たっくんがルイズに召喚されたようです   作:カレー9610

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亡国の城/大使のお仕事

 巧は桟橋を示す道標に従い、港に続く山道をオートバジンで駆け上がった。月光の届かない山道にファイズの纏う赤いラインの光跡がにじむ。

 

「相棒! 嬢ちゃんたちがどの船に乗んのか、わかってんのか?」

「知らねえよ、そんなもん! 行けば分かるだろ!」

 

 フーケと一緒にいた仮面の男の姿がいつの間にかなくなっていた。ルイズとワルドが先行したことが何かのタイミングでばれたらしい。

 

「おい、急げよ!」

「無茶言うな、全力だ!」

 

 山道が終わって、いきなり視界が開けた。巨大な樹木が目に入る。長大な枝には、巨大な果実がなっていた。

 

「あれが桟橋か」

 

 果実に見えたものは船だ。船が綱で舫われて、枝に吊るされている。

 

「相棒! 上だ!」

 

 オートバジンの声に、さっと身をかがめた。進行方向に、白い仮面の男が立ちふさがる。黒い杖を抜いて、男は身構えた。

 

「相棒、まずいぜ。一隻、港を離れかかってる」

「ああ、俺にも見えてる」

 

 貨物船と思しき船が、もやいを解きかけているのが、これだけ離れていても見えた。ワルドが急遽、発進を取り付けたのだろう。ぼんやりしていれば間に合わなくなる。

 

【READY】

 

 巧はファイズエッジを抜いた。赤い光の剣が闇に輝く。

 

「悪いが、ぐずぐずしてらんないんでな。一気に決めさせてもらうぜ!」

 

 巧は男に斬りかかった。男が低い声で詠唱する。男の杖が青白い光に覆われ、ファイズエッジを受け止めた。巧は舌打ちする。もやいを完全に解いた船は、いよいよ港を離れつつある。

 二人は輝く剣を目まぐるしく振るい、数合打ち合った。そのたび火花が散って、夜の闇に零れ落ちる。埒があかない。

 そう見たのは仮面の男も同じか、打ち合いを切り上げると男は距離をとった。低い声で詠

唱を開始する。

 巧はエンターキーを押した。

 

【EXCEED CHARGE】

 

向かい合う二人の体が薄く光ったように見え……直後、めちゃくちゃな光が丘を照らした。それは空中を走った無数の雷光と、地を這う紅蓮の光線だった。

 

「ぐぁあああああ!」

 

 ファイズの体の表面を電撃が走り回った。体中を無数の針で刺されるような感覚に、巧はのたうつ。のたうって――電撃を振り払った。男の放った雷はソルメタルの表面を流れ落ちて、地面に逃げた。

 

「ぅらぁぁァアアアア!」

 

 ファイズエッジを携え、巧は赤い光の走った地面を駆け抜けた。男はすでに、紅蓮の光にとらわれて空中をもがいていた。

 

「はッ! せやァーッ!」

 

 巧はファイズエッジを大きく二度、振るった。一太刀目は男を深く切り裂いた感覚があった。しかし、二太刀目は手ごたえがない。

 

「何?」

 

 一撃で男が灰になった……わけではなかった。二撃目の時点で、男は跡形も無く消えていた。

 

「おいバジン、今、何がどうなった?」

「知らねえよ! それより相棒、急がねえと! あの船、出ちまうぜ!」

 

 巧は釈然としないものを抱えたまま、オートバジンにまたがった。エンジンをふかす。枝の一つから、幻獣が一頭、船に向かって飛び立ったのが見えた。ワルドのグリフォンだ。

 

「あそこだ、相棒! 飛ばせ!」

 

 オートバジンががなった。

 

    ◆

 

 人型に変わったオートバジンにつかまって、巧はグリフォンと一緒に船の甲板に降り立った。

 

「タクミ!? ちょっと、フーケはどうしたの?」

「倒した」

「倒したって……」

「言ったろ。すぐに追いつくってな」

 

 巧はワルドに向き直った。

 

「悪いな。ハネムーンを邪魔しちまった」

「いや、見上げた忠誠心だ。賞賛に値する。大した忠犬ぶりだな」

 

 巧は鼻を鳴らした。ルイズはまだ何か言いたそうにしていたが、片手を振って制した。

 

「立て続けだったんでな、疲れたんだ」

 

 巧は舷側に寄りかかると、まぶたを閉じた。船の帆が風を切る低い音を聞きながら、巧は浅い眠りに落ちた。

 

 

 

 アルビオンが見えたぞ、という声に、隣で舷側に寄りかかった体温が起き上がった気配がした。巧は無視して、眠り続けた。

 しばらくすると、にわかに船上が騒がしくなった。巧はそれでも眠り続け――ぼごん、と鈍い音を耳にして、ようやく目を開いた。遠かったが、あれは間違いなく爆発音だ。

 

 巧は頭をかきながら立ち上がった。いつの間にか、船が止まっている。巧たちの乗る船に、黒塗りの船が並んでいた。あたりを走り回る船員を避けながら反対側の舷側に歩くと、黒船の側面にずらりと並んだ大砲が目に付いた。

 

「なんだ?」

 

 巧は所在無さげに立つルイズに声をかける。

 

「空賊だわ」

「何?」

「内乱の混乱に乗じて、暴れてるのよ。最悪だわ、こんなところで捕まるなんて……」

 

 ルイズが唇を噛んだ。そうこうしている内に、舷縁に縄をかけて、空賊たちが乗り移ってくる。舷側に立てかけられたオートバジンがライトを光らせた。

 

「……ざっと数十名ってトコだな。相棒、どうする? 俺達が本気になれば、あんな奴らなんてことないが――」

「それはやめておきたまえ」

 

 いつの間にか現れたワルドが、オートバジンの台詞をさえぎった。

 

「あれだけの大砲がこちらを狙っているんだ。船員をなんとかできても、大砲はどうしようもないだろう。メイジがいなければ、僕と使い魔くんで向こうの船を制圧できるかもしれないが――」

 

 ワルドはルイズの肩に手を置いた。巧は顔をしかめる。

 

「リスクを取るのは賢明ではない」

「だったらどうする。黙ってやられんのかよ」

「いや、恐らくそうはならない。僕の推測が正しければ、だがね。君はその二輪車を黙らせておけばいい」

 

 その言葉で、またオートバジンはライトをピカピカやったが、巧は拳で叩いて黙らせた。空賊の一人が近づいてきたからだ。

 

「おや、貴族の客も乗ってたのか。なかなか別嬪がいるじゃねえかよ」

 

 男はルイズに近づくと、その顎を片手で持ち上げた。

 

「お前、おれの船で皿洗いをやらねえか? 今の王党派の連中よりは、良い思いをさせてやれるぜ」

 

 辺りの空賊から、忍び笑いが起こった。ルイズはその手をピシャンと撥ね退けて、男を睨み付ける。

 巧がおい、と言いかけたのは間に合わなかった。

 

「下がりなさい、下郎!」

「こいつは驚いた! 下郎ときたもんだ!」

 

 男は笑い声を上げた。今度は周りの空賊も、大声をあげて笑う。

 

「だが、そいつはあんまり賢くないぜ。お前ら、当分ウチの船の世話になるんだからな。来い。お前らの身内から、たんまり身代金をせしめてやるよ」

 

 男は再び、ルイズに手を伸ばす。それを、ワルドがさえぎった。

 

「お戯れを」

「……なんだ? 心配しなくたって、男も後から連れてってやるぜ」

「その必要はありません。自らの足で乗り込みましょう」

「何?」

 

 ワルドは男の前にひざを着いて、最敬礼の姿勢をとった。ルイズを背中に隠した巧は、空賊たちの間に奇妙な動揺が走ったのを見て取った。下手な芝居を指摘された劇団のような、どことなく気まずい空気が流れる。

 

「我々はトリステインの大使。あなたに密書を言付かってきたのです。ウェールズ・テューダー皇太子殿下」

 

 ルイズは口を押さえる。巧は眉根を寄せた。

 

「え!?」

「なに!?」

 

 男は複雑な表情で二人の反応を見つめ……やがて口を開いた。

 

「あー……どうして、分かったんだ?」

 

    ◆

 

 ルイズとワルドの二人は、空賊船の船長室に通された。巧は平民なので、甲板に残った。

 

「相変わらずの扱いだな、相棒」

「ほっとけ」

 

 船の上は、なかなか居心地がよかった。

 どっちにしたって、皇太子に対する口の利き方なんて分からない。空賊船がアルビオンの軍艦だというなら、ルイズに任せてしまったほうがよほど楽だった。そうでなくても、宿を出てからの連戦で、相当に消耗している。

 

 少し前に、船は陸の真下に入った。アルビオン大陸は、あろうことか、空をうろうろと浮遊しているらしい。日の光は大陸に遮られて、辺りは夜のような暗さである。

 巧は左手のルーンを見た。日の出ているうちはほとんど分からないが、この暗さだと、ぼんやり光っているのがよく分かる。

 

「相棒、どうしたね?」

「いや。こいつが、ちょっと気になってな」

 

 オスマンやワルドの言うところのガンダールヴは、伝説の使い魔の証だという。しかしこいつは、いつも中途半端に光っているばっかりで、巧の役に立ったことは一度もなかった。

 

「ま、下手に役に立たれても困るがな。伝説なんて柄じゃない」

「そうかい? 相棒は意外と、そういうの得意だろ。元の世界じゃ、救世主やったりしてたじゃねえか」

「何の話だ」

「俺は途中でリタイアしちまったけどよ。なんだったかな? 闇を切り裂き光をもたらす、とかなんとか。あの嬢ちゃんと一緒にさ」

「……マジで何の話だよ」

 

 オートバジンがいぶかしげにライトを点滅させたとき、にわかに船上があわただしくなった。明かりのないせいで気づかなかったが、いつの間にか船は停止し、上昇に転じている。

 

「もうすぐ、接岸するそうよ」

 

 振り向くと、ルイズが立っていた。下の船室から上がってきたらしい。

 

「話は済んだのか」

「ええ。手紙はお城に置いてあるんですって」

「ふーん。それ返してもらったら、任務はおしまいか」

「帰りもあるのよ。あんまり気を抜いちゃ駄目だからね」

 

 巧はルイズを一瞥した。表情が暗い。

 

「どうした。何かあったのか?」

「ううん。少し疲れただけよ」

「あんまり無理すんなよ。ただでさえ急ぎ旅だったんだ。気を張りすぎると、もたねえぞ」

「……そうね」

 

 ルイズは顔を伏せた。

 

「ねえ、タクミ……」

 

 彼女が何か言いかけた時、船が軽く揺れた。接岸したらしい。

 ワルドが船首につないであったグリフォンを連れて、歩いてきた。

 

「行こう。皇太子殿下がお呼びだ。大使の我々を、最優先で城に通してくれるらしい」

 

 大使の三人は皇太子に先導されて、タラップを降りた。背の高い老メイジが、微笑みながら近づいてきた。

 

 

 

「トリステインの大使殿だ」

 

 ウェールズの紹介に、老メイジは怪訝な表情をした。明日にも滅ぶ国に何の用だ? とでも言いたげだ。しかし彼はやわらかくうなずいて、皇太子とともに巧たちをウェールズの部屋に通してくれた。

 

 ルイズたちが部屋で話している間、また、巧は外で待たされた。今度は、ウェールズにパリーと呼ばれた老メイジと一緒である。

 

「……」

 

 沈黙が降りた。老メイジはこうして待つのに慣れているらしい。分捕り品の船から積荷を降ろすのに皆出払っているのか、城の中はやけに静かだった。

 

 ズン。

 

 巧は顔を上げた。低い響きが空気を伝わってくる。

 

 ズドドドドーン!

 

 ついで、空気が爆発した。さいぜん聞いたことのある、大砲の発射音だ。だが、その規模は比べ物にならない。百発以上を同時に放ったとしか思えない、大爆発音である。

 

「ご心配なさらずとも、ここまで砲弾は届きませぬ。ご安心召されよ」

 

 老メイジが落ち着き払って言った。

 

「なんなんだ、今の」

「叛徒どもの船にございます。あちらをご覧ください」

 

 城壁の向こうに、船が見える。その大きさに、距離感が狂ったように錯覚した。

 

「かつての本国艦隊旗艦、ロイヤル・ソヴリン。叛徒どもが手中に収めてからは、レキシントンと名前を変えております。空からこの城を封鎖する、忌々しい船にございます。先の陛下よりお仕えして以来、これほどの屈辱はありませぬ」

 

 老メイジの声に、怒気がにじみ……彼は少しばかり、狼狽した。

 

「――大使殿のお耳に入れるようなお話では、ありませんでしたな。失敬いたしました」

「いや」

 

 巧は少しばかり、言葉を選んだ。しかし、結局、いつも通りに言った。

 

「俺は平民で、あの女の使い魔なんだ。かしこまらなくったって、誰も文句は言わない」

「左様で」

 

 老メイジは、身分を明かした巧の物言いにケチをつけることもなく、微笑んだ。彼はまだ巨艦の見える窓の外を見やると、口を開いた。

 

「大使殿の乗ってきた船には、硫黄が満載されておりました。反乱が起こってからは、我々王党派は苦汁を舐める毎日でしたが、硫黄は火の秘薬。あれだけの量があれば、無事、王家の誇りと名誉を示しつつ敗北することができるでしょう」

 

 パリーは、きゅっと口角を上げた。

 

「あなた方が、殿下にどんな御用でいらしたのか……詮索はいたしますまい。しかしこのパリー、感謝いたしますぞ。殿下の侍従を仰せつかって以来、これほど嬉しい日はありませぬ」

 

 なるほど、と思った。

 パリーが振り返る。

 

「最期の大使殿、ようこそアルビオンにいらしてくれましたな。もはやここは亡国、大したもてなしはできませぬが、今夜は祝宴が催されます。是非ともご出席くださいますよう。何、アルビオンの酒は強いことで有名です。メイジに非ざる方が一人混じっていようと、誰も気にしはいたしますまい」

 

 彼の背後で、再び巨艦が砲を斉射した。さっきのルイズが言いかけたことを思い出して、巧は理解した。確かに、ルイズには耐え難いものだろう。しかしそれは、巧には馴染み深いものだ。

 巧は少し、息を吸った。まぶたの裏に、近づいてくる“王”の影がちらついた。

 

 アルビオンは居心地がよかった。この城は、滅び行く者たちの気配に満ちている。

 




今日はここまで。ちょっと忙しくなるので、投稿ペースは遅くなります。


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