「電気を操る程度の能力、それが直人の力なのね」
改めて、僕は自分の名前を言っていないことに気が付いて、慌てて自己紹介をした。
目を開けて、頭の中にしっかりと浮かんだ力の名前を伝えると、幽香さんは、納得したように深くうなずいたのだった。
「電気、それが直人の身体を虚弱体質たらしめていた原因よ。
詳しいことは、専門じゃないから知らないけれど、能力の暴走で身体に負担がかかるなんて良くあることだしね」
「そう、なんですか?」
僕の力が虚弱体質の原因だとするならば、幽香さんの言う「暴走」さえ何とかすれば僕の身体は普通の人と同じになれるのではないか。
少しだけ期待を込めて幽香さんの顔を見ると、幽香さんは、僕の考えを聞かないでも分かったというように笑顔になった。
「ええ、多分だけれど、能力をコントロールする事が出来れば、直人の身体の弱さは直るかもしれないわね」
「じゃ、じゃあ!?」
自分の中から溢れ出る興奮を抑えきれなくなってきている。
無理もない、一生直るはずもないと思い込んでいた自身にはまった枷を、今更外せると言われたのだから。
このままでは、また「暴走」で倒れてしまうと、幽香さんに呆れ気味に諭され、僕はひとまず差し出されたお茶を受け取った。
布団の上に座り、湯気が立ち上るお茶をすすると、どうやら薬湯の一種だったようで、色々な薬品の匂いが鼻を刺激してくる。
「どうかしら、その薬湯茶、私が育てたのよ、ハーブが入っているから気分を落ち着かせられるわ」
幽香さんは、植物を育てることが趣味らしい、ひまわりやハーブの他にも色々なものを育てているのだろう。
もしかすると、彼女の能力もその役に立っているのかもしれない。
本当に、彼女という個人に見合った力を持っているなと、心底羨ましく思ってしまう。
それに比べて、僕の力は役に立つよりも前に、生きていく為の障害になっているではないか。
確かに「電気を操る」という一点に限るならば、失礼だが幽香さんの能力よりも応用が利く汎用性に富んだ能力だろう。
だが、人間には……いや僕にはそれは過ぎた力だったのだ。
人にはそれぞれ、それに見合った才能がある。
能力もその一種と考えるなら、僕の才能に肉体が耐えきれないという状態なのだ。
VHSのハードにDVDのディスクが合わないように、高スペック過ぎる能力が逆に僕を圧迫してしまっている。
コントロール出来ればと息巻いていた僕だったが、そんなことを考えてしまうと、高望みしすぎたのかもしれないとも考えもする。
せめて、せめてだ。
能力だけを消してもらう方法もあるのではないか、そうすれば僕は普通の身体を取り戻せる。
高スペック過ぎて使えないディスクに何の未練もない。
一口、二口薬湯茶を飲んで、気分を落ち着かせてから、僕はその旨を伝える為に改めて口を開いた。
「僕の能力を消してもらう、そんな事は出来ないんですか?」
「へぇ、謙虚と言うか、礼儀正しい子とは思っていたけど、ただの弱虫だったのね。
能力の制御もしていないうちから、諦めるなんて馬鹿じゃないの」
目をすっと細めて僕を見下ろしてきた幽香さんは、蔑むような軽蔑の籠もった顔で言う。
「で、でも、僕にはそんな力はあつかえ」
「分からないじゃない!
やってみる前に挫けちゃ、出来るものも出来ないのよ。
くそっ、直人を見てるとあのクソ生意気なガキと被るのよ!
その人間の癖に高スペックな能力、それに私を見て怯えるならまだしも、普通に接してくれる所なんかもうそっくりよ。
でも…アイツは絶対に諦めたりしなかった」
小屋を震わせるほどの大きな声で怒鳴った幽香さんは、荒くなった息を吐いて天井を見つめる。
「どんなに私が倒しても、ゴキブリみたいに何度も何度も私の前に立ちふさがって来たのよ…」
キッと僕を睨みつけた幽香さんの赤い瞳は、輝く滴が流れ落ち床へ落ちて小さなシミを作る。
幽香さんの言うその人は、僕のような能力…高スペックな力を持ってもそれに飲まれることなく使いこなしていたのだという。
だがしかし、彼女の言葉を涙を見ても、僕の心には不安しか宿ってはいなかった。
幽香さんの訴えかけるような目を見ることが辛く、うつむいてしまう。
「……ふふっ」
と、何か黒い嫌な予感がする気配を頭上から感じたのだ。
幽香さんは、人ではない…そのことはさっきの会話で漠然とだが感じていた。
そのことを踏まえて考えるに、あの訴えを俯いて、蹴ってしまった僕は、彼女の逆鱗に触れてしまったのかもしれなかった。
第一印象が活発そうなお嬢様、それか太陽のようだった人だ。
プライドを傷つけられて怒っている+人ではない=僕は殺される?
おかしな方程式が成り立ってしまい、ゆっくりと視線をあげていくと、目の前にいた幽香さんと目があった。
涙を流していた儚そうな眼ではなく、好戦的な、赤い目がより燃えているように感じられた。
「……いいわ、私が教えてあげる、力のコントロール方法を」
この時、僕の運命は彼女に出会ったことによって180°変わったと言っても過言ではないだろう。
普通なら、このまま体が弱いまま一生をそれとなく終えるはずだった僕を救ってくれる彼女には、感謝の言葉が今でも底をつかない。