季節は流れ、炬燵とみかんから離れたくない時期。
今年は冬明けが遅いのか桜がもう咲いてもおかしくないのに雪が降り止む気配もなし。
あ~、お茶が美味しい。
「今日も雪か、外出するのも気が引けるなー」
雪といっても吹雪いている訳ではなく、小雪程度。
それでも外出の気が失せるのには十分だった。
「こんな日は家で大人しく修行をするに限る!」っとは思うんだが、そんな日がずーっと続けばそのうち飽きてしまう。
現に今日の鍛練も終えて、こうしてお茶を飲んで暇をつぶしているのだ。
「異変かなんか来ないかなー」
この時期は基本的に冬妖怪位しか活動しないし、畑にも大して作物があるわけではないので人里から妖怪退治の依頼も少ない。人も家に籠るから襲われることも少ない。
それでも里の外に出る者はいるので、その護衛だとかが今の主な仕事だ。
「魔理紗の家にでも行こうかな」
魔理紗の家である霧雨魔法店は魔法の森と呼ばれる瘴気の漂う普通の人間では数時間ともたない環境に住んでいる。
瘴気は主に化けキノコの胞子で、幻覚作用が強いんだとか。
魔理紗は体を保護する魔法を使っているようで、そこに長期間滞在できるのだ。
私もパチュリーに習った魔法の知識を活かし、最近やっとガスマスクモドキなる魔法を身に付けたので住もうと思えば住める。
あの森は妖怪も避けるらしく、かつ魔力を高める効果があるみたいで瘴気さえどうにかなるなら魔法使いにとって文句のない良立地…と魔理紗は力説していたけど、ジメジメしてるし暗いしで正直住む気にはならない。
「あ、先に本を返しに行かないと」
パチュリーから借りている魔導書、昨日読み終えて他の本とまとめて返そうと思ってたんだ。
「んじゃパチュリーの所に行ってから魔理紗の家かな」
まだ日はあるので問題ないだろう。寒いから外に出たくないけど、引きこもりすぎてそろそろもやしにでもなってしまいそうだ。
私はいそいそと身支度を始めた。
ーーーー
「こんにちは、美鈴」
「こんにちは、紗由理さん」
門番である美鈴に挨拶したあと、館に入れてもらう。
この館の面積の半分近くが廊下ではないかと疑う程にここの廊下は広く複雑だ。
明らかに外から見た面積を越えているが、咲夜が能力で広げているんだとかなんとか。
お陰さまで初めは咲夜の案内がないと図書館の反対側に行ってしまったりしたものだ。
それも今では難なく大図書館たどり着けるけどね。
「さゆりおねえちゃーん!」
…っと、後ろから凄まじい速度で迫ってくる気配があったので横に回避しながら振り替える。
同時に私のいたところを高速で突っ切っていく影……あれは当たったら死ぬのではないだろうか。
「おっとと……今日もパチュリーのとこ?」
「うん、一緒にくる?」
「いく!」
ててーん、フランちゃんが仲間になった!
紅霧異変からしばらくして、フランちゃんに凄くなつかれてしまった。
会うたびに今のような挨殺がくるが、どれも回避出来ているので問題なし……のままだといいなぁ。
私の内心なんて知ったことではないフランちゃんは、楽しそうに昨日の出来事について話し始める。
ま、私が気を付けていれば良い話だよね。
それにこんな可愛いフランちゃんを叱れるものか。
道中では終始咲夜のちょっとお茶目な出来事やレミリアが外来のペットを欲しがってるなどを話してくれるので、この無駄に長い廊下も退屈はしなかった。
フランの話に一つ一つ受け答えしながら、やっと大図書館の大扉へとたどり着く。
ノックをして、なるべく静かにドアを開ける。
図書館ではお静かにってね。
「こんにちは紗由理さん」
パチュリーの所へ歩いていると本棚の上からやってきた白いシャツに黒のベストを着た赤髪の女の子声をかけられた。
この子は異変の時には合ってないのだけど、ここに通っているうちにすっかり仲良くなった小悪魔ちゃん。
この図書館の司書兼パチュリーの従者をしていて、妖精にも似て悪戯好きだったりする。
「こんにちは、パチュリーはいる?」
「はい、今日も朝から紗由理さんを待っていました」
……ん、"今日も"待っていた?
その言葉に疑問を覚えるもパチュリーのいる机は目の前なので、本人に聞くことにした。
「こんにちは、パチュリー」
「ええ、こんにちは紗由理」
会ってみれば、何時ものように日陰の魔女は本を読んでいた。
「私を待ってるって聞いたけど…あ、これ返す本」
「こぁの悪い癖よ、気にしないでいいわ」
そういうと、私の持ってきた本達を一瞥した。
「新しいのはこれ、今回は精霊魔法を中心に纏めたわ。貴方なら問題なく使えるでしょう」
そこには“精霊魔法の基礎“、“精霊魔術“、“精霊の生態“など、精霊のオンパレードだった。
「精霊魔法って、普通の魔法とどう違うの?」
「そうね、普通の魔法は術者の魔力を使い魔法を使うのに対し精霊魔法は精霊が魔力の一部を肩代わりしてくれるの。けれどその分精霊に命令を出すのは普通の魔法を習得するより難しいわ」
難しいけどエコな精霊魔法か、私は魔力の消費が結構激しいから是非とも覚えたいな。
「そもそも精霊ってなんなの?見たことないけど」
「はい、紅茶とクッキーです」
……っと、小悪魔がワゴンに二人分の紅茶と芳しい香りを放つクッキーを運んできた。
「ありがとう、こぁ」
本を閉じ、ティータイムへと入るパチュリー。
私もお礼を言い紅茶を手に取る。
ここの紅茶は上品で飲みやすく、匂いからしても茶葉が良いものだとわかる。
「精霊というのはね」
紅茶を一口啜った所でパチュリーの精霊講座が始まった。
要約すると精霊は木や土、空気中に存在していて実体を持たない妖精のようなものだという。
精霊は自分の持つ魔力属性と同じ環境を好むので、例えば火の周りには火属性の精霊が。水辺では水属性の精霊が多く生息している。
これらの属性魔力は人間が生み出すものより質がよいことや、術者の魔力をそんなに使わないので重宝されるが、その分デメリットもある。
まず精霊に起こしてもらいたい行動を伝えなければならない。
これを詠唱とするなりまた別の手段にするなりで行う訳だが、向こうは伝えれば必ず答えてくれるただの道具ではないということだ。
無礼な振る舞いをすると無視されたり最悪攻撃される。
それに伝えるというのもまた大変で、魔法が複雑になればなるほど難易度が上がる。
「ざっと言うとこんなものね、続きは精霊魔法の基礎が出来てからにしましょう」
数分程の説明を終え、従者に紅茶をもう一杯注文するパチュリー。
パチュリーの後ろにあるアンティークな時計を見れば現在2時とちょっと。
これから魔理紗の家に向かっても十分余裕はあるだろう。
「この後予定でもあるの?」
時間を気にしているのがわかったのだろうパチュリーが紅茶を片手に聞いてくる。
「うん、魔理紗の家にでも遊びに行こうかなって」
「なら私の本を返してもらうように言ってきて頂戴、持ってくだけで一向に返しにこないのよ」
そう言うパチュリーにはなんだか諦めにも似た表情が出ている。
……魔理紗はパチュリーに外に出る機会を作ってる~だとか言っていたけど、当のパチュリーが図書館から出ているのを見たことがない。
「わかった、なんなら私が持ってくるよ」
「お願いするわ、こんな寒い時期に外なんて出たくないもの」
その気持ちは解る。
「さゆりお姉ちゃんもう帰るの?」
私の帰る雰囲気に気がついたのか精霊の説明に入った辺りからウトウトしていたフランちゃんが起きた。
「うん、魔理紗の家にね」
「また来てくれる?」
「もちろん」
よくここまでなつかれたと思う。
最近じゃ姉のレミリアよりも私に会うことを優先しているとか聞いたし。
その事をレミリアはあまりよく思ってないようで、直接は言ってこないがパチュリーによく愚痴を言っている様子。それは姉として良いんだか悪いんだか。
ま、それはレミリアさんの問題だからいいか。それより魔理紗の家だ。
取り敢えず本を返させないと。
ーーーー
「なにこれ」
なんか、蠢いてる。
「珍しいな、紗由理がここに来るなんて」
突然の来訪だった為魔理紗が作業中だったわけだが……。
まず部屋が汚いのは仕方ないとして、この瓶詰めされた玉虫色の可愛くないスライムみたいなのはなんだと。
「暇だったからね……ところでこれは何?」
「それか?さっき森を散歩してたら見つけたんだ、今年は冬が長いからか変わったものをよく見かける」
「確かに冬長いよね…異変とか?」
「異変か。うーん…まだそう決めつけるには早いかもな、単に遅れてるだけかも知れないし」
まあそうだよねー。
「でもこれ以上冬が伸びるようなら気を付けないといけないかもな」
幻想郷は四季に関する存在が多い。
その中には冬眠する動物や妖怪がいて、このまま冬が続けば彼らがどうにかなってしまうかもしれない。
「だよねぇ、人里もなんだかしんみりしちゃってるし」
八百屋なんかでは目に見えて陳列してる商品が減っている。食料の総数が減少しているのと今後を見て蓄えたい人がいるのだろう。
このままでは春や夏収穫の作物等に影響が出るかもしれない。
「もう少し様子をみてから調べてみようかな」
「私もそうするぜ。今しか採れないものもあるからな」
そうこういいながらスコップを取り出す魔理紗。また何か採取に行くのだろう。
確かに魔法の触媒になる氷の鱗なんかは冬があければ採れなくなってしまうし、魔理紗は触媒を使った魔法や製薬を得意にしてるから素材が欲しいのは解るけど…研究熱心だことで。
「ああそうだ、パチュリーが本返してって言ってたよ?」
「ええー、私はこれから忙しいんだが」
「外に出るついででいいから」
ほらほらと魔理紗を促す。
こうでもしないと何だかんだと先延ばしにして返さないのだ。
自分で返してくれるようになれば……というかちゃんとパチュリーに頼んで借りていればこんなことにはならないだろうに。
「仕方ないな、じゃあついでに新しいのを借りてくるか」
「ちゃんと借りるんだよ?」
釘を5,6本刺しておき、念のため返すとこまで同行しよう。
そこまでするくらいには、魔理紗の“物を返すという行為“に信用がなかった。