気が付いたら正月が終わってました。
皆の証言を元に、現在雲が眼前にくるほどの高さを上昇中。
「なんか……暖かくなってる?」
普通は上へ行くほど寒くなる筈なのに、なぜか上へ行くほど気温が上がっている。
風は地上とは比べ物にならないほど強く、耳を劈くような轟音を鳴らしている。
「もっと上なのかな」
そこにはただただ灰色の雲が広がるだけで特に何かあるようには見られない。
しかし、風の流れとそれに乗って飛んで行く春がこの先に目的地があることを示していた。
意を決して雲へと突っ込む。
視界はほぼゼロ。上下の感覚が直ぐ様失われたがより暖かい方へと進んで行く。
「うん………ん?」
なにか、壁みたいなものにぶつかった。
「あ、これ結界だ」
こんな上空に結界?博麗大結界はもっと上にあるというし、ここにある結界の強度は大したものでもない。
これはこの向こうに異変の元凶がいるってことでいいよね?
さっそく、霊力をぶつけてなんとか人が通れる程の穴を開ける。
次の瞬間、地面に立っていた。
……ちょっと何があったかわからない。
空を飛んでいたら筈なのに地面に立っていた。
「桜だ」
顔を上げてみれば、長い階段と桜が出迎えてくれた。
周囲は暖かく、まさに春といった感じ。
とりあえずこの無駄に長い階段を歩いてみるが、数分で飽きて飛んでいった。
登りきると石畳と満開の桜並木が続いていた。
「綺麗……」
そういえば幻想郷で花見をしたことがない、私が来たときは丁度散った後だったし。
異変解決したらみんなを花見に誘ってみよう。
そう思い、速度を少し上げようとしたところで。
「まて!そこの……妖怪?」
だから疑問形はやめてってば、自信なくしちゃうから。
そんなことを思いつつも、声を掛けてきた相手を見る。
白い髪でおかっぱの女の子。歳は……いや、見た目年齢は自分とあまり変わらないだろう。
大小の刀を帯刀し、横に白い……人魂?を漂わせている。
「に・ん・げ・ん。ですよ」
霊力を高めて、人間アピールをする。
「ならば尚更何のようだ、ここは冥界。人間がノコノコと来ていい場所じゃない」
冥界?冥界って死んだもの達が行くところっていうあの。
あれ、そういえば周囲に白いのが飛んでるような……
「あれ、もしかして私死んじゃった?」
「まだお呼びじゃないから来た理由を聞いてる」
ああ、それもそうか。よかった、まだやりたいこと沢山あるからね。
「ならよかった…えっとね、春を返して貰いたいなーって」
まあ、交渉が上手く行くとは考えていない。異変を起こすやつらにそんな常識が通じるとは思えないし。
「もうすぐ
「ですよねー」
まあわかりきったことだ、はなから期待はしてない。
「それじゃ、無理矢理にでも春を返してもらおうかな」
カードを構える。今回はどうやって戦おうかな。
スペルカード戦の良いところは楽しめる所だ。
「妖怪の鍛えたこの白桜剣に、斬れぬものなどそんなにない!」
対して相手が構えたのは背負ってる二刀の内の長刀……はい?
「ちょっとまって、スペルカード戦だよね?」
「……? そうですが」
「いや、その刀構えて斬るっていわれて疑わないわけないでしょ」
そんな物騒な弾幕ごっこがあってたまるか。
「大丈夫です。死なない程度に留めますから」
なんら問題はない…そう語る目の前の少女は本気でそういってる様に見えた。
「それではいきます……!」
冥界で死んだらどこに行くんだろうなぁ……。
私は弾幕と共に迫る少女を眺めながら現実逃避を始めるのだった。
◇
天候が若干良くなり視界が微妙に開け始めた辺りで、霊夢と魔理紗は幻想郷の上空を飛行していた。
「なあ、本当にこっちで合ってるのか?」
「合ってる筈よ、倒した冬妖怪は皆上に春が向かってるって言ってたし気温も上がってるでしょ」
幻想郷でも指折りの実力者である二人。道中出会った妖怪は何らかの言いがかりにより軒並み退治されていた。
「あー、確かにそうだが……正直帰って熱いお茶でも飲んでいたいぜ」
「なら帰れば?異変なら私が解決してあげるから」
「む、私が連れ出す寸前まで出たくないと渋ってたくせに良く言うぜ」
寒いから出たくないという理由で異変解決を先伸ばしにしていた霊夢だが、魔理紗が「このままいけば今年の花見はどうなるんだろうなー」とわざとらしく一人言を発すればまるで人が変わったかのように動き始めたという。
「ま、花見が出来なくなるのは私も困るからな。さっさと終わらせて宴会の準備でもしようぜ」
彼女達にしてみれば、幻想郷に春がくるかどうかよりも宴会の口実の方が大切なようだ。
人里に住む人間にしてみれば異変解決者がこれでは不安以外の何物でもないだろう。
「人間だ……」
「姉さん、人間がいるわ!」
「本当ね、一体なんの用かしら」
そんな二人に三つの声が掛けられる。
声の主を見れば、横一列にならんでそれぞれ楽器を持った霊達がいた。
「なんだありゃ。幽霊か?」
「騒霊ね、それもかなり上位の」
即座に札を構え戦闘体勢に入る霊夢とそれに続いて八卦炉を構える魔理紗。
「この先には行かせないよ!」
「お花見は人間…参加……ダメ」
「そ、食料としてなら特別許してあげてもいいけどね」
口々に勝手な事をいう三姉妹。
「つまり、この先に春はあるんだな?なら話がはやいぜ」
「意気込みがいいのは結構だけど、足手まといにはならないでよね」
「そっちこそ!」
瞬く間にきらびやかな弾幕で彩られる空。
そんな空を、誰にも悟られることなく通過していく者がいた。
◇
「……くっ」
自身に迫る刃を辛うじて回避し、追撃の弾幕を後ろへ飛ぶことで躱す。
牽制の弾幕を撃ちながら先程刃の掠った所を見ると、綺麗な切り口の服の一部と、浅い切り傷があった。
…うへぇ、これは直撃したらスッパリいっちゃいそう。どこかの侍みたいに何でも斬れると言えそうな切れ味。
「うわっ!……っと」
距離があるから大丈夫だろうと思っていると、斬撃が
仰け反って避けそのまま振り向くと、斬撃の通った先にあった物は文字通り真っ二つにされていた。
「なんでもありだなぁほんと……」
一体どうやったら斬撃が飛ばせるのか。
ともかく、気を付けなければならない事が一つ増えた。集中集中。
……といっても。弾幕も切られちゃうし、どうしたものか。
こちらもファルシオンだして対抗する?
いや、剣術は明らかに向こうのが上だ。わざわざ相手の土俵に立つことも……。
「これで終わりです」
……ヤバイ、なんか居合いの構えみたいなの取ったんですけど。
人符『現世斬』
私の視界が、一瞬灰色に染まった気がした。