久々に綺麗なお花畑で会長と再会したんで殴ろうとしたら、姉さんに止められました。
どうやらお互いに死にかけて三途の河に来てしまったそうな。
とりあえず姉さんに死ぬにはちょっとだけ早いと言われて現世に送り返されたけど、ちょっとだけなのか、早いのは?
異世界での暮らし方 第15話
いきなり転送された先で出会った少女とお互いに自己紹介して分かったんやけど、この少女はお嬢の妹でフランドール・スカーレットというらしい。
お嬢は髪が青色やけど、この少女は金色。おまけにお嬢の羽は蝙蝠っぽいんやけど、妹さんのは木の枝に宝石がぶら下がっとるような感じの羽や。
妖怪となると、姉妹でもかなり容姿に違いがでるんやねぇ。やっぱ人間より個性強いからやろか?
「ふーん、もしかしてお兄さんが、咲夜の言ってたお姉さまが最近興味を持ってる玩具?」
「誰が玩具や、誰が」
「だって、この館に訪れていてなおかつ未だに生きてる男って、その玩具しかいないもの」
「分かっちゃいたけど、どんだけデンジャラスやねんこの館!?」
「だって吸血鬼が主の館なんだもの」
妹さんはケラケラと笑いながら言うけど、か弱い人間からしてみると笑う要素が全っ然見つからんのやけど。
しょっぱなからフレンドリーで平和的な妖怪ってのも中々想像出来へんから、恐ろしい吸血鬼の館ってのは正しい姿なんやろうけどな。
そんな所に何度も訪れとるけど、紅白達と違って弾幕ごっこ出来へんのによく今まで生きてこれたなオレ。何の神様が祀られとるか知らんけど、博麗神社にお参りしとるご利益か?
「なのに、何であなたはまだ生きてるのかしら?」
「いきなりやな、おい」
「やっぱり、話と違って本当は人間って強いのかしら。この前来た霊夢や魔理沙も強かったし」
「いやいや、あいつらは別格ちゃうかな。普通の人間の枠で考えたらアカンのちゃうかな」
「咲夜だって強いよ?」
「あの人はむしろ人間なのか疑わしい時があるわ」
なんでそうピンポイントで人外の領域に足突っ込んどる人間ばっか例に挙げるんかな、この少女は。もっと普通の人間はおらんのかい。
「私が見たある生きてる人間ってそれぐらいだもの」
「少なっ! あ、いや、この館には人おらんから当たり前か」
「咲夜が食事に混ぜてくれた血は見た事あるんだけどね」
「んー、中々に想像力かき立てる話をありがとう。でもお兄さん、その話は聞きたくなかったなぁ!」
「それでね、人間の男って初めてなの」
「あんたも人の話聞かんタイプかい」
あと、その「オラ、ワクワクしてきたぞ」な顔止めてくれへんかな。お兄さん嫌な予感しかせえへんよ?
ちょっと前はそんな顔した鬼っ娘に勝負挑まれたし、妙な噂聞きつけた天狗が突撃取材してきたし、黒白に変な薬飲まされたし。
まさかこいつまでオレを玩具にしようというんやないやろね?
そしたら今度は全力で抵抗するぞ。魔女の依頼を受けた時は、念のため装備は万全にしとるからな。
「人間って、男の人の方が身体能力は強いんでしょ? なら、あなたは魔理沙達よりも強い」
「強くない、強ない。すんごい弱いよオレ」
「さあ、私と遊びましょう? 種目は幻想郷で流行りの弾幕ごっこ! お姉さまを楽しませてるように、私も楽しませてちょうだい」
「オレは流行りには疎いんや!」
言い放つと同時に部屋の外へと飛び出る。
部屋の扉にはなんや鍵が掛かってたっぽいけど、緊急やったから文字通り吹き飛んでもらった。悠長に鍵開けてたらたぶん弾幕で蜂の巣にされてたんちゃうかな。あのお嬢の妹やから、おそらく弾幕の威力も緻密さも最上級やろうしね。ま、そもそも鍵なんて持ってへんけどなっ!
「あれ、お兄さん、弾幕ごっこじゃなくて鬼ごっこにするの? いきなり種目を変えるのは禁止だけど、追いかけながら弾幕ごっこすれば両方出来てお得だよね、アハハハハ!」
後ろからそんな声が聞こえてくるけど、全然お得ちゃうわ!
しっかし、なんかキャラ変わっとるような気が。まさかあれが噂に聞く戦闘狂か?
扉吹き飛ばさずに閉じ込めといた方が良かったかねぇ。
「アハ、お兄さんって空飛べないのに弾幕避けるの上手だね! でも、そっちも攻撃してこないと勝てないよ?」
「だから、弾幕ごっこなんて、出来ない言うてるがな」
「もう、またそんなこと言う。お姉様とは遊べるのに私とは遊んでくれないの!?」
妹さんは頬を膨らませて文句を言うてくる。
でも、ホントに弾幕ごっこは出来へんし、お嬢と弾幕ごっこで遊んだことはないんやけどね。というか、いつあいつと遊んだんやオレ?
あー、もしかして、お嬢の吸血行為から毎回必死で逃げてるのを指してるんかな。だとしたら嫌な遊びやなぁ、オイ。
しかし、さっきからずっと逃げつつけとるんやけど、妹さん凄いね。空飛べなかったら、この前の鬼並に身体能力を強化したオレの方が速いと思って『飛行禁止』と壁に書いたのに、走っても余裕でついてくるんやもんなぁ。吸血鬼って身体能力も優れとったんやね。
おかげで現在進行形で、必死こいて足を動かしてます。明日は筋肉痛確定や。
「だから本当に弾幕ごっこは出来へんの、ごめんね。って、また掠ったやんけ!?」
「当たっても平気なくせに文句言わないでよ。けど、それだけ丈夫ならいっぱい遊べるよね」
「黒白のマスタースパーク喰らっても平気なこのコートを舐めんなよ! あ、いや、調子にのってごねんなさい。弾幕ごっこの密度濃くせんといて。頭は、頭はアウトやからっ!」
「ほらほら、この調子でコートに守られてない頭とか狙っちゃうからしっかり避けてちょうだい。それが嫌ならちょっとは反撃しなさい。じゃないと、つまらなくなって壊しちゃうよ?」
妹さんの弾幕が、明らかに頭部を狙う弾道が増えてきた。いやぁ、なんというかこのままでも壊されそうない、オレ?
攻撃手段はあるにはあるんやけど、お嬢用の切札やから、こんなところで使ったら対策取られてまうしなぁ。お嬢用やから妹さんにも効果はあるはずやけど……よし、コートの防御力を信じて逃げ切ろう。
「あーもう、ほんっと邪魔なコートね」
「ハッハー、文字による防御概念を書き連ねたこのコート。撃ち貫けるもんなら打ち貫いてみい!」
「へー、そんなに自信あるなら砕いてあげる。勢い余ってお兄さんも砕いちゃうかもしれないけどっ!」
妹さんはそんなこと言うけど、無理やろそれは。なんせあの鬼っ娘が全力で引っ張っても、妖夢が斬ろうとしても傷1つつかなかった一品やぞ。
中身はともかく、このコートの破壊は紫ぐらいしか無理と思うんやけどね。
「……えいっ!」
「そんな可愛らしい声だしても何にも……んなっ!?」
妹さんが手を握り締めて掛け声だすと、今まで誰にも壊されたことのなかったコートが、右袖だけとは言え消し飛んだ。
おいおい、今何が起こったんや?
弾幕が当たったわけやないし、直接殴られてもない。ただ拳を握って掛け声だしただけでこのコートの防御を破るなんて、ほんと理不尽なやつが存在する世界やなぁ。
頑張ってこのコートを破壊しようとしとった鬼っ娘らが泣くぞ。
「あれ、片袖しか壊せなかった?」
「むしろどうやって壊したんよ?」
「こうやって弱点をえいっと握り潰すの。別に握り潰さなっくてもいいんだけどね」
「えらい簡単に言ってくれるなぁ」
説明と同時に、今度は襟が無くなった。あかん、これオレピンチ?
「簡単だよ? 物を壊すことなんて、太陽が出ている時に外出することより楽だもの」
「そう聞くとえらい簡単なように感じるなぁ。ほな、お兄さんも全力で逃げさせてもらうわ」
「……全力だろうとなんだろうと、さっきから逃げてるだけじゃない!」
何やら余計に妹さんが怒ったみたいで、弾幕の密度が上がってきとるんやけど、全力になったオレを舐めたらあかんで?
右手に水性マジックを。左手にお手製の魔導書を。文字使いの全力、吸血鬼にどこまで通用するか試させてもらおか。
「そんなに怒らんといてぇな。この魔導書使うのは妹さんが初めてなんやから、機嫌直してくれへん?」
「初めて? お姉様にも?」
「おう、どんなのを作るか相談した魔女には見せたことあるけどな。使うんは妹さんが初めてや」
なんせ切札として作ったからなぁ。まさかこんな所で使うはめになるとは思わんかったわ。
魔女にも相談しとった初期の状態しか見せてへんから、本当に誰もこの魔導書の中身は知らへん。だからこその切札なんやけど、今みたいに命の危機に陥った時の為に作ったんやから出し惜しみはせえへんよ?
「へぇ。逃げるっていうのが気に入らないけど、それなら許してあげる。弾幕を少しだけ緩くしてあげるから、頑張って楽しませてね?」
「楽しめるかは保証できへんけどね。ほな――」
言うと同時に回れ右して走り出すと同時に魔導書から『逃げ足だけなら日本一ィィィィィ!』と書かれた頁を破って体に貼り付ける。
オレは今、逃げ足限定で天狗を超える!
「ほなさいならや、明智君!」
「明智君って誰? って、速っ!?」
「おまけにこいつもプレゼント」
目の前に十字路が見えたので右に曲がり、壁に『これより先、吸血鬼は通行禁止』と書く。
水性やから消える可能性があるんやけど、油性で書いたら後でさっちゃんに処刑されるからなぁ。あれはあかん、ほんま怖いから。
「待ちなさい! あ、あれ、何でこの先に進めないの? 何か壁に字が書いてあるけど、これがお兄さんが言ってた文字使いの能力なのかしら」
ああ、もう、オレのアホ。こうなるんやったら、自己紹介でカッコつけて「ただの文字使い」なんて言わんかったらよかった!
でも、壁に書いとる文字が怪しいと分かってもどうしようもないやろ。水で吹いたら文字は消えるけど、吸血鬼が流水じゃないとはいえ水を持ち歩いとるとは考えにくいし。
まぁ、しばらくはそこで立ち往生しといてや。その間に魔女かお嬢のおる所探して逃げるから。
「ああもう、何だかよく分からないけどとりあえず壊しちゃえ!」
「んなアホな!?」
何かが消し飛ぶ音がした。どうやら妹さんが壁ごと文字を壊したみたいやねぇ。
えー、何なんその「半熟とそうじゃないのと分けるの面倒だからとりあえずかき混ぜてスクランブルエッグにしました」的な解決方法。いくらなんでも力業過ぎるやろ。
どうせ壊すにしてももうちょい悩んでからにしてえな。
しっかし、これはあかんわー。思ってたよりも時間稼がれへんかった。吸血鬼というか、妹さんとの相性悪過ぎるわ。紫の次ぐらいに悪いんちゃうか、これ。
あっちは効果範囲を弄って能力を無効化してくるけど、妹さんは文字を壊して効果なくしてくるとは……
「まったくもう。鬼ごっこなのに道塞ぐなんてダメだよ?」
「いやいやいや、鬼ごっこは机倒したりして道塞ぐなんて常套手段やろ。それがあかんなら、かくれんぼしようとしてたってことでどうやろか?」
「ダーメ。2度の競技変更は認めないんだから」
「ハハ、やっぱそうやんなぁ」
「だから、鬼ごっこ続けましょう? 鬼ごっこらしく、今度は全力で追いかけるから!」
「ごっこというか、あんた鬼そのものやんけっ」
「なら余計に人間に負ける訳にはいかないよね。スペルカードいくよ!」
「ちょ、それは待って」
「待たないもーん。禁忌『レーヴァテイン』」
宣言と同時に、妹さんの手に燃え盛る剣が現れた。一応剣という事でええんよなアレ?
あれが本物のレーヴァテインかどうかは今は問題ない。本物だろうが偽者だろうが、当たったらやばそうやもの、アレ。
特に右腕と頭と首みたいな、防御概念の効果がない部分に喰らうと怪我じゃ済みそうにないもんなぁ。
「おいおい、そりゃやりすぎや、過剰戦力や」
「お兄さんの装甲固いから、これぐらいやっても問題ないと思うんだけど。それに、弾幕ごっこと鬼ごっこを一緒にやればあなたもハッピー、私もハッピー!」
「初めっから弾幕ぶっ放してなかったかな妹さん!? あと、弾幕ごっこで感じるオレの幸せってなんやねん……」
妹さんは楽しそうに言うけどな、それは弾幕ごっこを楽しめる実力がある連中の場合であって。
オレみたいな弾幕ごっこが出来ない人間には楽しむ余裕なんてあらへんよ。見てる分には楽しそうやけどね?
それはともかく、あの剣を封じるために壁に文字を書きこんで、と。
「とりあえず『火気厳禁』や」
「えいっ!」
文字によって、妹さんの剣が纏っている炎の勢いが無くなりそうなった瞬間、再び文字ごと壁を消し飛ばされた。そして消えそうだった炎は元通り。
いや、むしろこころもち勢い強くなってるような?
「やっぱりその文字でおかしなことしてたんだ」
「やっぱそうやって無効化されたんか」
あっちはしてやったりといった顔しとるけど、こっちは全然喜ばれへんわ。
まさかなぁ。予想外の場所で、壁を簡単に壊せるようなやつと勝負することになるとは。
なんかこの調子やと逃げ切れる気がせえへんからね、しゃーない。覚悟決めまてこっちも殴りに行きますかね。
幸いな事に、怪我さえ我慢すれば、妹さんを倒せそうな手段がない訳ではないからね。
「はあ、これは痛い目みんとあかんかな」
「あら、これからが楽しいのに降参するの?」
「いやいや、最後まで足掻かせてもらうわ」
「そうこなくっちゃ!」
降参しても認めてもらえるか分からんしなぁ。はぁ、早く魔女かお嬢かさっちゃんが助けに来てくれへんかな。
倒すとは言ったものの、まずどうやって妹さんを追い込みゃええんやろか。
とりあえずはあの剣をどうにかせんとあかんよな。
魔導書から『遥か彼方へ飛び立つ』と書かれた頁などを破いて、オレに斬りかかってきた妹さんの剣に叩きつける。
「紙で防御したって燃えちゃうわよ?」
「ところがどっこい、そんなに世の中甘くないで?」
なんせ勝手に効果が発動せえへんように、一枚一枚結界張っとるからな。おかげで水に濡れることも、火で燃えることもなくなった。
なので、頁が燃えることもなく、剣は勢いよく彼方へ吹き飛んだ。
「へぇ、やるねお兄さん」
「せやろ? ついでにこれも貰っとき!」
「私もそこまで甘くないよっ」
左手に『痛風』と書かれた頁を握って妹さんに貼り付けようとしたんやけど、即座に腕を掴まれ、ギリギリと締め付けられて阻止される。
けどまぁ、今まで予想を裏切りまくってくれた相手やからそれくらい予想している訳で。おまけに身体能力もほとんど同じみたいやし。
「そっちこそ、ボディが甘いわ!」
「んきゃっ」
右手に『意識が飛ぶほど痛い』と書かかれた紙持って、オレの左手を握り締め得意げに笑ってる妹さんに張り手をお見舞いする。
すると、ちゃんと当たって効果が発揮され、妹さんは崩れ落ちた。
あんまし痛そうな悲鳴ちゃうなぁ、オイ。
「痛い目を――見ているかね? ……て、言うタイミング間違えたな、うん」
さすがに言うタイミングを考える余裕まではなかったわ。
しっかし、こう言っちゃあなんやけど、けっこうあっさりと倒せたな。もっと傷負う思てたんやけど。
まぁ、今回は初見やったから簡単に触れることが出来ただけで、次回からはそう簡単には触れさしてはくれへんのやろうけど。
あと、弾幕ごっこにそんなに慣れてなかったんちゃうかな。黒白や紅白やったら、もっとえげつない攻撃してくるし、隙も少ないからな。
なんか、遠距離から攻撃できる方法を増やさんと、2回目以降は逃げることしか出来へんようになりそうやなぁ。
それに、勝ちはしたけど無傷って訳にはいかんかったしな。
「意識が飛ぶ前に、掴んどった腕を握りつぶしてそのまま引き千切るとは。吸血鬼ってーのは凄いね。いや、凄いんは吸血鬼じゃなくてこの妹さんか」
張り手が当たって文字の効果が発揮されるその一瞬の間に、妹さんはオレの左手を見事に壊してくれた。左の肘の先からは今も血が垂れ流れとる。
あらかじめ『痛みに鈍感』と体に書いてなかったら気絶しとったんちゃうかな。勝負には勝ったけど、死にかけなんはむしろオレやん。
とりあえず『止血』しよ……いや、下手に文字で『止血』したら全身の血が止まるんちゃうか、これ?
とりあえず先に、千切られた腕をくっつけよか。そしたら出血も治るやろ。
あー、でも意識がボーっとしてきたぞ。そういや、千切られたんは左腕の方か。ハハ、死ぬかもしれん。お嬢、魔女、さっちゃん、はよ来てやー。
「パチェ、こっちで合ってるんでしょうね!?」
「ええ、まだ地下から上がってきてはいないわ。それに、そっちの方から振動が伝わってきたもの」
あの化物を倒した後、二日酔いで寝ていたレミィを起こして秋と妹様を探している。
地下の方から振動が伝わってきたから、2人が弾幕ごっこか何かをしていたのは間違いないんだけど、少し前から振動が伝わってこない。
つまり、2人の勝負に決着がついた可能性が高い。秋、生きているかしら?
そして、角をいくつか曲がった時だった。
「よう、お2人さん。ちと来るんが遅いぞっと」
「お姉様ー!」
「フ、フラン、どうしたの!?」
そこに見た光景は異常だった。壁に背を預けて座り右手を振る秋と、涙を流してレミィに抱きつく妹様。
あれ、何で妹様が泣いてるの?
そして、秋が五体満足なのも不思議ね。
妹様に抱きつかれて、心配しそうな顔をしつつも抱きつかれたことに頬を緩ましているレミィはとりあえず置いとくとして。
「秋、あなた勝ったの?」
「次は勝たれへんと思うけどな。なんとか気絶させたわ」
あら、本当に勝ったのね。
とても疲れた、というか死にそうな顔をしてるけど、妹様相手に五体満足でいられたんだから、疲れた程度で済んだことを喜ぶべきね。一生の運を使い果たしたんじゃないかしら。
「途中で暴れている振動が伝わってこなくなったから、死んでるかと思ってたわ。五体満足で何よりよ」
「いやいや、五体満足に見えるだけで結構重傷やから」
「そんなことより! 秋、一体フランに何をしたのかしら?」
レミィが怒りを全開にして秋に掴みかかった。けど、レミィ? 力を緩めないと秋が死ぬわよ。
まったく、何だかんだ言ってシスコンなのよね。
「ちょ、お嬢、ストップ、ストップ! 腕がまた千切れる、くっついてないんやから」
「黙れ。場合によってはこの場で殺すわよ人間?」
「あ、だから持ち上げたらあか……あっ」
「――え?」
「あら?」
レミィが秋の襟首を掴んで持ち上げた瞬間、秋の左腕がボトっと落ちた。予想外の展開にレミィも私も固まった。どうやら五体満足で生還とはいかなかったようね。
「え、えーっと、秋。あなた左腕落ちたわよ?」
「あんたが持ち上げるから落ちたんやお嬢! 妹さんに千切られたから再生中やったの」
また一からくっつけなあかんと言って、秋が左腕の切断面を合わせて『再生』と書いた包帯を左腕に巻いてる。人間であるはずの彼が、ゾンビの様に簡単に腕をくっつけてるのを見てると、とうとうこいつも霊夢たちの仲間入りをしたんだなと感じてくる。
「よく左腕を千切られたのに、今まで生きてたわね。妹様との勝負が終わってからしばらく時間が経ったと思うけど」
「意識失って倒れそうになってたんやけどね。流石に不味いと思ったから、骨に『不老長寿』と刻んで延命してみたんよ。それで妹さんの事なんやけど」
「そ、そうだった。あんた、フランに何をしたのよ? この子が泣く事なんてそんなにないのに」
「虫歯になってもらいました」
「きゅ、吸血鬼が虫歯……」
秋の答えを聞いてレミィが顔を蒼くして倒れそうになっている。そりゃあ、人の血を吸う吸血鬼が虫歯になっただなんて、笑い話にもならないわね。
しばらく喋れそうにもないので私が代わりに質問をする。
「なんでわざわざ虫歯にしたのかしら?」
「いやぁ、自分の延命に成功したんはええんやけどな。お二人さんが来る前に妹さんが目ぇ覚ましそうやったんでな。何かしらしてこっちを襲う気力をなくしてもらわんと殺されると思ったんよ」
「そ、それで虫歯にしたの。意外とやることがえげつないわね」
秋としては死にたくないから必死だったんだろうけど、吸血鬼に虫歯はあんまりじゃないかしら。
まぁ、妹様が虫歯になってなかったらもう1回弾幕ごっこが開催されてたかもしれないから、間違った手段ではないのだけれど。
「それで、フランの虫歯を治す方法はあるんでしょうね!?」
レミィ、いつの間に復活してたのかしら?
「おう、ちゃんとあるで?」
「それで、どうしたらいいの?」
「妹さんの歯に書いてある文字をな、水で洗う。つまり、歯磨きして文字を消せばええんよ。もしくはナイフとかで文字を消せばええよ」
「ならすぐに」
「ただし、消す作業してる間はめっさ痛いやろうけどな!」
「威張るな!」
結構陰湿なことをするわね。
たしかに秋が右手に持ってるペンは水性だから、水で洗えば消えるけど、虫歯だから触られると当然痛いわよね。
何でこういう陰湿というか、セコイ手段は大量に持ってるのに、正攻法は苦手なのかしら? もうちょっと頭を使えば正攻法の1つや2つぐらい浮かびそうなものを。
「ちょっと秋。フランの歯を磨く間、痛覚を遮断するか麻酔をかけるか何かしなさいよ」
「んー、本当なら安全が確保されたからそれぐらいしてもええんやけど、今は無理やね」
「――断るというのね?」
「おう。なんせお花畑の向こうに会長がいい笑顔浮かべって中指立てとるからな。今から殴りに行ってくるわ」
そう言って右手を軽く上げて、秋は床に崩れ落ちた。左腕がまた分離していないところを見ると、どうやらすぐに千切れない程にはくっついたみたいね。血管よりも肉を再生させることを優先させたのかしら?
「ちょっとパチェ、なんでそんなに冷静なの!?」
「脳の処理が追いついていないだけよ。それよりも医者呼ぶことが先じゃないかしら?」
「そ、そうね。咲夜、すぐに医者を連れてきて……て、咲夜ここにいないじゃない!」
「お姉様ー、歯が、歯が痛いよー!」
「はいはい、良い子だからちょっとだけ待ってね。あ、咲夜ちょうどいいタイミングで来てくれたわね。咲夜、とりあえず医者を連れてきてちょうだい。それと、時間を止めてる間にフランの歯磨きも!」
慌てるレミィにずっと泣いてる妹様。そして意識を失い、おそらくあの世に旅立ちかけている秋。もう、何なのかしらこの空間。あぁ、図書館に帰って本が読みたい。
後日談
「あっ!」
「んげっ!」
「ああもう、2人とも。出会う度に私達の後ろに隠れるのはそろそろやめなさい」
紅魔館では、お互いがトラウマとなって、出会う度に怯えてレミィや咲夜の後ろに隠れる2人の姿が見られるようになった。
妹様はともかく、秋、気持ちはわからなくもないけどその姿は情けないわよ。