東方歪天禄   作:スマート

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No.005「自然」

どうしてなのだろう、僕は答えることが出来なかった。

 

何故、人は科学で何もかもを説明してしまおうとするのか、奇跡を必然にしてしまおうとするのか分からなかった。

 

「分からないかい、それはね怖いからさ、人は自分の頭で理解できない出来事が起こる事が怖いのさ。

 

無知ゆえの恐怖ってやつだね、暗闇で歩くと怖いだろう?

 

それは、真っ暗で何も分からないから怖いのさ…だからこそ人は、怖いからこそそれを知ろうとするんだ」

 

祖母は淡々と語ってくれた、日本という国が不思議なものを恐れ、それらを解明していこうとしたことを。

 

結果として、経済はよくなり便利なものが出来たものの、人は奇跡に頼るという事を忘れてしまった事を教えてくれた。

 

「必ずしも、それが悪いってわけじゃない、でもね私がこの大きな家に住んでいる理由からすれば、悪いことなのさ。

 

この家は、私が若い頃にある人に譲ってもらったものなんだよ、そこに広がる綺麗な土地と共にね…

 

ある人は、言ったんだ…幻想は幻想、所詮人の心からしか生まれないものは、長くは続かない。

 

人が奇跡を忘れてしまったとき、そこに恐怖を感じなくなってしまったとき、全ては消えてしまう、とね」

 

だから、私はと祖母は続けて、不思議なことを、この家を貰ったのだと話したのだ。

 

つまり、祖母の会ったという謎の人に不思議なこととして、この大豪邸と周りの土地を貰ったのだという事だった。

 

これも、今では夢物語なのかね、と祖母は自分を卑下するように笑って、母の後を追って厨房へと入っていった。

 

祖母の話は確かに、途方もないものだったが、僕はこの話が嘘や虚言出はないとどこかで信じていた。

 

いや、信じたかったのかもしれない、奇跡は奇跡として存在すると、母が泣いてくれたあの涙までも、必然的だと思われたくなかった。

 

だが、祖母の話には何か不自然な部分があった。

 

祖母はこの家がここにある理由を述べてくれたが、「あの人」という存在をぼかして結局教えてはくれなかった。

 

奇跡、人に忘れられると消えてしまう存在と言うものが、哲学的な事ではなく、もし本当に存在するのならば、祖母はとんでもないものと会っていたことになる。

 

童話や漫画、果ては映画などにも取り上げられている人の姿をしても、人では無い者の事だ。

 

流石にそこまで考えるのは、うがちすぎな気もするが、祖母が奇跡という言葉の次に言っていた言葉の所為で、僕は妙な確信を抱きつつあったのだ。

 

「幽霊」祖母はそれと奇跡を同列として語っていた、だとすると「幽霊」も実際に存在するのかもしれない。

 

本当に少ない確率だが、祖母が僕をからかっていないのだとしたら、と思えば思うほど心が高ぶっていった。

 

こういうファンタジー色の強い話題には昔から憧れがあったのだ。

 

祖母の出会った「あの人」その人に会ってみたくて、僕はその話が何十年も前の話なのを考えずに、外へ行こうとしたのだった。

 

自然あふれる綺麗な土地に出れば、もしかしたら祖母が会った人に会えると考えたのだ。

 

たぎる心を理性で押さえつけて、僕は厨房で皿を洗っている2人に外へ出てくる事を伝えた。

 

母は始め、僕の身体の事を心配してそれを渋っていたが、夏頃になって、杖なしでも歩けるようになっていたこともあって、数時間だけならと、許してくれたのだ。

 

一人で外に行ける機会もそう多くないので、僕は身体に負担をかけないように、そっと廊下を歩いて、玄関まで行き、靴をはきかえて、外へ飛び出した。

 

昼過ぎになった夏の空気は、湿気を含んで蒸し暑く、蝉の声が余計に暑苦しさを上げていた。

 

さんさんと照りつける太陽の光にめを細めて、裏口から外にでると、先が見えないほどの草原が一杯に広がっているのが見えた。

 

都会ではめったに見かけることのない蝶が何匹も野に咲く花の間を飛んでいく。

 

穏やかな流れの小川を見つけて顔を近づけてみれば、コンクリートで固められた川では見ることの出来ない、薄緑色の魚が群をなして泳いでいる。

 

見るもの見るものが、全て都会とは異なっている、こんな世界があったのかと、僕は感激に打ち振るえた…

 

「いぎ、あああいだああああああああああああああああっ」

 

バチッ…今までで最高の音が耳元で聞こえたと思った瞬間、この世の者とは思えない鋭い痛みが前進を貫いたのだ。

 

目から火花がでると思った、口もろくに動かすことが出来ないまま、僕は地面に崩れ落ちてしまう。

 

身体が焼け焦げたような、煙の匂いが辺りに立ちこめる。

 

アスファルトと違うので、草は優しく僕を受け止めてくれたが、それでも打撲は免れないだろう。

 

なんせ、受け身を取ることも出来ず、頭から倒れてしまったのだから。

 

助けを呼ぼうにも、身体は薄れていく意識と共に、一ミリも動いてはくれない。

 

それに祖母の家から、だいぶ離れた場所にやってきたので、さっきの大声もたぶん聞こえてはいないだろう。

 

身体の痛みは、麻痺し始めたのか徐々に引いていき、思考力が低下していく。

 

僕は死ぬのか、今まで何度も辛い闘病生活を送ってきた僕だったが、ベッドや手術台の上で死ぬことを覚悟していた。

 

それがどう間違ってか、草のベッドに抱かれて生き耐えようとしていたのだ、余りにも呆気ない最後に、自分の事とはいえ笑えてくる。

 

お父さん、お母さん、せっかく稼いでくれたお金…僕の手術代、入院代、食事代、台無しにしてごめんなさい。

 

奇跡だって言ってくれたのに、こんなにいい場所に連れてきてくれたのに、簡単に死んでしまう事を許してください。

 

お婆ちゃん、難しい話を僕のために話してくれて、僕達を家に暮らさせてくれてありがとう、そしてごめんなさい。

 

親より先立つ不幸をお許しください。

 

「あら、こんな所に人間なんて珍しいわね」

 

消える意識の狭間で、緑色の髪の女性が笑っていた気がした。

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