それでは前回のあらすじ
旅館にやってくると部屋に行き、さっそく二人で新聞を読みながらゆっくりする真とこいし。
その後、二人は幻想郷では見かけない遊びをして満喫していた。
それではどうぞ!
side真
俺たちは部屋へと帰ってきて俺は風呂に入ろうとしていた。こいしから先に入ってと言われたため、俺は素直に従って先に入ろうとしているわけである。
個室の風呂だというのに脱衣所もしっかりしており、曇りガラス越しに見える露天風呂はかなり大きい。この風呂を独占できると考えると心が躍るというものだ。
俺は完全に服を脱ぎ捨てると露天風呂へと足を踏み入れた。
俺の身長の三倍はありそうな高さの壁と、その壁の上からのぞく木々が心を穏やかにしてくれる。
毎日修行修行、そしてたまに異変解決となかなか大変で疲労がたまっていた体を癒してくれる。
まずは体を洗ってから湯船に浸かる。至福の時だ。
あったかくて体の芯から疲れをいやしてくれる、そんな感じがする。
全身の力を抜いてリラックスして風呂を心行くまで満喫する。そう考えていたのだが、そんな至福の時間は一瞬にして崩壊した。
「入るよー」
「なっ!」
扉の方からはこいしの声が聞こえてきて、俺が返事をする間もなくその扉は無情にも開かれてしまった。
開かれた扉から見えるのは真っ白でシミ一つないきれいな肢体。もちろん、その人物はこいしだった。
こいしの体にはタオルなどという野暮なものなど巻かれておらず、そのきれいな肢体を惜しげもなく俺にさらしてしまっていて、俺の心臓の鼓動はうるさいほどに音が鳴っていた。
俺の中の獣が暴れだしそうになってしまうが、ここは旅先の旅館だということを思い出して何とかぐっとこらえる。
「真、あんまり見ると恥ずかしいよぉ」
「わ、悪い!」
こいしに言われてようやく俺はこいしの体を食い入るように見ていたということに気が付いて慌てて顔をそむけた。
こいしの顔は真っ赤になっていた。だが、俺も同じくらいに真っ赤になってしまっていることだろう。
シャワーを浴び、体を洗って汚れを洗い落としたこいしは無邪気な笑顔でこっちに来て俺の真横に来ると満足げな表情で湯船に浸かって脱力した。
真横に来られたことによって少し動くとこいしと俺の肌が何も遮るものが無く直接触れてしまうということを考えて俺はもうすでにのぼせてしまいそうだった。
もうすでに心臓が痛いくらいに鼓動が速くなってしまっている。
するとこいしは突然俺の耳元に口を寄せてささやくように言ってきた。
「ねぇ、真。好き……だよ」
「な、なんだよ突然」
「べっつに~。連れてきてくれてありがとう」
「それを言うなら霖之助さんに言ってやってくれ。あの人も喜ぶと思うから」
「でも、真が連れて行く人に私を選んでくれなかったら私は来れなかったから。だって、真の周りには可愛い女の子たちがいっぱいいて、いつほかの子が好きになってしまうか、奥さんとしては不安なのです」
「こいし……」
まぁ、確かにあの場には俺とこいし、紬しかいなかったというだけで探せば仲良くしている女の人は意外と多いものだ。だが、その仲良くしているというのはこいしのそれとは完全に別物だ。良き友人として仲良くしているだけだ。
少しこいし以外の人と今回の旅行に来ることを想像してみる。さとり、お燐、お空、紬、紗綾。その全員を想像してみて共通することがあった。
絶対にこいしと旅行している今が一番楽しいということだ。
「やっぱりさ、俺の隣にいるのはこいしじゃなきゃダメなんだよ。こいしが横に居て、そして笑ってくれるからこそ俺は頑張れる。どんな異変が起きても戦えるんだ」
「真……ねぇ、証明……して?」
「しょ、証明って……」
頬を赤く染め、うるんだ瞳で見つめてくるこいしが今はとても艶っぽく見えてドキドキしてしまう。
そうだよな。俺たちは結婚しているんだもんな。
それに不安になってしまう気持ちもわかる。俺だってこいしの周りにいっぱいイケメンが居たらいつそのイケメンの事をこいしが好きになってしまうか気が気ではなくなってしまう。
しかし、証明って……あれしか思い浮かばないけどあれでいいのか?
「こいし」
「ん」
こいしはこっちを向いて目をつむってきている。これってそういうことだよな。
俺はごくりと生唾を飲み込むとこいしの頭に手を回して顔を近づけて––
「失礼します」
「「っ!」」
ドアがガチャリと開き、一人の人物が部屋の中に入ってきた気配を感じる。おそらくスタッフが食事を運んできたのだろう。
この宿は部屋に食事を持ってきてくれるようになっており、俺たちがもう帰ってきていることを知っているから時間になったことだし持ってきたのだろう。
だが、俺たちはそのことを忘れてしまっていたため、今悠長に風呂に入っているわけだが。
「お、俺、飯受け取ってくるわ。こいしはゆっくり入ってて」
俺は勢いよく立ち上がると逃げるように風呂場を後にして服を着て食事を受け取った。
最後にちらっと見えたこいしの表情が少し不服そうに見えたのは気のせいだろうか。
「おぉ~」
「これまた豪勢だなぁ」
俺とこいしはテーブルの上に並べられた料理を見て俺たちは同時に声を漏らした。
色々な刺身や自分で焼けるようになっているジンギスカンなどがテーブルの上に並んでいる。海鮮もジンギスカンも幻想郷じゃ滅多にお目にかかれない。特に海鮮は海が少ないため、捕れる量も限られていて最高級食材となっている。
幻想郷でこんなに大量の海鮮を食べるとなったらいくらかかるか分かったものじゃない。
しかも、幻想郷ではその捕れた海鮮を新鮮なうちに食べられるか分かったものじゃないので、刺身で食べられることなんてそうそうない。
こいしも初めて見るこの大量の新鮮な刺身に目をキラキラと輝かせている。
「こ、これって生のお魚だよね!」
「そうだな。サーモンにマグロ、イカにタコ、ホタテなんかもあるな」
「真はこっちにいたときはよく生のお魚を食べてたの?」
「いや、刺身や寿司といった海鮮類はこっちでもちょっと値が張るからな。寺子屋に通いながら金を稼いで生活していたあの頃は滅多に食べられるものじゃなかった。それどころか一か月に一回しか食べられないシチューが最高の贅沢だったくらいだ」
「へぇ、そうだったんだ」
ちなみにこいしに学校という言葉は通じず、寺子屋と呼称した方が理解が早いので寺子屋といったが、俺は普通の公立校に通っていた。
あの頃は本当に暖かい食べ物にありつけることが出来たらいい方で、龍生と一緒にバイトをし、学費を稼いで何とか学校に通っていた。
その中でたまに作って食べるシチューの温かみ、ありがたさが忘れられず今ではすっかり好物となっていた。それは龍生も同じでシチューをうまそうに食っていたが、あいつの一番好きな食べ物は燻製だ。燻製なら何でもいいらしい。
よく燻製をかじりながら漫画を読んでいたのを覚えている。それと、自分で燻して作り始めたときにはちょっと目を疑ったが、あいつの行動力ならありえないことはないと自分の中で納得させたのを覚えている。あいつの作った燻製は確かに美味かった。
「幻想郷でも新鮮なお魚が捕れればいいのにね」
「まぁ、仕方ない。つい最近まで海もなかったほどだ。そしてその海も外の世界と比べ物にならないほどにミニマムサイズ。どう考えても需要と供給が釣り合うはずがない」
「ねぇ、それよりも早く食べようよ!」
「そうだな。腹減ったし」
そして俺は小皿を取るとその中に醤油と端っこにワサビを出す。それを見てこいしは俺の真似をして小皿を手にすると醤油と端っこにワサビを出した。
そういえば幻想郷では刺身が食卓に出たことはないからこいしは初めて刺身を食べることになるのだろう。
ちなみに食卓に出てくるとしても川魚ばかりだから海鮮自体初めて食べるんだとしても不思議じゃない。初めて食べる海鮮がなまって言うのはちょっと不安が残るが、いくらこっちでは力が制限されているとはいえもともとは妖怪だからちょっと胃がびっくりしても腹痛になることはないだろう。体の強さは制限されていないわけだし。
ちなみに調味料である醤油とワサビは幻想郷にもちゃんとある。
「そんじゃ、いただきます」
「い、いただきます」
俺が箸でワサビを少し取ってマグロの切り身にのっけて醤油に付けて食べると、真似をするようにこいしも恐る恐るとワサビをマグロの切り身にのっけて醤油をつけると緊張を隠し切れない様子で口の中へ思い切って入れた。
俺はもぐもぐとマグロを租借しながらこいしの様子を見た。
刺身は生であるから魚本来の生臭さが焼き魚にするときよりも出てしまう。だから、こいしはこの味が苦手ではないか少し心配になった。
だけど、その心配はすぐに必要なかったことを悟った。
「ん-っ!」
口に入れて租借を開始すること数秒後、こいしの顔は笑顔に染まった。
にこにこと笑いながらマグロの切り身を租借していて、今絶賛幸せをかみしめていますという雰囲気を醸し出している。どうやらこいしの口にはあったらしい。
それを確認した俺は安心して自分の食事を再開する。
ちなみに俺が一番好きなのはエンガワなので、今回の刺身のラインナップにはエンガワは含まれていないからちょっとがっかりしているところだ。
そして何切れか刺身を堪能すると次にジンギスカンへと目をやる。
アツアツの鉄板と生の細切れの羊肉。最近は北海道だけじゃなくて、全国各地で食べられてきているというジンギスカン。だが、豚や牛の焼肉と違ってマトンと呼ばれる大人の羊肉はかなり癖があるため、好き嫌いが分かれるものだ。
ちなみに俺はこの癖が苦手だから自分で食べるとしたらラムと呼ばれる子供の羊肉のほうが好きだったりする。ラムの方が癖が少なくて食べやすいのだ。マトンの癖が苦手な人にはラムをお勧めしたい。
果たしてこのジンギスカンの肉は何なのか。
緊張しながら鉄板でしっかりと焼いて一切れ食べてみる。
「マトンか……」
まぁ、こういうところでよく出てくるのはマトンなので仕方がない。
だが、こいしの方を見てみると変わらずにこにことおいしそうにジンギスカンを食べているため、こいしの口にはあったらしい。
それならばと思って俺はジンギスカンの肉をこいしに手渡した。
「え?」
「あげる。俺は刺身だけで腹いっぱいになるから」
「いいの?」
「おう」
「ありがとう!」
俺が苦手だから押し付けたっていうだけなのにこいしは嬉しそうににこにこと笑顔を浮かべながら俺からジンギスカンの肉を受け取って食べ始めた。ちょっと罪悪感。
でも、残すよりはましだ。それに、刺身だけでかなりの量があるからこれだけでも十分に腹いっぱいになれるっていうのは嘘じゃない。
「ん? どうしたの?」
「いんや、なんでもない」
幸せそうに料理を食べているこいしを微笑ましく思って見ていたら見ていたことがばれて不思議がられてしまった。
「外の世界っていいところだね。ご飯も美味しいし、街並みはきれいだし」
「そう……だな」
俺はあまり外の世界にいい思い出が無いもので、今のこいしの発言を全肯定することは俺にはできなかった。でも、決していい思い出が無かったわけではない。
俺もちゃんと外の世界にもいい思い出というものがあるし、今現在進行形でいい思い出が作られて行っている。だから、今この瞬間だけはこっちの世界も好きになれそうだと思っている。
でも、どんなに俺の中でこっちの世界の評価が上がろうと変わらないものが一つある。
「でも、やっぱり俺は幻想郷の方が好きだな」
「ん?
「まず口の中の物を飲み込んでからしゃべろうか……」
こいしがりすのように頬を膨らませて食べている姿を見てちょっと愛おしくなって抱きしめたくなるが、ここでは遠慮して置く。
そしてこいしは口の中に入っていたものを全て飲み込んでからもう一度「どうして?」と聞いてきたから俺は答えた。
「こいしと出会えたからかな」
「私?」
「そうだ。俺はこいしが好きだし、これからもずっとこの気持ちがなくなることは絶対にない」
「––……っ!」
その瞬間、こいしは真っ赤にしてうつむいてしまった。だが、俺はそんなこいしにかまうことはなく、話を続ける。
「俺の人生のターニングポイントは幻想入りだったんだ」
「ターニングポイント?」
「人生の分岐点みたいなものだ。そこから俺の人生はガラッと変わった」
はじめは予期していない事態だった。
目を覚ましたらいきなり知らない場所に居て、知らない場所を探索して、知らない屋敷で知らない女の子に出会って。
きっかけは俺を利用するためだったのかもしれない。だけどダーラ*1が俺を幻想郷に連れてこなければ俺たちは出会うことすら、俺に至っては幻想郷の存在すら知らないまま人生が過ぎていくところだった。
「はは、そう考えるとダーラは俺たちのキューピットだったりしてな」
「あんなやつのことを美化するのはあんまりよくないかな」
「ごめんごめん」
今だからこそ、こうして昔の事を笑って話せるけど、昔は本当に辛くて大変な経験をした。
「もう……もう絶対に離さないって誓ってくれるなら許してあげる」
「そうか、なら問題ないな。俺はもう二度とこいしを離すつもりはないからな。こいしが離れようとしても、嫌がっても絶対に連れ戻しに行くから覚悟しろよ」
「真こそ! 私から離れられるなんて思わないでね」
そういって俺たちは二人して笑いあった。この幸せな時間が永遠に続けばいい、そう思って……。
はい!記念第5話終了
この無意識の恋では珍しいお風呂シーンでしたね。
二人はいつも別々に風呂に入っているため、真の理性が大変なことになり、危うくこの小説にR-18のタグが付くところでした。
そして二人で一緒に料理を食べるシーン、これも僕の好みが入ってます。
基本的に真がこいしの事を可愛いなどと言っているシーンは僕の気持ちを代弁していると思っていただいて大丈夫です。
それでは!
さようなら