それでは前回のあらすじ
真が修行したり、温泉郷の手伝いなどをした。とある一日の話。
それではどうぞ!
side真
そういえばと、そう思い立った俺は地霊殿内のとある一室にやって来ていた。
この部屋には紬と書かれている。
結婚式以来、しばらく見ていないので少し心配になったのだ。俺と紬はパートナーで、前は良く俺のところにいたのに、最近は全く来なくなったので、こっちから様子を見に来た。
コンコンとノックをするものの、中からは返事がない。だが、鍵はかかっていないようだ。
紬はあれで結構几帳面なので、鍵をかけずに外出というのは考えにくい。となると、中にいる可能性の方が高いのだが、返事が無いのが不可解だ。
「おーい、入るぞー」
俺は一応断りを入れてから扉を開けてみる。
すると、中からぶつぶつと何かを唱えているような声が聞こえてきた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい私は何の役に立たないなまくら刀です。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
俺の視界に飛び込んできたのは、布団の上で両足を抱えて死んだ魚のような朧気な目をしてずっと謝り倒している紬の姿だった。
あれは確実に病んでいらっしゃる。
ここは見て見ぬふりをするのが正解か、それとも何か声をかけてやるのが正解か。そもそも、どうして病んでいるんだよ。
確かに結婚式の時も部屋の端っこの方で朧気な目をしながら酒をちびちびと飲んでいた記憶がある。
それに、あまりものを食べていないのか、かなり痩せてしまっているように見える。
さとりが定期的に料理を持ってきているらしいが、ほとんど手をつけられていないことが多いらしく、少し心配だったのだが、ここまでとは。
流石に、これを放っておくのはダメだよな。
「おい、紬しっかりしろ! 紬!」
「はぇ? 真……? 真っ!」
「え、うわっ!」
その次の瞬間、急に紬が飛びかかってきたので、反応出来ずにそのまま後ろに倒れてしまう。
それによって俺は紬に押し倒されている状況になってしまった。色々とまずい状況である。
しかも、なんか紬の息が荒い。このまま襲われてしまうのではないかと身の危険を感じる。
「ねぇ、真!」
「な、なんだい?」
「私を――殴って!」
「はぁ?」
メンヘラの行動はよく分からない。何を言い出すかは分からない。
その典型的な例だと思う。
「どうしたんだ急に……」
「思いっきり躊躇せずに、ほら、殴ってよ!」
「だからどうしたんだって、おい落ち着け!」
俺が殴らないと見ると今度は俺の胸に頬擦りをしてくる紬。本当に何がしたいのかわからなくて困惑している。
「私、人の夫に甘えてる。悪い子、殴って」
「いや、そうはならんだろ」
「なら、何でもする! 私に罰を与えて! 死ねって言うならば今ここで死ぬ!」
「いや、お前は死ねないだろ」
「………………じーん!」
「わかったわかったから!」
俺の胸を涙で濡らしてくる紬。
一体何が彼女をこうさせているのかは分からないけども、こうなってしまっては要望に答えなければ本当に身投げとかしかねない雰囲気なので、仕方がなく答えてあげることにする。
「殴ってやるから、頬を突き出してくれ」
「え、本当!?」
「目を輝かせるな! お前、神からドMにジョブチェンジしたのか!?」
殴ってやると言ったら生き生きとした目をして頬を勢いよく突き出してきた。
本当に色々と心配だが、とりあえず殴ってあげる。
ペちっと軽い音が鳴った。流石に本気では殴れないので、軽く頬を叩いたのだ。
「………………」
「どうだ、満足しただろ」
「……痛くない。痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない」
「お、おい」
「……痛くないよ。真、もしかして私はもう本気で殴る価値もないって言うこと?」
「おい、どうしてそうなる」
「ははは、真が大変な時に私は敵に捕まってたんだもんね。パートナーなのに、私は助けられるだけで何もしてあげられてない。見放されて当然だよね」
「おい、ちょっとまて」
「ううん、いいんだ。今までありがとう。さようなら」
「ちょっとまて!」
出ていこうとする紬。今の紬を放っておいてはダメだと判断して俺は慌てて紬の手首を掴んだ。
「え、真?」
「なるほどな、その事をお前は気にしていたわけだ」
ようやく分かった。紬がどうして病んでいたか。
ことの詰まり、俺が戦っている間、敵に捕まってカプセルに入れられていて、俺に助けられたことで罪悪感が生まれ、苛まれているということだろう。
なるほどな……。
「お前、馬鹿だろ」
「え?」
「パートナーって言ってもな、色んなパートナーが居る。助け、助けらればかりがパートナーじゃないんだよ。と言っても、俺たちの関係も助け、助けられだけどな。結構助けられているんだぞ」
「え、例えば?」
「…………元気な所とか……だからさ、お前に元気がないと俺は病んでくるんだ。あーなんか唐突に自傷したくなってきた。包丁借りてこようかな」
「ま、まってよ!」
俺は演技だが、台所の方へ歩こうとすると、今度は紬が俺の手首をがっしりと掴んできた。
まるで俺の事を離さないと言っているかのようだ。
「もう、私がいないとダメだなんて……可愛いねぇ」
「そこまで言ってねぇけどな」
「仕方がないから、これからもパートナーとして一緒に戦ってあげるよ」
「なんだこいつ」
だけど、良かった。なんとか元気を取り戻していつもの紬に戻ってくれた。
さっきまで病んでいた人とは思えないほどの満面の笑みに俺も思わず笑みがこぼれる。
その時、入口の方から何かが落ちる音が聞こえた。
なんだろうと思って入口を見てみると、こいしが浮気現場を発見したかのような形相でこっちを見てきている。
足元にはバッグが落ちており、驚いて落としてしまったのだろうと予測できる。
「ば、ばかぁっ! おねぇちゃーん、真に浮気された!」
「ちょ、誤解だから! まて!」
俺は慌てて追いかけるものの、時すでに遅しだった。さとりに事の顛末が伝わってしまった。
だが、さとりが心を読めることが幸いして浮気をしたわけじゃないと信じて貰えたものの、物凄く叱られてしまった。だが、後悔はしていない。
はい!第139話終了
紬は、ああ見えて本当は人一倍心が弱いんですよね。
だからこそ、おちゃらけて自分を自信あるように見せかけていたのですが、今回の一件は相当ショックだったのでしょう。
それでは!
さようなら
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