「さすが、アルティメット・サディスティック・クリーチャーの名前は伊達じゃな…」
皮肉って幽香さんを嘲った金髪の女性は最後まで言葉を紡ぐことは出来なかった。
いつの間にか女性の背後に回り込んでいた幽香さんが、閉じた傘を槍のように振り回し、横に凪払ったのだ。
「ぐあっ…」
不意に来た渾身の一撃を無防備だった胴に食らった女性は、顔を歪め、口から唾を吐いて吹き飛ぶ。
僕には「くの次形」に体が折れ曲がっているように見えた。
「ふふっ」
「……ハハッ、さっそくやり合いかよ、戦いに飢えてたのか?」
だが、金髪の女性もただ飛ばされるだけでは終わらない。
傘に当たり吹き飛んだ後、空中で一回転してバランスを取り戻し、近くの木に足から垂直に着地したのだ。
ぐきっと鈍い音を響かせて女性は、傘の形にへこんだ胴を元に戻し、闇のように深い瞳で幽香さんを見下ろしてきた。
引きつった女性の笑みに、嘲笑う笑みで返したサディスティックな彼女は、まだ追撃を止める気は無いらしい。
嬉々として木の上を睨みつける幽香さんは、美しくも恐ろしくもあった。
「最近戦ってないだろう、そんな鈍った腕で私に挑もうとは、いくら幽香でも無理があるよ」
「あら、そうかしら。私の腕が鈍っているかどうか、弾幕を受けてから言ってみなさい。
もっとも、アナタの実力では弾幕をかわすだけで精一杯のようだけど」
「言わせておけば…なっ!?」
会話の間にも幽香さんは次の攻撃を考えることを怠らない。
相手を挑発し焚きつけることで、まともな判断力を怒りで削り取り、集中力を無くさせる。
その戦法は、普段の幽香さんを見ているからこそ分かったものだ。
僕や両親と会話をするときの幽香さんは、絶対に暴言や毒舌、相手を不快にさせる言葉を言ったりしない。
それは彼女本来の性格に起因するもので、戦い好きだが上品という一見矛盾しがちのスタイルを上手くまとめている。
今の戦いでの口調の変化は、一種の戦法なのだろう。
怒り心頭で頭に血が上った女性は、まんまと幽香さんの術中にはまってしまった。
木の上という非常に狙いやすい場所にマトが降り立った瞬間から、罠は始まっていたのだ。
「花符「幻想郷の開花」
何やら黄色く光るカードを取り出して、傘を女性の方へと向ける。
同時に幽香さんの周りに無数の大輪の花が現れ、それが手裏剣のように回転しながら全て正確なねらいで木の上へと飛んでいったのだ。
地面ではなく、木の上という足場の限られているフィールドにいる女性には、襲いかかる沢山の攻撃を避けるすべはない。
下に降りればこれ幸いと、幽香さんの傘が今度は鈍器をも砕く一撃で飛んでくるだろう。
「話をしに来ただけで戦いになるのはまあ予想してたけどさ……
此処まで幽香が衰えて無いとは思ってなかった、よ!」
背中から黒いオーラのような形の定まらない翼を出した金髪の女性は、攻撃するでもなく、翼を前へと突き出し盾を作ったのだ。
見る見るうちに黒い翼は形を羽から体全体を覆う球へと変化し、始め見たような何も見えない漆黒の黒玉になる。
どうやらこの形態が女性の防御体制のようだった、幽香さんの追撃に対処仕切れないと判断して、逃げるよりも守りを選んだようだ。
幽香さんは女性の渾身の守りに何の興味が示さず、ただ自分の勝利を確信したように微笑んだ。
見た目は綺麗な花の攻撃だったが、威力は見た目ほど優しいものではないらしい。
次々に現れる大輪の一つ一つが黒玉に当たる度に、黒玉は大気を震わせる音を出して軋み悲鳴をあげる。
木の上から黒玉は一本も動いてはいない…いや、動けないのだ。
一本でも動けば大輪のぶつかる衝撃に耐えきれなくなり、弾き飛ばされてしまう。
そして無防備に飛ばされた挙げ句、大量な花の追撃にあって負けてしまうのだ。
動くことも、攻撃することも、逃げることさえも出来ない状況。
防戦一方の女性、幽香さんの攻撃が次々に命中し、黒玉にひびが入り始め、勝敗が決しそうになった。
幽香さんが少しずつ黒玉の防御を破がしていくのを鬱陶しく感じたのか、必殺の一撃を穿つために傘に光を溜め始めた時、黒玉の方が動いた。
守りに徹していたのでは無かったのだ、女性は待っていた、幽香さんがレーザー光線を撃つために溜めを作るその時まで。
ひびの入った黒玉を用無しとばかりに消した女性は、こちらも黒く発光するカードを手に握りしめ、高らかに叫んだ。
「闇符「ダークサイドオブザムーン!」
女性から小さな発光するボールのような球体が大量に現れ、衛星のような軌道をかきながら広がっていく。
「……チッ!」
レーザー光線を放射しようとしていた幽香さんは、傘に意識を集中していたので、女性の攻撃への転化に気付くのが数秒遅れてしまった。
傘の光を途中で止め、襲ってくる光の玉をよけるだけになってしまう。
「アハハハ、形勢逆転なのか?」
光の玉を身体から作り出していく女性は、やっとの事で窮地を脱したという安堵からか、冷静さを取り戻してきているようだった。
「ふふふ、黙りなさい、こんなもの私には脅威でも何でもないわ」
身体を捻っても避けきれない玉を傘で叩き落とす幽香さんは、そこで諦めたりはしなかった。
傘を自分の手のように巧みに動かしながら、光を先端に溜め始めたのだ。
レーザー光線を撃つまで溜は長くなるが、避けながらも強力な攻撃を撃つ準備が始まっているというのは、相手にプレッシャーを与えている。
凄い…凄いとしか言いようがない。
これが妖怪の戦いなのか、光の玉やレーザー光線を使い地形を変えるものが彼女達の戦い。
まさに次元が違う、人間のプロレスとは比べるまでもない、比べることがおこがましいほど圧巻だった。
回避が即座に攻撃に転じ、どちらも決して諦めようとはしない姿勢は、妙に高揚感を覚えるのだ。
いつの間にか手に汗を握って2人の戦闘を見守っていた。
光が飛び散る彼女達の技の一つ一つは幻想的で、夜の星空よりも美しく見取れてしまう。
「ふんっ!」
幽香さんが傘の胴を握り、片方の手で拳を作り飛んでくる光を殴り飛ばす。
そのまま光を殴り続け道を強引にこじ開けて女性の元へと一歩ずつ歩を進める彼女の姿は巨漢のように見える。
「……あ、これを弾くのか、というかルール無視かよ、当たったらアウトだろ!」
「ルール?宣言無しに飛んできたのはアナタの方じゃないかしら。
そんな人情の欠片もない相手には、私も一片の躊躇なくヤってあげる」
何か基準がこの戦いにもあるらしく、あの光の玉を幽香さんが素手で消し飛ばした行為は反則のようだ。
しかし、不適な笑顔で受け答える彼女の顔からは、そんな基準など大した事はないと語っている。
そして溜まった光をレーザー光線にして女性に向かって一気に照射した。
「くっ…あっ」
畳みかけるために光の玉を無防備な幽香さんに投げ込んでいた女性は、撃ち出されるレーザー光線を防御する羽を展開する余裕がない。
腕を胸の前でクロスして少しでも威力を殺そうとするが、努力虚しく押しとばされてしまった。
急に戦闘描写で困惑された方、すいません。
これからも少しずつこういう描写を入れていくのでよろしくお願いします。