲に傷跡を残すような魔法を。
「光「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」っ!」
止めるのに間に合わず、魔法が放たれる。俺にはあまり魔法は向いていないらしく、光輝が使ったような魔法は使えない。だが、ある程度の知識に入れていた為、被害がどれくらい出るのかは理解していた。
魔法が終わると、目の前はまっさらになっており、ロックマウントの影もなかった。敵の殲滅なら、これで十分だっただろうが・・・。
「僕は、足手まといなんかじゃない・・・」
あいも変わらず、何かを呟いている。だが、それよりも先に。
「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」
「・・・すみ、ません」
メルドさんの言う通りではあるが、光輝は敵を倒す前も後も表情は暗いままだ。一応フォローしておくか。勇者である光輝が暗いと他のクラスメイトの士気が下がるし、純粋に俺自身が気になってしまう。
「光輝」
「っ!」
「何を焦っているのかは知らないが、あんまり思い詰めるな。思い詰めすぎると考えがまとまらなくなって、大切な時に戦えなくなる」
「・・・僕は。・・・僕は、弱いかな」
?誰がそんな事を言ったのだろう。正直、ステータスがある程度の差があっても、剣を使っての一対一は技術的に劣る。それに、元から異常な俺や、擬似英霊になった雫の様な裏技を使ったわけではないのだ。
「光輝。お前がなんでそんな事を考えているのかは知らないけれど、十分に強いさ。それに、今はまだレベルが低いだけで、レベルが上がれば俺なんてすぐに勝てなくなる」
「・・・本当?」
「あぁ、保証する。技術で俺はお前には及ばない。今こうやって前線にいられるのだって、様々な存在の力を借りているからだ。だからこそ、お前はお前自身の力があるんだ」
「そっか・・・ふふっ」
何にせよ、これで光輝は大丈夫だろう。もう少しで階段だ。いや、何か大切な事があるはずだ。なんだ?思い出せ、思い出せっ!
「あっ、おい、覇道っ!勝手な行動はするなっ!」
メルドさんの声が聞こえてそちらを見てみると、美しい水晶に触れようとする覇道氏の姿が見えた。そして、それを見た瞬間、俺が思い出すのと覇道氏が水晶に触れるのは同時だった。
「隊長っ、トラップですっ!」
「っ!全員、警戒しろっ!」
しかし、現実は無情なり。警告も注意も思い出すのも一歩遅い。それらがなされる時には、既に転移していた。そう、原作の始まり。
「ベヒ、モス、だと?」
怪物は宴を祝って、今、吠えた。
現実は実に無情。
さて、物語の予定としては、彼は落ちる予定はないのだが・・・さて、どうなるかな?