電気のレーダーを自分の周りに発生させられるようになってから、電気わざわざ発散させずとも暴走は起こらなくなっていた。
僕の身体から作られる電力量を、レーダーとして使うことで消費しているので、暴走まで達しないと言うことらしい。
初めてレーダーを出した時は、妙な感覚と溜まっていた疲れの所為で、倒れてしまった。
幽香さんに再び看病されて、両親の元に送ってもらい、父や母に起こられはしたが僕は満足していたのだ。
何故なら、能力を少しだけとはいえ意識的に使うことが出来るようになったのだから。
幽香さんに言われ、能力を使うことに慣れるという意味で、僕は普段からレーダーを作り出している。
何でも、能力は自分の身体の一部のようなモノなので、手足のように使えなければならないとのこと。
電気の垂れ流しは身体の負担が大きいかもしれないと考えていたが、それは肩すかしだったようだ。
僕自身から出る電気は、予想以上に膨大でレーダーを一日中展開していても、全く大丈夫だった。
第三の眼とでも言うのか、このレーダーは僕の視界では捉えられない視覚まで把握し、隙を埋めてくれる。
目をつぶっていても、単純な道なら走って抜ける事も出来るのだ。
これで後ろから攻撃されても避けることが出来る、と考えて自分の無謀さにへこんだ。
だから何だと言う話だった…
幽香さんやルーミアさんの力量では、例え不意打ちを見切れたとしても、それを避けられない。
100歩譲って避けられたとしても、追撃を交わしたり、溜め技(レーザー光線)を受け流すなど夢のまた夢だ。
僕の手に入れたレーダーは、所詮戦いの補助程度にしかならない。
兼用して使えば確かに強いかもしれないが、僕はこれ以外に電気を操ることが出来ない。
体内に溜まった電力を円状に拡散させ、そこに触れた物体から返ってくる電気のぶれを計測して位置情報や形状の情報を得るのが僕の使うレーダー。
だが拡散させるばかりで、それを攻撃に使おうとすると僕の身体も、電気から生まれる熱で焼けてしまうのだ。
火傷は直ぐに元通りに回復はするが、不必要な傷を負うのは戦いではリスクが大き過ぎると幽香さんは言う。
痛みで身体が止まってしまえば、それが最大の隙になってしまうらしい。
豪邸のような広い祖母の家、僕にあてがわれた和風の畳の上に敷かれた布団の中で、僕はただ呆然とそんなことを思っていた。
満足する能力の応用は出来たが、この程度ではまだまだ彼女達の足下にも及ばない。
彼女達は妖怪だから仕方ないと言ってしまえばそれまでなのだが、種族の差を言い訳にするのは悔しかった。
以前幽香さんが話してくれた博麗の巫女は、彼女達と戦い退治したという。
人間にもほんの少しでも妖怪とタメを張れる要素が無いわけではないのに、諦めるのはまだ早い。
「でもどうやって、電気を攻撃に使えば良いんだ?」
攻撃に使うことは出来る、しかし前述したように自らにも刃が降りかかる諸刃の剣だ。
「……ん?」
天井を眺めていた僕は、ふとそこにとまっていた小さな虫を発見した。
普段なら気にも留めないほどの、台所によく出没するアレに似た虫だったが、僕は緊張して冷や汗が出た。
冬にアレが出るのは希にだが起こり得る、だがこの虫はそういう季節の問題ではない奇妙な物…
そう…僕はこの虫の存在を見落としていた。
この事実がもう有り得ない。
レーダーを会得し、周囲一体の物体をある程度把握できるようになった僕が、ただの虫一匹の位置を捉えられない筈がないのだ。
小さな虫とは言え、生物はそれそのものが電気を発している。
僕のレーダーはその電気を拾うことで、より正確に物体の位置や形を探知する。
昆虫と言えどその例外はなく、僕のレーダーに捉えられないということはない。
「……っ」
危険だ…僕の勘がそう言っていた。
未熟な僕の能力と言えど、レーダーは通常の物体なら必ず捉えることが出来る…と思う。
だからこそ有り得ないのだ、そして普通では起こり得ない現象が起こったら、それはもう彼女達の領分だろう。
つまり、アレに似た虫は単に黒光りする気持ちの悪い害虫ではなく妖怪と言うことになる。
起き上がることはせずに虫に刺激を与えないよう横に水平移動して布団から出た。
まだ、天井にいる虫は僕のレーダーに反応しない…
眼では認識しているのに、能力が効かない虫を僕は、ただの虫だとは思えなかった。
慎重に、少しずつ虫から自分の身体を離していき、ふすま…廊下へと接する所まで後退する。
虫は動いていない、さっきから全く場所を移動してはいないが、油断は禁物だ。
妖怪の持つ能力の多様性は先ほど見たばかりだ、虫妖怪が一瞬にして僕に噛みついてくる事も何ら不思議ではない。
……後ろを向くのは愚か者の所業、今此処で未熟な僕が無駄に隙を増やしたとき、全てが終わる。
アレから絶対に目を離してはならない、視線を外し見失えば、レーダーに捉えられない虫の攻撃を避けることも出来ない。
ここから…僕が攻撃するのはどうだろう。
ダメージを負うとは言え、絶体絶命の状況で能力を使わなかったら、黙って死を待つだけになる…
死ぬのは嫌だ、生まれて11年妖怪の年齢から考えても、人間の寿命から考えても若すぎる。
なら、殺られる前に殺るのか…
僕は右拳を強く握りしめ、そこへ電気を発生させた。
パチパチと火花が飛び散り、肉を引き裂いて電流が飛び交う手を、天井の虫へと向ける。
「くうっ……」
電気を制御出来てきているとは言え、矢張り痛い。
皮膚を焼き焦がし、無理矢理電気を対外に放出しているのだから、これが痛くないはずがない。
痛みで心が気絶してしまう前に、この力で虫を仕留めなければ、僕もろとも家族の命までも危険にさらすことになる。
失敗は許されない、相手が此方を意識していないからこそ出来る特攻の不意打ち。
当たれば一撃とはいかずとも、虫程度の大きさのものなら、相当の深手を負わせることは出来る。
歯を食いしばり、唇から血が出るのもいとわず、拳にたまった電気をそのまま前へと打ち出した。
原理は簡単、拳に充電した電力をレーダーの要領で、しかも高出力にて発射する。
勢い良く飛び出た稲妻が、僕の身体に地震にも似た衝撃を与え、一瞬視界が歪むが直ぐに治る。
薄暗い部屋の中が、電気の火花の所為で星が散りばめられたような幻想的な空間へと姿を変えた。
直線上に放射された電流は、歪に形を変えながら虫へと伸び…