A.「ヲ級ちゃんは可愛い。そういうことだ」
深い森の中。その少し開けた場所で、二人の女性が立ちすくんでいた。
一人は、長い白髪を揺らしながら目を軽く瞑ってる中学生くらいの少女。
もう一人は、大きな被り物を頭につけた銀髪の少女。こちらはおおよそ18歳くらいであろうか。白髪の少女のことをじっと見つめている。
「さーて、どうしたものか……」
白髪の少女が、目を開き、顔を上げる。
「下手に出歩くのは不味いだろう……。だけど、此処にじっとしていても何もいいことはない。なら、やっぱり出歩くしか……」
ぶつぶつと呟いていた少女であったが、何か思いついたかのように突然言葉を止め、顔を勢いよく上げる。
そうしてその勢いのまま傍らの少女に話しかけようとし、
「ん、いやこっちか」
しかしそこで思いとどまり、手元のノートに何か書いて銀髪の少女に渡す。
『あなたの名前は何ですか?』
そういえば名前を聞いてなかったと思い、今さらながら書いて尋ねようとした修也。
しかし、銀髪の少女から返ってきた答えは次のようなものであり、修也はまた新たに悩むことになる。
『わからない』
手元に戻ってきたノートには、そのように書かれている。
わからない。
これはいったいどういうことだろうか。
彼にはわからないし、考えても無駄だろう。
ならば、と。
彼は思考する。この場でできる最善の答えを。それは即ち──。
「それは……記憶喪失か何かですかね? 呼ぶ名前が無いのも困りますので、私が仮に名前をつけてもいいですか?」
そう、名前がないのなら一時的にでもつけてしまえばいい。
ちょっと冷たい反応と思われただろうか……。
そう少し後悔しながら少女の反応を待つ。
「ヲ? ヲー、ヲッヲッ」
……何を言っているのかわからない。が、まあ声の調子と顔を見るに文句を言っているわけではないだろう。たぶん。
そう判断し、仮の名前を考え始める修也。
──どうつけようか。まったくやめたほうが関係ない名前をつけるのはいいだろう。しかし、この娘の特徴といえば……。
「を、ヲリヴィアとかどう?」
まあしかし、思いつくのはこんなところが関の山であった。
どこか日本人離れした見た目のため、この名前でも大丈夫だろう。
果たして反応はどうか。
「ヲ……。ヲッヲー!」
喜んでる……?
どうやら喜んでいる様子の少女。いや、ヲリヴィア。
まあよかった、と安心する彼であったが、残念ながら事態はほとんど進展していない。
そのことに気づいたのか、諦めたような顔で溜め息をつき、ヲリヴィアに話しかける修也。
「あのー。ここにいてもどうしようもないんで、とりあえず歩いて家か人か。そこらへんを探しに行きましょう」
こくんと頷いてそれに応じるヲリヴィア。
服をパンパンとはたき、ほこりを落とし。リュックも背負った。
「じゃあ、いきましょうかヲリヴィアさん」
声をかけ、手を引く。
連れ添って歩く二人。
風が吹く。
木々が震える。
それはまるで二人の出会いと旅立ちを祝福するかのように。
風が大気を駆ける。
木々を揺らし、頬を撫でる。
木漏れ日は二人を包み。
祝福されし二人は歩く。
どこまでか。
答えはまだない。