東方人の生   作:喜求

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お久しぶりです。


胡蝶

 

 

 道中のより一際大きな桜の木。

 

 その側まで来たけど、この木はただただ春を求めて呼吸のような鼓動を発している。

 異変の首謀者っぽくはない。どちらかと言えば道具かな。

 

 

「綺麗でしょう? でも足りない、まだこの子には春が必要なのよ」

「えっと……どちら様で?」

 

 

 気が付けば隣に誰かいた。

 和服に身を包み扇子を持ち。

 少々白すぎる肌と、まるで生気を感じない顔。

 

 一言で表すなら死人のような人だ。

 

 

西行寺幽々子(さいぎょうじゆゆこ)、以後よしなに」

 

「は、はぁ……えと、春が必要ってことは貴方が首謀者?」

 

 先程の予想が正しければこのヒトはこの道具を使う側なわけで。

 

「さあ、どうでしょうね」

 

 

 コロコロと笑う幽々子、からかわれている? 

 

 

 なんだろう、この感覚。

 紫とは違う胡散臭さというか、なに考えてるかわからない感じ。

 

 

 

「そういえば私の前にれい……巫女か魔法使いが来なかった?」

 

「いえ、初めに来たのは貴方よ。そして……」

 

 

 

 おお、今度は一番乗りだ。後で霊夢達に自慢してやらないと。

 

 自分が最初ということで気分は上々。もうなにも怖くないってね。

 

 

 

 

 

「最初に死ぬのも貴方ね」

 

 

 

 

 

 ……あ、これ死亡フラグだった。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「ん? あれは咲夜じゃないか、誰かと戦ってるな」

「あれは黒幕じゃないわね、先に行きましょう」

 

 

 アリスと騒霊三姉妹を撃破し冥界へと足を運んだ二人、しかしどうやら先客がいるようだ。

 

 

「いいのか?」

 

「手助けしたいなら行ってくれば? 私は遠慮するわ」

 

 

 興味なさげな顔で返事をする霊夢。あまり乗り気ではないようだ。

 

 見る限りでは咲夜が優勢だしほっといても大丈夫か。

 

 

「いや、私も進むぜ。咲夜より先に行った紗由理のが心配だ」

 

「あの娘変に抜けてるからねぇ……確かに心配だわ」

 

「中途半端に強いもんだから余計にな」

 

 

 強い人間は妖怪に好かれやすい。

 

 紗由理も強い人間の部類に入るし、既に多くの妖怪は目をつけている。

 いつも新聞撒いてる文屋は今度取材するようなことを仄めかしていた。

 

 

「はぁいお二方、こんばんわぁ」

 

 

 

 声がした。

 

 

 

 

 

 しかし辺りを見回すも姿はない。

 

 どろっとした空気を纏う声、そして頭の中に直接語りかけてくる芸当が出来る存在は私の知るところ一人しかいない。

 

 

「紫か」

 

「ええ、八雲紫で御座いますわ」

 

 

 

 飛行する私達の前にスキマが現れ、紫がそこから半身を乗り出す。

 

 

 

「なんだ、こんなところまできてお節介か?」

 

 

 

 一応、八卦炉はすぐに取り出せる体制にしておく。

 霊夢は既に退治モードの顔だ。

 

 

 

「まあ、そんなところかしらね」

 

 

 

 扇子を広げ、いつもの挑発顔を覗かせる。こういうときのコイツは大抵ロクなことを考えていない。

 

 

「邪魔するんなら退治するわよ」

 

 

 今日の霊夢はどうやらご機嫌斜めのご様子で、今にも霊力弾を放ちそうだ。

 

 

「あらこわい、もしかしてあの日かしら? 体調には気を付けるのよ」

 

 

 そこまで煽ったところで霊夢の陰陽玉が目にも止まらぬ速さで紫に直撃した。

 

 

「イッ!? ごめんごめんなさい私が悪かったわだからそれをしまって頂戴!!」

 

 

 まともに食らえば大妖怪でも致命傷になるという秘宝を容赦なく叩き込んでいく霊夢。

 紫は賢者という肩書きを忘れて割りと本気で謝罪を始めた。いいぞもっとやれ。

 

 

「ぐすっ……、霊夢に苛められましたわぁ……」

 

 

 

 手が止まるや否や嘘泣きをいれる辺りまだ余裕があるのだろう。賢者とも呼ばれるほどの力があるのは素直に感心するがその使いどころはどうかと思う。

 

 

「茶番やってないで目的を話しなさいよ、もう一発喰らいたいの?」

「いえ結構です」

 

 

 

 霊夢が再度構えると演技を一瞬で辞めた。

 

 

「おほん……こうして貴方達の前に現れたのは他でもありません、今回の異変についてです」

 

 

 でしょうねと相槌を打つ霊夢。その顔は面倒なものを見る目だ。

 

 

「まず貴方達はこの冥界について、どれだけのことを知っているかしら」

 

「死んだヤツが行くところだろ?」

「同じく」

 

 

 それ以外はしらん。普段行けないし、死者ばかりの場所にあまり興味はない。

 

 

「そう……あれについては?」

 

 

 紫が扇子で指す先には枯れた桜の木が遠目で確認できる。

 

 

「随分としょぼくれた木だな」

 

 

「そう、今は只の枯木です……しかしこの度の異変で春を吸収し再び返り咲こうとしています」

 

 

 紫の顔が先程とはうってかわって神妙なものになる。

 

 

「つーことはあれか、咲いたらヤバいのか?」

 

 春の力を奪われるってことは春が来なくなり、桜が咲かないってことで……。

 

 つまり花見が出来ない。それは確かに大変だ、さっそく解決に……。

 

 

「ええ、最悪幻想郷が無くなるわ」

 

 

 は? 

 

 

 体が硬直した。

 

 

「あの桜は死に誘う能力を持っています。その力は人も妖怪も見境なく作用し、その生気を糧とするのです」

 

「かつて咲いたときは多大な被害を出しながらも封印を施しました、しかしその効果も時と共に薄まったのでしょう。もう開花が始まっています」

 

 

「つまり満開にしたらいけないってことか」

 

 

 黙って頷く紫。

 

 

「なんでそんなもんが咲こうとしてるのにお前はこんなところにいるんだよ」

 

「……」

 

 

 

 

 

 アクションの一つもない紫。

 

 

 

 なぜ幻想郷が危ないのに紫は手出ししないのか。

 

 手出し出来ない程の相手なのか? ……いや、あり得ない。なら私達と協力して倒す算段をつけるはずだし、そもそも弾幕ごっこに関係なく霊夢に勝てるヤツなどそうそういないからだ。

 

 なら他には? 私達なら大丈夫で紫だとダメな相手……そんな奴がいるのか? だとしたらそれは霊夢ではないか? 

 

 

 魔法で疑問符を物理的に浮かべながら考えるが、決定付ける情報がない。

 

 

 

 

 すると、いつまでも返事をしない紫に呆れたのか霊夢が大きなため息を吐いた。

 

 

「紫、あんたがそこまで言うなら多分大変なことなんでしょ。そんで私達にそれをなんとかして欲しいと」

 

 

 返事はない。

 

 

「あんたが動かない理由は知らないけど、そもそも異変は人間が解決するものだもの。言われなくったってやるわよ」

 

「霊夢……」

 

 

 

「いつも通りの胡散臭い顔をしてなさい、そんな顔してるあんたはつまらないわよ」

 

 

 

 うぐっ……と小さな呟きが聞こえ、紫は動揺した表情を一瞬見せる。

 

 

「……それもそうですわね、全てあなた達に任せますわ」

 

 

 それではまた後ほどと言い残し、スキマに潜っていった。

 

 

 

「なんだったんだろうな、あいつ」

「知らないわよ、変なものでも食べたんでしょ」

 

 

 先程の話しを聞いても霊夢は顔色一つ変えず、桜目掛けて再び飛び始めた。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 それは一言で表すのなら"死"だった。

 

 

 美しく、きらびやかで、触れてはいけないと本能が悟る致死の蝶。

 

 

 まるで死に誘っているかのように舞い踊るその姿は、うっかりすると見惚れてしまいそうだった。

 

 

 

「あぶなっ!」

 

 

 

 レーザーを躱し、蝶にだけは当たらないよう半分願いながら負けじと弾幕を放つ。

 

 しかし、幽々子の弾幕を前に私の弾幕は美しさも量も足りない。

 

 

 頭を回す……しかしあまり良い案は出てこない。宣言なしに始まった弾幕ごっこ。ルールの無視されたもはやごっこですらないその遊びに対応する手札はあまりにも少ない。

 

 妖力、霊力、魔力共に余裕はあるが……それだけだ。桁外れの人外に通じる魔法はまだ組めないし、妖刀『ファルシオン』は接近できなければ意味がない。この弾幕の密度では難しい手だ。

 

 それに……できるなら殺したくない。

 

 

「……ッ!」

 

 またグレイズ(至近弾)だ、今のところ蝶には当たってないが。体のあちらこちらに少なくない傷を生む。

 

 

「ほらほら、止まっていると死んじゃうわよ~」

 

 

 かるーい言葉と一緒に投げ掛けられるのは死の蝶。冗談にもなりゃしない。

 

 

 試しに結界を張ってみても、札等の触媒なしでルール無視の威力を持つ弾幕を防ぐにはまだ錬度が足りない。

 

 

 一つ二つ弾幕を受けただけで不快な音と嫌な亀裂が走ってしまう。

 

 

 霊夢お手製の結界や対妖怪用の札を持ってきてはいるけれど、どれも数が少ないから使い辛い。

 

 

 

「ええい! 人符『幻想花火』」

 

 

 

 とにかく段幕を張り、少しでも相手の集中力を削ぐことに専念する。

 

 幸いスペルカード戦ではないので使い放題だ。

 

 

 

「あらあら、まさか冥界で花火が観られるなんてねぇ……あら?」

 

 

 

 その時、桜の方から嫌な鼓動を感じた。

 

 

 同時に幽々子の体が淡い光を放ち、徐々に薄れていく。

 

 

 

 それはあまりに唐突な出来事で、幽々子が放っていた段幕も維持が出来なくなったのか消えていき、自分もスペルを放つ手を止めその光景をただ眺める。

 

 

「な、なに……?」

 

 

 幽霊ぽかったし成仏でもしたのかとも思ったが、どうにも様子がおかしい。

 

 

 幽々子は薄れゆく自身の体を困惑の目で見た後に、その視線を桜へ向け…

 

 

 

「あっ…………」

 

 

 

 驚いた用な顔をして、その姿を完全に消した。

 

 

 

 

「おーい紗由理!」

 

 

 唖然としていると、魔理沙と霊夢がやってきた。

 

 

 

「なにがあったんだ?」

 

 

 箒から降りて、周囲を見渡す魔理沙。

 

 

「なんか黒幕っぽい幽々子っていうヒトと戦ってたんだけど……急に光って消えちゃった」

 

 

 

 消えた? と疑問符を浮かべ訝しむ。

 

 

 

「もしかしてこいつが原因か?」

 

 

 

 魔理沙が見上げるのは桜、先程嫌な脈動みたいなものを発してから大人しくなったけど……。

 

 

「さっき胡散臭いやつから聞いたがどうもこいつは咲かせたらヤバいらしい、ぶったぎるなり封印するなりしないとこの幻想郷が危ないんだとさ」

 

 

 

 ……はい? 

 

 

 

 なにその急展開、いきなりスケール広がりすぎでしょ。

 

 いやいや、いくらなんでもそれは……ねえ? 

 

 

 

 脳が理解を拒み、冗談の類いだろうと結論付ける。

 

 

「まっさか~そんなことないでしょ~」

 

 

 

 だが、嫌でも理解することになる。

 

 

 

 見上げていた桜は再び脈動を始め、その枯れ枝に葉をつけはじめた。

 

 

 葉は瞬く間にその木全体を覆い尽くし、脈打つ度にその葉に蕾を付けていく。

 

 

「お、おい……不味いんじゃないか?」

 

「不味いわね、そろそろ咲くわよ。こいつ」

 

 

 今まで桜を眺めていた霊夢が口を開いた。

 

 

「おい霊夢なんとかしてくれよ、専門だろ?」

 

「あんたねぇ、簡単に言うけど封印って疲れるのよ?」

 

 

 

 いやそんな理由で躊躇されても困るんですけど!? 

 

 

「……ま、流石にやるわよ。だからその目で見るのをやめて」

 

 

 私の戸惑う視線と魔理沙の「お前本当になにがあってもぶれないな」的視線に挟まれながらも霊夢は袖から札を幾つか取り出す。

 

 

 

「……! 避けてッ!」

 

 

 

 

 直後霊夢の叫びにより反射的に桜から距離を取る。

 

 なにが起きたのかと思えば西行妖が動いているではないか。どす黒い、美しさの欠片もない段幕を放ちながらその枝を揺らしている。

 

 

「なんで桜が動いてんの!?」

 

「知るか! そんなことよりどうすんだよこれ!?」

 

 

 飛来してくる段幕はその一つ一つに途方もない力が含まれているが、考えなくただ無差別に放たれているため避けるのは難しくない……しかし、いかんせんその量が多い。

 

 

 

「一旦弱らせるしか無さそうね、あんたたちも手伝いなさい」

 

 

 桜へ向けて弾幕を放ち始める霊夢。

 

 

 追従するように魔理沙も弾幕やレーザーを放つが、被弾箇所はみるみるうちに再生されていく。

 

 私も相手の弾幕を避けながら撃ち込むが、これっぽっちも効いてる気がしない。

 

 

 

「どうするのこれ! 全然効いてる感じがしないんだけど!」

 

 

 自身を結界で囲みつつ、通常の攻撃では歯が立たないと感じたのか霊夢が舌打ちを一つ。

 

 

「こうなったら同時にいくわよ!」

 

 

「わかった!」

「しっかり合わせろよ!」

 

 

 

 行動は早かった。

 

 

 霊符『夢想封印』

 恋符『マスタースパーク』

 妖刀『ファルシオン』

 

 

 

 それぞれ手加減なしの同時攻撃。霊夢は弾幕ごっこで使われる夢想封印とは比べ物にならない霊力を込め西行妖へと放ち、周囲を舞っていたドス黒い弾幕を消し飛ばしながらその木を弱らせる。

 

 魔理沙はありったけの魔力を八卦炉に注ぎ、その枝葉諸とも木を穿った。

 

 私は残っている全ての妖力をファルシオンに使い、鉄塊すら切れる自分の身長を遥かに越えた大きさの剣を振り下ろす。

 

 

 

 西行妖はその葉を散らし、大きな傷痕をその幹に付け活動を停止した。

 

 

 

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