「おーい、大丈夫か?」
ぺちぺちと叩くが反応がない。どうやら気絶しているようだ。
マスタースパークに直撃した紗由理は、そのまま気を失ったらしく落下している所をなんとか回収した。
しばらく起きそうもないので紗由理の寝床にでも寝かせておこう。
「大丈夫か紗由理!」
神社の方へと降り立つと魔理紗に抱えられぐったりしてる紗由理を心配した慧音が駆け寄ってくる。
「気絶してるみたいだ、しばらく寝かせておけば大丈夫だろ」
「初心者に本気出しすぎよ」
「あそこまで魅せられたんだから仕方ないだろ」
なによそれとそっぽを向く霊夢。
実際回避の方は少し本気出したし。
「にしても、初心者にしてはいい動きだったな」
いくら動き方を教えたとはいえ初戦であそこまでの動きは私でもできなかった。
こっそり用意してたらしいスペルカードも美しさには申し分なかった。
「もうそこいらの雑魚妖怪では歯が立たないでしょうね」
今の紗由理なら一人でも十分大丈夫だろう。もっと経験を積めば中級妖怪ぐらいなら相手できるはずだ。
「となると……卒業か」
「なら宴会をしないとね、卒業祝いってやつを」
「とびっきりのやつを用意しないとな」
ここしばらく宴会もしてなかったし、久しぶりに羽目をはずすとするか!
「はあい皆様」
すると突如目の前に目玉をふんだんにあしらった空間が出現し、中から紫色のドレスを着た人が出てくる。
こういった神出鬼没な登場の仕方をするやつといえば、私は一人しか知らない。
「隙間じゃないか、どうしたこんな時に」
「ちょっとその子に用があるのよ、お借りしてもいいかしら?」
扇子を広げ口元を隠し、妖怪らしく自分勝手に行動する妖怪の賢者八雲 紫。
無論渡す訳にはいかないので、紗由理を抱えたまま後ずさる。そこに霊夢が私と紫の間に割り込んだ。
「どういうつもり?理由によってはタダじゃおかないわよ」
構えるのは御札とお払い棒。脅しにしては過剰な霊力を込めたそれらは容易に大妖怪にもダメージが通る程強力だ。
「あらあら、嫌われたものね。私はただお話がしたいだけですのに」
扇子でよく見えないが、その裏では裏ではいつもの胡散臭い笑みを浮かべていることだろう。
「ご覧の通り紗由理は今寝てるんだ、話がしたいなら後にしな」
そういうと紫はしばらく霊夢と紗由理に視線を行き来し悩む素振りを見せた後
「しょうがありませんわね、また別の機会に伺うとしますわ」
スキマを開き消えたいった。
「まったく……神出鬼没なやつだぜ」
そして同時に油断ならない妖怪でもある。
……ま、あいつがその気になれば紗由理を拐う機会なんていくらでもあるし、そうしないということはさして重要な事でもないんだろう。
「……っとと、まずは紗由理を寝かせないとな」
「……ん」
ここは……私の部屋か。
あのあと気を失って運ばれたのか。
原因は恐らく魔力と妖力の枯渇だろう。
やはり体に無理させ過ぎたなぁ、でも手を抜きたくはなかったし…仕方ないか。
上半身だけ起こし伸びをすると襖が開き、霊夢が入ってきた。
「起きたのね、気分はどう?」
「大丈夫……どのくらい寝てた?」
今は魔力も妖力も十分回復してるし、行動に支障はないだろう。
「えーっと…二時間くらいね」
うわあ、結構寝てたなあ…これが実戦だったら致命的な隙になるだろう。気を付けないと。
「ま、今は寝てなさい。またあとで起こしてあげるから」
霊夢が私の頭をトンッと突き寝かされる。
仕方ない、もうひと眠りしますか。
……あ、そうだ。
「霊夢」
「ん、どうかした?」
戻ろうとしていた霊夢を引き留める。なんだかその顔は幼少期風で寝込んでいたとき看病してくれた母に似ていた。
「今度弾幕ごっこやろうね」
「はいはい」
霊夢は呆れた顔で部屋を出ていった。
ーーーー
宴会
それは幻想郷において友好を深めるものでもあり、また祝い事や異変解決、何でもない日でも行われる伝統行事みたいなものである。
「えーっと……霊夢、この状況はなに?」
「なにって宴会よ、さっき説明したじゃない」
それは見ればわかる。
人が沢山いるし……人じゃないのもいるけど。
問題はあのでかでかと下げられている垂れ幕だ。なんだこれ。
[紗由理卒業祝い]
……うん、わからない。
「いやそうじゃなくてあの垂れま「起きたのか紗由理。卒業おめでとう!」…………いやだから卒業ってなんですか!」
盃を手に持った魔理紗に肩を叩かれる。顔が赤くないのはまだ宴会が始まっていないからか。
「卒業ってのは紗由理が一人前になった事だよ。あれだけ弾幕ごっこができりゃ上等だぜ」
そういうことか。
「なるほど、卒業…ね」
つまりはもうこの神社から出て一人立ちするということである。
……一人暮らし、結局どこに住もうかな…魔理紗の住んでる魔法の森とかどうだろう。探さないと。
「そういうこと、ほら」
魔理紗に手渡されたのは盃、中にはもちろんお酒が入っている。
……匂いキツいなこれ。
「ありがとう魔理紗」
「どういたしまして。さ、主役も来たんだし……乾杯!!」
「「「かんぱ~い!!」」」
かくして宴会が始まった。
「にしても紗由理のスペルカード綺麗だったなあ、いつの間に考えてたんだ?」
「魔理紗が帰ったあとに少しずつね、霊夢にはバレてたみたいだけどね」
敷物に腰を下ろし、お酒を酌み交わす。
初めは飲酒に抵抗あったけど、それを叱る人も法律もないみたいだしね。
「他にもスペルカードあるのか?」
「うん、あと一枚だけね」
内容は秘密だけど。
こういうのはいざ使うときに明かすほうが面白いしね。
「そうか、次に見られることを期待してるぜ」
弾幕ごっこ経験の長い魔理紗はそこらへんよく分かっているようだ、言及しないでいてくれた。
「今の紗由理なら妖怪退治のひとつも出来るだろうし、これからはライバルだな」
「ええー仲間じゃダメなの?」
仲間と一緒の方が成功率とか高そうだけど。
「駄目だ、私がそう決めたんだから紗由理は私のライバルだ」
この時の魔理紗はテコでも動かないし、ライバルになるのは確定みたいだ。
「じゃあその時は勝負しようね」
ならば楽しむとしよう、勝っても負けてもそれはきっと楽しいだろうから。
「こんばんわあ、紗由理ちゃん」
ねちっこい女性の声が聞こえたと思ったら、目の前になんか出た。
奇抜な服に金髪の髪、そして扇子で顔を隠した全身で胡散臭さを表現してる。
驚くのはこの人がとんでもない妖力を放っていることだ。そこらへんで飲んだくれてる妖怪とは格が違う、私が何人いようが勝てる気がしない。
「ッ紫!」
目の前の妖怪に反応したのかその名前らしきものを叫び霊夢が御札を構える。
「そんなピリピリしないの、カルシウムでもとって落ち着きなさいな」
そういうとなにもない空間に亀裂?みたいなのが走り、端をリボンで閉じた目玉の蠢く空間が現れた。
……凄く気持ち悪い。
その空間から小箱を取り出すと霊夢に渡し、霊夢が蓋を開けるとそこには干した小魚が入っていた。
「そんなことよりなんの用よ」
箱の中身を確認し、それを懐へと持っていった霊夢は警戒を解くことなく話しかける。
「手荒なことはしないわよ。私はただこの子と話がしたいだけ、さっきも言ったでしょう?」
どうやらこの人は私と話がしたいらしい。
「……変な動きしたら退治するからね」
霊夢がやたら過激なのは気のせいだろうか。確かに相手は妖怪だしこれでいいのかも知れないけど、なにか違和感が。
「はいはい……それでは改めまして、私は八雲紫と申します。以後お見知りおきを」
「あ、っえと…紗由理です」
綺麗な佇まいからの完璧なお辞儀をされ、思わず声が詰まってしまう。
「前から貴方が気になってたの、お話しませんこと?」
すると紫がまたあの気持ち悪い空間を開き、見たことのある外の世界のお酒を取り出して私の盃に注いだ。
「あ、ありがとうございます」
こういうのをお酌って言うんだっけ、立場的に私がする方だと思うんだけど。
「どう?霊夢の所は、あの子変に無愛想だから心配で…」
なんで知ってるんですか、というか貴方親戚の家に暮らし始めた子供の親かなにかですか。
「よくしてもらってますよ。確かに無愛想というか誰にも態度を変えないところがありますけど、私にとってはあまりある生活です」
「そう、それは良かったわ。話は変わるけど貴方は弾幕ごっこで妖怪退治をしたことがあるかしら」
私の解答に満足したのか話題を変える紫。
「無いですね、そもそも弾幕ごっこを初めてやったのが今日ですし」
霊夢に妖怪退治のやり方として霊力を使った退治なら一度あるけど、弾幕ごっこはまだだ。
そもそも妖怪って弾幕ごっこに応じてくれるのだろうか……してくれなきゃ意味ないか。
「あら、それは意外ね……っと、私ばかり聞いても面白くないわね。なにか質問があるなら聴きましてよ?」
ここで質問タイム、せっかくだからここで彼女がどんな人物が見極めておきたい。
「えーっと、紫さんは霊夢のなんなんですか?」
霊夢についてよく知ってるようだし、保護者みたいなこともいってるし…なにより妖怪とそれを退治する巫女なのだ、気にするなと言う方が無理だろう。
「うーん、そうねえ…育て親みたいなものだと思っていいわ。今はあんなだけど、昔の霊夢は可愛かったのよ」
まさかの保護者だった…それもかなり親バカ入ってそうな。
でも妖怪退治をする巫女が妖怪に育てられるって不思議な感じ。
「なんで妖怪である紫さんが霊夢を育てたんですか?」
いつか自分を退治するかもしれない存在をなぜ育てたのか。
「紫でいいわよ……そうね、あの子を育てたのは必要だったから」
必要?なんでまた。
そう聞こうとするも、紫が手でそれを制止する。
「この先はまた今度ね、これ以上はあの子がなにかしてきそうだから今日はこれまでにしておきますわ」
それではと言い残し、あの空間を開きそのなかに身を落とす紫。
よくあんな空間に入れるなあ。
「やっと帰ったわねあのババア、いつまでも親気取って邪魔ばかりするんだから」
先ほど紫から貰った小魚をバリバリ食べながらこちらに歩み寄る霊夢。
自分で言うのもなんだが仮にも親にその態度は無いと思う。
…まあ霊夢の親をしてる紫の姿を知らないのでなにも言えないのだけど。
「霊夢って本当に紫さ…紫に育てられたの?」
「……そうよ、一様先代博麗の巫女が私の母親代わりだったけど、私に構ってくれるほど暇じゃなかったし」
そうだったのか、なんだか悪いことを聞いちゃったな。
「………ごめん」
「べつにいいわよ気にしなくて、過去が変わるわけじゃあるまいし。そんなことよりそれ、私にも寄越しなさいよ」
霊夢が指差す先には、先ほど紫が置いていった外の世界の酒瓶があった。
「はいどうぞ」
それを手に取り、霊夢にお酌をする。
「ありがと………っぷは、外のお酒もなかなか悪くないわね」
注がれた酒をイッキ飲みした霊夢が感想をこぼす。
なぜイッキ飲みして潰れないのか、私はこの前それで戻しかけたというのに。
霊夢といい向こうで飲んでる魔理紗といい、お酒強すぎないだろうか。
私もあんな風に飲めたらもっと楽しいだろうに。
「ほーらボケッとしてないであんたも飲みなさい」
油断しているといつの間にか私の手から酒瓶が消えて霊夢の手に移っていた。
そしてそれが容赦なく私の盃に注がれていく。
「ちょ、もうそんなに飲めないって」
「どうせ明日から忙しくなるんだから今日は潰れておきなさい」
無慈悲な……。
私の心の嘆きも届かず、あれよあれよと酒ご注がれていく。
どうやら諦めるしかなさそうだ。
霊夢の言うとおり明日から私の家の建築を考えないといけないし。
「しょうがない……今日は飲むとしますか」
宴もたけなわ、皆酔いが回りなにがなんだかわからなくなっている。
だがこれこそが博麗神社の宴会であり、日常風景なのだ。
「これがいつまでも続いたらなあ」
ふと夜空を見て呟く私だが、そんなことはあり得ないのは分かっている。時は無情に私達を運んで行くのだから。
だけど、もう少しだけこの幸せを噛み締めていたかった。
お酒を呷り、視線を戻して皆を眺める。
それは、幻想郷を赤い霧が覆う数日前の出来事だった。
次回はいよいよ紅魔郷です。