つらかった。
学校が、家族が、友達付き合いが。
ずっと我慢してきた。
周りが頑張っているなら、自分も頑張らなくちゃって。
そうして、自分を圧し殺してきた。
「けど……もう駄目だ」
だが、それも限界だった。
「死のう」
私は弾けた。
ーーーーー
次に気がついた時、私は暗い暗い空間を漂っていた。
……ね………………き………………さい…………。
遠くから声が聞こえる。
初めは何をいっているのかわからなかったが。徐々にはっきりと聞こえるようになっていく。
ねえ…………なさいよ…………。
若く、おそらく歳が近い少女の声だ。
はて?私の知り合いにこんな声をもつ人がいただろうか。
すると、私の体を上へと持ち上げられるような感覚が襲い、意識が覚醒する。
「あ、やっと起きたわね。何度声をかけても返事がないから妖怪に喰われちゃったのかと思ったじゃない」
目を覚ますのと同時に巫女風の少女から物騒なセリフが聞こえた。
「妖怪?えっと……ここは?」
「ここは神社の側にある森よ、貴方は見たところ外の世界から来たようね。歓迎はしないけど一様言っておくわ……ようこそ幻想郷へ」
…………?ちょっと処理が追い付かない。え?外の世界ってなに?幻想郷?なにそれ?……。
頭の中に疑問符が沢山沸いてくる。そもそも私はなんでこんなところに?
突然のことに少々あたふたしていると巫女?に腕を引っ張られた
「ほら、早いとこ神社に行くわよ。こんなところで人間が寝転がっていたら半刻もしないうちに御陀仏なんだから」
まだ頭が追い付いていないが巫女?と共に神社に向かうことになった。
「そういえば貴方名前は?私のことは霊夢でいいわ」
獣道のようなところを歩きながら彼女は霊夢と名乗った。
霊夢か、変わった名前……キラキラネームというかなんというか
「……私は…………あれ?」
自分の名を名乗ろうとして、そこでつまる。
なんだろう、名前が思い出せない。それ以外のことは思い出せるのだが名前を思い出そうとするとそこだけモヤがかかる感じ。
「どうしたの、まさか思い出せないとか?」
動揺してることで察したのか霊夢が声をかけてくる。
「うん、名前だけモヤがかかったように思い出せない」
そんな大層な名前でもなかったので別に構わないといえばそうなのだが、いかんせん不便である。
「名前が思い出せない……まさか紫の仕業じゃないでしょうね…………」
隣で何かぶつぶつと呟いているが、小さくてよく聞こえない。
にしても昔から忘れっぽいとよく言われたがまさか名前まで忘れたか。
霊夢は名乗ったのに自分が名乗れないってのはもどかしい、なんとかできないものか……そうだ。
「ねえ、一時的なものでもいいから名前をつけてくれない?名無しってのは不便だし」
名前がないならつけてもらえばいいじゃない。
名案とばかりにそう提案してみるが、霊夢は頭に手をあてなにかを悩んでいるようだ
「うーん、それだと貴方が向こうに帰れなくなるわよ」
……?
「……どゆこと?」
意味がわからない。
「簡単に説明すると名前ってのはその地に存在するための杭みたいなものなのよ。それで今貴方は名前を失っているからとても不安定な状態、そこに私がこの幻想郷での杭を打っちゃうと貴方が元の名前を思い出さない限り帰れないってわけ」
なるほど、つまり向こうに帰りたいなら名無しのままでいろってことか。
それなら都合がいい。私はもう向こうにいたくないのだ。
「構わない、名前をつけてほしい」
そういうと霊夢が驚いたように軽く目を見開いた。そりゃそうだろう、帰らないといっているようなものなのだから。
「貴方私の話聞いてた?向こうに帰れなくなるのよ?」
「いいよ、そもそも向こうでの居場所なんてないし。だったら此処に住む」
いてもいなくても変わらないならいなくなっちゃってもいいじゃないか。あんなとこ。
はっきりそういうと霊夢はまた頭に手をあて軽く唸り出した。
たっぷり悩み神社の鳥居らしきものが見えてきたあたりで霊夢は顔をあげた。
「……わかったわ、貴方の幻想郷への移住を認めてあげる…………で、名前を決めて欲しいんだったわよね」
コクリと頷く。なんとなくだが名前は他人につけてもらった方がいい気がするのだ。
「名付けなんてしたことないから変な名前になっても知らないわよ」
そういうと霊夢はこちらをまじまじと観察し始めた。容姿からとるのだろうか。
「うーん、にしても貴方ってなんか匂うのよね、霊力を感じるから人間なんだろうけど少ないながらも妖力を感じる……もしかして貴方半人半妖だったりする?」
クンクンと匂いを嗅がれたかと思いきやなんかよくわからないことを言い出した霊夢。
その妖力とやらは臭うんだろうか。
「オタクだとか変人だとはよく言われたけどそのはんじん?なんたらは言われたことないね」
あまりいい人生を送ってきたとはいえないがさすがに人外呼ばわりはされなかったなあ。
「じゃあ別の要因か……っと今は名前ね…………うん、決めた。紗由理……貴方はこれから紗由理よ」
今ここに私が産まれた。
「紗由理……うん、いい名前。ありがとうございます」
「いいわよ別に…それよりお昼にしましょう。紗由理の今後も考えないといけないし」
そういいながら屋内へ行くべく霊夢が襖を開けると金髪の子がお茶を啜っていた。
横には三角帽子が置かれており、いかにも魔法使いと思わせる格好だった。
「よっ霊夢、お邪魔させてもらってるぜ……その隣にいるのは妖怪か?」
開口一番に妖怪呼ばわりとは、ここは修羅の国か。
霊夢も妖怪がうんたらとか言っていたし、ここではそれが常識なのか?
「多分人間よ、外からきたね。名前は紗由理。それとあんたを招いたつもりはないんだけど」
霊夢あなたもか。だから多分てなによ。
「多分って……私はれっきとした人間ですよ」
正直自分でもよくわからないけど。自分が一般人ではないのは自覚してるし。
「そうか?にしてはお前から魔力を感じるが……私の鼻が鈍ったのか?」
妖力の次は魔力か、これまたファンタジーな名前が飛び出てきたね。
「そんなことよりお昼にするわよ、魔理紗も手伝いなさい」
「へーい」
「私も手伝いますよ」
一人だけ座っているのは悪いので手伝おうとするが霊夢に止められた。
「あんたはそこにいなさい、さっきまで意識なかったんだから。それに三人も台所に入らないわよ」
そこまでいわれては大人しくしているしかない。
私は観念して魔理紗と呼ばれてた子の座っていたところに腰を下ろした。