「ま、魔理紗ー……まってえ」
人里まであと少しというところで私の魔力は空っぽになってしまった。
……うぅ、魔力枯渇による目眩が…。
徐々に高度と速度を落とし、地面に着地する。
魔理紗も私に合わせて降りてくれた。
「ここで限界か。まあそこまで距離もない、せっかくだから歩いていくか」
「はーい」
距離的に考えてお昼前には間に合うだろう。
にしても魔力枯渇の脱力感が結構つらい……今度から少し残しとこう。
「大丈夫か?」
「なん……とか………魔力は空っぽっだけど」
相変わらず脱力感は凄いがそれもさっきよりは引いてきた。
「空っぽ?なのに立ってられるのか?」
「うん、脱力感は凄いけど動く分には問題ないよ?」
「へえ、妖力があるからか?普通は魔力が無くなると立てなくなるんだがな」
目の前の茂みを掻き分けながら道なき道を進んでいく。
……あ、畑が見えた。
「よし、あれが人里だ。入り口は……あそこだな」
魔理紗の指差す先には門らしきところがあり、人が立っているように見える。
どうやら無事妖怪に襲われることもなくたどり着いたようだ。
「よ、邪魔するぜ」
軽い挨拶と共に門番の横を抜けていく魔理紗。
私も軽く会釈しながら離れまいとついていく。
「わあ、ここが人里」
入って驚くのはその人の多さ。そして街並みだ。
古い、歴史の教科書で見たことあるような平屋の連なり。
甘味所に、呉服屋に色々ある。
実に2ヶ月振りの人混みである……ちょっと息苦しい。
あ、あれは鈴奈庵?なんのお店だろ。
「お、魔理紗じゃないか。お前が人里に来るなんて珍しいな」
横合いから声をかけたのは若干青みがかった銀髪に変に四角い帽子を被った綺麗な人だ。
「慧音じゃないか、調度良かった。こいつに妖力の使い方を教えてくれないか」
なんと、この人が慧音さんか。半分妖怪というからにはもっと禍々しいのを想像してた。
「妖力?また唐突だな。だがこいつは妖怪じゃないのか?」
慧音も私からでる妖力を感じたのだろう、私を妖怪と認識したようだ。
「違う違う、こいつは人間だ。能力で妖力を持ってる」
「私紗由理っていいます慧音さん、どうか妖力の使い方について教えてくれませんか?」
姿勢を正し、頭を下げる。
ここの作法は知らないが、失礼にはならないだろう。
「私は上白沢慧音、慧音でいい。寺子屋があるからそのあとか休講日になるが……それでも構わないか?」
「はい、ありがとうございます。慧音」
快く受けてくれた。魔理紗の言うとおり本当に優しい人だ、半分妖怪なのが信じられないくらいに。
「それと……妖怪と勘違いして悪かったな」
……本当に良い人だ。
ーーーー
あれから2週間、少ない時間ながらもコツコツ慧音に妖力の使い方を教えてもらい。なんとか弾幕を放てるまでになった。
慧音の教え方は堅苦しい所があり、昔いた国語の教師を思い出したが。せっかく教えてもらってるので根性で耐えた。
私の拙い魔法の知識で作る弾幕と違い、妖力の弾幕は消費が少なく効率が非常に良いこともわかり、今なら弾幕と呼べるくらいには妖力弾を展開できるはずだ。
飛翔の方も慣れ、速度が出せるようになり一時間は問題なく飛べるはずだ。
スペルカードも考える時間なら沢山あったしね。
というわけで……
「魔理紗、弾幕ごっこをしよう!」
いざ宣戦布告と参ろうじゃないか。
「ルールは被弾、スペルカード共に3回で!」
「オッケー、手加減してやるから全力で来い!」
宣言と共に二人とも空に飛び上がる。
最初の頃に比べだいぶ飛翔も良くなり、そこらの人外と遜色ない速度が出せるようになっている。
「あら、慧音じゃない。珍しいわねこんなとこまで来るなんて」
縁側でお茶を片手に見物しようとしてると、紗由理の教師をしている慧音が現れた。
「弟子の初陣だ、観ないわけにもいかないだろう」
神社の敷地にて行われる弾幕ごっこを、巫女と教師という珍しい組み合わせが観戦する。
「あんたも飲む?出涸らしだけど」
「ありがたくいただくよ」
慧音が言い切る前に、彼女の前に湯呑みが置かれる。
予想以上に薄いその中身を見て今度なにか差し入れしようかと考える慧音だが、それはまた別のお話。
「それにしても……楽しそうね」
上空では既に二人の弾幕による応酬が始まっていた。
ここに来る前はあまり良くない生活をしていたらしい紗由理だが、今弾幕ごっこを行う彼女はとても生き生きしてる様に見える。
「そうだな、まるで初めて楽しいことに打ち込めてる感じだ」
「…紗由理から聞いた?」
「いや、見てればわかる。これでも教師として、何人も人を見てきたんだ」
伊達に教師をやっていないらしい。慧音の目が様々な人を見てきた長寿の者のそれに変わる。
「親の為にと努力する子、親が嫌いでなかなか帰ろうとしない子。もちろん、彼女のような子もいた」
「……」
「だがそんな子らは今もしっかりこの地に立っている……あの様子なら大丈夫だろう」
「わかってるわよ、そんなこと」
そう言うと霊夢は自分のお茶を飲み干し、上へと視線を戻す。
紗由理はどうやら一度被弾したようで、腕が煤汚れていた。
魔理紗はある程度加減しているが、紗由理は初戦の割になかなか良い動きをしてる。
牽制しながらの移動、相手の動きを阻害する弾幕の張り方……とても初心者にはできないほどの立ち回りだ。
丸と星形の弾幕の応酬を観ていると、遂に紗由理から最初のスペルカードが掲げられた。
「人符「幻想花火」!!」
紗由理から一発の大型弾幕が放たれる。
「来たな……私に魅せてみろ紗由理!お前という存在を!」
それは魔理紗に近づくと派手な音と共に弾け、その中心から外側へとカラフルな小弾幕に変化した。
名前の通り花火を模したそれは次第に色が変化し、またその度に分裂し消えていった。
勿論一度だけで終わるわけではなく、撃つ度に花火の色、形は変わっていく。
「あっぶね……その調子その調子!ペースあげていくぜ!」
花火の数が7を越えた辺りで魔理紗が速度を上げた。
決して余裕ではないが、被弾もなく紗由理のスペルカードを攻略していく。
最後は特大の花火で締め、紗由理初のスペルカードが幕を閉じる。
終わりの寂しさも含め、花火と呼ぶにふさわしいスペルカードだった。
「面白くなってきたな、今度はこっちの番だぜ!魔符「スターダストレヴァリエ」!!」
…………楽しい。
「人符「幻想花火」!!」
……もっとやりたい。
「魔符「スターダストレヴァリエ」!!」
気がつけば熱中していた。
初めての弾幕ごっこ、二人で互いに自分を魅せ合う。
妖力はまだもつ、魔力も十分。まだ私は戦える……魅せられる。
だが魔理紗の弾幕を避けるのもなかなかにキツい。
まだ手加減が入ってるのはわかるけど、ギリギリ当たるか当たらないかだ。
「グッ……っつ」
そうこうしていると、右肩に被弾してしまう……しまった、集中力を乱した。
だけど構わない、0-3で終わらせるつもりはない。
ならばやるのは一つだけ。残りの妖力魔力を全部つぎ込んでやる。
「いくよ魔理紗!石符「明日は藍晶石と共に」!!」
魔理紗に向けなるべく広範囲に黒、藍、緑、灰、白色の大小様々な弾幕を展開。
初めは黒を多く、段々と白へ向けて割合を調整する。
それだけでなくある程度の間隔で柱状の原石を模した弾幕を魔理紗に放つ。
ぐぅ……さすがに弾幕の量が多い、妖力がすぐに尽きそうだ。
だけどここで止めるわけにはいかない、むしろもっと量を増やす。
魔理紗の動きがより速くなる。こちらはそれに答えるように量を増やしていく。
私の放つ弾幕がほとんど白になったとき、遂に避けきれなかった魔理紗の足を捉えた。
「いっ……つつ、やるな紗由理。なら最後は私の全力を見せてやるぜ!」
魔理紗がスカートをごそごそと漁り、多角形の何かを取り出した。
「恋符「マスタースパーク」」
その直後、魔理紗は私に向けて魔力の激流を放ち、視界が白で塗りつぶされた。