神様転生したけど本当にしたか自信なくなってきた 作:チームDR
寄宿舎へと立ち入る寸前、そういえば俺の部屋ってどの位置にあるんだ……?という疑問が頭を過ぎったが、寄宿舎のドアを開けばすぐにその答えは提示されていた。
入り口のドアのちょうど対角線上の位置。
つまり、赤松と星の個室の間に俺の個室はあるようだった。
(俺が割り込んできたことで誰かがいなくなってる可能性も考えてたが、これでその線は消えたな)
二階建て構造の寄宿舎内を見渡す。
各ドアの上に付けられているネームプレートに描かれたドット絵で原作キャラがいるかどうかの確認をしたが、やはり欠けているキャラはいないようだった。
「まるで寮みたいだな。ここで寝泊まりしろってことか?」
既に視界に映っている先客をスルーし続けるのもどうかと思うので、この場所への疑問を呈するような形で俺は『彼女』に話しかけることにした。
「黒幕の目的はまだ分からないけど、ここがホテルや寮のような役割を果たしている建物なのは間違いないでしょうね」
寄宿舎に居た人物───遠目からでも品のある佇まいと装いをしていると分かるメイド服姿の女性は、黒い手袋をはめた手を口元に寄せながら分析するように俺の疑問へと返答する。
宝塚役者のように淡麗な顔立ちの彼女は、そんな動作ですらも様になっていた。メイド服と言っても配色は全体的に暗い色合いで、白を基調としたヒラヒラのフリルが至る場所につけられた、某オタクの聖地でよく見かけそうなものではないこともその一因に一役買っているのかもしれない。
「個室の中も少し覗いてみたけれど……ベッドやテーブルを始めとして、そこそこ質のある家具で揃えられていたわよ。一定以上の快適性は保証できるでしょうけど、それでも何か不満があれば私に申しつけて頂戴」
「んーと、そんなことを突然言ってくるあんたは一体?」
才能に関しては初見であっても見た目で9割方の人間は予想がつくだろうが。
「……失礼したわ。名乗るのが遅れてしまったわね。私は超高校級のメイド、東条斬美よ」
「ご丁寧にどうも。俺は志熊陣曹、超高校級の幸運だ。さっきの発言は、あんたがメイドだからってことか」
「ええ、みんなに尽くすことこそが私の喜びよ。だからあなたも遠慮なく、なんでも言ってくれて構わないわ」
東条はスカートの端を僅かに持ち上げつつ優雅に微笑んでくる。
高嶺の花というか、雲の上の存在すぎて真っすぐに直視できない。
「ま、考えとく。……というかあんたに何かを頼む暇がある程、ここに長居したくはないもんなんだがな。こんな場所に超高校級を何人も集めて何をする気なのやら」
「……あまり悲観的な考えは好まないのだけれど、この異常事態は少し目に余るわね。身の危険というのも……多少は覚悟しておいた方が良いかもしれないわ」
先程の
見覚えのない地に見覚えのない面々。不吉な想定が浮かんでくるのは当然の事だし、事実でもある。ここからここで起こるのは、『まともではない事』だ。
彼女は紛うことなき善人だが……だからと言って、『良い奴』が必ずしも殺人を起こさないとは限らない。
原作で使命を思い出した東条斬美が、星竜馬を殺害したように。
「仮にどんな事が起ころうとも、私はみんなの為に滅私奉公を貫くわ」という東条の言葉を最後に、俺は寄宿舎を出た。
本校舎内にいる人間以外には、おそらくこれで全員と自己紹介を終えたはず。
そう思い本校舎の扉を潜ると、扉のすぐ向こうから不気味な出で立ちの長身男性がぬっと近寄ってくる恐怖現象を体験した。
「おっと……すまないネ」
長い体躯というのは時として威圧感を人に与える。扉のすぐ向こうに人がいたという事実にも、その男の見た目にも俺は反射的に一歩飛びのいてしまったが、軍服を思わせる制服を着込む眼前の男はさして驚いた様子もなかった。
寧ろ臆した俺を見て、「ククク……」と意地悪そうに笑う始末だ。
「お互い扉を開けようとしたタイミングが被ってしまったようだネ。驚かせてしまったかい?」
「あ、いや……こっちこそ悪かった」
「謝ることはないヨ。何があるのかと得体の知れない建造物の門を開けて、如何にも怪しげな風貌の人間が出てきたら、驚くのは誰だって同じサ」
本人も自称している通り、この男は明らかに怪しすぎる格好をしていた。
服や帽子こそまだ普通の範囲内だろうが、両手を覆うように隙間なく巻かれた包帯や、顔の半分ほどを隠してしまうマスクは、他人に不信感を与えるに十分すぎる。
加えて、自動販売機並みに巨大な頭身。
街中でこんな不審人物が歩いていたら通報待った無しである。
(ビビったのは見た目にだけじゃないんだけどな……)
不気味な外見の期待通り中身も色々とぶっ飛んでいるこの男だが、今の段階では俺がそれを知っている由もない。
「僕は真宮寺是清。時に超高校級の民俗学者と呼ばれることもあるヨ」
「……超高校級の幸運、志熊神曹だ」
「幸運?ヘェ、ギフテッド制度にはそんな才能が認定されることもあるんだネ。興味深いな……よければ少し話を聞かせてもらっても?」
「悪いが、あんたの知的好奇心を刺激するようなエピソードはなにもないぞ。生まれてこの方普通の人生を歩んできたもんでね」
人との対話は手慣れたものなのか、見た目に反しフレンドリーな雰囲気を出す真宮寺。
だが残念ながら、話すことなど本当になかったりする。
「そうなの?残念だなァ。『運』というのは人の生を語るにおいて無視できない要素だからネ……唐突だけど、古代ギリシアの数学者アルキメデスが、どういう風に没してしまったか君は知っているかな?」
「……なんかの計算をしてる最中に兵士に殺されたんだったか?うろ覚えだが」
これ自体は有名な話だろう。一般的な認知度も高い逸話だろうし、大して物知りじゃない俺も知っていた。
「正解だヨ。他にも数々の歴史的な偉業を達成していながら、死に切れない不運な結末を迎えた偉人っていうのは意外と多いものなんだ。有名どころだと、赤髭王バルバロッサことフリードリヒ1世や、古代ギリシアの詩人アイスキュロス辺りもそうだネ」
「民俗学…ってイメージは掴めてるような掴めてないような微妙な感じだが、『運』も関係してるって言いたいのか?」
「その通りサ。さっき名前を挙げた彼らのように、人間である以上、どんなに優れていても不運であれば死んでしまうこともあるからネ。だから古来より人は運勢を高める儀式や、逆に他者の運を悪くする術を開発し続けてきたのサ。左馬や六曜のように、僕らの周りにだって運が密接に絡んでくる所作や風習はあるでショ?『運』だって民俗学の立派な研究対象なんだヨ。だからこそ、君の才能にも大いに興味があったんだけど……」
「……随分と口が回るんだな」
「ククク……褒め言葉として有難く受け取っておこうかな。……どうにも第一印象があまり良くないみたいだったからネ。この対話で少しでも君が警戒を解いてくれれば幸いだヨ」
そんな殊勝なことを言われると、実は良い奴なんじゃないかと思ってしまいそうだが……コイツは変人の皮を被った常識人の鎧を纏った狂人である。
間違いなく、1.2を争うレベルで心を許してはならない存在だ。
おそらく先程の発言は心からのものであるからこそ、
「第一印象を良くしたいのなら、その格好止めたらどうなんだ?」
「この服装は気に入ってるんだ。その要望には悪いけど応えられないなァ」
……そうなのか。
ならもう、何も言わないが。
「その話はさておき……予想はしていたけど、校舎外に出たからといって僕らが自由の身になれるわけではなさそうだネ」
呆れている俺を尻目に、真宮寺は外の光景を見ていたらしい。視線は主に、この学園の敷地を囲う鳥籠のような鉄線に向けられている。
絶望的な事実の筈だが、真宮寺に目立った動揺は見られなかった。むしろ良い観察対象を見つけたと言わんばかりに、切れ長の目を細めている。
「ああ、鬱陶しいことにな。俺の他にも何人か外に人はいるから、挨拶してきたらどうだ?」
「そうさせてもらうヨ。ククク、ここには興味深い人物が何人もいて、僕を飽きさせてくれないネ……」
不気味な笑みを引っさげながら、真宮寺はそのまま外へと歩き出して言った。
不穏なシルエットの背姿を見送り、今度こそ校舎の中を歩き出す。
普通の学校の造りのようで、所々に整備され切っていない自然が見える校舎は酷く違和感を齎した。
最後にプレイしたのがそこそこ過去のことなので校舎内の詳しい位置関係までは記憶していないし、初顔合わせの時に誰がどこにいたかまでは忘れてしまっている。
とはいえ幸いにして今探索できる範囲はそこまで広くないし、適当にぶらついていれば全員と会うことができるだろう。
次に会ったのは、男女の二人組だ。
勿論、原作主人公ペアである赤松楓と最原終一のことである。
遠目から眺めていると、何やらカラフルなクマ5体と問答をしており、赤松の方はやや不機嫌なのが伺える。
(ピアノの鍵盤みたいな扉が見えるな……多分、研究教室に関しての説明か?)
そういえばあまり気にしていなかったが、俺って目覚めてからモノクマーズと一回も会ってないな。
これは何か意味があるのか、それとも……
おそらく、考えても答えは出ないだろうな。
そもそも主人公達以外がどのタイミングで会っていたのか不明だし。
湧き出た疑問は取り敢えず頭の片隅にしまっておき、モノクマーズが去ったのを見計らって2人に近づいた。
「どーも。あんたら2人も目が覚めたらいつの間にかここに居たって認識でいいのか?」
「あ……うん。そうだよ。私と最原君──横にいる彼も何故か教室のロッカーに入れられてたんだ。そこから二人でここを探索してて、さっきこの部屋の説明をモノクマーズ達に受けてたんだけど……君の名前は?」
「志熊神曹。超高校級の幸運だ。よろしくな」
「うんっ、よろしく志熊君!私は赤松楓。超高校級のピアニストなんて言われてるけど、要はただのピアノバカだね」
「僕は最原終一。超高校級の探偵だよ。一応、だけど……」
「もー、最原君ったら。男の子なんだからもっとハキハキと喋らなきゃダメだよ?」
「う……ごめん」
「なんかもう既に尻に敷かれてるな」
気弱な最原を活発な赤松が引っ張る、という図式は健在のようだ。
仲睦まじいそのやり取りは、見ようによってはカップルとも言えそうな気がする。
……口には出さないが。
「なあ、さっき2人と話してたあのカラフルなクマ共はなんなんだ?さっきに口に出してたモノクマーズってやつなのか?」
「えっ?モノクマーズと会ってなかったの?」
「少なくとも俺はな。他に外にいた連中がどうだかは知らないが……」
「……外?」
外というフレーズに最原が的確に反応する。
一拍遅れて、赤松もそのワードに食いつきを見せた。
「えっ、外って……志熊君、この建物の中に外から入ってきたの!?」
「ん?そうだけど……ああ、予め言っておくが、助けを求めるのはあれじゃ期待できねーよ。言葉じゃ説明し辛いが……ま、実際に外に出れば意味がわかる」
「そんな……」
目に見えて落ち込む赤松。
赤松程ではないにしろ、最原も少なからず落胆しているのが見て取れる。
「……ううん!そんなに簡単に諦めちゃダメだよね!まだ、自分の目で確認もしてないんだし……もしかしたら、外へ出る手段がパパッと閃いちゃうかもしれないよね!」
「ポジティブなんだね……赤松さん」
しかしへこたれたのも一瞬のことで、赤松はすぐに気を持ち直した。最原の方は赤松の意見を否定こそしないものの、そう上手く事が運ぶとは考えていないように見えるが。
赤松と最原とはそこで別れ、俺は次の人を探す為に足を進めた。
……研究教室について聞いてなかった気がするが、まあいいか。