SIDE 風見 幽花
まったく、生きている時間も残りわずかになって、また友人と再会するなんて思っても見なかった。
最期に友人と出会っても、何も話す事が出来ない。
あともう少し、もう少しだけの命では友人…ルーミアと血沸き肉踊る遊びをしたり、何十年前の昔話に花を咲かせることも出来やしない。
つくづく私には、運というものがない。
ルーミアとは、あの闇妖怪とは一体どれくらいのつき合いになるのだろう。
少なくとも彼女の方が私よりも数万年年上と言うことは分かっているけれど、そんなもの戦闘では些細なものでしかない。
妖怪は人間とは違い、年月を経れば経るほどその実力は上がり、力が増していく。
そしてその上限は有ってないようなものであり、私も何千年と生きている中で力の衰えを感じたことはなかった。
まあ、今の私は徐々に力を失ってはいるのだが、これに関しては別に年をとったからという理由ではないことは確かだ。
私が何を言いたいのかというと、彼女は実際には…能力面においては私よりも遥かに強い妖怪ということだった。
肉弾戦を好む私とは逆に、彼女は身体に闇を纏いその鉄壁の防御で、攻防一体の構えを作り出す。
闇という彼女の本質がゆえに出会った当初は、私が挑発するでもなく戦いを挑んできた彼女も、あの巫女と絡むうちに随分と落ち着いてきたように思う。
あの頃のルーミアは見ていられなかった、心を悲しみ、与えられる恐怖に埋もれ自分の本能のままに人を襲っていた。
付いたあだ名が「人喰い妖怪」
もう今の彼女からは、そんな過去を微塵も感じさせることはないほど、禍々しい気配は無くなっていた。
私が初めてルーミアに会ったときは、もう既に彼女自信の抱える闇は消えかかっていたが、それでもまだどこか精神におかしな部分があった。
人が恐怖する事から生まれた彼女はつまり、誰が見ても何千何万人が見ても恐ろしいと感じる姿をしていたのだ。
今の私には数段劣るものの、世間一般的に見るとまあまあ美しい外見と昔の彼女は、全く違っていた。
見た目が…ではなく、「心」が。
想像してほしい、もしも感情から「優しさ」を抜いたならば、その抜かれた人はどうなってしまうのかを。
想像してほしい、もしも「愛」が「夢」が「心」が、一人が持つ「優しさ」とも言える部分の全く存在しない人間を。
冷たい? そんな言葉ではとても語ることが出来ない。
冷血…いやそれはもっと違う、彼女は「優しくない」。
ありとあらゆる生物に対して、彼女は「優しくない」、これが一体どれほど困難でしかも恐ろしいことなのか、わかる人にはわかると思う。
普通なら心が壊れていた、でもルーミアはルーミアであった、「人食い妖怪」ルーミアだった。
闇を操る程度の能力を持つルーミアだった、いくら愛を心を欲しようとも、世界のルールは、彼女を彼女で有ることを強制した。
「本当…よくあそこから立ち直れたわよね、あなた」
私は自分が作った小屋のような家に、何食わぬ顔で上がり込んでいる黒い友人の顔を見ながらため息を付いた。
勝手知ったる人の家とはこの事なのか、黒い友人ことルーミアは、自分で入れたホットココアを飲みながら満足そうに眼を細めていた。
「幸せ」、ルーミアにとって程遠い、絶対に訪れることのないと思ってきた言葉。
今の彼女は果たして幸せなのか。
ふとそんな事を疑問に思い、聞いてみようと口を開きかけて止めた。
「んふふふ…」
何故なら、もう答えは出ていたから。
こんなに嬉しそうに笑い、何気ないことで笑みをこぼす彼女の姿を幸せと言わず何というのか。
「もう、それを飲んだら帰ってよね」
うんざりだと言わんばかりに彼女に手を振る私は、しかして今にもにやけてしまいそうな頬を抑えるので精一杯だった。