しばらく泣き続けていたルーミアさんは、幽香さんの包容に安心したのかやがて、寝息をたててしまった。
ルーミアさんの眼から流れた雫を指ですくい取り、慈しみの表情を浮かべる幽香さんは、本当に綺麗だった。
「…疲れていたのね、私の家で寝かせてあげましょう」
ひょいと寄りかかったルーミアさんをまるで米俵を担ぐように肩に乗せた幽香さんは、荒れ地になった周りを見回す。
例え本気の戦い出なかったとしても、二人の戦闘は地をえぐり、木を引き裂くものに違いはない。
人から忘れられた哀れな神社の裏は、これまた哀れ過ぎる惨状になっている。
此処に爆弾が落とされたと言っても、信じる人がいるかもしれない。
「随分と暴れたわね、ごめんなさい。
この戦いの音、ご両親に聞こえていないと良いけれど…」
そっと幽香さんがルーミアさんを支えていない方の腕で空気を凪ぐように振ると、地肌が出ていた場所から小ぶりな木々が無数に芽を伸ばし始める。
「花を操る程度」と聞いていた能力だが、この頻度で、この万能性で使われると、 僕の持つ能力が惨めに思えた。
電気という一見応用性に富んだ能力を持っているにも関わらず、力を出し切れない僕と、何十年も生きてきた幽香さんを比べてしまったのだ。
比較出来るからこそ、本人がおまけと断ぜられる程度の能力を、惜しみなく出し切り、僕の能力を軽く上回る…
圧倒的過ぎて悔しいよりもむしろ爽快な気分になる、彼女との差はそこまで開いている。
幽香さんに言わせればそれは経験の差、つまり僕が幽香さんと同じだけ生きることが出来れば覆す事が出来る差らしいが、今の僕に慰めにもなっていない。
見る見るうちに元の大木まで成長する木や草を見ながら、僕は改めて自分の無力を痛感した。
ルーミアさんが落ちてきたときも、僕は慌てるばかりで、攻撃よりも逃げることを考えてしまっていた。
幽香さんのレーザー光線の隙を突かれ、彼女が劣勢になった時も、僕は客席で手に汗握っていただけなのだ。
何の役にも立っていない、僕は幽香さんに沢山の事をしてもらった。
なのに、僕は彼女に水一滴たりとも返すことが出来ない。
言ってしまえば借りたら借りっぱなし、そして彼女に何も返すことなく終わってしまう。
「そんなのは…嫌だ」
僕は前に進む、憧れるべき彼女の背に向かって心の声で叫ぶ。
妖怪は消えている、この現象が続くのならいずれ幽香さんも居なくなってしまうと言うことだ。
僕を鍛えてくれた彼女、人生を180°変えてくれた幽香さんに、何も残さず逝かせてしまって良いのか…
良いはずがない!!
犯人を見つけ出し、この現象を止めてもらうことが、どれほど無謀な事か分かっていても、僕はやる。
妖怪の存在を人間から忘れさせるという力を持つモノが、とても人間なわけはない。
人間なら寿命を待てば直ぐに死ぬし、そもそも身体的なスペックで妖怪に負ける。
……隠密に長けた妖怪の仕業、または推測だがそれに近い能力を持ちなおかつ何年も生きることの出来る人間の仕業だろう。
とても今の僕では勝てる気のしない敵の姿が思い浮かぶ。
逆にこてんぱんにやられる姿を考えて仕舞わないだけ、まだましと言えた。
もっと身体を鍛え、彼女に認められる程に能力を使いこなし、足手まといに成らないように努力する。
そうすることで彼女の助けに、いや自分の助けに彼女が来るように強く強く成りたかった…
決意に震える拳を木に押し当て、感情の爆発のままに、僕の決意をそのまま押し付けた。
「……はああああっ!!」
行き場のない鬱屈とした感情、そして自分は今日から変わるという誓いとして、能力を自分の意志で発動させる。
発動までは出来る、問題は発動させた後のコントロールだ。
感情の起伏によって簡単に能力を発動させられるのなら、己の意志で能力を使うことは容易い。
だが、僕には流れ出る電気の圧に身体が耐えられないと言う、人間という限界の壁がある。
電気が発散するときに生まれる熱量が、自らの身体をも焼き焦がしてしまうのだ。
現に今、電流が腕からけたたましい音をあげて飛び散ると共に、僕の腕は焼けただれ血を周囲に散布している。
「直人!?」
僕の唸り声に気がついて驚いた幽香さんが駆け寄ってくるが、僕はその前に動いた。
護られるだけではいけない、弱さを自覚しただ閉じこもるだけでは何も変わらない。
先へ、まだ見ぬ先へと進もうとする探求心が、好奇心が、勇気がなければ僕は駄目なんだ…
発生する電気を腕だけに寄せ集め、焦げ付く肌の匂いに耐え、僕は能力をコントロールする事だけに精神の全てを使った。
風が身体を包んだ…そう感じた、僕の周りの空気がすべて僕のモノなったかのような一体感がある。
「これは…なに?」
気が、草が、人がまるで手に取るように何処にあるか、その正確な距離感が理解出来るのだ。
世界と自分が繋がった否、これは僕の能力によるものだ…
いつの間にか腕は元の色形を取り戻している、痛みももう感じない。
幽香さんが僕のそばに駆け寄ってくるのが見なくても分かる、音じゃない…
周囲に張られた電気の膜が、そこに触れる物質の有無を伝えてくれる。
これは…そう、レーダーだ。
僕の身体から発散された電気は電流になり熱量を生むのではなく、周囲に拡散してありとあらゆるモノをその感覚に取り込んだのだ。
電気のレーダー、僕の力の新しい応用性を見つけ満足してしまったのだ、気を抜いた瞬間僕はその場に崩れ落ちてしまった。
だが、研ぎ澄まされ周囲全てを把握できる力は健在で、眼を閉じても彼女の心配そうな顔が見えるようだった。
この日、僕は電気という力を支配したのだ、無意識にだがその能力の本質に気がつき始めていた…
僕はまだ努力する、彼女に貰ったモノを返すために。