東方人の生   作:喜求

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夏祭り

 紅霧異変から約1ヶ月、やっと新居に移り住んだ。

 

 新居と言っても魔法の森近くに打ち捨てられていた小屋を修繕しただけなのだが。

 

 ……新居?

 

 まあ気にすることないか。そんなことより…。

 

「暑い……」

 

 

 幻想郷は夏だった。

 

 

 

 

 

「溶ける~」

 

 魔法の森近くなだけあってここは木が多い、そして蝉の音と量がやばい。

 時折セミじゃない鳴き声もするし…。

 

 エアコンが欲しいです。

 

 夢の一人暮らしなのはいいんだけどそれにしたってどうよ。

 

 パチュリーの所に行こうかな…あそこ魔法で涼しいし。

 

 私も家を涼しくしたいけどまだ習得に時間がかかりそう。

 

 

「よ、紗由理。遊びに来てやったぜ」

 

 派手な着地音と共にドアを開けたのは金髪の自称普通の魔法使い。

 

「あー魔理紗、いらっしゃーい」

 

 机に突っ伏しながら気だるげに迎える。

 

「なんだよ、この暑さでへばっちまったか?」

「仰るとおりでーす」

 

 

 もう動けましぇん。

 

「なにかこの暑さを和らげるものなーい?」

「あるぜ、今日人里で夏祭りがあるんだ、紗由理も一緒にいかないか?」

「行きます」

 

 

 私は即答した。

 

 

 

 

 

 ーーーー

 

 

 

 

「それじゃあ後でなー!」

 

 

 そう言い残し箒に乗って飛び立っていく魔理紗。

 

「元気だなぁ……っとと、こうしちゃいられない」

 

 魔理紗は夕方頃に始まると言っていた、現在お昼手前。そんなに時間は無い。

 

「えーっと、まず日課を終わらせるか」

 

 私が強くなるために自身に課した修行。

 体術と妖力魔力におまけで霊力、これを毎日決まったメニューこなすのだ。

 

 体術と妖力は朝に終わらせたからあとは魔力と霊力だ。

 

 

 霊力といっても教わることの出来る人間が感覚派のせいで全く進まないんだけどね。最近ようやく霊力を感じれるようになったところ。

 

「さて…始めますか」

 

 パチュリーから借りた魔導書を開き、練習すべき項目を一つ一つこなしていく。

 

 どれも凄く地味だけど魔力の扱いを上手くなるには必要な工程らしいのでコツコツ進めていく。

 

 

 魔術に触れてみてわかったのだが、魔法というのは不思議力で好き勝手出来る代物では無いということだ。

 

 私はつみ木という表現がしっくり来るのだが、様々なパーツを組み立てて形である魔法を作るので構成の仕方が違っていても形さえ同じならばそれは同じ魔法になるということ。

 

 なので二人が同じ魔法を作ったとしても、その中身は全然違うなんてこともあり得る。

 

 科学でも同じことが言えると思う。ライターで火を着けるのも火打ち石で火を付けるのも同じ着火なのに効率と工程がまるで違う。

 

 それと魔法にも相性があるらしく、その人に合った魔法を使わないと効率が悪くなったり最悪使い物にならなくなるという。

 だから私が魔理紗に教えて貰った飛翔や弾幕を使うときは魔力の消費が激しかったのだとか。

 

 今後私に合った術式を組んで、魔力だけで弾幕ごっこが出来るようにするのが課題だ。

 

 

「ふう、魔力の修行終わりっと」

 

 そんなことを考えていたら今日の分は終わってしまった、次は霊力か。

 

「といっても…ねえ」

 

 師匠である霊夢に聞いても勘としか答えを貰っていないので修行の仕方がわからない。

 

 その状況で霊力を認識出来るようになった私って実はすごいんじゃなかろうか。

 

「とりあえず霊力を練る練習しますか」

 

 当分このメニューからは変わりそうもない。

 

 魔力や妖力は数十分掛けたのに霊力は5分で終わってしまう。だからおまけなんだけども。

 

 

「今日のメニューおしまい!」

 

 

 なんであれ今日の修行は終わった、早速準備と参ろう。

 

「折角なら浴衣着たいよねー」

 

 そう思いタンスを漁るも、そんな大層なものは持ち合わせていない。

 

 基本的には幻想郷に来た頃の服装に、魔理紗が何処からともなく持ってきた外の世界の服を着ているだけだ。

 

「浴衣……買いますか」

 

 

 最近始めた妖怪退治のお陰で少量ながらも収益はある、大分使うだろうが必要経費ってことで。

 

 あ、お祭り用のお金は残しとかないと。

 

「それじゃあ出発!」

 

 戸締まりをしっかりして、家を出る。

 

 …こんなところに人が来るとは思えないけど。まあ気持ちの問題だ。

 

 さーて、気に入る浴衣はあるかな。

 

 いつの間にか暑さを忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーー

 

 

 

 

「お待たせ魔理紗」

「お、紗由理は浴衣か」

 

 時は夕方、待ち合わせ場所である人里の入り口にて先に待っていた魔理紗と合流する。

 

 

「うん、さっき買ってきたんだ。夏祭りっていったら浴衣かなって」

「似合ってるぜ」

「ありがとう」

 

 今の私は水色をベースにした花柄の浴衣に薄い黄色の帯をして、普段はそのままの鎖骨ほどまである髪を後ろで束ねている。

 

「早速行こうぜ」

「うん」

 

 私達は既にお祭り騒ぎの人里へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

「人が多いねー」

「見失わないよう注意しないとな」

 

 沢山の屋台とそれに集まる人だかり、それと食べ物のいい匂いが辺りに立ち込める。

 

「色々あるね」

「里中が祭り会場なんだ、少ないわけないぜ」

 

 見渡せばりんご飴や金魚すくい、焼きそばに焼き鳥など一通りの屋台が列を為している。

 

 あ、お面屋さんだ。狐とか天狗のお面があるけど、幻想郷には本物が居そうだ。

 

「おじさん、りんご飴頂戴!」

「あいよ、そこの嬢ちゃんも買ってくか?」

「お願いするぜ」

 

 前から食べてみたかったりんご飴を購入。ちっちゃくてかわいいなぁ。

 

 

 りんご飴を食べながら歩くこと数分、慧音と遭遇した。

 

「紗由理に魔理紗じゃないか、どうだ祭りは楽しんでるか?」

「もちろん、慧音は見回り?」

「ああ、あってほしくはないが祭りの時は少なからず悪事を働くのがいるんだ」

 

 

 この人は会うたびに人里の為に行動している、ちゃんと休憩は取ってるのかな。

 

「心配せずともちゃんと休んでいるよ、あとで別の者に交代してから私も祭りに参加するつもりさ」

 

 

 慧音は心が読めるのか。

 

 だけど安心した、ちゃんと休憩はしてたんだね。

 

「それならよかった」

「全くだぜ。教師が倒れちゃ世話ないからな」

 

「そういうことだ。じゃあなお前たち、くれぐれも不祥事を起こさないように」

 

 とくに魔理紗はな、と付け加えて私達の通ってきた方へと向かっていった。

 

「慧音のやつ、まるで私が盗みを働くみたいな言いぐさじゃないか」

「その通りですよ、パチュリーの所に行って魔導書を盗んでるの知ってるんですからね」

「あれは借りているだけで盗んでないからノーカンだぜ」

 

 それを人は借りパクという。

 

「パチュリー困ってたよ?取り返しに行くのが面倒だって」

「運動不足のあいつに外に出る機会を作ってやってるんだ、感謝してもらいたいぜ」

 

 凄い自分に対する正当化が強い。いや知ってたけどさ。

 

「ちゃんと返すんだよ?」

「わかってるぜ、そのうちな」

 

 ……まあいいや。

 

 

「あれ、あんたたちこんなところで何してるの?」

 

 

 魔理紗の説得に諦めていると、今度は霊夢と遭遇した。

 

「なにって祭りだよ、霊夢も遊びに来たんじゃないのか?」

「見回りよ、祭りなんかでは妖怪が人間に混じってよく悪さをするの」

 

「へー」

 

 そういえば辺りに霊力に混じって妖力を感じる。数は少ないし、その主を見るとちゃんと人の形をしてた……あ、会釈された。完全に仲間だと思われてるなこれ。

 

「あんたらもせいぜい化かされないように気を付けなさいよ……ん、それじゃあ」

 

 なにかを察知したのか足早に飛んでいく霊夢。

 

 しばらくすると明らかに人間じゃないモノの悲鳴が聞こえた。

 

 

「大変そうだね」

「ま、あいつに任せておけば問題ないだろ」

 

 うん、とても納得がいく。

 

「さて、次は何食べるか」

「焼き鳥食べたい!」

 

 

 なんにせよ祭りは始まったばかり、もっと見て回らないと。

 

 

 焼き鳥焼きそばに氷菓子、一通りの屋台を制覇していく。

 

 

「ふう、結構食べたな」

「うん、もう入らないや」

 

 すっかり日も落ち月と星空が顔を出す。

 現在ペットボトル代わりの竹筒を片手にこれから始まる花火を見るため川縁に座って休憩中。

 

「こんにちは、紗由理」

「紫?」

 

 ふと後ろを向くと扇子を構えた浴衣姿の紫がいた。

 

 金髪に浴衣だけど、とても似合っているのがなんとなく腹立つ。

 

 

「お久しぶりね、元気そうで何よりだわ」

「お久しぶり、紫もその様子だと大丈夫そうだね」

「私は妖怪ですもの、風邪なんかにはかかりませんわ」

 

 へー、妖怪って風邪引かないんだ。

 

「なんだ、またお話か?」

「そんなところね、あとお祭りを楽しみに」

 

 この人胡散臭さが滲み出てるから信用ならないけど、聞き出すこともできなさそうだから諦めよう。

 

「出来れば二人きりが良いのだけど……」

「無理だな、信用が出来ない」

 

 まあ、そうなる。

 

「はあ……仕方ないわね。紗由理、貴方に頼みたいことがあるのよ」

「はい?」

 

 意外だ、大妖怪ともあろう紫が私に依頼だなんて。

 

「もちろん、受けるのは貴方の自由だしそれなりの報酬も用意してある。どう?」

「とりあえず内容を聞かせて」

 

「早い話が妖怪退治ね、大丈夫。大した相手ではないわ」

 

 なら貴方が行けば良いのでは……。

 

 そんな眼差しを送ってやると。

 

「私はそういうことにはあまり関わらないようにしてますの」

「にしてもなんで紗由理なんだ?妖怪退治なら私に依頼してもいいだろ」

 

 それもそうだ、なにも私にだけ依頼することはないはずだ。

 

「いいえ、貴方ではダメ。これは紗由理への修行なの」

「修行?」

「そう、こちらに来てから少し経って妖怪退治が出来るようになったでしょう?私は紗由理がどこまで戦えるのかを知りたいのよ」

 

 もちろん弾幕ごっこでね。と付け加える紫。

 

「……報酬は?」

 

 紫の目的はそれだけじゃないだろうけど、ただの妖怪退治なら私にだって出来る。

 断ってもいいんだろうけど、まずは報酬を聞いておこう。

 

「霊力の使い方……でどうかしら?」

 

 

 ……いったいどこまで知ってるのやら。

 現状霊力については手詰まりな私に取って興味をそそる報酬だ。

 

 

「……わかりました、受けますよ」

 

 

 悪魔に魂を売ろう…いや妖怪だけど。

 

「良い返事が聞けて嬉しいわ、それじゃあ明日の朝にお迎えに向かうわね」

 

 そう言うと紫はあの変な空間を出現させその中に消えてった。

 

 

「いいのか?あんなやつの依頼を受けちまって」

「霊力の使い方は習いたかったし、本人曰く弾幕ごっこらしいから多分安全でしょ」

 

 

 私にとって脅威なのは弾幕ごっこが出来ないほど知能の少ない妖怪だ。

 

 あいつら本気で殺しにかかってくるから嫌い。知能が低いだけあって弱いんだけど、それでも奇声を発しながら爪かなんかを振り回して来たときはちょっと怖かった。

 

 でもそれも霊力の使い方さえ解れば解決するのだ、霊夢みたいに御札をぺって投げて終了。威力を上げた弾幕でぺちぺちして攻撃手段を剥いでからファルシオンで両断する必要もなし。

 

 その点弾幕ごっこなら安全がある程度保証されているし、なにより楽しめる。

 

「とりあえず頑張ってみるよ」

「程々にしろよ、危なかったら私達を頼っていいんだからな」

 

「うん、危なそうだったら引き上げるよ」

 

 

 こういう信頼関係って、なんかこそばゆい。

 

 

 

 ……と、空から急に派手な音が鳴り響く。

 花火大会が始まったのだ。

 

「お、始まったみたいだな。とにかく今日は祭りなんだ、今はそれを楽しもうぜ」

「そうだね」

 

 明日のことは明日考えればいい。

 

 これが許されるのは、多分ここだけだろう。外の世界じゃ考えられないことだ。

 

 

 

 ……ああ、毎日を生きてるって感じがするなあ。

 

 

 

 

 

 

 そんなことを考えながら、私のスペルカードでもある花火を眺めていた。




修正:紫に対する紗由理の口調
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