たっくんがルイズに召喚されたようです   作:カレー9610

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帰れる狼/さよならアルビオン

 夜が明けた。鍾乳洞に作られた城からは、疎開する人々があとからあとから船に乗り込んでいる。巧たちが昨日乗ってきたイーグル号と、貨物船にも、およそ兵士とは見えない者たちが分乗した。

 巧はそれを眺めながら、オートバジンに寄りかかった。

 

「相棒、どうしたね。さっきから上の空じゃねえか。ここを出るなら、さっさと船に乗ったほうがいいぜ。外の火薬のにおいが、ここまでしてきやがる」

「お前、鼻なんかあったのかよ」

「雰囲気だよ、雰囲気。わかるだろ」

 

 巧は鼻を鳴らした。

 

「少しな」

「だろ? さっさと行こうぜ。俺、まだスクラップにゃなりたくねえや」

「駄目だ」

「なんでだい。やっぱり嬢ちゃんが心配なのか?」

「……まあな」

「だったら、行ってやりゃいいじゃねえか。何も、ワルドに気兼ねしてるわけじゃねえだろ?」

「……」

 

 巧は、答えなかった。

 昨晩、戻ってきたルイズは結局、結婚式を挙げることを巧に告げた。大方、ウェールズの顔を見て、断りきれなかったのだろう。気持ちは分からないでもない。

 

「俺は――」

「なんでえ」

「いや。なんでもねえ」

 

 巧は手のひらを見つめた。

 どこまで、ルイズの人生に関わっていいのだろう? 巧はこの世界の人間ではない。おまけに、いつまた灰化が再発するか分からない。

 それに――これまで、自分が行動したせいで失われたものも、数多くあったのではないか? 虚空にあの男の亡霊が立ち上った気がした。

 

「……」

 

 巧は再び、手のひらを持ち上げて、今度は裏返した。手の甲に刻まれたガンダールヴが、弱弱しく光っている。

 

「……やめだな」

「相棒?」

「考えんのはやめだ」

「なんでまた」

「昨日、付き合うって言っちまったからな。俺もベストを尽くすさ」

 

 どのみち、答えの出ない問いだ。だが、ここに真理や、啓太郎や、海堂がいれば――。いや、これも所詮、仮定に過ぎない。

 巧はそれ以上説明しなかった。だが、オートバジンは嬉しそうにライトを点滅させた。

 

「それでこそ相棒だ」

 

    ◆

 

「では、式を始める」

 

 ウェールズ皇太子の声が、礼拝堂の中で厳かに反響した。礼拝堂の中にいるのは、彼を除けば新郎と新婦……ワルドとルイズのみである。

 

「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドは――」

 

 ルイズの頭の中で、ウェールズの声がうつろに反響する。

 なんだか、ここにいるのが場違いなように感じた。全てがオートメイションに進行している。ルイズのあずかり知らないところで。

 いや、これまでもそうだったに違いない。結婚自体、物心つく前に決まっていたものだった。魔法学院に入って、系統に目覚めて、立派なメイジになって――。

 

「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン――」

 

 ルイズはそれを是としてきた。昨日だって、ワルドと、それから何より皇太子の瞳を裏切れなくて、今日、彼女はここに立っている。

 別に、それが悪いと思っているわけじゃない。彼女は貴族である自分に誇りを持っているし、そうであるためには満たすべき条件がごまんとある。だから、後悔はしていない。していない、けれど――。

 

「新婦?」

 

 皇太子がこっちを見ていた。彼女の婚約者も、ルイズを見下ろしていた。

 

「緊張しているのかい? 大丈夫、少しくらい間違えたって、誰も笑う者はいない。これから先も、僕がそうはさせないよ」

 

 ワルドの声は優しい。その瞳に映ったルイズが、ルイズを見返した。

 タクミがいたら、どうするだろう。

 ふと、そんなことを思った。タクミが、ルイズの視点で世界を見回したら――きっと、彼はルイズのようには生きまい。捨て台詞を吐いて、オートバジンでまた、どこかに旅にでも出るのだろうか?

 

「まあ、これは儀礼に過ぎないが……それをやるだけの価値というのは、いつの時代もあるものだ。さ、繰り返そう。汝は始祖ブリミルの名において――」

 

 そんなことはないだろう、と思う。ルイズがルイズであることに縛られているように、タクミもタクミであることに縛られている。

 でも今は、彼の自由さを素直に信じたかった。ルイズは深呼吸して――ウェールズの言葉の途中で、首を振った。

 

「新婦?」

「ルイズ? どうした、気分でも悪いのかい?」

 

 ルイズはワルドに向き直った。

 

「違うの。ごめんなさい」

「日が悪いなら、改めたって――」

「違う、違うのよ。ごめんなさい、ワルド。私、あなたとは結婚できないわ」

 

 ウェールズが、ふっと肩の力を抜いた。

 

「新婦は、この結婚を望まないのか?」

「はい。お二方には大変失礼をいたすことになりますが、私はこの結婚を望みません」

 

 ワルドの顔に朱がさした。対照的に、ウェールズはつき物が落ちたような顔で祭壇を降りた。

 

「ひょっとして、私は大変な身勝手をしてしまったのかも知れないね。子爵にも、無礼を働くことになってしまった。誠にすまない」

「そんな……お顔を上げてください、殿下」

「死者が生者を自由にしようなどとするものではない。子爵、どうか彼女を恨まないでやってくれないか。彼女は、私の期待に応えようとしてくれただけなのだ」

 

 ウェールズが怪訝な表情になった。ワルドは彼に見向きもせず、ルイズの手をとった。

 

「緊張してるんだ。そうだろ、ルイズ。君が、僕との結婚を拒むはずがない」

 

 ルイズは三度首を振った。

 

「ごめんなさい、ワルド。本当に……ごめんなさい」

「君は、僕のことが」

「憧れてたわ。一度は恋だったかもしれない! でも、でも……今は、違うのよ」

 

 ワルドは顔を上げた。ルイズは思わず後ずさる。彼の表情は、いくらかの狂気をはらみつつあった。

 

「世界だ、ルイズ。僕は世界を手に入れる。そのために君が必要なんだ。君の能力が……君の力が!」

「私、世界なんかいらないわ」

「僕には要る! そのために、君の才能が必要だ」

「いやよ、いや! ようやく分かったわ、あなたと結婚したいと思えなくなった理由が! あなた、私をこれっぽっちも見てないもの! 私を通して、ありもしない魔法の才能を見てるだけなのよ! 手を離して!」

 

 ワルドはぱったりと動きを止めて、手を離した。

 

「こうまで言っても駄目なのか。この旅で君の気持ちを掴むため、ずいぶん努力したんだが」

 

 魔法衛士隊の名に恥じぬ動きで、ワルドは杖を抜いた。研ぎ澄まされた切っ先が、稲妻さながらに少女を狙う。

 だが、彼の刃は柔肉ではなく、大理石の床をえぐった。

 

「何!?」

 

 ハルケギニアに存在しない合成樹脂の靴底が、彼の杖を踏みつけていた。飛び出しざまの蹴りで、ワルドの切っ先はあさっての方向に逸らされたのだ。

 

「そのへんにしとけ。こういうのは、しつこいとカッコ悪いぜ」

 

 ワルドは下から睨め付けた。

 

「イヌイ……タクミ……!」

「ああ。俺だぜ」

 

     ◆

 

「おい、無事か?」

「うん。……来てくれたのね」

「まあな」

 

 ワルドが巧の足元から杖を引き抜いた。

 

「貴様……!」

 

 杖を突き出しかけ、飛び退る。一瞬前まで彼のいた床が、派手に爆ぜた。杖を抜いたウェールズが、呪文を詠唱したのだと分かった。

 

「タクミくん、気をつけたまえ。その男は、まだまだやる気だ」

「ああ、そうらしいな」

 

 一人、礼拝堂に追い詰められたワルドは、依然として戦意を失っていない。その瞳には、爛々とした光が宿っている。

 巧はウェールズを一瞥した。

 

「あんたは、ルイズを連れて逃げてくれ。こいつは俺が相手をする」

 

 懐からファイズフォンを抜いた。555。

 

「変身!」

 

【COMPLETE】

 

 薄暗い礼拝堂が真っ赤に照らし出された。光の中に銀色の戦士が浮かび上がる。

 戦士は、リズムを取るように手首を振って、駆け出した。

 

【READY】

 

 巧はファイズショットを抜いた。オートバジンは外に置いてきた。ルイズたちを守ってくれるはずだ。

 

「貴様と戦うのはこれで二度目だな。加減はなしで行くぞ」

「三度目だろ」

 

 巧はワルドの杖をファイズショットで受け止めた。ワルドの顔がゆがむ。

 

「気づいていたのか」

「ああ。動きが同じだったからな。宿を襲ったのも、お前の差し金だろ」

 

 硬質な音を立てて二人は離れた。

 

「そうだ。あそこでお前を殺せなかったのは失敗だったな」

「ああ。お陰でお前の本性に気づけた」

「言わなかったのはあの小娘への気遣いか? 全く大した忠犬ぶりだな。お前のような男は、貴族にも少なくなった。僕のようにね」

「らしいな」

 

【EXCEED CHARGE】

 

 おしゃべりは終わり、とばかりに巧はワルドの杖をかいくぐった。

グランインパクト。死なないまでも、ワルドの腕は二度と使い物に、ならなく――。

 

「なんだ?」

 

 ワルドの全身が燃え上がり、崩れ落ちた。まさか。巧は十分に手加減していたはずだ。

 

「危なかったな」

 

 背後からの一撃を受け、巧は床に転がった。倒したはずのワルドが立っている。

 礼拝堂の入り口から、傷だらけのウェールズがルイズをかばいながらまろび出て、巧のそばに転がった。そのあとから、ぞろりとワルドたちが顔を出す。

 

「分身か!」

「いや、あれは風の偏在だ。分身と違い、全てが本物だ」

 

 ウェールズは息をついた。その腕に、ひどい水ぶくれが出来ている。

 

「その通り。どうやら、任務のうち三分の二は達成できそうだな」

「任務……?」

 

 ルイズが怪訝な表情でワルドを見上げる。

 

「そうとも。アルビオンでの僕の目的は三つ。一つは君。もう一つは君の持つアンリエッタの手紙」

 

 ワルドは笑みを浮かべる。

 

「そして最後はウェールズ、お前の命だ」

「……やはり、貴族派か。トリステイン貴族の中にも潜んでいるとはな」

「我々はハルケギニアの将来を憂い、国境を越えて繋がった貴族の連盟さ。表の所属など、無意味な仮面に過ぎない」

 

 ワルドの“偏在”がいっせいに仮面をつけた。

 

「その仮面! 最初から、全部あなたが仕組んでたのね!」

「そうとも。そちらの使い魔はもっと早くに気づいていたようだがね。さて、他に何か聞きたいことはあるかな? 元婚約者のよしみだ、冥土の土産に教えてあげるよ」

 

 ルイズは唇を噛んで、ワルドを見返した。

 

「あんたなんか……あんたなんかに、聞くことはないわ! それに、こんなところで死ぬつもりもないんだから!」

「いや、死ぬよ。ウェールズは治療なしでは戦えない。君の頼みの使い魔も、五対一なら十分殺せる。魔法衛士隊の戦力分析は、伊達ではないよ」

「……ああ、そうかよ」

 

 巧はゆっくり立ち上がった。ことここに至っては、遠慮する必要はなかった。

 

「ほう! 向かってくるのか。素晴らしい。正直、君は嬲り殺しにしたかったからな。魔法衛士隊の戦術陣形、とっくり味わって――」

 

【COMPLETE】

 

 巧はもう、何も言わなかった。ただ、手元のスイッチを押した。

 

【START UP】

 

 ファイズは超加速した。

 

【THREE…TWO…ONE...】

 

衝撃音が五連続、ほとんど同時に聞こえて、礼拝堂の中に小爆発が起こり、ワルドの“偏在”は残らず消滅した。

 

【TIME OUT】

 

 アクセルグランインパクト。

 

「があああああああ!」

 

 最後に残ったワルドがひざをついた。その右腕は衝撃に醜く爆ぜ、鮮血を滴らせている。

 

「何……何、が……クソ、この『閃光』ともあろうものが……」

 

 ワルドは霞む視界に、銀色の戦士を捉えた。戦士は奇妙な音を立てながら、元の姿に戻りつつある。ワルドは彼と、目があった。

 ゆったりした動きで、戦士は構える。完全敗北。ワルドの脳裏にその言葉がちらついた。

 

「これで勝ったと思うなよ……お前達はすぐに死ぬ! 同胞達は今にもこの城を蹂躙するだろう! 逃げ場はどこにもない! ウェールズも、そこな小娘も、貴様も同じだ! 愚かな王党派もろともに灰になるがいい、ガンダールヴ!」

 

 ワルドは不器用に左手で杖を振って、宙に浮くと、巧が入ってくるときにあけた穴から、空に飛び去った。

 巧はそれを見送ると、変身を解いた。ルイズは、倒れたウェールズのそばに跪いて、泣いていた。

 

「殿下……殿下! しっかりしてください!」

「こいつは……」

「タクミ、どうしよう、殿下が死んじゃうわ! 私、私なんかを、かばって……」

 

 巧は唇を噛んだ。彼にはどうしようもない。ルイズは顔をくしゃくしゃにして、泣いた。

 

「私、また何も出来ないわ! ここまで来たのに、私――!」

 

 その頭を、ウェールズの手が優しくなでた。

 

「そう泣くものではない、トリステインの大使殿」

「殿下!」

「ありがたいことに、まだ生きている。ヤツは結局、何一つ任務を果たせなかったようだな」

「動いてはなりません、お怪我が……」

「何、大した傷ではない。すまないが、私の杖をとってくれないか」

「ですが――」

「なに、このくらいの傷、自分で治してしまえるさ。少々寿命は縮まるだろうが、この状況ではな」

 

 ウェールズは杖を器用に使って、水ぶくれをなぞった。ワルドがつけた傷は、たちまち癒えた。

 

「タクミくんは、怪我はないかな」

「ああ。おかげさんでな」

「それは何よりだ。本当に――いや。今は、君たちを脱出させなくてはな。まだ正午には間があるが、船は出てしまったし、頼みのグリフォンはあの男のものだったし。情けないことに、我々には竜騎士の一騎も残っていない。さて、どうしたものか……」

 

 考え込むウェールズの足元で、地面がぼこりと盛り上がった。

 

「なんだ?」

 

 三人は目を見合わせて、距離をとった。敵が地面から現れたのだろうか。

 ウェールズが杖を向けたとき、床石が割れて、茶色の生き物が顔を出した。

 

「こいつは!」

「知り合いか?」

「知り合いというか、使い魔です。知り合いの。ジャイアントモールのヴェルダンテ」

 

 モグラが出てくると、後からひょっこり、金髪の少年が顔を出した。

 

「ヴェルダンテ、一体どこに穴をつなげたんだい? ずいぶん広いところに出たけど……おや、ルイズにタクミじゃないか! こんなところにいたのかね」

 

 ギーシュは早口にそういうと、立ち上がって土をはたいた。

 

「ところで、ここはどこかな。それから、そちらの、方は……」

 

 そこまで言って、気づいたらしい。ギーシュは真っ青になって、ひれ伏した。

 

「こ、これは皇太子殿下! たたた、大変な無礼をお許しください!」

「いや、楽にしてよろしい。それより、その穴は城の外に続いているのかな?」

「は、その通りです! おそらく、ルイズ、や、ヴァリエールの水のルビーを追ってきたものかと!」

「なるほど」

 

 ウェールズはルイズとタクミに向き直った。

 

「おあつらえ向きの脱出路だ。君たちは早く逃げたまえ。ここはすぐにも、戦場になるぞ。そうなれば、命の保障は出来ない」

「……殿下もご一緒ください! 姫殿下もそれを望んでおいでです!」

「ならぬ。ラ・ヴァリエール嬢、密書を持って帰還し、大使の仕事を全うせよ。私もアンリエッタも、それを望んでいる。君!」

「はいッ!」

 

 突然呼ばれたギーシュが、直立不動で答えた。

 

「彼女をお連れするんだ」

「は! ルイズ、行こう!」

「ちょっと、離しなさいよ! 離せったら!」

「仕方ないだろう! 行くぞ!」

「ギーシュ、この! タクミ! なんとかしなさいよ!」

 

 巧はギーシュに抱えられて穴に消えるルイズを振り向いた。ギーシュが手招きしている。

 

「君も、早く!」

「先に行け」

「なんだって?」

「外にバジンを置きっぱなしなんだ。俺はあいつと一緒に、空から帰る。どうせあいつの龍で来たんだろ。空で合流すればいい」

「タクミ、あんた……」

「心配すんな。すぐに追いつく」

 

 ギーシュは一瞬、彼を見つめた。

 

「……分かった。大陸の北側へ来たまえ。今ならそこが手薄だ……あとで会おう」

「ああ」

 

 二人は完全に、穴の中に消えた。礼拝堂には、ウェールズと巧だけが、残された。

 

「君も、早く行きたまえ。本当に帰れなくなるぞ」

「ああ。かもな」

 

 巧はファイズフォンでオートバジンを呼んだ。二足歩行の機械が、天井にあけた穴から降りてくる。

 

「相棒、どうしたね。嬢ちゃんたちは、もう逃げ出したみてえだが……」

「ああ、ちょっとな」

 

 巧は息をついで、ウェールズを見た。ウェールズは目を眇めた。

 

「俺と、こいつは――」

「やめておきたまえ。死ぬぞ」

「それはあんた達も同じだろ。放っておけるわけないだろうが」

「放っておけ。君には関係のないことだ。君はトリステインの少女の使い魔で、アルビオンには何の義理もない。君のしようとしているのは愚かな自殺行為だ」

「何――」

「私は皇太子だ。王族だ。国に殉ずる義務がある。君にはそんな義務はない。あの少女にもない。わかるかな」

 

 ウェールズの言いたいことは、わかる。しかし、しかし。巧は手のひらが崩れ落ちるような錯覚を覚えた。

 何もつかめない。何も手元に残らない。

 

「それでも、私たちのために何かしたいというなら――」

 

 ウェールズは、巧に向かって何かを投げた。輝きながら宙を待ったそれを、巧は危なげなくキャッチした。

 

「アルビオン王家に伝わる、風のルビーだ。アンリエッタに渡してくれ」

 

 そう言って、ウェールズは巧に笑いかけた。

 

「タクミくん、君の一番近くにいる少女を、守ってやれよ。僕にはできなかったことだ。それからついでがあれば、アンリエッタのことも守ってくれ。僕にはもう、できない」

 

 ウェールズは最後に、例の自嘲の笑みを見せた。

 

「さっきはああ言ったが、やはり生者を縛らずにはいられないようだな。未練だよ」

「……俺は平民で、使い魔だ。好きに吐き出しとけばいい」

「いや」

 

 ウェールズは首を振った。

 

「友人のよしみ、ということにしておいてくれないか。ずいぶんわがままなようだがね」

「構わないぜ」

 

 巧は小さく笑った。ウェールズも少し笑って、それから皇太子は巧に背を向けて、彼の戦場に消えた。

 

    ◆

 

「ちょっと、落ち着きなさいよ。ダーリンはすぐ合流するって言ったんでしょ?」

「落ち着いてられないわよ! あいつは、あいつはね……」

 

 死ぬ気なのだ、とは、ルイズは言わなかった。言ったら、本当にそうなるような気がしたからだ。

 

「ギーシュ! なんであの時タクミを止めなかったのよ!」

「し、仕方ないだろう! あんな顔をされたら、止められる男はいないよ!」

「それを止めなきゃしょうがないでしょうが! このバカ!」

「ば、馬鹿だとぅ!」

 

 はいはい、とキュルケが仲裁する。

 

「結局、私たちの任務もあんまり意味なくなっちゃったわね。間諜の真似事も、結構面白かったんだけど」

 

 タバサがぼそりと答える。

 

「そんなもの」

「そうね。生きてるだけで大成功よ、こっちは」

 

  キュルケはため息をついて、空を見上げる。と、ルイズが静かになっていることに気づいた。一瞬遅れて、甲高い推進音に気づく。銀色のゴーレムが青年を抱えて飛んでくるのが、ようやく彼女にも分かった。

 

 

 

「遅いわよ」

「悪かったな」

「帰ってこないと思ったわ」

「……すぐに追いつく、って言っただろ」

 

 風竜の背びれを背もたれに、ルイズたちは腰掛けている。タクミを降ろしたオートバジンが、竜と並んで飛んでいた。

 

「死ぬのかと……思ったわ」

「……」

「勝手に怪我するなって言ったでしょ。死ぬのも、駄目なのよ」

「……ああ、気をつける」

「助けてくれて、ありがと」

 

 タクミの返事はなかった。

 

「……今回、私は何にも出来なかったわね。ワルドに騙されて、あんたに助けられて。それだけ。戦争も止められなかったし、きっとみんな、死んじゃった」

「そんなこたないさ。お前だから、ウェールズは手紙を託したんだ。ワルドでも俺でもない、お前に」

「そう、かな」

「ああ。たぶんな」

「たぶん、ね」

 

 ルイズはふっと笑った。少しだけ、胸の奥が暖かくなったような気がした。

 

「ねえ、そういえば、忘れてたわ」

 

 タクミが怪訝な表情で振り返る。

 

「おかえりなさい、タクミ」

 

 彼は、はとが豆鉄砲食ったような顔になって、やがて、ほんの少しだけ、表情を緩めた。

 

「ああ、ただいま」

 




風のアルビオン編、これにておしまい!  結局文字数的にも一巻分を超えてしまいました。

ゼロの使い魔編は無数に生まれたゼロ魔ssのお陰でテンプレも整備されていますし、プロットの再編も簡単でしたが、アルビオンまで行くものはそれなりに希少なので苦労しました。

そんなわけで、アルビオン編はかなり手癖で味付けしました。
それでも、やはり基本プロットがきっちりできているだけで筆が止まることはなくなるもので、ヤマグチノボル御大の世界構築には舌を巻くばかりです。

閑話休題。

この前お気に入りが50を超えてキャッキャしていたのですが、いつのまにか三桁の大台を超えていました。
ひとえにゼロの使い魔、仮面ライダーファイズという作品の魅力で引っ張っている作品ではありますが、それでも数字に出ると感動もひとしおです。

感想も何度も読み返し、かみ締めております。
モチベの続く限りお話も続きますので、愛想の尽きないうちはお付き合いいただけると幸いです。





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