東方歪天禄   作:スマート

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No.006「花妖怪」

地獄に仏と言うか、悪運が強いと言うか、絶体絶命の窮地を脱する幸運に関しては、僕は山のように持っているらしい。

 

詰まるところ、僕は死んではいなかった。

 

初め、意識が戻ったとき、自分の家ではなかったので、此処が死後の世界なのかと思ってしまった。

 

だが、よくよく考えてみれば、足は付いているし、呼吸もして心臓も動いている。

 

床や壁に手を伸ばしても、漫画のように透けてしまうと言うことはなく、しっかりとした感触を感じることが出来たのだ。

 

落ち着いて自分が居るところを見回してみると、木で作られた簡素な小屋の中に寝かされているのだと分かった。

 

僕にかかっていたふかふかの羽毛布団や、枕元におかれた水の入った湯飲みから、恐らく僕は誰かに助けられたのだと推測したのだ。

 

そしてその考えは間違っていなかった。

 

布団から起き上がり、掛け布団を畳んで立ち上がると、立て付けの悪そうな扉が重苦しい音を立てて開いたのだ。

 

「あら、気が付いたのね、子供にしては中々タフなのかしら」

 

小屋の扉を開いて入ってきた人は、風の吹く豊かな草原を連想させる黄緑色の髪を揺らして、僕に笑いかけた。

 

赤く宝石のように輝く瞳に、透き通るような白い肌は今まで見たこともない美貌だった。

 

吊り目がちのまぶたを上げて、唇に薄い笑みを浮かべた顔は、どこか好戦的な活発な印象を与えている。

 

逆に服は、お嬢様と言った風な赤と白が基調の服と長いスカートを着ていた。

 

正反対の印象が一つに合わさって、これがまた丁度良い明るい雰囲気を彼女に作り出しているのだ。

 

「え、あ、すみません、助けてくださったみたいで」

 

「良いのよ、私も久しぶりに人に会えて嬉しかったから、まあ倒れていたのには驚いたけれどね」

 

楽しそうにクスクスと笑って彼女は、小屋の奥におかれていた簡素な椅子に腰かけた。

 

「あはは、昔から身体が弱くて、急な運動をすると直ぐにああなってしまうんですよね」

 

恥ずかしい所を、見ず知らずのそれも美人の人に身られてしまったので、自然と顔が赤くなってしまう。

 

照れ隠しに頭をかいていると、彼女は急に真剣な顔になって、顎に手を当てて訝しげに僕を見つめてきた。

 

「身体が弱い…ねぇ、昔からってどれくらい前かわかるかしら」

 

「え、えっと、母さんが言うには生まれてから1、2年の時からよく病気にかかるようになったって。

 

あと貧血とか、風邪とかをよく引くって」

 

「へぇ、大変だったのね、でも坊や、その身体の弱さ、虚弱体質ってわけじゃ無いわよ」

 

したり顔で椅子から立ち上がって、何処からかひまわりの種を取り出した彼女は、僕の前まで近づいてきて、種をじっと見るようにと言った。

 

マジックでも見せてくれるのかと思ったが、さっき話していた事と全く脈略が無さ過ぎる。

 

僕の身体の弱さが、ただの虚弱だからでは無いとはどういう意味なのだろう。

 

何か恐ろしい病気があって、僕はその病気にかかっているから、身体が弱くなっているというのか。

 

「あの、その種……え?」

 

突きつけられたひまわりの種と、僕の身体とどう関係があるのか訪ねようとした時に、変化は起こったのだ。

 

いや、異常と言っても良い。

 

彼女の手のひらに乗せられていたひまわりの種は、軽く左右に揺れると、先端が2つに別れ、中から若緑色の芽が出てきたのだ。

 

目を丸くしてその現象を見つめていると、芽はすくすくと成長を始め、二葉が現れ、茎が太くなり葉が次々と出てくる。

 

彼女がその、最早種とは呼べない物を床に優しく置くと、伸びた根は床に絡みついて動かないように固定した。

 

しっかりと足場を作った植物は、上へ上へと茎を伸ばして、やがて僕と同じくらいの背丈まで来ると、大きな蕾を広げ、黄色い花を咲かせたのだった。

 

どう考えても有り得ない現象だった、こんなに早く植物が成長するなんて聞いたことがない。

 

成長の早い竹でさえ、1日かけてやっとの事で太い茎を作り出す。

 

だが僕の目の前で起きた現象は、1週間以上も成長に時間がかかる、ひまわりだ。

 

以前、母が家でも育てていたので、その成長スピードは知っている。

 

まるで録画の早送りを見ている気分だった。

 

「どう、手品じゃないわよ種も仕掛けもない…いえ、種はあったわね」

 

「あなたは、いったい…」

 

何者なのか、ふと祖母が言っていた奇跡、不思議なモノという言葉が頭に浮かんだ。

 

僕が今見たモノは、普通は起こり得ないもの、つまりは奇跡だったのではないか。

 

それを何の戸惑いもなくしてしまったこの女性は、もしかするとだが、祖母が出会ったという人物なのかもしない。

 

「そう言えばまだ名乗っていなかったわね、私は風見 幽香、この先にあるひまわり畑の主よ」

 

ひまわり畑、とは電車に乗っていたときに見たあのとても多く広大な、黄金の畑の事だろう。

 

あの時に見た気がした人影は、気のせいなどではなく、この人だったのだ。

 

育ったひまわりを愛おしそうに撫で、幽香と名乗った彼女は、僕の頬に手を添える。

 

「あ、あの」

 

「私はあなたと同じ、不思議な力を持っているの。

 

見たでしょうひまわりを一から花を咲かせる…

 

花を操る程度の能力、それが私の力」

 

僕の言葉を遮って幽香さんは、あの現象を見ていなければ、妄想ともとれるような言葉を言う。

 

「花を操る」それが本当だとすれば、いや、僕はもう本当だと言わざるを得ない。

 

そして幽香さんは、僕にも同じ力があると言っているのだ、茶化した雰囲気ではなく、真剣な顔でじっと僕の眼を見つめて。

 

「目を閉じなさい、そして頭の中で考えるのよ。

坊やの持つ力が何なのか、そうすれば自然と浮かんでくるはずよ」

 

僕は幽香さんの言葉に従うままにまぶたを閉じて、僕が持っているという不思議な力。

 

もし、僕にそんな力があるのなら、奇跡が起こせる力を持っているのなら、そういう期待を込めて、考えた。

 

身体を自由に動かすことが出来ない、友達や趣味もない、ただ自然に心動かされ気絶する貧弱な僕に、力を……

 

 

 

 

 

 

光を遮ったまぶた、真っ暗な世界に僕が一人で立っている。

 

右も左も、後ろも前も真っ暗で先が見えない、だが僕自身の姿だけはっきりと見えていた。

 

自分が目を開けているのか、開けていないのかさえも分からないような世界は、僕に何かを訴えかけるように、小さく鼓動している。

 

トクンと小さく世界が揺れる度に、誰かがどこかで話すような声が、耳に響くのだ。

 

「おま……で…き…つる…いど」

 

声は強くなったり、小さくなったりとランダムに変化し、余計に聞き取りづらい。

 

幽香さんが言っていた、頭の中に浮かんでくる力とは、この事だったのかと納得して、もっと良く声を聞くためにじっと耳を済ませた。

 

すると、フィルターがかかったようにノイズが入っていた声が透き通り、断片的にだが聞き取ることが出来た。

 

「お前の能力は」

 

「電気を」

 

「操る」

 

「程度の」

 

「能力」

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