神様転生したけど本当にしたか自信なくなってきた 作:チームDR
宙からどこかに投げ出されたような感覚。
そしてその直後に自分の体を襲う衝撃。
事態の前後すら掴めない中、唐突に知覚したのはその二つだった。
「
微かな頭痛に視界を眩ませつつも、俺は情報を集めようと目を開ける。
──視界一面に広がるのは、緑。
それに気づけば、より強く鈍い衝撃によって遮られていたチクチクとした刺激──つまり、自分が寝転んでいた下にも生い茂っていた草が自肌の露出した部分を刺す感覚にも気がつく。
その刺激を煩わしく思い立ち上がれば、徐々に思考も明瞭となっていった。
「…………」
顔を顰めながら空を見上げる。
本来なら青々とした快晴が広がるそこには、明らかな不純物があった。
───檻だ。
自分を逃がさないように天まで届く巨大な檻。鳥籠のような形状のそれは外から眺める分には見応えがあるかもしれないが、閉じ込められているのが自分とあれば不愉快極まりない。
(あぁ……そうだ……)
俺は記憶を取り戻しつつあった。
この光景……間違いなく
(神様転生ってやつを、まさか俺がすることになるとは……)
───そう。
俺は神を名乗る存在によって転生させられたのだ。
この、『ニューダンガンロンパV3』の世界へと。
*
転生をしたとは言うが、実は前世の記憶はなかったりする。憶えていることと言えば、上下の感覚が覚束ない不思議な空間で、「如何にも神です」みたいな存在に問いかけられたことだけだ。
その問いというのは、「ニューダンガンロンパV3ってどう思う?ぶっちゃけ」というなんとも威厳ない内容だったが。
状況は全く掴めなかったが、取り敢えず俺は1プレイヤーとしてありのままの感想を神に伝えた。
メタフィクションを題材にしている作品はそれこそ山の数ほどあるが、ダンガンロンパV3は新しい観点からの切り口を開いた作品だと個人的には思う。
従来のダンガンロンパのシステムもうまく利用できていたし、一部設定・展開には賛否両論あれど、総合的には過去作に勝るとも劣らない出来であったと太鼓判を押せる出来栄えだった。
他にも各キャラへの焦点を当てるという点において今作は優秀だったとか、どのキャラが好きだとかなん図書だとか塩だとか……有りのままの所感を俺は神へと吐き出した。
「ふむ……」と俺の話を意味深な態度で傾聴していた神は、立派に拵えた顎髭をさすり、やがて微笑みを零す。
そして、唐突に俺へと切り出した。
「突然だが、今しがた君が熱く語った『ニューダンガンロンパV3』の世界へと君を送り込もうと思う」
「は?」
「君は17人目の超高校級としてねじ込む。才能は……チームダンガンロンパよろしく才能を植え付けることも可能ではあるが、それではつまらんな。幸運あたりにしておくか」
「いやちょい待て。んなこと突然言われても───」
「君に拒否権はない」
慌ててなだめようとする俺に取り合わず、神の手元から眩い光が発せられる。
その直後、俺の意識は暗転した。
*
「ハァーーー……………」
溜め息がかつてない程に重い。重力に従って地面に落ちれば、罅を作れる気さえしそうだ。
……上手く頭が回らない。
立て続けに発生する超常現象に、既に俺の頭はキャパオーバーを訴え始めていた。
やや虚しいが、少し情報を整理してみよう。
俺が倒れていたのは中庭だ。
原作主人公達である赤松楓と最原終一は校舎内のロッカーにぶち込まれていたが、外に放置されていた俺とどちらがマシな待遇なのかは……まあ考えないようにしておく。
よく周囲を見回してみれば、地面には俺のものと思わしきモノパットが無造作に置かれていた。地べたにあったとはいえ、土の汚れなどはない。草が多く生えている場所に置かれていたからだろう。
俺はモノパッドを起動した。
◎超高校級の幸運
モノパットには超高校級の才能はもちろんのこと、身長・体重・誕生日、更には好きなものや嫌いなものまで記載されている。プライバシーもへったくれもあったものではない。
不幸中の幸いか、世間に顔向けできないようなことは載せられていないようだが。
「……………」
情報が乗せられているのは現在、俺だけ。
ゲームのシステムになぞらえて推論を立てるなら、他の人に挨拶をすれば通信簿が埋まる……ことになるのだろうか。
……いつまでもここで突っ立っていても仕方がない。寄宿舎か校舎、或いは外。どこから見て回るか───そう思案していた俺に、背後からよく通る男の声が届いた。
「おい、そこのテメー!まだ話したことない奴だよな?」
「ん、ああ……そう、だな」
振り返る。
声質と口調から、声の主が一体誰なのか判別は予めついていた。
視界の先に見えるのは、ボリュームのある奇抜な髪型が特徴的な青年の姿だ。
当然初対面だが、俺は既に彼の名前も才能も知っている。
「随分ボーッとしてたみてーだが大丈夫か?こんな事になって不安に駆られちまうのはわかるがよ……もっと自分から前に進まねーと状況は好転しねーぞ?」
「……お前は随分と楽観的なんだな」
「へっ、こんな壁がなんだ。直ぐにこの宇宙に轟く百田解斗がお前らを外に導いてやるからよ!だからそう辛気臭え顔すんな!」
右手だけを上着の袖に通さないというなんとも動き辛そうなスタイルながら、百田は器用に身振り手振りを添えて俺を鼓舞する。
会ったばかりの人間にこうもグイグイ取れる積極性。ゲームで見たままの百田解斗である。
「さっきの口ぶりから察するに、他にも人がいるってことだよな?俺が会った人間はお前が初めてなんだが、情報があったら教えて欲しい」
「ん?そうだったのか?つっても、教えられることなんざ特別ありはしねーよ。俺らも突然こんなトコに閉じ込められて絶賛混乱中ってとこだ」
「……なるほどな」
「お、そうだ。今まで会ってきた奴らは全員何かしらの超高校級の才能を持ってたが、テメーはどうなんだ?つか、そういやまだ名前も聞いてなかったか……てな訳で自己紹介を頼むぜ」
「ちなみに俺は泣く子も黙る超高校級の宇宙飛行士、百田解斗だ!」とサムズアップをしながら百田は俺の回答を待つ。
全くこんな才能に身に覚えはないし、あの神の言う通りであれば効力など無いに等しいのだろうが……???枠は既にいるし、才能がないと称するのは明らかに浮く。気は進まないが、名乗るしかないだろう。
「志熊神曹。『超高校級の幸運』だ………」
思ったよりも尻すぼみな声が出た。
前途多難な気力のなさに、余計に精神力がすり減りそうだった。
「なんだ、随分ハリのねー自己紹介だな。つか幸運って……どんな才能だそりゃ?」
「さあね、俺が聞きたいレベルだ。別に何か大層なことをしたわけでもないのに、突然ギフテッド制度に選出された通知が来たんだよ」
「ああ?なんだよそりゃ?」
「だから、むしろ聞きたいのは俺の方だよ…」
完全なでっち上げなんですけどね。
まあ、下手に盛ったエピソードを喋った結果ボロを出すよりはマシだろう……多分な。
(こんなんで大丈夫なのか、俺……)
恐らく、大丈夫ではないだろう。
自己紹介を全員分早く済ませたいので百田とはここで別れる。単独行動をしちゃいけない理由もないしな。…というか、原作でも誰かと共に行動をしていたのは最原と赤松だけだ。……もしかしたら茶柱と夢野あたりもそうだったかもしれないが。
(他に外に居たのはゴン太とアンジーだっけ?必ずしも原作通りとも限らんだろうが)
建物の中に入るのは外を一通り見て回ってからでいいだろう。そう判断し、緑と灰色で敷き詰められた学園の敷地を歩き始める。
寄宿舎のすぐ横にある階段を下れば、直ぐに遠目からでも明らかに目立つ風貌の巨漢が見えた。
うん。ゴン太だろうな。
虫を探しているのか鬼気迫る眼力で草むらを見つめていたが、俺が近寄るのが見えたのか、フレンドリーな笑みを携えこちらに挨拶を飛ばしてくる。
「えっと、まだ挨拶してなかったよね?はじめまして!ゴン太は獄原ゴン太、超高校級の昆虫博士なんだ!」
「おう、志熊神曹だ。才能は超高校級の幸運な。よろしく」
「うん、よろしくね志熊くん。えっと……幸運ってことは、志熊くんは運が良いってことなの?」
「あー、何故だかそんな大層な称号が付いちゃいるが、ぶっちゃけ気にしなくて大丈夫だ。運とか人並みだから」
「そうなの?ごめん、ゴン太は馬鹿だからあんまり理解できてないのかも……」
シュン、という擬音が聴こえてきそうなほど落胆した表情を見せるゴン太。
才能育成計画の九頭龍や大和田もそうだったが、純真なこの性格には本当に毒気を抜かれるな。
「にしても、昆虫博士か。さっきは虫でも探してたのか?」
このまま立ち去ってしまうのも何なので、少し話を広げてみる。
気性穏やかなゴン太も虫の話になると途端にヒートアップしてしまうきらいはあるが、下手に突っ込んだことを聞かない限りは問題ないだろう。
「あ、うん……そうなんだけど、実はさっきから一匹も虫さんが見当たらないんだ。こんなに自然があるのに、これっておかしいよね?」
「一匹も、ってのは確かに妙だな」
実際はモノチッチが飛んでるわけだが。
いや、果たしてあれを虫と呼んでもいいのかという疑問はあるけども。
「んじゃ、俺はこれから他の奴に会いに行くけど、虫を見かけたらゴン太にも教えとくよ。おまけ程度の俺の幸運が、もしかしたら仕事してくれるのに期待しといてくれ」
「本当!?志熊くんって優しいんだね!ありがとう!」
「自分で言っといてなんだが期待はするなよ。いや、本当に……」
運が良かろうと悪かろうと、この学園内で虫が見つかることはないだろうからな……
良心に胸を痛めながら最後にゴン太に一言添えて、おそらく外のどこかにいるであろうアンジーを探し始めた。
一先ず原作で見た場所にと噴水に足を運んでみれば、どこか神秘的な印象を抱かせる褐色肌の少女の姿が見える。
未来から来たと言われても違和感は覚えないであろう程にアバンギャルドな装いだが、不思議と近寄り難い雰囲気は発していない。
「おーいそこの人。ちょっといいか?」
「……んー?見たことない顔だねー。お前もここに連れられてきたのかー?」
「そんなとこだ。で、自己紹介をしてもいいか?」
「おけおけー。最初の挨拶は肝心だって神様も言ってるよー」
「にゃははー」と笑うアンジー。
百田とは別ベクトルでの前向きさというか、ポジティブさを感じさせる話し方だ。
本当の意味で初対面ならばのらりくらりとしたその態度に面食らっていたかもしれないが、生憎彼女のことも俺は知っている。
「俺は志熊神曹。超高校級の幸運だ」
「こちらは夜長アンジーだよー。超高校級の美術部なのだー!」
「美術部ね……。まあ、それっぽい格好ではあるのか」
「アンジーは神様に体を貸してるだけだよー。神った作品は全部神様が作ったものなんだー。……『超高校級の幸運』ってことは、ひょっとして神曹も神様に祈りを捧げてるー?神った人間なのかー?」
幸運、というミステリアスなフレーズに引かれたのか、アンジーは俺の才能に食いついてきた。迫ってくる笑顔がどこか怖い。
前世の記憶はないからなんとも答え辛いが……おそらく、神を特別掲げていたりはしなかったはずだ。
各宗教のいいとこ取りをした、日本人ならではの宗教観にどっぷり漬かっていたと思われる。万華教って言うんだっけか?そういうの。
「いや、特に神に祈ったりはしてないな……。ていうか、この称号は飾りだ。実際には幸運でもなんでもない」
「おろ、そーなのかー。でも大丈夫だよー。神曹にも神様がついてるからねー。70代くらいの顎髭が立派なお爺さんみたいな神様が見守ってるよー」
…………………。
うん、やっぱこいつ怖いな。
悪い奴ではないんだろうが……どこからそんな電波受信したんだって勘の良さを時折見せるから、正直不気味に思えてしまうこともある。
なんとなく、長話をするのはマズイ。
根拠のない直感にあてられ、俺はそそくさと逃げるようにその場を立ち去ることを選択した。
「信じる者はー、救われるー」と立ち去る俺の背中へと言葉を放つアンジーをスルーし、俺は寄宿舎へと駆けた。
多分苦難に直面したとしても、拝む神はあのクソジジイではないかな……