最近、人里にて紅白とは別の巫女さんが目撃されるようになったらしい。
紅白とは違い、布教に熱心で人当たりも良いと評判だ。
神社はあの妖怪の山にあるらしいが、参拝する時は巫女さんが安全を保証してくれるという親切設計。
そんな話をウチに遊びにきた黒白が言っていた。
これは、おもしろいことになりそう。
久々に人里に行ってみようか。
異世界での暮らし方 第24話
「そんな理由でやって来たんよ」
「滅多に来ないやつが来たと思ったらそんな理由かよ」
「爆発事故やってもうた身としては居心地悪いんよ。それに、人里は安全すぎておもしろくないやん」
「そんな事考えられるのは、お前さんや博麗の巫女様みたいに妖怪退治出来る人じゃないと無理だよ」
「そーかあ? 考える事は誰にでも出来ると思うよ。ただ、そこから実行出来るか出来ないかの違いちゃうかな」
「そうかい。で、俺に話しかけてきたってことは、何か買っていくんだろう?」
「ん。白菜3つほどちょうだいな」
「あいよ。で、だ。腰の調子が悪いから治してくれないか?」
「了解や。てか、痛めたら早めにウチの店きたらええのに。それか、永遠亭にお世話なるかしいや、悪化させる前に」
せっかく人里に来たんやからと八百屋の大将んとこで野菜を買って、ついでに巫女さんがよく現れる場所も聞いといた。
この八百屋やとお金の代わりに身体の調子悪いとこ治療したり、物を直す事で野菜が買えるから結構重宝しとる。そのやり方でええよと言ってくれる店と、現金じゃないど駄目だと言われる店があるんでなあ。
うちの店の商品がもっと売れたら現金で払えるんやけど、売れ筋の治療符が永琳さんとの協定で売られへんようになってしもたし、ああ生きていくのがツライツライ。
「あー、最近噂の薬屋さんか? 腕は良いと聞いたような」
「ここに薬売りに来とんのが弟子やから、言えば永遠亭まで連れて行ってくれるんちゃうかな。なんやったらセンセーに言えばええと思うわ」
「そうしてもらわないと、俺達みたいな人間はすぐに妖怪に食べられちまうからな。ほらよ、白菜だ」
「ん。ほれ、これ腰に貼っとけば治るわ。すぐに治る訳ちゃうから、風呂上りにでも貼るとええよ」
「ありがとよ。いやー、立ってる分にはいいんだが、しゃがむのがしんどくてな。そうそ、お前さんの探してた巫女さんなら向こうの方で勧誘してるぞ。人だかりが出来てるから分かりやすいはずだ」
「なんでそんな人だかりが出来んねん」
たかが宗教の勧誘やぞ。初日ならともかく、何日も人だかりが出来るとは思わんけど。
「そりゃ博麗の巫女様があれだからな。親しげに話してくる巫女さんも、神様について熱心に語ってる巫女さんも見るのも珍しいのさ」
「納得してしもたけど、それはそれでどうなんよここの住人」
まあ、全てはあのぐーたら巫女があかんのやけど。参拝客が欲しいと言う割には、里で布教せえへんからな、あいつ。いくら神社であれこれやっても、その事が人里に知れ渡らないと意味ないのになあ。
「ま、早速見てくるわ」
「おう、人がたくさんいるから姿はあんまり見えないかもしれないけどな……て、お前なんでひとっ飛びで家の屋根に飛び乗れるんだよ!?」
「身体能力だけならそれなりに強化出来んのよ。こっからの方が見やすいからちょうどええわ」
「いや、お前。本当に人間止めてたんだな」
うっさい、まだ言うほど人間止めてへんわ。紅白達みたいに自力で空は飛ばれへんし、さっちゃんみたいに時間止めたり出来へんぞ。
さて、おっちゃんの言う人だかりは、と。ああ、あったあった。
「どれ、噂の巫女さんは……ん?」
「あの、そんな屋根じゃなくって下に降りてきてもらえますか? 危ないですから……あれ?」
「コチャー?」
「お兄さん?」
「「何でここに!?」
人里で噂の巫女さんはうちの妹分でした……て、なんでやねん!
なんでおんねんコチャー。ここってそんな簡単に来れるようなとこやったか? そうならオレのあの結界切りの苦労はいったいなんやったんや。
「ほ、本当にお兄さんですか? 会長さんの結婚式の後すぐに居なくなったから、どこにいったのかみなさん心配してたんですよ!」
「みなさん?」
「そうです!」
「会長あたりは『なに、あいつがそんな簡単に死ぬような潔い人間な訳がないだろう。三途の河を渡る最中に船頭を脅して引き返させるようなやつだよ? 適当に生活しているに決まっているから、そんなに心配なら墓を作ってお線香でも立てたらどうかね? ふざけるな、とツッコミを入れに帰ってくるだろう』なんて言ってるんちゃうかな」
「なんで一字一句間違えずに当てれるんですか!? あ、本物、このお兄さん本物ですよ!」
「本物本物。お兄さん嘘つかない」
「宿題で嘘の答えを教えられた気がします」
「ありゃ質の悪い冗談だ。もしくは楽ばっかしようとしたコチャーへのおしおき」
「それを言われると痛いですね。ですが、もう同じ事はやりませんよ。ああ、そう言えば会長さんが言っていたお兄さんがいる遠い場所って幻想郷の事だったんですね」
「うんうん、冷静になってくれたようで何よりや。さあ、落ち着いたついでに周りを見てみよう」
「――あっ」
いくら思いがけず再会したからって、布教活動中にオレと愉快に話すのはアカンと思うよ? 里の人たち、ポカーンとしてこっち見とるがな。
その事に気づいたコチャーはおもっきし冷や汗を流している。昔っから言っとるけどな、落ち着いて周りを見て行動しようや、コチャー。
「お、お兄さん、これはどうしたら……て、いない!?」
「じゃあな、コチャー。この里の近くに家建てとるから、時間出来たら遊びに来るとええわ」
「逃げた、妹を弄るだけ弄ったらさらっと逃げましたよあの外道兄貴!」
コチャーがこっちを振り向いた瞬間に踵を返し、屋根の上を跳躍してセンセーの寺子屋に向かって逃げる。
すまん、コチャー。ここまで場が固まっとったらどうしようもないんや。コチャーを救う事が出来なかった悲しみが、涙として頬を伝い流れ落ちてくる。
次があったら、もっと弄れるように精進するから許してくれ。
「で、どうしてここにやって来るんだ?」
「コチャーって1つの事に集中して周りが見えなくタイプなんで、この後ウチに突撃してくると思うんですよ」
「分かっていて自分の家の場所を教えたのか」
「いやー、ひっさびさに弄れるのが来たもんで、嬉しくて嬉しくて」
やっぱコチャーが一番やね。みょんなリッパーも初々しくておもろいけど、コチャーには敵わんわ。
あいつはいつまで経ってもこちらの予想外の行動してくれるからな。次は何をしでかすのか楽しみで仕方がない。
「それにしても、博麗以外の巫女、か」
「絶対荒れますよ。やる気はないのに妖怪退治は自分の専売特許だと思ってますし、神社に人が来ないのを嘆いとるんで」
「私もそう思っている。だからここ数日、胃が痛くてな」
そう言って胃を押さえるセンセー。それ、ストレス性の胃腸炎です。医者の世話になってください。
人里のお医者さんやとストレス性なんてものは分からんかも知れんけど、永琳さんなら理解してくれるから。
「医者に行こうと思ったんだが、そこのお孫さんが寺子屋に通ってくれてるんで、行き難いんだ」
「ほな、永琳さんとこ行けばええやん」
「私が行こうとすると、妹紅もついてくるぞ。それは先方に迷惑がかかる」
ご先祖さま、姫さんに会ったら即座に喧嘩売るもんな。そりゃ無理か。
永琳さんも呆れるほどの気の短さ。でもって姫さんも姫さんで売られた喧嘩は買う人やし。
あんだけ喧嘩してんのに、何であの永遠亭のある竹林は荒地にならんのやろ。あの2人血肉吸って妖怪化してへんか?
「今度姫さんに伝言頼んで薬持ってきてもらいますわ。あと、これ。八百屋の大将が白菜おまけしてくれたんでどうぞ」
「薬はありがたいが、白菜は自分で食べたらどうだ。妹紅も秋の食生活を心配していたぞ」
「オレが料理しても、レパートリー少ないんで。それに、使いきれる分からないんで良かったら貰ってください」
「しかしだな」
「あれやったらご先祖さまに渡してくれたらええですよ。そしたらうちに持ってきてくれるかもしれませんよ?」
「ああ、たしかに持って行きそうだ。なら、一応貰っておこう」
その光景を想像できたのか、センセーはクスリと笑いながら白菜を受け取ってくれた。
よし、後でご先祖さまに連絡して、センセーに料理作ってもらおう。オレより憔悴しとるからな、このセンセー。
「それと、これも渡しとくんで、痛みが酷くなったら飲んでください」
「……この紙切れを飲むのか?」
持っていた紙切れに『痛み止め』と書いてセンセーに渡すと、それを怪訝な顔をして眺められた。や、裏返しても何も書いてへんから。透かして見ても何もないから。
「痛み止めって書いてるんで。胃のあたりに腹の上から貼っても効果はある思うんですけど、飲み込んだ方が確実です」
「すまない。ありがたく頂くよ」
「あくまで応急処置ですからね。後でちゃんと医者の診断受けてくださいよ」
どんだけ釘さしても行かないんだろうなあ。まあ、半分妖怪らしいから大丈夫とは思うけどさ。
ま、これ以上はご先祖さまに任せよか。あの人が一番センセーと仲ええから、オレが言うよりも言う事聞いてくれるやろ。
「分かった分かった。そうだ、貰ってばかりなのも悪い。お茶を淹れてこよう。少し待っていてくれ」
「いやいやいや、そんなつもりで来たんちゃうからええですって……て、行ってもうた」
こちらの制止を気にもとめず、センセーは奥に行ってしもうた。
ホント、そんなつもりで差し入れ持ってきたんちゃうんやけど。ほんま律儀な人やなあ。
たしか、この前外の世界に行った時に買ったお菓子がまだ残ってたはず。ポケットの中に適当に突っ込んだからなあ。
えーと、中々見つからんな。ん? これはコチャーが0点取ったテストの回答用紙やん。こんなとこ入れた記憶ないぞ。
でもってこれは人形遣いんとこの魔導書やん。黒白め、こっそりとオレのポケットに突っ込みおったな。
ああ、あったあった。これやこれ。
「すまない、待たせたな。そこの机を使おうか」
「すんなせんなあ。センセー、バームクーヘンは食べれます?」
「あんまり食べたことはないけど、おいしかったよ」
「ほなコレ食べてしまいましょか」
「あー、お兄さんここにいましたよ!」
お前、何でここが分かったんや。センセーんとこ来てから1歩も外に出てへんぞ。
「風がお兄さんの匂いを教えてくれました!」
「センセー、どうしよう。知らん間に妹がおかしな道に走っとる」
センセーに助けを求めたら、センセーは額に手を当て重く、そして長い溜息をついた。
気持ちはよー分かるけど、どうしたらええんか教えて下さい。オレにはどうしたらええんか分からへん。
何で風で漂ってくる匂い程度でオレが判別出来んねん。
こいつ、ここまでぶっ飛んでなかったのに、オレがおらんくなってから何があったんや。
昔っから天然やったけど、こんな変態じみたことは出来なかったはずやのに。
「兄のお前に出来ないことを、私がどうにか出来る訳がないだろう」
「オレにも予想外過ぎて焦ってるんやけど。センセーなんやから、今までの経験でなんかいいアイデア思い浮かびません?」
「たしかに授業は教えるが、人格の形成に関しては家庭でするものとじゃないか?」
「兄的存在やけど、そこはコイツの両親の仕事やから。まあ、ある程度は面倒見てたけど」
でもって幻想郷に来てからは連絡取れてへんかったからなあ。
こいつの面倒はコチャーとこのご両親と神様、それと会長達が……あっ。
「あの、私を置いてきぼりにして会話進めるなんて酷いですよ。久々の再会なんですからもっと話しましょうよ、構ってくださいよ!」
「だからと言って、背中にもたれかかんなや! 年頃の娘さんなんやからもっと恥じらいをやな」
「お兄さんが構ってくれないのが悪いんですよー、だ。ようやく見つけたのに逃げるし、他の女性と楽しそうに喋ってるし」
「ハハ、随分と懐かれているじゃないか」
どうしてこうまで懐かれてるのか、オレには分からへんのやけどね。
だからセンセー、笑ってないでコチャーを背中から剥がしてください。いくらポーカーフェイスを習得してるからって、こう、色々と理性にダメージくらうとやね。
いつの間にこんなに成長しやがったこいつ!
「やれやれ。そこまでにしてあげなさい。君のお兄さんが困っているぞ」
「お兄さん分を補充するまでは離れません!」
「何なんそれ!?」
「……君の分のお茶も淹れてこよう。今後の事も話たいから、のんびりしていくといい」
そう言うとセンセーはイイ笑顔を浮かべて再び奥に行ってしまった。
に、逃げおったあの人。
「おーい、コチャー。そろそろ離れてーな」
「まだ充電完了してないから嫌です」
「お兄さん色々と困るんやけど」
「そう言いつつも、会長さんが言っていたように無理矢理振りほどかないお兄さんが大好きですよ?」
「……あー、やっぱりあいつらの影響受けとったか」
コチャーのご両親、そしていらん事ばっか教えた神様とやら。
ごめん、もう手遅れです。
オレがあいつらにコチャーの事を紹介したばかりに染まりきってしまいました。
「お兄さん、お兄さん」
「はいはい、なんですか、と」
「離れてあげるので膝枕してくれませんか?」
「普通オレがしてもらう側ちゃうかな!? まあええわ。好きにしてちょうだい」
諦めてコチャーの提案を受け入れると、まあ嬉しそうに笑うこと。男の膝枕なんて、硬くてあんまよくないと思うんやけど、本人が嬉しそうやからええか。
お、枝毛発見。まったく、ちゃんと手入れせえよ。『修復』の文字で何とかなるか?
ところで、センセーいつまで経っても戻ってこうへんのやけど。お茶淹れにいっただけちゃうの?
ん? なんやコチャー。や、耳かきしてって言われても道具が……何で持ってんの。はいはい、やりますよ。ほら、横向け横。
センセー、早く戻ってこうへんかなあ。
鈴奈庵が出てから霊夢の印象変わって一部変更しました。
意外と人里に現れてたんですね……