東方人の生   作:喜求

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特訓

 

「うーん……」

 

 

 暖かい日差しと体の圧迫感で目が覚める。

 

 

「ん……んん?」

 

 

 視線を体に向けると、まあるい何かが乗っかっている。

 私が顔を上げたことで気がついたのかモゾモゾと動き始めた。

 

「むにゃ?」

 

 猫耳のついた幼女がこちらを覗きこんだ。

 

「「………」」

 

 

 しばらくの硬直、そしてこの子可愛いなとの考えが浮かぶ。

 

 

 ……違うそうじゃない。

 

「…!ど、どちら様?」

「…!そっちこそ私の寝床に何のようだ!」

 

 ?ここは私の家のはずだ、だって見慣れた布団に見慣れた天井、見慣れた壁…間違いない。

 

 

「ここは私の家だよ、周りを見てみなさいな」

 

 言われてから猫っ子がキョロキョロと辺りを見渡す。

 

「ほ、本当だ!なんで私がこんな所に……?」

「しらないよ、とりあえずどいて……重い」

「あ、ごめん」

 

 

 降りてくれた……あ、尻尾生えてる。2本あるけど。

 やっぱり妖怪なのか、こんなに可愛いのに。

 いや、妖怪だから人に近い見た目なのかな?

 

「ふう……それで、貴方はどこの誰さんですか?」

 

「私は「どうもーさゆりちゃん」」

 

 猫っ子の言葉を遮って現れたのは言うまでもなく紫さん。今日はワンピースなのか。

 

「紫様!」

「様?……ていうか紫、屋内で傘差すのはやめて」

 

 

 なんかもう、胃が痛い。

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ紹介するわね、この子が橙。うちの式神の式神よ」

 

 仕切り直して猫っ子の紹介をする紫。式神とはなんだろうか。

 

 ていうか身内だったのね。

 

 

「それはわかったけど、なんでここに居るのよ」

「今日の討伐目標よ」

 

「へ?」

 

 

 こんな可愛いのを?というか身内では。

 

 

「昨日言ったようにこれは貴方の修行でもあるけど、この子の修行でもあるの。最近藍が…私の式神ね、この子を迎え入れたのだけどまだまだ未熟だから」

「はあ、経緯はなんとなくわかった。それで橙ちゃんと弾幕勝負すればいいんだよね?」

「そうそう、場所はこっちで用意してあるから」

 

 紫が手を振り上げると私達の下にあの気持ち悪い空間が開いた。

 そして体重の行き場を失った体はそのまま地面を求めて下降を始めた。

 

「ちょ!ひぃぃ!!」

「ふふふ」

 

 紫の笑い声がこだまする空間にて私は密かに復習を誓うのでした。

 

 

 

 

 

 

 ーーーー

 

 

 

 

「ったくもう!」

 

 地面ギリギリで飛翔を発動し、最悪の事態は免れる。

 

 まったく……こっちの配慮が足りてないんじゃない?

 

「ていうかここどこ?」

 

 辺りは草原?いや、言うほどでもないか。ちょっと開けた草地かな。

 

 あ、人里が見える。結構高い位置にあるみたい。

 

 

 橙ちゃんはー……いた、頭から落ちたのか押さえてうずくまってる。

 

 

「大丈夫?」

「だ、大丈夫……こんなのいつもの修行に比べたら……」

 

 

 普段なにしてるのよ。頭打つより痛いって結構なことだよ。

 

 あ、立ち上がった。耐久力は妖怪そのままか。

 

 

「それじゃあ弾幕ごっこって話だけどルールはどうする?」

「普通ので」

「はいよー」

 

 

 軽く準備体操しておく、寝起きに運動って健康悪そう。

 

 

「さて、始めますか」

 

「うん……藍様の式神、化猫橙」

 

 姿勢を正し手を揃える橙ちゃん、名乗るのが礼儀なのかな。ならばこちらもそれに習おう。

 

「いたって普通の外来人、紗由理」

 

 

 

「「よろしくお願いします」」

 

 

 手を合わせ、3秒ほど頭を下げた後直ぐ様飛翔。

 

 ある程度距離を取ったらまず魔力と妖力の両方で弾幕を放ってみる……うん、問題なさそうだ。

 

 向こうも距離を開けているので早めの弾幕を放ち牽制しつつ、こちらのスペカが有効な距離まで近づ……橙ちゃんの動きが速すぎて牽制になってないやこれ。

 

 

「速いなあ」

 

 縦横無尽に飛んで跳ねてを繰り返す橙ちゃん。この距離だと当てられる気がしない。

 動物から変化した妖怪……所謂妖獣は、その元となった動物の速度に比例して速い事が多く橙ちゃんは猫から変化した妖怪だろうから、機動力がとても高い。

 

 

 うわこっちきた!

 

「あっ……ぶない!」

 

 

 私から10mほどまで近づき放たれた弾幕が頬を掠める。

 

 ……これは早急に手を打たないと厳しいかも。

 

 

「それなら!花符『些細なペンタス』!!」

 

 ピンク色の花を模した弾幕をばらまき、そこから5枚の花弁に散開させる。

 

 

「ふにゃ!」

 

 しかもただ散開させるだけでなく、この花弁は目標に追尾するのだ。

 まだそんなに離れていなかった事もあり、被弾をもぎ取る。

 

 妖力は感覚でなんとかなるとは慧音先生からの教えだ。

 あの人からそんな言葉が出るとは思わなかったが、それもあながち間違いではなさそう。

 

 実際なんとなくでファルシオン出来たし。

 

 しかし何となくでやるとこのスペカに欠点が出てくる。

 

 視界……というか意識から外すと追尾しなくなることがあるのだ。

 

 

「ま、要修正ってことで」

 

 今度パチュリーから本格的な誘導方法でも聞いて魔力への置き換えでもしよう。

 

 とりあえず一つは取ったし、出だしは順調っと。

 

 

「うぅ……やってくれたわね!仙符『鳳凰卵』!!」

 

 

 橙ちゃんの周りに魔方陣がいくつか現れ、楔型の弾幕が円形に放たれた。

 

 円形は回転しながら開き、多少ばらつきながらこちらに飛来する。

 

 

 うう、まだ体が本調子じゃないなー……なんで朝にこんなことやらせるんだ紫は。

 

 

 目前まで迫った弾幕を回避し、反撃としていくらか返すがあっさり避けられてしまう。

 

 

「当たらないなぁ……」

「それはこっちの台詞!」

 

 

 怒られちゃった、まあ向こうはスペカ使ってるしね。

 

 今のやり取りで橙ちゃんの弾幕が激しくなるが、さっきの被弾で距離を詰めるのを警戒してるのか危ないという程でもない。

 

 

「今度は私がいくよ!人符『幻想花火』」

 

 カードを掲げ、お気に入りのスペルを発動。花火大会の始まりだ。

 

 

「ッ!……っと、なかなか綺麗じゃない!」

 

 

 一発目の花火をすんでのところで回避した橙ちゃんが感想を述べる。

 

 

「お褒めに預かり至極光栄…ってね」

 

 スペルカードは自分の象徴、それが綺麗だと言われるのは嬉しいものだ。

 

「さ、まだまだいくよ!」

 

 

 昨日見た花火のように、派手に美しく打ち上げる。

 夜にやったならもっと綺麗だろうけど、それはまたの機会だ。

 

 一つ、また一つと花火を増やし、橙ちゃんを着々と追い込む。

 

 橙ちゃんは動きが早いけど、それでもこの量の弾幕なら逃げられる前に動きを抑えられる。

 

 

 

 

 

 そして、追い詰めたと思ったところで向こうが動いた。

 

「式符『飛翔晴明』!!」

 

 

 橙ちゃんが高速で星を描き、その先端から円錐形と球状形の弾幕を出してきた。まるで星がそのまま弾幕として広がってるようだ。

 

 

 ……うへぇ、密度が濃い。

 

 

 スペカの中断を余儀なくされ、右へ左へ上へとできる限り最小の動きで避ける。

 こうしたほうが体への負担が少なく、次の動きに余裕が出来るからだ。

 

 すぐそばを弾幕が通りすぎるのはなかなか恐いけど、これは慣れるしかないかな。

 

 

「これでどうだ!」

 

 

 先のを二週、三週と繰り返す。

 

 

 …そして私の側を弾幕が通過する度にこう……キュッてなる。

 耐えるんだ私…当たらなければどうということはない!

 

 

 内心叫びながらも、私は飛来する弾幕を避け続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 ーーーー

 

 

 

「なかなか頑張るじゃない」

 

 

 二人の弾幕ごっこをスキマ経由で覗く紫。

 

 

「まだ修行の身とはいえ、橙を相手にあそこまで優勢なのは流石としか言いようがありません」

 

 

 同じく隣で称賛を述べるのは、紫の最高傑作にしてその従者。八雲の姓を与えた藍だ。

 

 

「人間はこれだから侮れないのよねぇ……稀にああいうのが出てくるから」

 

 

 外来人がおよそ3ヶ月で、外では信じられてない魔法を使い空を飛び、妖術を使い弾幕ごっこを可能にした。

 信じる力とはこの幻想郷において物理的なものとなり影響を与える。

 神や妖怪がまさにそうだ。信仰心がそのまま神の力となり、人の畏れが妖怪の力に直結する。

 

 実際は個々の性質やらその他要因で多少の変動があるもののおおよそはそれに当てはまり、信じる事が出来なければ魔法等を扱えない。

 紗由理はそれをやってのけたのだ。

 

 

「しかし、よろしかったのですか?博麗の巫女ではない外来人を幻想郷に定住させても」

 

 彼女は外の知識をここへ持ち込むことによる里の飛躍的な発展…これを恐れているのだ。

 

 それを容認してしまえば最後、幻想郷は外の世界と同じ末路をたどり消えてしまうだろう。妖怪という脅威を取り除くため徹底的に意識から排し、畏れという糧を受けられなくすることで。

 

 それはここの管理者として、避けねばならない事態でもある。

 

 

「幻想郷は全てを受け入れるのよ。それに、あの子はそんな事しないわ」

 

 だがその心配は無用だ。

 その最悪の事態が起こるようであれば消せばよい話だし、そもそもそうならないように育てているのだから。

 

 やるからには1から10まで対策を講じ、その上で実行する。

 それが八雲のやり方だった。

 

 

「左様ですか」

 

 

 主への質疑を終わらせ、観戦へと戻る従者。

 

 

「それに…あの子の弾幕はとても綺麗ですもの、消すなんて勿体無いわ」

 

 

 尤も、大分個人的な考えでこの状況を作ったのは最早言うまでもない。

 

 

 

 

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