なんというか、あれは敵だ。同志だけど天敵だ。どうにもならない。
――神様、ラスボスってあーいうのを指すんですね。
異世界での暮らし方 第7話
今日も今日とて客が来ない。春になったから、冬には売れに売れた『暖』も売れんもんなあ。夏じゃないから『涼』を売るにはまだ早いし。後何日お米食べれるか調べんと。
またさつまいも生活になるんは避けたいんやけどなあ。今度はじゃがいもにしよか。
「こんにちは、秋さん。相変わらずダレてるわね」
「この机の冷たさの良さが分からんとは。嘆かわしい、嘆かわしいぞ紅白。けどもしも分かってるならほっといてくれオレは寝る」
「お客さん連れてきたのに?」
「お客さん?」
はて、紅白に連れてきてもらわんと来れない人っておったか? 人里の住人は全員ここ知ってるんやけど。白玉楼のあの2人は紅白に案内されんでも安全にこの店まで来る実力はあるから、わざわざ紅白が連れてこうへんやろし。
もしかして、新たにオレみたいな迷子が現れたんか? それなら怪我治す符を譲るぐらいはさせてもらうけど。
「で、そのお客さんはどこにおんねん」
「私の後ろに決まってるじゃない……あれ、いない!?」
紅白は相手が自分の後ろにいる事を疑ってなかったからか、「紫ー、紫ー、どこ行ったのよー」と言いながら外に出て探して始めた。せやけど何や入れ違いに店の空間に亀裂みたいなんが入って、そこから人が現れおった。入ってきたじゃなくて現れたというところが警戒心くすぐるわあ。
これ、きっと紅白の言う紫さんやろ。あいつの知り合いにまともな人はおらんのか。せめて普通に玄関から入れ、玄関から。
「で、あんさんが紫さんかいな?」
「ええ、私が霊夢の探している紫さんで間違いありませんわ」
「ほな質問なんやけど、紅白ほっといてええんか?」
珍しく必死に探しとるよ? いつもなら諦めて帰るかお茶飲むかしてんのに。
「紫ー、ちょっとどこにいるのよー」
「構わないわ。だって」
「だって?」
「ゆーかーりー」
「必死になって探している霊夢が可愛いんですもの。滅多に見れない光景よ?」
な、中々ええ性格しとるなあ。さすが紅白の知り合い。
「そこ、呆れた顔しないの。それにあなたはあの霊夢を見て可愛いと思わないの?」
「そーやねえ」
紫さんに言われて、紅白を観察してみる。
「出てきなさいよ紫ー」
「どうせ隠れてこっち見てるんでしょう、いい加減出てきなさい!」
「あ、あれ、本当にはぐれちゃったのかしら」
「でも、ここに着地するまでは後ろにいたし」
「もしかしたらこの壷の中に……いるわけないか」
「あーもう、どこに行ったのよ紫ー」
ああもう和むなコンチクショウ! いかん、緩む頬を何とかせんと。しかし、あの焦って探している姿を見ると自然と頬が。たしかにこれは滅多に見れない光景やなあ。
「もう一度聞くわ。あなたは可愛いと思わないのかしら? ま、その顔を見たら聞くまでもないわね」
「そ、そんなことないのですよ」
「……」
「……」
「本当に?」
「……少し可愛いなと思ってしまいましたごめんなさいっ!」
「秋さん、さっきから誰と話してるの? あれ、紫!?」
声聞こえとったんならすぐ気づこうや紅白。なんや今日の紅白調子おかしいんちゃうか。
「紫、あんたいったいどこ行ってたのよ。探したじゃない」
「あら、私はちゃんとあなたの後ろについてきてこの店に入りました」
「そういう台詞はちゃんと玄関から店に入ってから言わんかい」
当店は正面玄関からの入店を推奨しております。なんせ防犯用の文字をたっくさん書いといたからな。玄関以外から入ると仕掛けが発動するんよ。あれ、でも紫さんには発動してないんはなんでやろ? 文字は……消えてへんから発動してるはずなんやけど。
「全くもう。私に見つからないように入ってまでして何を話してたのよ」
「必死になって探している紅白は可愛いな、と」
「んなっ!」
「私の名前を呼んで探し回るなんて、年相応でいいじゃない」
「紫まで!?」
「あの紅白にあそこまで頑張って探してもらえるとは――想われとるね」
「うらやましいでしょう?」
紫さんは自慢気に言ってくれるが、オレにだって外の世界に行けばそれ以上に心配して探してくれる人おるもんね! てか、そろそろ連絡取らんと。あいつ心配性で天然さんやから、何しでかすか不安になってきた。
「何言ってるのよ、そんなことな――」
「ゆーかーりー」
自分に『ものまね名人』と書いた符を貼り付けて、紫さんを探していた霊夢の声真似をする。
「なっ」
「もしかしたらこの壷の中に……いるわけないか」
「ど、どこからどこまで見てたのよ」
「「最初から最後までそりゃもうバッチリと」」
紫さん共々ニヤリと笑い紅白を見る。紅白は見られていた事が恥ずかしくて言葉が出ないのか、口をパクパクと動かして固まっている。その様子を見ていたら、急にこちらを指さして怒ってきおった。
「あんたたち、性格悪いわよ!」
「だって妖怪ですもの」
「それに、ここの人間も大抵は性格が悪いぞ」
良い人はおるんやけど、結局は意地悪やからなぁ。もしくは出歯亀なんよね。困ってる人をほっとけないのにどうして素直に助けないのやら。
「それで、本当に私について語り合ってたの?」
「「むしろ紅白(霊夢)がからかうといかに楽しいかについて?」」
「声を揃えて言うことじゃないわ。あーもう、バカばっか!」
「怒るな怒るな――小皺が増えるで」
「それは大丈夫。だって私は素敵な巫女だもの」
「巫女なら小皺が増えへんの!?」
「巫女だもの」
「巫女さんすげーっ!」
「あら、ならそのことを売りにしたら、もしもの時の博麗の巫女の後継者選びも楽になるかしら」
「そんな理由で立候補者増やしてええんか紫さん」
「性格に難があったら理想の巫女に修正するから大丈夫よ」
今までそういうこともあったらしい。ところで紫さん、あんた何歳や。てか、やっぱ人間ちゃうんやね。
「そうして出来たのがこちらの霊夢になりますわ」
「え、私って性格修正されてたの!?」
「恐ろしい、恐ろしいほど方向が間違っとる修正やな! こんなんに任せて幻想郷の平和は大丈夫やろか!!」
「嘘ですわ」
「「良かった。ホント良かった!」」
こんなゆるい性格のが理想な平和維持担当ってなんか、ねえ? もうちょっとキリっとしてた方が。いや、たしかに普段はのほほんとしているように見えるから量産されたら平和になるんかもしれんけど。
無愛想やからアカンか。
「はあ、もう私は帰るわ。紫、約束通り連れてきたんだから今度の宴会の準備、手伝ってもらうわよ」
「ええ、ちゃんと藍を手伝いに出させるわ」
道案内の代金にするほど大変なんか、宴会の準備って。そういえば、いっつも誰も手伝わないって言っとったな。それにあの人数での宴会やからたしかに大変やなあ。頑張れ紅白。陰から生暖かい目で見守っといたるから。
紅白は紫さんの答えに満足すると帰っていった。……て、オレ、紫さんと2人きりですか!? この人たぶん人外ですよ、オレの能力無効したっぽいんですよ、危険レベルMAXですよ!! さらにかなりの美人ですよ!? 幻想郷だと美人には棘ありまくりなんですがこの人もそうですよね、きっと。紅白ー、カムバック! オレキケン、スグカエレ。
結局、この怪しい美人さんと2人で話すことになった。といっても話している内容は普通の会話。そう、日常会話なんよね。ここ、お店なんやから商品について聞かんか普通? 自分で言うのもなんやけど、一目で分かる商品なんてそうそう置いてないんやぞ、この店は。
「さて、そろそろ本題に入らせてもらうわ」
「やっと、やっとか。前置きどんだけ長いねん。しかも結局商品についての質問はなしかいな」
「だって必要ありませんもの」
「見ーてーるーだーけー」
買う気がないのに来たんかい。店の主人としては迷惑な話やね。お菓子の1つでも持ってきてくれたら話は別やけど。
しかし、うちの商品以外の理由初めての人が訪れるとは――愉快な話かやっかいな話しか、どっちなんやろ。
「あなたの能力が幻想郷に危機をもららすから排除しに来た、って言ったら?」
「えらくスケールのでかい話やなぁ、と驚き呆れる」
「あら、それだけ?」
「それだけやね」
いきなりそんなこと言われても反応出来るかいっ。そもそもオレの能力でどうやったら……て、めっさ方法あるやんか!? やる前に紅白達に退治されるんがオチやけど。
それにしてもマズイ。このままやったらオレ、即あの世に突撃コースやん。能力使ったら何とかなりそうやけど、この人オレの能力無効化したっぽいしなあ。はて、どうやって切り抜けよか。
「結界に『穴』を開けられたり、『破滅』みたいなことを書かれたら困るのよ。私は幻想郷が大切ですもの」
「オレは外の世界では暮らされへんからそんなことせえへんよ?」
「それでも、可能性は無くなりませんわ」
うおっ、なんか紫さんからのプレッシャーがとんでもないことになっとるやん。部屋軋みだしおったで。これは家の強化も無効化されたかな。てか、あの深くなった笑みが怖い。これ、黒白が神社に着陸失敗して、集めとった枯葉が吹き飛んだ時に紅白が浮かべた笑みとおんなじや。これは、あれか、逃がすつもりも生かすつもりもないということかいな。
「言っとくけどな、ただではやられんよ」
「私に勝てるつもりなの?」
「それは無理やろ。ただ、1発殴る。でもって痛い目を見てもらう。それぐらいなら出来るんちゃうかな?」
「なら見せてもらうかしら」
そうして緊張感が高まってきた。ああ、どないしよ。勢いと虚勢であんな虚言吐いたけど、痛い目見せるんは簡単にできるんやけど殴れるかどうか。そもそも接近出来んのかも怪しいんよね。こりゃ本気でここで人生終了か。死ぬ覚悟なんて一切出来てへんのやけど、ね。
「やっぱり止めたわ」
「はい?」
え、なにこの展開。そんな簡単に止めてええの?
「だって、めんどくさいもの。それに、あなたは幻想郷を壊そうとするような人物じゃないのは、霊夢の話やさっきまでの会話でも分かっましたもの」
「ほな、さっきの会話と空気はなぜ?」
「いくら止めるとはいえ、念のため脅しておいた方がいいもの。それぐらいあなたの能力は危険なものなのよ。あと、あなたが怯える姿は楽しかったわ」
「ええい、この性悪め。オレのシリアスを返せ。数ヶ月に1度しか無いんやぞ」
ほんと、さっきまでの空気はなんやったんや。無駄に殺気ばら撒きおってからに。見ろ、足がガタガタ震えとるやんけ。机と椅子のおかげで紫さんの視界からは隠れとるけど。
「あと、彼女に感謝しときなさい」
「彼女?」
「ええ、霊夢が呼んだのかは知らないけど、外から私のことを狙ってるもの。私、というよりこの建物を、かしら。もしもの時は彼女があなたごと私を攻撃してたわ」
そう言うと紫さんは怪しい笑みを浮かべ、空間に亀裂を入れてそこから帰って行った。「言っておくけど、霊夢をからかっていいのは私だけの特権よ?」との言葉を残して。ふざけんな。紅白をからかってきた歴史はこっちの方が長いんやぞ。
それにしても、彼女とは誰のことや。霊夢の交友関係って意外と広いから特定できへんわ。そう思っていたら、扉が勢い良く開け放たれた。ああ、誰か分かったわ。
「よ、悪友。生きてるか? 霊夢に頼まれて様子を見に来たぜ」
「おう。お蔭で助かったよ、悪友」
「そうかそうか。ところで、飛ばして来たから腹が減ったぜ」
「ふむ。パチもんのおいしいお茶と、ホンマもんの美味しい茶菓子があるんや。上がって食ってけ。ついでに飯も食いに行こう、この前良いお店を見つけたんや。オレの奢りやよ?」
まあ、偶には素直に感謝するのもやぶさかではないわ。さて、この前センセーから貰ったお菓子はどこに置いたかな、と。