それでは前回のあらすじ
まがまがしい世界に生まれた邪神ナンバー154681は同時期に生まれた邪神ナンバー154682とともにタッグを組んで世界を侵略することとなった。
しかし、154681は気乗りせず、サボり魔となる。
一方で154682は順調に実績をあげ、名前をもらえるほどとなる。
そんななか、154681もそろそろ仕事をしなければいけないと思い始め、ついに動き出そうとしている。
それではどうぞ!
side154681
なんかほほがくすぐったい。なんだかくすぐられているような気分だ。
草の上で寝ていたから風でなびいている草にくすぐられているのだろうか? いや、そういう感じでもないな。
なんだろうか。
「あ?」
俺は正体を確かめるために薄目を開けた。
だが、目を開けたというのに全くなにも見えなかった。いや、見えない訳じゃないが、真っ暗すぎて周囲の状況を理解することができないといった感じだ。
時間的にはまだ夜ではないし、夜でもここまで周囲が見えなくなることはない。なにせ、俺たち邪神は暗闇には少し耐性があるからだ。
そのため、こんなに視界を奪われるのには慣れていなかったから柄にもなく少し驚いてしまった。
「あ、起きた?」
周囲に人物を認識することはできないが、耳に少女らしき声だけは聞こえてきた。
おそらく近くに人間らしき生物がいて、そしてこの真っ暗闇でも俺のことをしっかりと認識しているのだろう。
そういえば154682のやつ、この世界の侵略難易度は少し高めだったな。
あいつは侵略する前にその世界を視察して難易度を設定するが、この世界の住人は能力持ちがいるから少し高めに設定していたのだろう。
そしてこの声の持ち主も能力持ち、ということなのだろうか。
明るさを操る力でも持っているのか?
邪の力を眼球に集め、視力を強化して周囲を見渡してみる。
「っ!」
俺は息を飲んだ。
それは、目と鼻の先に俺のことを覗き込む白髪の少女がいたからだ。
これ程至近距離まで近づかれていたのに邪神である俺が認識することができなかったとなるとこの闇はかなりの密度だ。
今まで何度か世界を侵略してきたが、なんとなく今までの世界とは格が違うような気がしてきた。
だけど、この少女からは敵意のようなものを感じられない。むしろにこにことしていて随分と友好的のように見える。
おそらく俺が侵略者だということを認識していないのだろう。
となれば、この少女を殺すことなど朝飯前と言っても過言ではない。
警戒心ゼロの相手を殺すのはめちゃくちゃ簡単だ。
今俺が少し手を伸ばせばこの少女をを殺すことが出来る。
さぁ、
「なに?」
俺は上からしゃがんで覗き込んできている少女の肩に手をおいた。
邪の力は邪神以外が流し込まれてしまうと、その力に耐えきれなくなって息耐える。
つまり、今小の状態で俺が邪の力を流し込めば簡単には殺すことが出来るということだ。
「どうかしたの? どこか体調が悪いの?」
「…………」
なんだろうか。
俺は時々ほかの邪神たちとは少し違うのではないかと思っている。
侵略活動にあまり気乗りしないし、こうして積みもない人を殺害する行為に罪悪感を抱いている。
特に俺はこの少女のような目に弱い。
この少女は本当に純粋に心配して俺のことを見てきている。それはその目を見ればわかることだ。
おそらくこの世界の汚さをまだ知らないのだろう。
俺はそんな目に弱い。
「はぁ……」
小さくため息をつくと俺は肩から手を離して力無くその場に手を下ろして目を閉じた。
やっぱり虐殺するとか良くないだろ。
邪神としては不健全であるが、俺はこの考えが正しいと信じてやまない。
「え、えっと…………そうだ、これ!」
少女は鞄の中から袋に入った丸い食品らしきものを手渡してきた。
暗くて細部まで見ることはできないが、小麦から作られた少々ふかふかとして、中に小豆をしようしたペースト状のものが入っている。
わからない。
俺たち邪神はなにも飲み食いせずとも生きていくことが出来るから食事というものは不要のものとして生まれて数年が経過しているが、一度も食い物というものを口にしていない。
おそらくこれはこの世界の食い物なんだろうが、わからない。未知だ。
「なんだこれは」
「あんパン! 私が作ったんだよ! うちのあんこは美味しいって評判なんだよね! なんか元気無さそうだったから、それあげるよ!」
どうやらこれはあんパンという食い物のようだ。
こうなってくると知的好奇心がうずいてくる。
食欲など一切わいてはいないが、俺たち邪神も消化器官などはあるし、一切ものを食うことができないわけではない。
一度食事というものを経験してみてもいいかもしれない。
そう考えた俺はあんパンなるものを受け取ると袋からあんパンなるものを取り出して一息にかぶりついた。
「っ! あふあふあふ。うぐっ!」
「あー、もう、慌てて食べなくてもいいのに。はい水!」
「あ、ああ、悪い」
一口食べたらもう止まらなくなっていた。
夢中になってあんパンにかぶりついていると唐突に喉が苦しくなったので、少女がにこにことしながら無味無臭の透明の液体をくれた。
その液体を飲んだらその苦しさが消滅した。どういう原理なんだろうか。
「美味しかった?」
「う、うーん……不思議な感覚だったな」
口の中になにかが入ってくる感触。
感だ瞬間にスッと歯が通る柔らかい食間、そしてその中から出てくるほんのりと甘いペースト。
これが美味しいというものなのかは定かではないが、悪い気分ではなかったことは確かだ。
「ふふふ、いい食べっぷりだね」
「さんきゅーな」
俺はいったい何をやっているんだろうか。
邪神ナンバー154681として生を受けたというのに侵略するどころか、侵略中の世界の少女に施しを受けてしまった。
この少女だけでも154682のやつに掛け合って見逃すように相談してみよう。
「あ、もうこんな時間だ! もう帰らなきゃ。あなたはどうするの?」
「俺はもう少しここにいる」
「わかったよ! だけど、ここら辺は野生動物が良く出没するから気をつけてね!」
「忠告感謝する」
それだけ言うと少女は帰っていってしまった。
帰り際にこちらへ手を振っていたので、俺も振り返すととても嬉しそうに笑っていた。
なんだろう。この心臓の鼓動は。痛い。こんなのははじめてだ。
あの少女の笑顔を見るだけで胸がいたくなる。
「はぁ……また会えるかな」
俺はそんな邪神には似合わない一言をこぼしてしまった。
「おーい154681!」
「ん? あぁ、154682か」
そんな少女のと入れ替りで俺のパートナーである154682が帰ってきた。
どうやら俺が寝ている間に邪神界へと行っていたらしい。おそらく名前を授かりに行っていたのだろう。
「ち、ち、ち。今の俺の名前は154682じゃない。神楽だ。間違えるなよ。そして名前付きになった俺の方がお前の上官だ」
「そうかよ」
154682は神楽という名前を授かったらしい。
どこかの世界の言語でかぐらという字は神という字に楽しいと書くらしい。
いつもお気楽なこいつらしい名前じゃないか。
「ところで今、真っ黒な球体が見えたけど、あれはなんだったんだい?」
「あぁ、今のはこの世界の住人だ。あれがあの子の能力らしい」
「お前がコンタクトを取るなんて珍しいじゃないか」
「まぁ、昼寝していたら目の前に居たってだけだが」
神楽はチラッと先ほどの少女が向かった先を見てから俺の方へと再度目を向ける。
「何かあったのかい?」
「なにがだ?」
「いや、わからないけどさ~なんかいつも暗い表情をして居たのになんだか今日は嬉しそうだからねー」
こいつの趣味は観察だ。だから毎回侵略の前には偵察に行ってその世界の住人観察をしていると言ってもいい。
そしてどうやら俺もこいつに観察されていたらしい。
こいつは邪の力で気配を極限まで消すことが出来るから気がつきにくいんだよな。
俺はあまり邪の力を使えないから少しうらやましいやつだ。
俺とこいつの考えは完全に別れてはいるが、俺はこいつの事を尊敬している。
こいつはお茶らけているように見えて、いや、実際にお茶らけてはいるのだが、事実実力はかなりのものだ。
まぁ、名前を貰えるほどの実力なのだから、強いのは当たり前なのだが。
「そうだ、神楽」
「なんだい?」
「今回は俺も動く。だから、一つ頼みを聞いてくれないか?」
「へぇ、さぼり魔である君が動くほどの頼みかぁ……いいよぉ、聞いてあげる」
神楽は少し興味深そうにあごを擦りながら俺にその頼みの内容を尋ねてくる。
あまり俺は神楽に頼みごとをするのは好かないのだが、少しあの子に興味を持ってしまったのだ。
少し言いにくく、うまく言葉にならないそれを俺は必死の思いで口にした。
「さっきの子、さっきの子だけは見逃してやってくれないか?」
「さっきの子……うーん、よくわからないけど、いいよ。やっと君がやる気になってくれたことだしね」
「恩に着る」
さて、俺も仕事を始めなければいけないな。
はい!第196話終了
今回は死神ナンバー154682は名前を貰い、神楽という名前がつきました。
あの女の子は154681にどのような影響を与えたのでしょうか?
それでは!
さようなら
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