博麗の神社に両親と幽香さんと共にやってきた僕は、幽香さんに神社がどうしてこうなったのかを教えて貰う。
博麗神社は昔も今とさほど変わりなく、信仰は集まってはおらず、少し小ぎれいなだけだったらしい。
だが、その役割はとても重要なもので妖怪を退治する巫女が代々住むことになっていたという。
最近彼女という妖怪を知ったばかりの僕にとって、妖怪と言われてもピンとは来ない。
しかし、幽香さんが言うには博麗神社がまだ意味をなしていた時代には妖怪変化が世界に跋扈していたらしいのだ。
妖怪は人を襲い、人はそれに対抗できずただ死に絶えるのみ、この悪循環を変えたのが博麗の巫女と言うことだった。
「妖怪の力はどこから出来るのか、それを今教えてあげる」
今日の朝起きてからずっと考えていたのだが、どれだけ頭を捻っても何の感想も沸いてこない。
観念して、明日のトレーニングの厳しさを覚悟しながら、幽香さんの話に耳を傾ける。
「妖怪は人間がいるから存在できているのよ」
「えっ!」
つい大声を出してしまい、慌てて口を押さえるが、幸い両親には聞こえていなかったようだ。
僕にとって彼女の言葉は、思わず唾を飛ばしてしまうほどには驚きだった。
「正確には少し違うけど、人間と共存しなければ妖怪は生きていけない。
共存と言ってもその形態は、仲むつまじいものじゃないわ、妖怪は人間の心に存在しているのよ。
人間の心が重なり合って、それが何年もの年月を経て形になったものが妖怪…
妖怪が変わった力や特徴を持っているのも当然よね、だって人の心が作り出したものなんだから」
いつの間にか木の上に止まっていたカラスが低く鳴くと、偶然か大きな風が僕の肌を優しく撫でていった。
幽香さんはそこで言葉を切り、紫色のセンスを指さした。
「人に信じられなくなった妖怪は人間の心を受けなくなってしまうの。
すると力の源が無くなった妖怪は、ありとあらゆる人の記憶から消えて、存在さえも消えてしまう。
人の記憶、心に強く刺激を与える事柄は幸福と、恐怖…でも恐怖の方が強く心に残るのよ傷としてね。
だからこそ、妖怪は人に恐怖を与えて忘れられないようにする、そして博麗の巫女に退治されるという循環よ」
晴天の空から降り注ぐ陽光の黄色い光を黄緑色の髪に反射させた幽香さんは、眩しそうに手を額にかざして片手に持っていた日笠を開き天へと向ける。
日光は温かいが空気は冷たい、秋の奇妙な昼はどうにも許容しがたいものがある。
寒いのか温かいのかどっちつかずと言うのは、気持ちが悪い。
どうにも好きにはなれない雰囲気に髪をかきむしって、空へと視線を移すと今まで青一色だったのに、何か黒い点が浮かんでいた。
「どうしたの?」
「えっと、気のせいかもしれないんですけど、あそこに何か…」
ゴマのように見えるか見えないかの微妙な距離で浮かぶ点は徐々に大きくなっていく。
ぼうっと何だろうなアレ、という気持ちで見ていた僕ははっとして幽香さんの方へ向き直った。
「もしかして…」
顔に冷や汗を流して幽香さんと空を交互にみる。
何かが降ってくる?
遠いところにあるから黒い点に見えているだけで実際は隕石のように大きく、重いものなのではないか。
「…みたいね」
幽香さんも僕と同じ考えに至ったようだが、特にあわてる様子もなく、淡々とした動作で傘を畳んで、空へとその先端部を突きつけた。
まさか野球のように落ちてくる隕石のような何かを打ち返そうと言うのだろうか。
いや、幽香さんの妖怪の馬鹿力なら可能なのかもしれないが、僕は内心穏やかではい。
僕の予想は不本意ながら当たっていたようで、空から降る物体…仮に黒玉とする…は、見る見るうちに大きくなっていった。
空気を切り裂いて落ちてくる時にでる耳障りな摩擦音が聞こえ始め、いよいよ僕たちに激突するというとき、幽香さんが動いた。
傘で天を刺したまま腕を一度引いて、再び槍のように突き刺したのだ。
「マスタースパーク!」
傘の先端部分に小さな光の点が見えたと思ったら、その光点は徐々に肥大して、バスケットボール台の玉へと変わる。
ものすごい早さで落下する黒玉に傘を微妙にずらし、正確な照準を定めると、光の玉は一瞬またたいて、極太のレーザーを発射した。
「なっ……!?」
開いた口が塞がらない、僕が両手を広げてもまだ足りない程に巨大な太さの光の玉から伸びるレーザーは、黒玉に衝突し瞬く間もなく、黒玉を消し尽くしたのだった。
「ふうっ…久々に打つと疲れるわね、威力も弱いし、もう年かしら」
光点が消えて煙が立ち上る傘を一回転させて再び開き日笠へと戻す幽香さんは、西部劇にいたというガンマンにも見える。
「妖怪って、皆こんなの出来るんですか」
レーザー光線、今のは誰が見てもそれ以外の何者でも無いと言うだろう。
幽香さんのような妖怪という種が皆、こんな過剰兵器じみた力を使うのだろうか。
だとすれば、博麗神社が機能していた頃にいたという博麗の巫女という存在は、一体どれほどの規格外だったのか。
「そうねぇ、全員って事は無いけどこのくらいの火力なら結構な数が打てたわよ」
それでも十分過ぎる、人間でありながら、過剰な力をを放つ妖怪たちを退治する巫女…
きっと巫女とは名ばかりで、全日本プロレスに参加し優勝をもぎ取るような筋肉モリモリの人間なのだ。
「うえっ…」
そんな男が紅白の巫女服を身にまといい、神社の掃除をしている所を想像してしまい吐き気がした。
黒玉を破壊したあたりの空は、もう雲一つ見えない青いものへと戻っていた。
「何だったのかな…さっきの」
正体を確認する前に幽香さんが消し飛ばしてしまったので、あれが一体どう言うもので、何故落ちてきたのかが分からない。
レーザー光線の凄さに驚いて忘れていたが、黒玉の破片というべきものは一切落ちてはいなかった。
「はっ…懲りないわねガキ」
幽香さんの口調が今までの上品なものから、楽しそうなサディスティックさが滲み出るものに変化する。
広げた傘を僕の方に向けて再び先端部分に光を収束させ始め…
「え、ちょ…幽香さん!?」
「マスタースパーク!」
かけ声と共に撃ち出されたレーザー光線は、ギリギリ僕の側を通り抜けていった。
光線の衝撃波で地面がえぐれ風が舞い上がり、僕の肌を強烈に殴打した。
彼女は僕に向けてレーザー光線を撃ったわけではない、彼女は狙いを絶対に外さないのはさっき見たばかりだ。
なら、何を狙って撃ったレーザー光線なのか、吹き飛ばして荒れ地となり果てた場所に目をやると、舞い散った砂煙の中に黒い人影が見えたのだった。
「容赦無さ過ぎ、殺す気かって…」
「こんなものじゃ、アナタは死なないわよ」
砂煙を鬱陶しそうに右腕の一振りで払いのけた人影は、長い金糸のような綺麗な髪をしていた。
真っ黒なゴスロリにも見えなくもないドレスを来た、幽香さんと似たような年齢的な女性…
幽香さんの言葉に若干顔をしかめながら、どす黒い赤の眼をした女は笑う。
闇の底をみた…そんな気がした。