「変わらないな…って1年も経ってないし当然か」
「……そうだね」
「着いたぞ」
「……うん」
りくとみほの2人は熊本にある実家の前にいる。転校手続きの書類に親のサインが必要なため戻ってきているのだ。
「みほ、りく」
「「(お)姉ちゃん」」
「おかえり」
「「ただいま」」
実家に到着すると、丁度まほが犬の散歩から帰ってきたところだった。そのため一緒に家に入り庭の方を歩いていった。すると
「まほ」
「はい」
「お客様?」
部屋の方からまほに声がかかった。声をかけたのは3人の母親であるしほだ。誰かいることはわかったがその誰かまではわかっていなかった。お客様かと聞かれるとみほの表情は暗くなったが、そのみほの手を握り、りくは大丈夫だと言わんばかりに微笑んでみせた。
「学校の友人です」
「……そう」
「いやいや、いつから俺たちは学校の友達になったんだ?つーか母さん、気付いてるんだろ?」
「りく!?」
「そうね、それで何の用かしら?貴方たちは西住流の戦車道に合わないわ。それでも何かあるのかしら?」
「自分の実家に帰ってきただけで戦車道の話をしにきたわけじゃないさ。俺もみほも戦車道のことじゃなくて家族として帰ってきただけさ」
「そ、そうだよお母さん……たしかにお母さんから見たら私たちの戦車道をよく思ってないかもしれないよ。でも今は家族として帰ってきたの……」
「(2人とも強く、いや、りくは家を出る前にもちゃんと言ってたか。強くなったなみほ)」
「2人とも、特にみほ、強くなったわね。おかえりなさい」
「「ただいま、(お)母さん」」
2人がそう言うとしほは襖を開けて笑顔で出迎えてきた。りくとみほはそれぞれ自分の部屋に行き、前と変わっていないことを実感してしほとまほがいる居間に向かった。
「実はまほから聞いていたのよ。2人が帰ってくることをね」
「え!?私言ってない……まさかお兄ちゃん?」
「姉ちゃんには言っておいたけど母さんには伝えてないぞ?」
「私が伝えたからな」
「まぁみほもちゃんと話せてるしいいや。それより母さん、大事な話があるんだ」
「私も」
しほはまほから2人が帰ってくることを聞いていたらしい。みほは言ってないし、りくもまほにのみ言っていたので驚いていた。だがすぐに重要な話をすることにした。
「母さん、姉ちゃん、俺たちが通ってる大洗学園が廃校することになった。それで今俺たちは全員の転校手続きが完了するまで山の上で過ごしてる」
「っ!?」
「ちょっと待て!?優勝したのにか!?」
「うん、会長は戦車道大会で優勝したら廃校を撤回してくれるって話してたみたいだけど、文科省の人は確約じゃないって言ってたの。それで私たちは今日転校手続きの書類にサインをして欲しくて来たの」
「……そう。なら文科省に文句を言いに行きましょうか。私はプロリーグ設置委員会の委員長をやっているから話を聞かないなんてことはないでしょうし」
「それは……まだ待って欲しい」
「何故?」
「とりあえず先にサインをして欲しい。無駄になる可能性もあるけど」
「え、えぇ…それじゃあ2人とも書類を」
「「はい」」
りくとみほの2人は今の大洗の現状、それと今日ここに来た目的を話した。大洗の廃校のことを話すと、文科省の人に話をしに行くと言ったがそれを待ったをかけ、先に書類にサインをしてもらった。
「それで?どうして待つように言ったんだ?委員長のお母様に言ってもらえれば文科省の人も少しは考えてくれるのでは?」
「それなんだけどさ、俺たちが大洗に転校する前にもう廃校の話は出てたみたいなんだよ。それを会長の角谷杏さんが撤回させるために話を通したんだよ。まぁどうせ口約束は約束じゃないとかふざけたこと言ってるんじゃないか?その杏さんが簡単に諦めない。今も絶対動てるって信じてる。多分ここにも来ることになるだろうからその時に協力して欲しい」
「そう…来なかったら?」
「絶対来る!!」
「「「っ!?」」」
「文科省が決めたことを簡単には変えられない。多分蝶野さんや戦車道連盟の理事長にも相談しても難しいと思う。そこでプロリーグの設置について聞かされてここに来ると思うんだよ。だからその時に協力してく欲しい」
「そう……来るって信じてるのね。わかったわ」
「ありがとう母さん」
「お母さんありがとう」
りくがしほに待ったをかけた理由としては、会長がこっちにも来ると考えて……いや、信じている。だからその時に協力して欲しいとのことだった。しほもそれに了承することとなった。
「私はみほとりくの2人を駅まで送ってきます」
「ええ、2人とも、また来なさい。そしてその時はゆっくりしなさい」
「そうする」
「その時は友達もいいかな?」
「もちろんよ」
「やった!ありがとうお母さん」
「それじゃあ元気でな」
「2人もね」
小さい頃のようにまほが操縦し、みほがキューポラから顔を出し、りくは戦車の上に座って駅まで向かっていった。
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「ん?あのヘリ……」
「お兄ちゃん?」
昔と変わらない道を戦車で走っていると、りくは上にヘリが飛んでいるのを見つけた。それを見たりくは携帯を取り出して電話をかけ出した。その相手は
「もしもーし、りくりくどうしたの〜?」
会長だった。
「そのヘリに乗ってるのか?」
「へ?な、なんのことかな?」
「今下からヘリ見上げてるんだけど乗ってるのかな〜って」
「下から?…………戦車の上にいるのりくりくか〜」
「やっぱり乗ってるか、蝶野さんも一緒ってところか」
「……あ、バレた」
りくの思った通り、会長は上に飛んでいるヘリに乗っているようだ。
「杏さん…あとは頼みます」
「……わかった。任せて」
りくは会長にあとのことは頼むように言って電話を切った。会長も何のことを言っているかわかっているため、はぐらかさずに了承した。その電話を切る頃にはヘリは西住家の上空へと到着していた。そしてヘリを降りた会長と一緒にいた蝶野は客間に通された。
「初めまして。大洗学園で生徒会長をやっています角谷杏と申します」
「そう、あなたが…みほとりくの母の西住しほです。2人がお世話になっています」
「いえいえ、むしろこちらが助けられてばかりで……その……すぐに本題に入らせていただけますか?」
「ええ」
「実は大洗学園は廃校になることになりました。ですが、私たちは戦車道大会で優勝したら廃校撤回という言葉を信じていました。そして優勝したら口約束は約束ではないと言われました……信じていたものが最初からなかったなど納得できません。ここはプロリーグ設置委員会の委員長を務める西住流家元にも協力してもらいたく私も同行させていただきました。どうか、私たちに力を貸していただけないでしょう。お願いします!」
「家元、私からもお願いします。彼女たちは文科省の役人が言ったことを信じていました。その言葉を信じて戦った彼女たちの努力を無駄にしたくありません。お願いします」
挨拶もそこそこに本題に入り、会長がしほにも協力してほしいと頭を下げると、蝶野も一緒に頭を下げた。
「2人とも、頭を上げてください」
「「……」」
「いいでしょう。私も協力します。というより角谷さん、貴方が来て頭を下げてお願いをした時点で協力しようと決めました」
「……えっ」
「あの……家元、どうして?」
しほは会長がお願いした時点で協力しようと思ったらしい。頼んだ2人からしたらあっさり行きすぎて驚いている。
「2人が来る少し前にりくとみほが来たのよ。その時にりくに頼まれたのよ。きっと角谷さん、貴方も一緒にここに来ると思うから協力して欲しいと頼まれたわ。最初は私から協力しないかと言ったのですが貴方が来るからその時にと、だから貴方が来てお願いをしたら協力しようと思っていました」
「りくりくってば……」
「それだけ信頼されてるのね。親としても息子や娘に信頼できる人がいてくれて嬉しく思うのよ。本当にありがとう」
「私は……そんな風に言われる資格なんてないですよ……私はいくら廃校を回避するためだったとしてもりくりくと……いえ、りく君やみほさんに無理矢理戦車道を取らせたんです。だからそんな風に言ってもらう資格なんて……」
「それは2人が今でも怒ってると思って言っているのかしら?」
「……えっ?」
「たしかに最初は恨んだでしょうね。特にみほはもう戦車道をやりたくないと思って戦車道のなかった大洗学園に転校したのだから」
「……」
「でも2人が戦車道で笑顔になることはだんだんなくなっていっていたのよ。それを取り戻したのは貴方たち大洗学園のおかげ。最初は恨んだとしても今は感謝しているのではないかしら?」
「そう……でしょうか……」
「このことは私から口出しはしないことにします。ですが、貴方は望んでないとしても親として言わせていただきます。私の息子と娘に笑顔を取り戻してくれて本当にありがとう。大洗の廃校撤回のため、私も協力させていただくわよ」
「っ……ありがとう……ございます」
しほが会長がお願いしたら協力しようと思っていたのはりくに頼まれていたからである。りくが信頼している会長が来ればすぐにでも協力しようと思っていたに違いない。会長はしほに自分は信頼されるような人ではないと思っているが、そんなことはないということをしほは告げ、そして廃校撤回の協力をするということを伝えた。
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「着いたぞ」
「ありがとうお姉ちゃん」
「ありがとな姉ちゃん」
実家での話を終えたりく達は姉のまほに駅まで戦車で送ってもらっていた。駅に着くと見慣れた2人が待っていた。
「お疲れ様です隊長」
「こんにちは隊長、みほさん、りく君」
「エリカ!?」
「小梅さんも!?」
「私がお前たちが戻ってくると声をかけておいた」
駅で待っていた2人はエリカと小梅だった。どうやらまほが声をかけていたらしい。それを聞いた2人はりく達に会いたいのか駅まで来ていたのだ。
「もう帰るのね?」
「ああ、今回は転校手続きの書類にサインしてもらうために来ただけだったからな」
「「えっ!?」」
「今度はゆっくりできる時に来るよ。私たちの友達も連れてね」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!転校手続きってどういうことよ!?」
「みほさんたちまた転校を!?」
「「……あっ」」
2人はりくとみほが来ていることを聞いていても目的までは聞いていなかった。そのためか、転校手続きということを聞いて驚いている。
「廃校の噂は聞いてたけど優勝したらその話は無くなるんじゃないの!?」
「どっからその噂を……俺らもそう信じてたんだけどな……」
「会長から聞いた話だとそれは確約じゃなかったんだって…」
「そんな…」
「酷い…」
「でもまだ決まってないさ。うちの会長が動いてる。一応書類のサインはもらったけど無駄になるかもな」
「そう……」
「りく君、みほさん、私たちに協力できることがあったら何でも言ってくださいね」
「小梅さん……ありがとう」
「あんた達を倒すのは私たちなんだから、無くなられても困るのよ」
「それに好きな人のために動きたいっていうのもあるよ」
「そうね…」
エリカたちも大洗が廃校になる可能性については知っていたようだ。どこから噂が広まったか知らないが……それでも優勝したら廃校の話ら無くなると思っていたらしい。だがりくは書類は無駄になるかもと思っている。それでも何があるかわからない、エリカも小梅も何かあれば協力してくれるらしい。
ちなみに……好きな人のために動きたいという小梅の言葉にエリカも同意すると
「「「「エリカ(さん)が素直!?」」」」
「どういう意味よ!?」
他の4人は驚いていた。その後少しの間エリカたちと話した後りくとみほは大洗の戦車道受講者が今過ごしている場所へと戻っていった。
会長はしほや蝶野、そして戦車道連盟の理事長と一緒に文科省の役人の元へ向かっていたのだった。
次回できれば試合前までは書きたいですね。