『サンダース大付属高校フラッグ車行動不能!!よって、大洗学園の勝利!!』
試合会場に審判のコールが鳴り響く。1回戦の大洗学園vsサンダース大付属高校の試合が行われていたが、たった今決着がついた。大方の予想はサンダースの圧勝、こんなところだっただろう。だが試合に勝ったのは大洗学園だ。
「みぽりんやったね!」
「やりましたよ西住殿〜!」
「なんとか勝てたな」
「華さんが当ててくれたおかげだよ」
「いえ、諦めかけてたところにりくとみほさんの言葉で気力を取り戻したんです。お2人のおかげです」
「ううん、私も正直諦めかけてたよ。お兄ちゃんのおかげだよ」
『おーい!』
試合に勝ったのは大洗学園だが、途中大洗のほとんどのメンバーは諦めかけていた。一瞬諦めた人もいたかもしれない。でもりくの言葉でやる気を取り戻し、なんとか勝利まで持っていくことができた。
勝利のコールが鳴り響いた少しした後、大洗のメンバーがあんこうチームであるIV号のところに寄ってきた。
「華!よくやったな!」
「いえいえ、それほどでも」
「一撃で仕留めておいてよく言うよ」
「お兄ちゃん、試合中ありがとう!お兄ちゃんの言葉がなかったら私諦めてたよ」
「いや〜かぁしまも途中諦めて装填しなかったから危なかったよ〜」
「会長!?それは言わないでください!?」
「いやまぁ事実だし……あれ小山先輩が避けなかったらやられてたからな?」
「うっ……」
「ハーイりっくー!」
「おっと、ケイさんか」
IV号に集まったみんなが話していると、そこにサンダース隊長のケイがやってきた。勢いよくりくに抱きつこうとしていたが普通に避けた。ケイさんは一瞬残念そうにしたが、すぐに元のテンションに戻り近くにいたみほに声をかけた。
「あなたが隊長ね?それに私のりっくーにそっくりね!」
「前にダージリンさんにも言われましよ。私たち双子なんですけど……私の?」
「そうよ?……いたっ!?」
「だからケイさんのじゃねぇって!」
「なんだ冗談か……よかった」
隊長同士の挨拶のためか、みほと話しているケイ。そこでりくにそっくりと言われ双子ということを説明していたが、ケイの言った"私の"という言葉に引っかかったみほがどういうことか聞こうとした。そのタイミングでりくがケイの頭にチョップをして冗談だということをみほは理解した。
最後の"よかった"という言葉は気になるが……
「エキサイティーング!今日はありがとね!こんないい試合ができるなんて思わなかったわ!」
「わっ!?」
「よっと」
「りっくー避けなくていいじゃない!ケチね〜」
「避けるわ!それよりこちらこそありがとな!まさか1回戦からあの砲撃をさせられるとは思わなかったぞ」
「悪魔の砲撃ね?それがなければ撃破できたかもね!」
相変わらず抱きつこうとしたサンダース隊長のケイ。みほは避けきれなかったがりくはなんとか避けた。
それは置いておいて、試合後の挨拶に移ったようだ。
「簡単にやらせるかって!」
「さすが私のりっくーね!それと今日は悪かったわね、無線傍受なんかして……」
「気にすんなよ。あれはケイさんの指示じゃない。ケイさんがあんなこと指示するはずないし、ましてや許可するわけない。ちゃんとわかってるから」
「りっくー……」
「あ、でも無線傍受機使った人と話はさせてくれないか?」
「いいわよ!アリサー!」
「なんでしょうか隊長」
「あの子よ」
「そっか、サンキュー」
「お兄ちゃんのことだから文句を言うことはないはずなのでそこは安心してください」
「of course!わかってるわ」
試合後の挨拶をしているとケイが無線傍受機のことを謝っている。だけどりくは特に気にしていない。だけど使った人と話がしたいみたいでケイに教えてもらい、無線傍受機を使って指示をしていたアリサの元へ向かった。文句を言いにいったわけではないとみほは言ったが、そこはケイもわかっているみたいだ。
「君がアリサさん……でいいんだよな?」
「そ、そうだけど私に何か……って無線傍受のことよね……」
「そうだ」
「そうよね、責められて当然のことしたもんね」
「私からも謝るからできるだけ怒らないでやってくれ」
「へ?」
アリサの元へやってきたりく。アリサは無線傍受のことを言われるとわかっていたみたいだ。一緒にいたナオミも謝っているが、2人とも勘違いをしている。りくは怒りに来たわけではない。
「いやいやいや、一応禁止されてることをやったわけじゃないんだし怒りに来たとか、責めに来たわけじゃねぇよ!」
「「えっ」」
「俺たちに無線傍受機使ったのもケイさんを勝たせたかったためなんだろ?」
「そ、それはもちろん…」
「そんな奴を怒ったりしないさ。たださ、そういうことをやって勝ってもケイさんが喜ぶと思うか?」
「……た、隊長はフェアプレーでやりたい人」
「だろ?ケイさんを勝たせたいっていう気持ちで行動するのは悪くないと思う。それでも方法は考えような?今度からは勝たせたい相手……今で言うとケイさんだけど、ケイさんが知って喜ぶ方法を考えて行動しろ。俺が言いたいのはそんだけだ」
「は、はい!今日はすみませんでした!」
「まっ、怒られるのはケイさんにたっぷり怒られておけ!あ、あと無線傍受は相手にバレたら利用すんの簡単だからやめた方がいいぞ。じゃあな!」
言いたいことを言ったりくはケイとみほの元へと戻っていた。戻っている途中でケイもりくの方へ寄ってくる、どうやら話は終わったようだ。すれ違う時に
「ケイさん、あんま怒りすぎないでやってくれ。今回のこと褒められたことじゃないけどケイさんたちを勝たせたくてやったことだからさ」
「それでも方法は選んでもらうわ。その気持ちは嬉しいけどね。まぁりっくーに免じて最小限だけ怒ることにするわ。それともう1つ、次はサンダースは負けないから!」
「次も勝つのは大洗です!」
と軽く話をしてそれぞれの学校の方へ戻っていった。
「ケイさん…凄い人だったね。お兄ちゃんがアリサさんと話してる時に聞いたの。なんで4両しか来なかったのかって。そうしたらね、戦車道は戦争じゃない、道を外れたら戦車が泣くって言ってたの。それと無線を傍受したことも謝ってたよ」
「へぇ〜良いこと言うじゃん。ケイさんはフェアプレーに戦いたい人だからな、そりゃあ謝ってくるさ。サンダースの分も…試合して勝ったチームの分まで頑張らないとな」
「うん!」
「お〜い!みぽりんとりく早く〜みんな帰る準備してるよー」
「帰るか」
「うん!」
りくはアリサと、みほは隊長同士ケイとの話を終えて大洗のみんながいるところへ話しながら戻っている。歩くペースが遅いのか、待ちくたびれた沙織が声をかけた。みほとりくが合流し帰りの準備ができると
「あれ?麻子携帯鳴ってるよ?」
「知らない番号だ、もしもし…………えっ」
沙織が麻子の携帯が鳴っていることに気が付いた。麻子は知らない番号だったが電話に出ると何やら驚いている。
「はい……わかりました……」
「麻子?どうした?」
「なんでもない……」
「なんでもないわけないよ!そんなに様子おかしいのに!携帯だって落としてるよ!」
「おばあが……倒れて病院に……」
『えっ!?』
電話を切った後、様子がおかしい麻子にりくが尋ねるが何でもないと答える。だけど麻子の様子からそれが嘘だとみんなわかっていた。それに携帯も落とす始末、沙織が少し強めに聞くと麻子のおばあさんが倒れて病院に運ばれたという連絡だった。
「大変です!早く行かないと!?」
「でも一度大洗に戻らないと!?」
「くっ!」
「麻子何してんの!?」
「泳いでいく!」
「無茶ですよ冷泉殿!それにりく殿もいるんですから脱いではダメです!」
「りくになら見られても構わんから離せ!」
「くそっ、どうすれば……そうだ!」
普段冷静な麻子でもおばあさんが倒れたと聞いて冷静さを失っている。今いる場所から泳いでいけるわけもないのに……
どうするか困っていると、りくが何か思いついたのか携帯を取り出して誰かに電話をかけ出した。
「頼む出てくれ姉ちゃん」
「電話の必要はない、聞こえていた!」
「「(お)姉ちゃん!?」」
りくが電話をかけていたのは姉であるまほ。電話で何かを頼むつもりだったのだろうが、ちょうど近くまでやってきていたようだ。副隊長であるエリカも一緒に。
「聞こえてたんなら説明の手間が省ける。頼む、姉ちゃんたちが乗ってきたヘリで麻子を院まで連れていってくれ!」
「そのつもりできた」
「隊長!?なんでこの子たちに……」
「エリカ頼む!協力してくれ!」
「エリカ、これも戦車道だ」
「っ、わかりました」
りくがまほに電話をかけた理由はヘリで運んでもらうため。黒森峰の隊長と副隊長ならヘリで会場に来ていたと思っていたのだろう。そしてまほもそのつもりでりくたちの近くまで来ていた。エリカは否定的なことを言っていたが、隊長であるまほの説得もあり了承してもらうことに成功した。
「さっ、早く」
「済まない」
「私も一緒にいく!」
「頼んだぞ沙織」
「任せて」
「エリカ頼むぞ」
「はい…」
「悪いなエリカ、あと頼む。安全且つできるだけ早く連れていってやってくれ」
「ちゃんと借りは返しなさいよ!」
麻子と付き添いの沙織がヘリに乗り込むと、まほが声をかけ、りくは謝ると同時にできるだけ早く病院に連れていってもらえるように頼んだ。
ヘリが飛び立って病院の方に向かっていくのを見送ると
「あ、ありがとう…」
「ありがとな姉ちゃん」
みほとりくは2人でお礼を言った。まほはそれを特に気にしていない様子で離れようとしているが……
「あれ?そういえば……姉ちゃんちょっと待ってくれ!みんなは先に帰る準備をしててくれ!」
「お兄ちゃん!?」
「りく殿!?」
「りくはどうしたのでしょうか?」
りくたちの側から離れていくまほだったが、らくが何かに気が付いてまほを追いかけた。そんかに離れていなかったためすぐに追いつけた。
「どうしたりく?みんなと帰らないのか?」
「あっ、いや帰るんだけど……姉ちゃんはどうするんだ?頼んでおいて言うのもなんだけど帰りの足は……」
「……私もそこを考えていなかった」
「す、すまん……」
ヘリを使わせてあげたまほだったが、帰りの足が無くなってしまっていた。まほもりくも、早く麻子を病院に行かせたいと思っての行動だったのだが、完全に帰りのことを考えるのを忘れていた。そこでりくはとあることを提案することにした。
「病院の場所はわかってるし姉ちゃんも大洗まで来ないか?エリカには病院で待ってもらってさ。まぁ街の案内は無理だけど……」
「いいのか?早く帰って休みたいんじゃないのか?」
「それくらい平気だよ。姉ちゃんたちには助けてもらったしさ」
「そうか、ではお言葉に甘えて一緒に行かせてもらおう」
帰りの足が無くなったまほに対して、りくは一緒に来るように提案をした。表情はあまり変えていないが、困っていたまほはそれに賛同することにした。りくは念のため会長に許可をもらいに行き、その許可はすんなり降り、会長もまほに直接お礼を言うこととなった。
その後、りくは病院まで案内してエリカと合流し、まほとエリカの2人は無事帰っていくことができた。
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「それにしてもほんと命に別状なくてよかったな」
「うん」
「そうですね」
「ほんとですよ」
サンダース戦が終わった次の日、あんこうチームのメンバーはとある病院に来ている。今いる病院には麻子のおばあさんが入院していてそのお見舞いである。沙織は麻子に付き添っているため今一緒にはいない。
コンコンッ
「「「「っ!?」」」」
病室に到着してノックをするとみんなは驚いた。部屋の中から怒鳴り声が聞こえたからだ。まぁ怒鳴ることができるほど元気になったというふうに捉えるべきだろう。
「あっ、みんな!」
「なんだい?お前たち」
「私と戦車道を受講してて同じチームのみんな」
「戦車道?アンタがかい?」
「そう」
「西住みほです」
「西住りくです」
「五十鈴華です」
「秋山優花里です」
戦車道と聞いて麻子のおばあさんは怪訝そうな顔をしたが、とりあえずみんな自己紹介することにした。と言っても名前だけだが……
「おばあのこと心配して来てくれた」
「私じゃなくアンタのこと心配して来てくれたんだろう!」
「わかってる」
「だったらちゃんとお礼言いな!」
「ありがと」
「もっと愛想よく言いな!」
「ありがとう/」
「さっきと変わってないよ!」
「だから怒鳴ったらまた血圧上がるって」
麻子と麻子のおばあさんのやり取りに、病室に入ってきたりく達4人は驚いていたがすぐに安心した様子でそのやり取りを見守っている。誰も口を挟もうとしていない。
「ほら、アンタ達もさっさと帰りな!こんな所で油売ってないで戦車に油指しな!」
「(上手いこと言うな〜)」
麻子のおばあさんが大丈夫そうだとわかり、麻子や沙織を含めた6人は病室を出ようとしたが
「アンタはちょっと待ちな」
「俺?」
「そうだよ」
りくだけ何故か呼び止められた。他のみんなには病室のロビーで待ってもらうこととし、りくだけ部屋に残ることになった。
「アンタまさかあの子の彼氏だったりするのかい?」
「いえ、そういう関係ではありませんよ。友達です」
「そうかい、でもまっ、もしそういう関係になったとしても私は止めたりしない。あの子のことを大切に想ってくれるならね」
「そんなこと言われるまでもありませんよ。麻子に……いえ、麻子さんにしたって他の誰かとそういう関係になったとしても、その人のことを大切に想う。当然じゃないですか」
「そうだね。それじゃあアンタも帰りな。あの子はあんな感じだけど仲良くしてやってくれ」
「もちろんですよ!それじゃあ失礼します、お大事に」
さっきまで麻子に怒鳴っていたおばあさんだが、それも麻子を心配してのことだったのだろう。麻子と仲良くしてやって欲しいことを伝えるともちろんりくは了承した。そのまま病室を出て待っていたみんなと合流した。
「麻子さん寝ちゃいましたね」
「ずっと起きてたからね」
「それだけ心配だったってことだろ」
帰りの電車の中、席に座れたと思ったら麻子はすぐに寝てしまった。何故かりくの膝の上でだが……だけど仕方ないことだろう。沙織が言ったようにおばあさんについてずっと起きていたのだから。りくは寝ている麻子の頭を優しく撫でながら自分の思ったことを言った。
「麻子ね、みぽりんとりくのこと心配してたよ」
「「え?」」
「自分の気持ちをちゃんと伝えられてないんじゃないかって。突然言えなくなる可能性もあるし麻子もそうだったから……」
「麻子も?」
「麻子の両親ね、事故に遭って亡くなっちゃってるの。だから親に言いたいことを言えてないんじゃないかって2人のこと心配してたよ」
「そういうことか…」
「そうだったんだ……そうだね……私はお兄ちゃんと違って逃げただけ、何も言えなかった」
「みほ…」
「お兄ちゃんはちゃんと言ったのにね……」
去年の戦車道の大会での出来事について、試合の後りくとみほは西住流家元でもある母親に呼び出されていた。その場にはまほもいたがその時のまほは言葉を発することはなかった。みほも言おうとしたことはあったが結局何も言えていない。りくだけが自分の思ったことを伝えたのだ。
「たしかに言える時に言っておかないと本当に言いたいことが言えなくなっちまう。でもみほも今すぐに母さんと話すのは難しいだろ?」
「うん……」
「だったらこの大会に優勝してさ、それでみほの戦車道を見つけるんだ。それで母さんに自分の見つけた戦車道について話せばいいんじゃないか?」
「そうだよみぽりん!」
「私たちも優勝するための協力はしますよ」
「五十鈴殿の言う通りです」
「お兄ちゃん…みんな……うん!この大会で私の戦車道を見つけてそれでお母さんに本音でぶつかってみるよ!」
「(これはますます負けられないな、それに俺も自分の戦車道を見つけないとか)」
もともと負けられないという気持ちで今回の大会に臨んでいたりくであったが、今回の麻子のおばあさんの騒動もあって、ますます負けられないという気持ちになった。みほに自分の戦車道を見つけてと言ったが、それはりくも同じである。りくもまた自分の戦車道を見つけるつもりだ。
大会の日程も進んでいき、1回戦が全て終了した。黒森峰やプラウダ高校と行った強豪校は順調に勝ち進んでいき、大洗の次の対戦相手はアンツィオ高校に決定した。
投稿するまでに時間かかってしまって申し訳ない。仕事が忙しいというのと体調を崩したというのが重なってここまで遅くなってしまいました。あと復帰したアプリのイベントも……
次回は2回戦に入らないつもりです。投稿がいつになるかわかりませんがそれまで待っていてくれると嬉しいです。