東方人の生   作:喜求

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人形

 

 

 

 ──蒼符『博愛の仏蘭西人形』

 

 

 

 人形遣いから複数の人形が現れ一つの弾幕を放つ。放たれた弾幕は反転と共に数を増やしこちらへと迫る。

 

 人形が現れる寸前に魔力を感じたことから召喚魔法で呼び寄せたのだろう。やはり魔法使いで間違い無さそうだ。

 

 そのままだと被弾する軌道だけを探し、なるべく少ない動きで。なおかつ視線は人形遣いから離さないように。

 

 一瞬でも目を離すとその隙に距離を詰めてくるヒト達がいるから気を付けなければならない。ソースはフランちゃん。

 

 

 第一波を切り抜け。また第二、第三と反転する弾幕が迫る。

 

「いい動きね」

 

 

 そんな無表情で言われても恐いだけですよ。

 

 

 パチュリーもそうだが、捨虫の魔法を修得して寿命がなくなった魔法使いは普通の人より表情があまり変わらないようだ。

 

 このヒトもそうなのだろう。

 

 

「そりゃどーも!」

 

 

 地表まで降り、木々に隠れる。

 弾幕は魔法の森の分厚い枝や葉等で防がれ、その破砕音を響かせる。

 

 

「そろそろかな」

 

 妖力は…このあと使う予定だから温存、という訳で魔力を練り弾幕を張る用意をする。

 

 

 ……3……2……1……今!

 

 

 木葉をかき分け、一気に上昇。

 

 

 すぐに相手を捕捉、溜めていた魔力を解放。

 後ろからの強襲、避けれるかな?

 

 

 

 弾幕はしっかり人形遣いを捉え、あと少しで当たるだろう。

 

 

 

 

 

 ……そう思ってました。

 

 

「なッ!」

 

 当たる直前、盾を装備した人形がその射線上に割って入る。

 

 弾幕はその盾に防がれ。人形遣いがこちらを振り向く。

 

 

「視界から消えたらまず後ろに気を付けることよ」

 

 

 その顔にはまさしく魔女の微笑みがあった。

 

 

 

 

「その上で後ろをとるなら陽動をすることね」

 

 

 アドバイスをくれながら人形を展開し、本体と人形から弾幕を放ってくる。

 

 一対一の勝負の筈なのに、数的優位をとられてしまっている。これは不味い。

 

 

 正直この手は気が引けるが仕方がない。

 

 

 

 ──妖刀『ファルシオン』

 

 

 妖力を纏め、剣へと形作る。

 

 普段は誰かに当たっても火傷する程度の力しか込めてないが、目標は人ではないので出力を上げる。

 

 

 そして私を囲もうとしていた人形の一体に急接近し切り裂く。

 

 持っていた槍のような武器を盾にしていたが、さっきの弾幕とは比べ物にならない妖力で、人形を分断する。

 

 

「ッ!……まさか妖怪だったなんてね」

 

 

 私が妖力を使ったことで妖怪だと察したようだ。まあ人間だと言って魔法で戦っていればそんな反応になるよね。

 

 読み違えたことに軽く驚きながら人形を撤退させている。

 

 このタイミングで気が付いたということは、妖力の放つ気配……妖気に敏感という訳では無さそうだ。

 

 

 

 ……そしてそろそろこの誤解を解くのもめんどくさくなってきた。

 

「人間なんですけど……ねっ!」

 

 

 加速。

 

 

 逃げ遅れた人形を一体潰す。

 

 

 

 人形遣いから弾幕が放たれるが、この距離ならその動きを見てファルシオンで切ることが出来る。

 

 

 

「ッ!?…これならどうかしら!」

 

 

 紅符『紅毛の和蘭人形』

 

 

 主の元へと戻った人形から纏まった数の弾幕が放たれる。

 

 これではさすがに対象仕切れない。それにスペルの残り時間も心もとないし……。

 

 

 回避に専念し、それでも邪魔な奴だけ切り、隙が出来たところで自分で出せる最高速で一気に距離を詰める。

 

 まさか接近されるとは思っていなかったのだろう。驚きの表情を見せている人形遣いに、ちゃんと弾幕ごっこ用に威力を落として切りかかる。

 

 盾を持った人形が割り込もうとしたが、こちらが一瞬速く人形遣いの腕を切る。

 

 

「…ぐっ!」

 

 

 威力はちゃんと落とせていたらしく軽い切り傷程度だ、あれなら直ぐに治せるだろう。

 これでは被弾かどうか怪しいが、相手は魔法使い。人間と殆ど変わらない耐久しかないのでこれ以上は危ないだろう。

 

 

 即座に側まで来ていた人形の盾を踏み台に、距離を取る。

 

 しかしスペルカードとして放たれていた弾幕と追撃として放たれた弾幕が迫り、防ごうとするもこの距離では対象仕切れず被弾してしまう。

 

 そのまま離脱し、ファルシオンは時間切れ。

 

 

 

 これで互いに被弾1、残り残機はあと3つか。

 

 残機4は流石に多い。次からは3で挑むことにしよう。

 

 

「順調、かな」

 

 

 さて、仕切り直しだ。互いに残機3でスペルはこちらが残り3で向こうが2。優勢と言えるだろう。

 

 では今度はこちらから仕掛けるとしますか。丁度試したいスペルがあるしね。

 

 

「それ!」

 

 

 ──魔導『リフレクションレーザー』

 

 

 

 魔理紗のマスタースパークを参考にして、私の中ではじめてのレーザーを放つスペルカード。

 流石にあんな極太レーザーは撃てないが、細いものだったらそれなりの数を放てる。

 

 そこにアレンジとして、途中で相手に向け方向を変える術式を組んだ。

 

 

 ……どうやってレーザーを曲げるのか苦悩んだが、屈折点に鏡のようなものを出現させることで解決。苦労の甲斐あってなかなか良いスペルが出来た。

 

 

 

「なるほどね、でもこちらに来ることが分かっているなら対処は簡単よ」

 

 

 驚いたのは最初だけで、その後は避けるなり人形を盾にするなどされている。

 

 

 

 

 …確かに、ただ相手目掛けて飛んでいくだけのレーザーなんて避けてくださいと言っているようなものだろう。

 

 

 

「面白い発想だけど……ッぐ!?」

 

 

 

 

 油断大敵。一度躱したと思っていたレーザーが反転し、その背中にヒットする。

 

 

 これを警戒の強い初めにやってしまうと直ぐ対処されてしまうのと、自分に飛んで来る事を考え一つ二つしか使えないのが残念だが、効果はあったようだ。

 

 

「まさか、ここまでとはね……」

 

 

 

 少し侮っていたわ……と付け加える。

 

 

「さ、折り返し地点ですよ」

「そのようね、なら私も全力でいきましょう」

 

 

 

 ──闇符『霧の倫敦人形』

 

 

 

 人形が増え、主を守るように囲いを作る。

 

 そこから放たれるのは、大量の弾幕。

 

 

「ちょ、多い!」

 

 

 

 規則的に放たれるが、主が動くと人形も追従するので予測出来ない。

 反撃をしようにも、人形が邪魔して効果がない。

 

 

 

 縦に横に前に後ろに……厄介なスペルだ。

 

 

「うぐっ!……っつ」

 

 

 避けた先に来た弾幕を躱し切れず足先に被弾。

 

 

 直ぐ様体制を立て直す。まだ弾幕は止んでいない。

 

 さてどうしたものか、このままではこのスペルの内にもう一つ被弾を増やしてしまいそうだ。

 

 

 

「ならば中断させるまで!」

 

 

 ──人符『幻想花火』

 

 

 避けきれないなら、止めさせてしまえばよい。

 

 急遽打ち出した暴論を実行すべく、弾幕を込めた特大の玉を射つ。

 

 

 冬の上空で季節感のない花火大会の始まりだ。

 

 

「さ、もっと楽しもう!」

 

 

 

 私の顔は、知らず内に笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「…そういえば自己紹介をしてなかったわね。魔法使いのアリスよ、アリス・マーガトロイド」

 

 

 数分後、煤やほつれの見える服を払いつつ、そういえば名前を聞いてなかったと自己紹介をする。

 

 

「紗由理。色んな力が使えるだけの、普通の人間」

 

 

 普通の人間は妖力を使わないと思うけど。能力かしら。

 

 

「紗由理……いい名前ね」

「でしょ?友達につけてもらったの」

 

 

 自身についた煤を払いながら、名を友人につけてもらったと言う彼女。

 

 

「友達?親ではなくて?」

「そ、前の名前忘れちゃったから」

 

 

 忘れる……封印?いや、人間にそれをするメリットがない。妖精のイタズラ?しかし記憶に深く刻まれている名前を、他の記憶に影響させず忘れさせるなんて器用なことが出来るとは思えない。

 

 名を奪い新しく付けることで眷属にする術があるけれど、彼女からは悲壮さや誰かの眷属であることを匂わす行動は見受けられない。

 

 

「ふぅん……事情は聞かないけど、気に入ってるならよかったわね」

 

 

 事故でないとしたらこんなことが出来るのは強い力を持っている大妖怪クラスの化物か能力持ちのどちらか。あまり深入りはしない方が良さそうね。

 

 

「あ、途中で人形切っちゃたのごめんね」

「いいわよ。覚悟の上だったし、まさか真っ二つにされるとは思わなかったけどね」

 

 

 一様切られてしまった人形達は回収しているが、直した場合新しいパーツの方が多くなるだろう。

 

 

 ……今度防刃仕様の子でも作ってみようかしら。

 

 

「そうだ。アリスさん、この異変についてなにか知りませんか?」

「アリスでいいわよ…異変というのは春が奪われていることかしら?」

 

 

 そうそう。と肯定する紗由理。

 私も気になって調べてはいたが、わかったのは……

 

 

「丁度この真上……雲の向こう、その一ヶ所に向けて春が集められていることと、それを集めて回っているヒトがいるってことね」

 

 

 あまり調べてないからこれ以上はわからないけど、提供する情報としては十分でしょう。

 

 

「集めて回ってるヒトか……まあいいや。ありがとう、いってみるね」

「貴方なら問題ないでしょうけど、気を付けてね」

 

 

 弾幕勝負を仕掛けた私が言うのもなんだけど。

 

 

「じゃあまたねアリス。今度は博麗神社の宴会で会おうね」

 

 

 そういって飛んでいく紗由理。

 

 

 きっとあの子はもっと強くなるでしょうね。私との勝負の時、凄く楽しそうにしていたもの。

 

 

 まるで無邪気な…随分昔に置いてきた、子供のような笑顔。

 

 

 たまにはあんな風に……いえ、やめておきましょう。恥ずかしいし。

 

 

 

 

「……ったく、寒いったらありゃしないわね。なんでこんなに寒いのかしら」

 

 

 考え事をしていると、少し離れた所に紅白の巫女服に身を包んだ見覚えのある少女が飛行していた。

 

 

 紗由理が友人と呼べそうな歳の近そうな見た目。そして博麗神社で宴会をしようというお誘い……。

 

 

 

 まさか、ね。

 

 

 

 私はふと沸いた疑問を解消するため、今代の巫女の前に躍り出て。

 

 

 

 

 

 

「冷えるのは、貴方の春度が足りないからじゃなくて?」

 

 

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