東方人の生   作:喜求

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道具

 

 

 西行妖が霊夢の手によって再封印され、春が来ない異変が終わり、異変解決の宴会にも幕が降りて間もない日。私はある場所へ向かうために魔法の森の境目を飛行していた。

 

 桜……あっという間だったなぁ。

 

 冬が長続きしたせいか大幅に遅れて開花した桜は、まるで季節に合わせるかのように直ぐに散ってしまった。

 

 桜の下での宴会も殆ど出来ずに、酔っ払いの方々は物足りなさを感じていた。

 

 もっと幽々子や妖夢とお話したかったんだけど……今度冥界に遊びに行こうかな。

 

 

 あの異変の最中、弾幕ごっこの途中で消えてしまった幽々子は霊夢が西行妖を封印すると共にまた出現した。

 

 どうやら居なくなっていた間の記憶が無いらしく、居合わせた三人と半人で状況を説明すると理解したのかしていないのか「そう……残念ね、一目満開のアレを見てみたかったのだけど」と敗けを認めた。

 

 その後の宴会では何処にそんな量が入るのか、無尽蔵とも言える食欲を発揮していた。

 

 挨拶回りで隣に座ったときに私に言った「あなたも美味しそうね」は冗談だと信じたい。

 

 その時に妖夢とも話をし、今度はちゃんと弾幕ごっこをしようと約束をした。ついでに剣術も学んでおきたいので頃合いを見て頼んでみようと思う。

 

 冥界とは今後行き来がしやすくなると聞いたので、寄ることに苦労することはなさそうだ。

 

 

「見えた」

 

 

 考え事をしている内に目的の建物にたどり着き、その扉を叩き家主の返事を待つことなく中へと入る。

 

 

 中は非常にごちゃごちゃしていて、等身大の鏡、食器、絵画……どれも若干埃を被っており一見ゴミと間違えそうな物が散乱している。

 

 初めて来た人が目にすれば廃墟と錯覚することだろう。実際した。

 

 一応存在する足場を頼りに少し奥へと進むと、人が入ってきたことにあまり興味を示した顔もせず家主が読書に勤しんでいるのが見えた。

 

 

霖之助(りんのすけ)さん、おはよう」

 

 

 家主の名は森近霖之助(もりちかりんのすけ)。古道具屋を営む半人半妖だ。

 あまり他人と親密にする性格ではないが、声をかければ視線を本から移し相手をしてくれるので、別段人が嫌いな訳ではないらしい。

 

 

「君か、今日は何をお探しだい? ……お勧めのは昨日入荷したこの『PHS』だ、相手の電話番号を入力すると遠方の同型機と意思の疎通が行える代物だ」

 

 そして今回勧められた商品(ガラクタ)は外の世界でももう見かけないPHSと呼ばれている物体だった。一見すると折り畳めないガラケーのようで、少々汚れている。

 

 もちろん幻想郷には携帯電話どころか電波すら普及していない。一台あったところで何も出来ないし、一番の問題は充電方法だ。本体の電池は切れているだろうし、充電器もなければそもそもの話電気がない。充電も出来ない携帯はそれこそゴミだろう。その上同型機とやらはどこだ。

 

 

「それ一台だけですよね」

 

「うん」

 

 

 ここで肯定してしまうあたり商品を売ることに執着があるわけでもないようだ。商売人に向いているとも思えないが。

 

 

 彼は『道具の名前と用途が判る程度の能力』を持っており、その名の通り本人が知らない道具だろうがその名前と用途が判る。

 ちなみに用途が判るのは彼が手に取った道具だけなので、PHSを充電をする必要があるのは判っても充電の仕方は充電器を手に取らなければ判らないだろう。

 

 道具を売るというよりもただ道具の蘊蓄(うんちく)を喋りたいだけな気がする。

 

 この前は変な棒切れについて熱く語っていた。

 

 段々ヒートアップしていく彼の言葉を聞き流し、見つけたお探しの物を台に置く。私は蘊蓄を聴きに来たのではなく普通に買い物に来たのだ。

 

「それじゃいらないです……それよりもこの服をください」

 

 放置すると延々と話続けるので、半ば強引に話を切り上げる。

 

 

 私が幻想郷に来た当初、魔理沙が私にくれた服はどうやらこのお店の物らしく、なぜ洋服や機械類があるのかと聞けば無縁塚という場所から取ってきたのだという。

 

 そこは外の世界との境界が曖昧になっているらしく、人から忘れられた物等が流れ着くのだとか。

 

 そんな品物を拾ってきては店に並べて商品にしているらしい。

 

 それ故中古品が多いが、買ってそのまま忘れられたらしき新品がたまに入荷するので、最近はそれ目当てでよくここに来る。

 

「まいどあり、君くらいのものだよ、全うな取引に応じてくれるのは」

 

「こんな所に店を構えているのが悪いんですよ」

 

 魔法の森の境目に存在するこの店は人里からも距離があり、数々の危険があることから里の人間が寄ることは滅多にない。

 

 魔理沙や霊夢は時折顔を出すらしいが、お金を払ってもらった試しはないらしい。憐れ。

 

 

「僕はあまり人の多いところは苦手なんだ、これ以上人に来られても困る」

 

「商売をしてるんですよね?」

 

 

 そんなツッコミを反射的にしてしまうが、霖之助さんは半人半妖であり人並みの食事を取る必要がないのでそもそもお金を稼ぐ理由がないのだ。あくまで趣味の範囲で商売をしている。

 

 

「……まあいいです、今日は他に寄るところがあるのでお暇しますね」

 

 

「いつでも来てくれ」

 

 

 

 そういうと霖之助さんは読書へと戻っていった。

 

 

 私はそれを見届けてから、荷物を抱えたまま紅魔館へと向けて飛び始めた。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「貴方、そろそろ杖を作ってみたらどうかしら」

 

 

 すっかり定位置となってしまった大図書館の椅子で魔導書を読んでいると、不意にパチュリーから声をかけられた。

 

 

「杖?」

 

「そう、効果は解ってると思うけど魔法の効果を高めたり魔力消費を抑えることができるわ」

 

 杖、ファンタジー世界の魔法使いの誰もが持っているあれだ。

 

 魔法の触媒であり、様々な恩恵を術者に与える魔導具である。

 

 

「普通なら魔力の消費や魔法の成功率を気にして初めから杖を使うのだけど、それに慣れてしまうと杖無しで魔法を使えるまでに時間がかかってしまう……だから今まで保留しておいたけど、もう充分に魔法を扱えるから大丈夫でしょう」

 

「なるほど。でもパチュリーは私よりずっと魔女してるのに杖持ってないよね、なにか理由でもあるの?」

 

 私より遥かに魔法についての技術と知識を持つ彼女ならば既に持っていてもおかしくはないのだが。

 

「私の扱う魔法は精霊魔法、精霊に語りかけることが出来れば触媒なんて要らないの。それに杖だけが魔法の触媒になるわけじゃない。貴方は精霊魔法より魔術の方が得意そうだから必要だと感じたのよ」

 

 精霊魔法についてはパチュリーから本を借りて読んではいるが、本格的な習得はある程度精霊に頼らずに魔法を使えるようになってからの方が都合がいいのだそうだ。

 

「わかった、じゃあ今から材料採取?」

 

「いえ、既に用意してあるわ。この中から選びなさい」

 

 パチュリーが転送魔法で私の前に複数の枝を出現させる。

 

 そのどれもが人の身長と同じくらいの大きさをしていて、この辺では見かけない木や逆に見たことあるような木まで様々だ。

 

 

「ケルト月から選んでも良かったのだけど、実際に手にとってしっくり来るもののほうが良いと思ったのよ」

 

 試しに一つの枝を手に取ってみる。

 

 

 

 握り心地、見た目、匂い、魔力の通り具合を確かめる。

 

 

 ……何が悪いっていうのははっきりしないが、何となく自分には合わない気がした。

 

「何か違う」

 

「直感も大事な魔法使いの要素よ」

 

 

 また一本、一本と手に取り、軽く振ってみたりすること数分。

 

 

 

 

「……これがいい」

 

 

 選んだのは鼠色をした、白い斑点と独特の臭いがあるナナカマドと呼ばれる木だ。

 

 

「そう、なら素材はそれで決まりね。早速制作に入るわよ……といっても作業は貴方がやるのだけど」

 

 

 パチュリーが手元に召喚した小刀を差し出す。

 

 

「これで好きな形に削って、出来たら持ってきなさい」

 

「わかった」

 

 

 小刀を受け取り、杖となる枝をどう加工するか考える。

 

 

「どんな形にしようかな……」

 

 スティックにしようか、この大きさならワンドもいけるだろう。

 宝石とか埋め込んでみるのもいいかもしれない。

 

 埋めるとしたら何がいいかな……というかまず幻想郷で手に入るのかな。

 

「ねえパチュリー、宝石って何処で手に入るかな」

 

「幻想郷の中ではここが一番持ってるわよ。欲しければあげるけど杖に使うならオススメしないわ」

 

 

「どうして?」

 

「実験で使いきって装飾品としての価値しかないゴミばかりだから」

 

 

 ……さいですか。

 

 まあ流石に宝石なんて高価なものまでお世話になるつもりはない。

 

「杖に使える宝石が欲しいなら錬金術という手もあるけど……天然がいいなら妖怪の山ね、あそこなら幾らか出てくるでしょう」

 

 

 錬金術で宝石なんて私じゃ作れないし、何となくだけど天然物がいい。そうなると……。

 

 

 

 妖怪の山……妖怪の山かー…………。

 

 いく必要がないから避けてたけど、それもおしまいのようだ。

 天狗がいるって話だけど頼んだら入れてくれるかな。

 

 ここは魔理沙に頼んで付いてきてもらったり……いや、自分で使うものだし一人で行くべきか。

 

 ……そもそも大前提として採掘なんて出来たっけ私。

 

 

「道具なら貸してあげるわよ、その代わり私が使う用の宝石を幾つか採ってきて頂戴」

 

「ほんと? ありがとうパチュリー! 使いきれない程採ってくるよ」

 

 心でも読んだのかと思えるパチュリーの提案に喜びを隠さずに答える。

 

「宝物庫に入る範囲で頼むわよ」

 

 パチュリーが短く詠唱を行い、採掘に使うという道具を召喚した。

 

 

「これで宝石を探して、後はこっちで掘りなさい」

 

「ダウジングと……ツルハシ?」

 

 片方は完全にL字の鉄の棒に見える。しかしよくみると細かく複雑な術式が施されているようだ。

 

 もう片方は片側が潰されたツルハシだ。こちらも術式が施されていて、辛うじて読み取れるのは魔力を込めると推進力が生まれるということだ。

 

 

「この形にしておけば見ただけで用途がわかるでしょう、両方とも魔力を込めれば使えるわ。ダウジングの方は埋っている場所がわかる。ツルハシは魔力を推進力にすることで採掘の負担を軽減し、尚且つ特定の密度……この場合は宝石ね。うっかり砕かないように自動で止まってくれるわ」

 

「凄い便利だね」

 

 

 安全装置付きツルハシとは恐れ入った。

 

「外にいた頃召し遣いに使わせていたものよ、こっちで機能するかは試してないけど問題ないでしょう」

 

 

「わかった、一度家に帰ってからすぐ掘りに行くよ」

 

 

 もらった枝と採掘道具を持って図書館を後にする。

 

 

 

 

 

「天狗相手にどう立ち回るか……見物ね」

 

 

 扉を潜る瞬間、距離の離れたパチュリーが呟いたその言葉は私の耳に届かなかった。

 

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