内定決まった学生ってもっと楽なもんだと思ってました。
「うーん……異変、だよね」
梅雨が間近というのに未だ雪が降っている。
冬妖怪は未だ活動しているし、一度冬眠から覚めた妖怪は空を見上げて肩を落としながら巣穴へと戻っていった。
そういえばそろそろ私が幻想郷に来て1年になる。本当にあっという間だった。
自殺のつもりで山に入ったと思ったらこっちに来ていて名前をなくして…。
そこで弾幕ごっこを知って、魔理紗や霊夢達と知り合って現在まで……まるでつい昨日の出来事のようだ。
「…っとと、今は異変解決に集中しないと。この話は皆と花見をし たときまでお預け」
首を横に振り、思考を強制的にシャットアウトする。
さて、まずは情報収集と参りますか。
取り敢えず紅魔館に到着。私よりもずっと頭の切れるパチュリーなら何か気がついているだろう。
「という訳でなにか知らない?」
早速大図書館にお邪魔し、なにやら紫色したバスケットボールサイズの丸い球体を弄るパチュリーに聞いてみる。
「詳しくは知らないわ。ただ春が何者かによって奪われているのは確かよ」
春が……奪われている?
「何をいっているかわからないって顔をしているわね」
「だって春を奪うって言っても意味がわからないもん」
まず形のない季節をどうやって奪うのか、掃除機かなんかで吸いとったり出来るのかな。
「これが春、その結晶よ。首謀者はこれを集めて何かをするつもりのようね」
作業の手を止めパチュリーが取り出したのは一枚の大きな桜の花弁。
触ってみるとほんのり温かく、柔らかいのにちぎれそうもない不思議な手触りだ。
「これが……春?」
「ええ、私も始めて見たわ。恐らく異変の影響ね」
なるほど、異変だからか。何でもありだね異変って。春を形にして、それを奪うのも異変で片付くんだね。
「妖怪は凄いなぁ……」
人間とは比較にならないほどの体力、再生力。理不尽とも言える力を目の前に軽くげんなりする。
「その妖怪が起こした異変を解決するのは、人間である貴方の役目でしょう」
こちらを真っ直ぐ見つめるパチュリー。
「それは……そうだけどさ」
「なら腹を括りなさい。それとも、保護者として同伴して欲しいのかしら?」
からかうように、普段は無愛想な顔に軽い笑みを漏らす。
何気に珍しいパチュリーの笑顔。
そしてこの安い挑発だ、この図書館から滅多に出ない癖に。
「……いらない、一人で大丈夫」
「そう、ならこの春を辿っていくといいわ。その内これを集める者と出会うでしょう」
「ありがとう、そうしてみる」
さてと、久し振りの異変解決だ。今度こそ首謀者までたどり着きたい。
パチュリーから一枚の春を受け取った私は再び外へと繰り出し、妖怪の山と呼ばれる山近くを空中散歩中。
「そういえばこの山に入ったことないなぁ」
こわーい妖怪がいるから近付くなと魔理紗に言われてたし、特に用事もないから手付かずのままだ。
「ええっと、春は……」
雪が降り始めた灰色の空を手を額に持ってきて遠くを見回す。
遠くを見ても私の手に持つ桜のような物は見つからない。
「パチュリーの時みたいに誰かが持ってるのかなぁ」
確かに魔法の触媒には良さそうだし魔理紗辺りが集めてそうだけど。
「むむ、あれは……雪女?」
遠くの空に浮かぶ白い人、その周りは一段と雪が吹雪いている。
私の予想通り雪女だとすればほぼ間違いなく冬妖怪だ。そしてこの長い冬を謳歌している彼ら彼女は通常の四季妖怪よりも強い傾向にある。
あまり争いたくないが冬が長い異変に冬妖怪が絡んでない可能性の方が低いので、異変の手掛かりを持っているかもしれない以上お近づきになる必要はありそうだ。
意を決して速度を落とし警戒させないように接近すると、向こうもこちらに気がついた様子。
「くろまく~」
「くろまく?…えと、こんにちは」
ふよふよと、吹雪を伴って自身を黒幕だと言う彼女。
えぇ……いきなり黒幕来ちゃったよ。どうしよう過程とかもろもろすっ飛ばしちゃった。
「あの、貴女が黒幕でいいんですかね?」
「ええそうよ、普通の黒幕」
普通?でも吹雪操ってるようにも見えるし、黒幕で間違いないのかな。
「ええっと、じゃあ異変解決の為退治させて貰いますね。残機、カード共に3枚でどうですか?」
どちらにせよ、相手が妖怪なら弾幕勝負に持ち込んで情報を引き出そう。それなら私にも勝ち目がある。
「いいわよ、貴女が勝ったらこの吹雪を止めてあげるわ」
──寒符『リンガリングコールド』
──石符『明日は藍晶石と共に』
二つの
─強くなる。
そう決めたのは私が人里に住む事が難しいと言われたときだ。
「人里は妖怪が人を襲ってはならない場所だけど、人が妖怪を退治しても何も言われないの」
淡々と、霊夢の口から言葉が紡がれる。
「そして一般人はともかく少ないながらもいる里の退治屋に、貴女は間違いなく妖怪と認識されるでしょうね」
それは私の持つ妖力が原因だった。
現在の私は霊力や魔力より妖力の方が容量が多い。そして妖怪の中には霊力を持つ者もいることからどれだけ人間だと説得しようにも聞いてはくれないだろう。
「弱い妖怪は人に倒される……これが人の意識の根底にある限り、貴女はたまに入る程度ならまだしも目立つような行為は出来ない」
──なら、どうしたらいいの?
「妖怪の中には普通に人里を闊歩しているのもいる。それは皆里の退治屋には手の追えない連中ばかりで、そいつらはそれなりに知恵があるから里の中で変な事件も起こさない」
─つまり強くなれってこと?
「そういうこと、人里の退治屋より強いと証明できれば貴方は問題なく出入りが出来るでしょう」
それを聞いてから、日々の鍛練のメニューを組んだ。退治屋に認めてもらうために妖怪退治の依頼を受けた。
でもまだ足りない。私が人間の味方だと知ってもらうにはもっと多くの人に見てもらわないといけない。
だから私は異変解決を行う。知ってもらうために。
霊夢や魔理紗と肩を並べられるように。
気が付けば冬妖怪との弾幕ごっこも佳境に差し掛かっていた。
「貴方は吹雪がお好きかしら?」
──白符『アンデュレイションレイ』
「あんまり寒いのは好きじゃない」
──人符『幻想花火』
彼女の出す吹雪さながらの弾幕に、夏の象徴である花火を模した弾幕で答えを返す。
激しい弾幕の応酬。勝つのは……私。
スペル時間最後の特大花火の直撃を受けた彼女は軽く煙を上げながら滑落し、森へと落ちた。
「大丈夫?」
妖怪だし問題はないだろうけど、一様心配しながら彼女の墜落地点へと私も降りる。
「いっつつ……負けちゃった」
木の枝で切ったのだろう、あちらこちら服に切れ目と弾幕の被弾の際の焦げ目みたいなのがついていた。
「さて、貴方は本当に黒幕?」
出血などは見られないし特に怪我はなさそうだ。
そう判断し、自称黒幕に勝者の尋問を開始する。
弾幕ごっこで勝利したこの状況では妖怪は嘘をつきにくいことを存分に活用し、引き出せるだけ情報を出させてもらおう。
「違うわ、私はただこの長い冬を楽しんでいただけ」
……なあんだ、黒幕じゃないのか。
いや薄々わかっていたけどさ。
「じゃあ本物の黒幕についてなにか知らない?」
「そうね……春度って知ってる?」
「春度?これのこと?」
そういいつつ懐からパチュリーから貰った春を見せる。
「そうそれ、それがどうやら何者かによって集められているみたいなのよ」
そこまでは知っている、欲しいのはそのつぎだ。
「場所は?」
「……上の方、としか」
……上?
指差す先には、ただただ曇り空が広がるだけ。
本当に?という目線を送ると嘘はついてないと首を振る。
「上……っていってもなぁ」
どうしようか……取り敢えず昇ってみるか?
いや、霊夢達と合流しよう。なにか情報もってるかもしれないし。
「それじゃあ私はもう行っていい?」
「あ、うーん……いいよ」
これ以上は聞き出せないと踏んだ私は、そのまま魔理紗の家を目指すべく魔法の森へと足を向けた。
ーーーー
家に行ったものの居なかった。多分私と同じで異変解決にでも向かっているのだろう。
「うーん、この様子だと霊夢も神社に居ないだろうしなぁ」
取り敢えず魔法の森を抜けるため、適当に飛んで行く。
あの雪女を倒してから吹雪が弱まったとはいえ、まだまだ寒い。
「魔理紗達大丈夫かなぁ……」
「他人の心配をするよりまず自分からじゃない?」
後ろから突然声をかけられ、慌てて振り向く。
金髪の碧眼をした、一冊のグリモワールらしきものを抱えている人形と言われても信じてしまいそうな美人だ。
そして、その人の周りにはふよふよと彼女の後ろを飛ぶように赤と青の人形が浮いている。
「どういうこと?」
「そのまんまよ。こんな時期に外をうろつくなんて、自殺でもしたいのかしら」
「お生憎様、自殺は去年やりました」
「あら、じゃあ今私が見ているのは亡霊かしら」
「残念、歴とした人間ですよ」
要は実力を示せという解釈の下、カードを“四枚“掲げる。
その解釈は間違っていなかったようで、向こうも私と同じ枚数のカードを掲げる。
「それじゃあ、始めましょうか」
──蒼符『博愛の仏蘭西人形』
人形を操る魔法使いがスペルを開く。
弾幕が少数放たれ、しばらくするとそれが数を増やしその向きを変える。
相手にとって不足はない。
さてと、ちょっと本気を出してみますか。
真面目な戦闘シーンは次回かも。