東方歪天禄   作:スマート

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No.022「忘却」

SIDE ルーミア

 

闇、それは私そのもの。

 

私は人間が闇を恐怖し、忌避することで生まれる沢山の負の感情から誕生した。

 

黒は、ありとあらゆるモノを塗りつぶし、先を見通せなくさせ、心に不安を作り出すもの。

 

故に私は、人間の恐怖全てになった、奴らが思うままに人を喰い、奴ら感じるがまま、殺戮を繰り返した。

 

いつしか私は恐怖ではなく、私そのものとして存在するようになっていた。

 

名前がつけられたのだ、行き場のない恐怖や不安に個としての名を与えることで、不安定な存在を縛ろうとした。

 

人間は無知だ、無知だからこそ、知らないことがあるからこそ、理解できない事象を忌み嫌う。

 

周りとは違うという理由だけで、他人を蹴落とすイジメのように、自己の理解の及ばないものを排除しようとする。

 

だが、私は弱くなかった。

 

当然と言えば当然、私は恐怖…闇なのだ、人間には到底克服できないという深い意識から生まれた私が、排除されようはずもない。

 

例え排除されても、恐怖がある限り闇が陰る限り、新たな私は生まれ続けるだろう。

 

だからこそだ、恐怖に名をつけその意味を修飾する事で、人間は私を乗り越えようとした。

 

ルーミア「Rumia」、常闇の妖怪…

 

ラテン語の『ルーメン(lūmen、光)」』から、神話に登場する貝「ルミア(逆さま)」を混ぜ込んだ名前。

 

凝った名前だが、それは恐怖を与える言葉を隠語を使い覆い隠しているだけにすぎない。

 

「光」ではなく逆さまの「闇」、実に皮肉なこの名前を、私は気に入っている。

 

常に光を意識するからこそ、闇はその底知れなさ、黒さを増していくからだ。

 

光が射せば、必ず影が出来るように、人間がいれば私は必ず現れる。

 

「アハ…アハハハハハハハ!!」

 

月の出ていない真っ暗闇、星さえも見ることの出来ない僻地で、掠れるような狂った笑い声を上げるのは私…

 

どう? こわい? 気持ち悪い?

 

でもそれが私の存在理由なのだから止めることも、違うことをすることも出来ない。

 

悲鳴を上げて逃げ惑う人を、引き裂き絶望させるのが、生き甲斐…いや存在意義なのだから。

 

「闇を操る程度の能力」は持つべくして手に入れたものと言える。

 

影や日の光が届かない真っ黒で不気味なモノを、引き出し実体化させ姿形を自由に変えながら使う力。

 

闇は私なのだから、私が自分の身体を動かすだけという能力という表現も出来るからだ。

 

人も動物も私を恐れていなくなり、荒れてしまった大地に降り立つ私は、孤独だったのだろう。

 

当時の私なら、その事を否定するだろうが、孤独から解放されてしまった今から鑑みると、随分と寂しかったのだと思い至る。

 

恐怖、闇である私にも皮肉だが感情はあった…

 

だからこそ、自身の作り出す闇に、私の心も毒され始めていた。

 

愛されるなど以ての外だ、どこに恐怖の権化を心から愛せる生物がいるというのだ…

 

生物の持つ危機回避本能である恐怖を自らに受け入れると言うことは、即ち死を意味している。

 

その点、強豪という恐怖すべき対象が少ししか存在しない幽香などは、私の友人になり得たわけだ。

 

恐怖すらも打ち倒しかねない彼女に、私の方が怖くなったのは、懐かしい思い出だった。

 

そして…私の前には友人がもう一人、同じく恐怖を持たず、私と対等に話してくれる、最愛の人が…

 

名前は…

 

何故かそこから先が思い出すことが出来ない。

 

靄がかかったように、その人の名前だけがぽっかりと抜け落ちてしまっているのだ。

 

楽しかったこと、嬉しかったこと、沢山の記憶に彼が現れているが、どの彼も黒いシルエットに変わっている。

 

忘れてしまったのか、大切な人のことを、名前を、顔を、性格を…

 

重大な過ちを犯しているという罪悪感と、心が削られるような虚無感が一緒くたに混じり合い、私はたまらず呻いた。

 

「ううっ」

 

呻いた所為で、今まで見ていた暗い過去の世界が夢だと言うことに気がつき、目が覚めた。

 

「あ、気がつきましたか、幽香さん…ルーミアさんが」

 

慣れない光に眼を細めて辺りを見回すと、見覚えのある古い小屋の天井が見えた。

 

私はまた気絶して眠ってしまっていたらしい、昔は幽香と共に強者としてならした者として恥ずかしい。

 

「なお…と?」

 

まだぼやけがちな眼で、幽香が鍛えている直人の声が聞こえた方へと顔を向けると、そこに幽香が歩いてくるのが見えた。

 

「…あなたそんなに弱かったかしら、ちょっと弾幕ごっこをしただけで、気絶するなんてだらしないわね」

 

口ではああ言っているが、私の事を心配していることが、嫌でも分かる。

 

その証拠にそっと膝をついた彼女は、自然な動作で私の額に手を当てたからだ。

 

熱が無いか確認したのだろう。

 

こういう気遣いが、昔の記憶が呼び起こされ、今また友人が消えていく現状の寂しさに沁みる。

 

「あはは、幽香が強すぎるんだよ…それに何か変なんだ」

 

「変…ねえ、見たところ其処まで外傷は負ってないし、私も手加減したのだけど…」

 

「あれで手加減かよ…ってそうじゃなくて、そう…幽香お前何か忘れていること無いか?」

 

布団から起きるなとやんわりと幽香に止められてしまったので、仕方なく好意に甘え横になったまま話す。

 

直人は幽香と一言、二言会話した後直ぐに小屋を出て行ってしまった。

 

此処に住んでいるというわけではないのか、聞こえてきた声によると家に帰ったようだ。

 

二度も気絶した私の面倒をずっと見てくれていた彼に、また今度お礼を言おうと思う。

 

「忘れていることは、そりゃあるわよ私達何年生きていると思ってるの?

 

そんなに見たこと聞いたこと全部詰め込んでいたら、頭が壊れてしまうわ。」

 

「い、いやそういう事じゃなくて、もっと重要な事を…絶対に忘れちゃいけないことを忘れてる気がするんだ」

 

夢に浮かんだ欠けた記憶、そして二度目の気絶の時にうっすらとだが思い出した情景。

 

忘れてしまった私が言うのも何だが、アレは多分、忘れてはいけない部類の思い出なのだろう。

 

それだけは間違いないと心が言うのだ。

 

「……何、私達が意図的に記憶を改竄されたかもしれないって言いたいの?」

 

すっと目を細めて、何かを思案する幽香、思い当たることがあるのか、その顔は一層険しくなっていく。

 

「多分だけど、その可能性があるのは否定できない…

 

もしかしたら、それをしたのが今回の異変に繋がっているのかも…」

 

妖怪が消える、恐怖心が消えていく、それはつまり人の記憶から消えていくのだから、忘れるとも取れる。

 

そして、「忘れさせる」というカテゴリーに絞れば、それらの能力を使う者を炙り出せるのではないか。

 

淡い期待を抱いて幽香に問いかけるが、彼女は未だに黙考するだけだった。

 

「あまり物事を結び付け過ぎないようにね…でも、アナタの言うように可能性はある。

 

私もどうしても思い出すことが出来ないでいるのよ、大好きだった人の顔がね」

 

……矢張り、幽香も知っていた、そして忘れている。

 

何かを私達は忘れ、今になって思い出そうとしている、それが果たして良いことなのかどうかは分からない。

 

だが知らずにはいられないのだ、こんな私が好きになった大切な人を、その記憶を取り戻したかった。

 

SIDE OUT ルーミア

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