たっくんがルイズに召喚されたようです   作:カレー9610

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観察と復讐/人のいうことを全然聞かない男達

 巧とワルドは宿の中庭で向かい合った。

 

「なかなか雰囲気があるだろう。この宿は、かつてはアルビオンの侵攻に備える前線基地だったのだ」

 

 歴史と兵に興味があるというのは嘘ではないらしい。ワルドは得意げにそう言った。

 

「古き良き時代、貴族がまだ貴族らしかったころ……名誉と誇りをかけて貴族達はぶつかり合ったものさ。ま、実際は下らないことで戦うことも多かったんだが……例えば、そう、女を取り合ったりね」

 

 巧は内心、ため息をついた。この男は、十近くも年の離れた少女に本気で懸想し、彼女に近づく“悪い虫”を本気で排除する気らしい。

 巧にはルイズに対してそんな気はない。ワルドに付き合ってやることにしたが、もちろんおとなしく排除される気もなかった。

 

「興味ねえな。さっさと始めようぜ」

「まあ、待ちたまえ。貴族の立会いには、それなりの作法というものがあるものだ。介添え人がいなくてはね」

「介添え人だ?」

「ああ。呼び出したのはこちらだからね。介添え人も用意させてもらったよ。もう、顔を見せるはずだ」

 

 ワルドの言葉通り、程なくして足音が聞こえてきた。ややあって、ルイズが物陰から顔を出す。

 

「タクミ……? 何してるのよ」

「お前こそ。朝っぱらから、暇してるのかよ」

 

 ルイズは頬を膨らませかけて、はっとした表情になった。

 

「ワルド、一体何するつもりなの? 来いって言うから来たけれど」

「彼の実力を少し試してみたくなってね」

「もう、バカなことやめて。今はそんなことしている場合じゃないでしょう?」

「それは重々承知しているがね。軍人というのは厄介で、強いか弱いか気になってくると、夜も眠れない生き物なのさ」

 

 ルイズは、今度は巧を見た。

 

「タクミ、やめなさい。うっかり怪我でもしたらどうするの? ギーシュと戦った時に言ったこと、忘れたとは言わせないわよ!」

「さあ、忘れちまったな」

 

 巧はベルトを嵌めた。例え殺しは無しの喧嘩とはいえ、メイジ相手に生身で挑むのは悪手でしかないことは、それこそギーシュとやりあった時に嫌というほど理解していた。

 

「もう! どういうつもりなのよ!」

 

 ルイズが地団駄を踏むのを見て、ワルドは微笑んだ。

 

「大丈夫だよ、ルイズ。君の使い魔を傷つけたりはしない。……さ、介添え人も来たことだし、始めるとしようか」

 

 ワルドは腰から杖を抜いた。フェンシングさながらに突き出して構える。

 

「待ちくたびれたぜ。――変身!」

 

【COMPLETE】

 

 かつての練兵場が真っ赤に照らされ、巧はファイズに変身した。

 

「全力で来い」

「ああ。遠慮なく行かせてもらう」

 

 巧は準備運動とばかりに手首をスナップさせると、ワルドに踊りかかった。

 

 

 

 驚いたことに、ワルドは巧の初撃を杖で受け止めた。細い杖は良くしなって、巧の拳を受け止める。そのまま飛び退って、距離を開けた。

 

「魔法は使わないのかよ」

「もちろん使うとも。でも、僕は魔法衛士隊だからね。ただ魔法を唱えるだけじゃないんだ」

 

 ワルドは一歩踏み込むと、風切り音を立てながら連続して突きを見舞った。巧は一つずつ丁寧にいなしていく。なるほど、ズレた自信ではないらしい。ワルドの動きは、巧みが戦ってきた中でも上澄みのオルフェノクに相当する。

 突きながら、ワルドが口を開く。

 

「詠唱すら、戦いに特化されている。杖を構え、剣のように扱い、詠唱を完成させる。軍人の基礎さ」

 

 ワルドは巧の拳を再び杖で受けた。

 

「君は――」

 

 まだ何か言っていたが、巧はワルドを無視した。確かにワルドはギーシュと比べれば格の違うメイジのようだったが、巧から見れば隙はある。おそらく、彼の技術は誰かと組んで戦うためのものなのだ。あるいは、巧をまだ舐めているのか。

 

 巧は一歩踏み込むと、ガードに回ったワルドの杖をかち上げた。ワルドは正面からの打ち合いを避けて、飛び退った。生身の人間とやりあうには、いくら加減してもファイズの出力は高すぎる。

 

「デル・イル・ソル・ラ・ウィンデ――」

 

 低い声で詠唱を続けながら、ワルドは巧の攻撃を避け続けた。ご自慢の魔法で、カタをつけるつもりらしい。

 巧は苛立ちながら、さらに踏み込んだ。観察は終わった。ワルドを詰むのはたやすい。

 

(けどな――)

 

 ワルドはルイズの婚約者だ。ルイズの目の前で叩きのめすのは、気が引ける。といって、ワルドのためにぶちのめされるのも気に食わない。

 

(めんどうくせえな!)

 

 ゴチャゴチャ考えながら戦うのは得意じゃない。巧はなんらかのリズムを持って突き出されたワルドの杖を払った。男の目が見開かれるのがわかる。がら空きになったボディに、巧は拳を――。

 

「いい加減にして!」

 

 叩き込みかけて、やめた。拳はワルドにほんの少しぶつかって、止まった。堪えかねたルイズが大声を上げたのだ、と気づくまで、ちょっぴりの時間がかかった。

 

 ワルドは、やめなかった。

 

 ぼん、と鈍い音を立てて空気が弾け、巧は横殴りに殴られて宙を待った。派手な音を立て、巧は隅に積み上げられた樽に突っ込んだ。ビープ音を立てて変身が解ける。

 

「タクミ! ……ちょっと、ワルド!」

「いや、すまない。怪我はないかな」

 

 巧はワルドの手を振り払った。

 

「あちこち痛えがな。大丈夫だ」

「結構。ともあれ、勝負ありだな」

「何が勝負あり、よ! あなたは魔法衛士隊の隊長なのよ! タクミと戦ったら、あなたが勝つに決まってるじゃない!」

「では、君はアルビオンでも敵を選ぶつもりかな? 貴族に囲まれたときも、弱いので見逃してください、と?」

「それは……」

 

 聞くに堪えない。巧は樽から身を起こした。

 

「これで分かったろう。彼では君を守れないよ」

「ああ。かもな」

「ちょっとタクミ! どこいくのよ!」

「朝飯はまだだろ。部屋に戻って、寝る」

「血が出てるじゃないの! 先に手当てしないと!」

 

 樽のささくれで切ったのか、額から血が流れてきていた。巧は額をちょっと触って、ルイズの出したハンカチを押しとどめた。

 

「いらねえよ。こんなの、怪我のうちにはいるか」

 

 それからワルドに顔を上げて、ささやかな敵意を向ける。

 

「この借りは必ず返す。次はないぜ」

 

 巧はきびすを返す。ワルドは冷ややかに笑った。

 

「“次”があることに感謝するんだな。戦地で死ねば、そんな口も叩けないよ」

 

    ◆

 

 夜になった。階下の食堂からは、目を覚ましたギーシュとキュルケたちが飲んでいる声が聞こえてくる。出発前夜の前祝ということらしい。

 巧は一人で、部屋のベランダに出ていた。大騒ぎは好きじゃない。それに、ワルドがいるというのが気に食わなかった。

 

(まあ、向こうもそう思ってるだろうけどな――)

 

 ともあれ、顔を合わせてギスギスするだけ損だ。巧は小さくため息をつくと、ベランダの柵に寄りかかった。と、部屋の中の人影と、目が合った。

 

「お前……」

 

 ルイズだった。

 

「タクミも下へ来たら? 皆、残念がってるわよ」

「皆?」

「……キュルケとか」

「苦手なんだよ、ああいうの。それに、俺を殴ったやつが二人もいる宴会なんて、ごめんだね」

「ワルドに負けたことを気にしてるの? あの人はスクウェアクラスで、衛士隊の隊長なのよ。負けたって恥でもなんでもないわ」

 

 巧は顔をしかめる。

 

「気にしてねえよ。っていうか、あんまり俺に構うな」

「別に誰に構おうが私の勝手じゃない! 私が構いたいときはあんたに構うし、構いたくないときは構わないわよ」

 

 巧は黙った。そう言われてしまっては、巧にできる事はあまりない。ルイズは巧の隣に来ると、自分もベランダの柵に寄りかかった。

 

「タクミ、ワルドのこと嫌いでしょ」

「別に」

「いいわよ、とぼけなくっても。それより、どうして?」

「なんとなくな」

「……もしかして、私に気を使ってるの? あんた、気に入らない相手に遠慮したりしないでしょ」

 

 巧はすっとぼけた。

 

「別に」

「うそ。私のときはそうだったじゃない!」

 

 巧は黙って、そっぽを向いた。ルイズは大きなため息をついた。

 

「もう……いつも通りにしなさいよ。ワルドもあんたも、互いに変な気を使ってて、かえってこっちがやりにくいわ。一度、きちんと話してよ。長い付き合いになるんだし」

「長い付き合いだ? お前が結婚したら、俺はついていかないって言っただろ」

「そんなすぐに結婚したりしないわよ! これからはワルドと休みを合わせて、ちょくちょく会ったり、ご飯を食べたり……その時は、あんたも私に付き合ってもらうからね」

 

 巧は黙って聞いていた。これも、『時々すっごい熱くなる』というやつなのだろうか?

 

「そうかよ」

 

 ルイズも彼女なりに、十年のブランクを埋めようとしているのだろう。巧は息をついた。

 

「まあ、好きにしろよ。気が向くうちは、付き合ってやるから」

 

 巧は首をめぐらせて、ルイズのほうを見た。月明かりが翳った。今夜は雲ひとつない、快晴である。

 二人は同時に、月を見た。

 

 月は見えなかった。代わりに見えたのは、石でできたゴーレムである。その肩に、黒いローブが翻る。着ているのは、二人のよく知る女で――。

 

「フーケ!」

「感激だわ。覚えててくれたのね」

「忘れるわけねえだろ。お前、脱獄したのか」

「察しがいいね。私みたいな美人は、もっと活躍しなきゃいけないって、義人が出してくれたのさ」

 

 フーケの隣に、白い仮面をかぶった男が顔を出す。ルイズは叫んだ。

 

「何が義人よ! こんなところに、何しにきたってわけ!?」

「御礼に来たのさ! 素敵なバカンスをありがとう、ってね!」

 

 石のゴーレムがベランダを粉砕する。一瞬早く、巧はルイズを抱えて飛び退っていた。階段を転がり落ちるようにして下る。

 

 

 

 階下も修羅場だった。ゴーレムだけでなく、完全武装した傭兵の一団が宿の襲撃に投入されたらしい。一杯やっていたメイジたちは、テーブルをひっくり返した陣地から、傭兵たちに火線を伸ばしていた。

 巧とルイズはファイズギアのアタッシュケースを盾にしながら、テーブルの裏に駆け込んだ。

 

「おい、どうなってる!?」

 

 キュルケが振り向いた。

 

「それはこっちの台詞よ! あんた達、何の用事でここまで来たわけ? あたし達に襲撃される謂れはないわよ」

「色々あってな。それより、上にはフーケが来てるぜ」

 

 ワルドが羽帽子を押さえながら、口を開いた。

 

「おそらくアルビオン貴族の手引きだろう。傭兵団も、おそらくは貴族派の手のものだ」

「何をしてるのかしらないけど、このままじゃジリ貧よ。魔力が切れたところを突撃されるのは時間の問題だわ」

「その時は、ぼくのゴーレムで防いでやる」

「ギーシュ、あんたのワルキューレじゃ、せいぜい一個小隊が関の山でしょ。あたしはあんたより、ちょっとばかし戦については詳しいのよ」

「……いいか、諸君。聞きたまえ」

 

 ワルドが低い声で言った。メイジ達は彼の言葉を傾聴する。

 

「このような任務は、半数が目的地にたどり着けば成功とされる。……僕とルイズはこのまま港へ向かう。ギーシュ君たちはここに残れ」

「わ、わかりました!」

「使い魔君も、いいね」

「ああ」

「ミス・ツェルプストーとタバサ嬢には、申し訳ないが……」

「迷惑よ! 人の事情も知らないで!」

 

 キュルケは文句を垂れたが、タバサはうなずいた。

 

「囮。了解」

「ちょっとタバサ!」

「早く行って」

 

 ワルドはうなずくと、ルイズの手を引いた。巧はベルトを取り出してはめると、ルイズに言った。

 

「心配すんな。すぐに追いつく」

「でも……」

「いいから早く行きなさい。貸し一つよ、ヴァリエール!」

 

 キュルケはしっしっと手を振って、ワルドとルイズを送り出した。タバサが風の防御へ気を張る。

 巧は変身しかけて――ギーシュの肩を叩いた。

 

「おい、大丈夫か」

「だだ、大丈夫さ。ぼくはグラモン元帥の息子だよ、きみ。卑しき傭兵ごときに遅れをとってなるものか」

「全く、トリステインの貴族は勇ましいわね。口だけじゃないと、もっといいんだけど」

 

 キュルケは手鏡を取り出して、手早く化粧した。

 

「ダーリン、外のゴーレムは任せて良いかしら? 傭兵たちはこっちで相手をするから」

「ああ。けど、三人だけで大丈夫なのかよ」

「もちろん。戦はゲルマニア貴族のたしなみですわ」

 

 巧の表情を見て取ったのか、タバサが付け加えた。

 

「敵の目的は戦力の分散。追いつくなら、急いだほうが良い」

 

    ◆

 

「なんだ?」

 

 フーケは眉をひそめた。傭兵の一角がどよめいたかと思うと、銀色の塊が飛び出してきた。同時に、傭兵たちの隊列が炎にまかれて、崩れる。

 

「ったく、使えない連中ね! どいてなさ――!」

 

 ゴーレムの目の前に、赤い円錐が出現した。かつてゴーレムを粉砕してくれた、例の槍だ。

 待ってましたとばかりにゴーレムは守りを固める。

 土のない代わりに石で作ったゴーレムは、耐久性も破壊力も、以前のものを凌駕している。

 

「来な! 今度は負けやしないよ!」

 

 フーケは声を張り上げた。誤算があったとすれば、相手は乾巧だったということと、彼がとても“急いでいた”ということだ。

 同じ相手と戦う時、巧はモタモタしてはいない。さっさと切り札を切って、倒しに行く。今回切ったのは、急いでいるときのアレだ。

 

 ガードを固めたゴーレムに、紅蓮の円錐が複数狙いをつけた。

 

「何!」

 

 フーケは咄嗟に飛び降りる。それが彼女の命を救った。

 

「やッ!」「たァ!」「ハァ!」「てりゃーッ!」「とりゃァァーッ!」

 

 複数の方向から同時に声がして、ゴーレムに紅い槍が突き刺さった。ゴーレムは内側から大爆発を起こし、崩れ落ちる。

 

【REFORMATION】

 

 白いガスを噴出して、にっくき銀色の戦士が着地したのが見えた。戦士に銀色のマシンが寄り添う。

 

「おいバジン! 行くぞ!」

「待ちくたびれたぜ相棒!」

 

 フーケは再び土にまみれ、戦士が遠ざかるのを見送った。

 

「ちくしょう……」

 

 女はつぶやいた。誰にも聞こえないように。彼女だけに聞こえるように。

 戦士はどこまでも、彼女を置いて遠ざかっていく。炎の中から、学生たちの影が近づいてくるのが見えた。




今日はここまで。

戦闘描写の濃淡はなかなか自信を持ちにくいところです。


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