ここの住人は酒が好きだ。
ここの住人はアルコール分解能力が発達している。
そしてここの住人は、酒に弱いやつにも容赦がない。
――神様、妖夢が倒れたら私が次のターゲットになるのが定番になってきたんですが、なんとかならないのでしょうか。
異世界での暮らし方 第9話
「秋、宴会だぜ!」
「よっしゃ、『酔い止め』用意するからちょい待っとって」
いつものように黒白に宴会に誘われた。ここ、幻想郷ではよくある事で。まさかこの時点で異変が起こっているとは思わんかったわ。
宴が始まり既に2時間。色んなやつが酔っ払っとる。ただ、まあ、酔っ払っとるやつ全員が見た目幼女なんやけどな。うん、幻想郷じゃなかったらありえへん光景やね。
「あら、こんなところで1人寂しく飲んじゃって。楽しんでる?」
「男1人だけやから混ざりにくいっちゅーねん。そっちこそみんなに混ざらんでええんか、ドールマスター?」
初めは紅白なんかと飲んでたんやけど、他のとこに行ってもうたんよ。他の連中とはまだそんなに仲ようないからこうやって1人飲んどるわけや。紅魔館組とは仲良うやってるけど、宴の場で会うと血を飲まれるか、からかわれるかの2択やから最後に取っとくわ。
そんなところに話しかけてきた金髪美人さんはアリス・マーガトロイド。通称七色の人形使い。魔法使いらしいんやけど、人形を操っとるんしか見た事ない。他には何が出来るんやろね?
「しょうがないじゃない、勝負に負けたんだから」
「は?」
何で勝負に負けたからってこっちに来るのか分からん。それが表情に出たのか、人形遣いはあっちを見ろと指で指してきた。
「ああ、なるほど」
「分かってくれたみたいね」
そこには良い笑顔を浮かべて「こっちゃこい」と手招きしているのが数名いた。たぶん行ったら地獄を見る。そして傍らには酔い潰されて倒れている妖夢の姿が。あれか、オレは妖夢の代わりなんか。からかう相手がいなくなったから新しい獲物を求めてるんやね?
「逃げてもええやろか」
「ダメに決まってるでしょう。私がいるからには逃がさないわ」
「おっと、つい心の声が」
あまりにも嫌すぎて思わず口に出してもうたがな。ああ、嫌やなあ。特に時々見せる黒い笑みを浮かべてる幽々子が嫌や。次点であのグループとは別のとこから、オレがどんな愉快な目に会うのかが楽しみでニヤニヤ見とるお嬢が嫌や。
「そんな訳でオレは逃げ――何で糸が体に絡まってるのでせうか?」
「あなたが逃げようとするからじゃない。逃げられたら私が責められるかからかわれるかするじゃないの」
「たしかにそうやけども! というか、糸なんて使えたんですね!?」
人形操るんにも糸使わんのに。何故、WHY?
「指先を鍛えるのにちょうど良かったのよ。人間相手に使うのは初めてだけど、案外上手くいくものね」
「オレを実験台にしおった!? ええい、離せ! あ、こら引っ張るな。こけるから、こけるか――うぉっ」
「つべこべ言わずにさっさと行くわよ」
「イーヤアアアァァァァ」
この後の記憶は無い。無いったら無いんや。
それから3日後、オレは紅魔館におった。
「前の宴会からまだ3日しか経ってへんのにもう次の宴会かい」
「そう言いつつワインを飲んでるから、嫌ではないようね」
完全で瀟洒なメイドさんが現れた。隣におるはずのお嬢は……霊夢と会話中やね。
「ここのお酒と料理はおいしいからね。ところで、お嬢の隣におらんでええの?」
「お嬢様は霊夢との会話に夢中ですわ。だからお嬢様の代わりにお客様を持て成さないと」
「お疲れ様です。頑張ってなー」
今日もさっちゃんは忙しそうやなあ。あ、なんでこんな急に宴会することになったか聞いとこ。いくら宴会好きが多いからって、ちと早すぎへんか?
「なんでこんな急に宴会することになったん?」
「先日の宴会で、「私が一番楽しい宴会を開催できるんだ!」魔理沙と言い合って競い合ってるのよ」
「しょ、しょーもな」
「あと、今回は手のひらの上で踊ってあげるわとも言ってたわね」
と、さっちゃんが疲れた顔をして教えてくれた。
おお、意味深で怖っ。巻き込まれへんように気ぃつけんとあかんわ。てか、お嬢。楽しい宴会開催すると意気込んどったんなら、霊夢との会話に夢中になってないでちゃんと客を接待しようや。ま、楽しそうやから文句は言わんけど。それに、今邪魔したら怒らせてまうからな!
「あ、そういえばパチュリー様から伝言を頼まれてわね」
「ビブリオマニアから?」
「近々写本を頼むからよろしく、だそうよ」
「オーケーオーケー。実入りの良い仕事は大歓迎や」
「今度は死にかけないよう気をつけてくださいな。前回は掃除が大変だったんだから」
「き、気をつけますです、ハイ」
前回写本を作ろうと原本を見たら発狂しかけたんよね。そこを依頼主のパチュリーに助けられたんよ――魔法で吹っ飛ばして気絶させるという力技で。
その際に血が流れたり大量の本が巻き添えくらって吹き飛んだりして、その片付けをしたのがまあ当然のことながらさっちゃんやった訳で。うん、目を覚ました時に見たさっちゃんの顔は、その、門番さんが怖がる理由がよう分かったわ。
というか、読んだら発狂するような危険な魔導書読ませるのに結界を張り忘れるとは、あのうっかり屋さんめ!
「ま、今度は自分でも安全対策してくから安心してーな」
「……その言葉を信じるけど、次に同じことをしたら掃除は自分でしなさいよ」
そんな状況になったら、掃除する余裕なんてあらへんのとちゃうかな?
そんな疑問を残し、さっちゃんは他の客の所へ去っていった。いや、まあ、そんな事態にならなきゃええだけなんやけど、もしやってもうたら本気で掃除させそうやなあ。あの人、お嬢とパチュリー以外には厳しいもんな。あ、このサラダうまい。味覚えとこ。
お嬢に血を吸われることもなく、オレにしては珍しく、珍しく無事に紅魔館から帰れた。その喜びをかみしめて翌日は人里の商人たちと宴会。これはまあ、新年度会みたいなもんや。今年度も頑張って商売しましょう、という気合を入れる宴会でとにかく安全。酔っ払って襲われないし、弾幕ごっこにもならないから安心して酔っ払うことが出来んねん。
で、その翌日。調子に乗って呑みすぎて二日酔いでダウンしとったら――
「「次は私のところで宴会よ!」だそうです」
「突然すぎるわ! っイタタタタ」
妖夢が店にやって来て宴会に誘ってきた。それはええんよ。いつもなら喜んで参加するんよ、料理おいしいし。ただ、タイミングが悪かった。明日宴会する言うても、昨日人里で呑んだところなんよ。一昨日はお嬢んとこの宴会にも参加したことやし、ここいらで一休憩いれんと体がもたへん。
「行きとうない」
「え、なんでですか!? おいしい料理だって出るんですよ?」
「お、お願いやから大声出さんといて、頭に響くから。実はやね」
「実は?」
「つー」
「かー」
「そういうことや」
「なるほど、そういうことでしたか。諦めてくれるかは分かりませんが、幽々子様に伝えておきますね」
通じた!?
オレが驚愕しとる間に妖夢は出て行った。きっと他の人んとこに声掛けに行ったんやろ。しかし、まさか本当につー、かーで通じる人が居るとは! なんや幽々子や八雲さんちの紫さんにも通じそうな気がするわ。人生経験豊富やと可能になるんかも?
それはともかく、素直に帰ってくれた妖夢に感謝しつつオレは再び寝ることにした。あー、頭痛い、気持ち悪い、水をくれー。
でもって翌日。二日酔いも醒め、久々に倉庫の整理をしてたんよ。季節ものも扱っとるから宴会ばっかりしとる訳にもいかんのよこれが。春物と夏物の割合を変更したり、冬物を片付けたり。ちなみに、春物の商品で一番売れたのは花見用アイテムの『桜吹雪』でした。これのせいで桜が散るのが早くなった気がしないこともない。なんせ桜の花びらを強制的に散らして見事な桜吹雪を見せるからなあ。
そんなことをしてたら、お客さんがやってきた。あのスキマ妖怪の来訪や。霊夢がおらんのに来るとは珍しいやん。
「どないしたん?」
「ええ、ちょっと宴会のお誘いに来ましたの」
「またかいな。今度はいつすんの?」
「今日ですわ」
「今日!?」
今日は幽々子んとこで宴会やってるから参加者少ない思うんやけどな。というか、紫と幽々子が同じ日に別んとこで宴会することなんてあるんやねえ。仲良しやから一緒にやると思ってたんやけど。
「ごめんやけど今日はパス。今日開催される幽々子んとこの宴会も断ったんや」
「あらあら。そっちはどうして断ったのか教えてくださる?」
「二日酔いが酷かったんや。」
あ、ものすんごい呆れた顔された。
「二日酔いって、あなたそんなにお酒に弱いの? まだ若いでしょう」
「ええい、若さと肝臓のアルコール分解能力が比例すると思ったら大間違いや! それとそこまで弱くはないわい」
「でもたったあれだけしか飲んでないのに二日酔いよ?」
「いや、たったいうたってやな、二日連続で飲んだら堪えるで……て、なんで知っとるん!?」
「だって見てましたもの」
ストーカーだった。
「人それをストーカーという」
「失礼なこと言わないの。それに、なんであなたのことだけ見てないといけないのよ」
「そ、そうやんな。昨日飲んでたんを偶々見られただけ――」
「私は幻想郷のことならエブリシングエブリタイムお見通しよ!」
ものすんごいストーカーだった。節操のないストーカーだった。
「それはどうでもいいの。あなた、もう二日酔いは治ってるわね?」
「いや、マテやストーカー。どうでも良くないわ。二日酔いは治っとるよ。でも幽々子んとこの誘い断ったから今日は店の整理や。悪いけどそっちの宴会には参加せえへんよ?」
「いえいえ、それなら問題ありませんわ」
そういうと紫さんは怪しく笑い――スキマがオレの足元に展開された。
しかし甘い! 伊達に何度も黒白に付き合うて紅魔館襲撃したり、黒白やどこぞの最速の新聞屋の突撃くらっとらへん! この程度の不意打ち避けれるわい!
……いや、スキマの縁を掴んで落下止めるので精一杯やったんやけどね。
「な、なんとー!?」
「だって、私は幽々子に頼まれてもう一度あなたを誘いに来たんですもの。あなたの二日酔いが治っているならなんの問題もないわ。だから――悪あがきせずさっさと落ちなさい!」
するとスキマの縁をかろうじて掴んでいた手を蹴飛ばされ、オレはスキマへと落ちていった。この不気味な空間や諦めなかった幽々子にも文句を言いたいがとりあえず一言。
「こ、このセメ婆ああぁぁぁ!」