UNDEAD───不死人   作:カチカチチーズ

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Twitterの方でアンケートを取りまして、今回正式にUNDEAD──不死人を連載する事になりました。
ひとまずは竜王ではなくこちらを投稿してきます。皆様どうかよろしくお願いします



始まり/獣狩り

 

 

 火は陰り、王たちに玉座なし

 

 

 嘗て不死院にて牢に繋がれた不死人は数奇な運命により不死院を抜け鐘を鳴らし、蛇が告げた言葉に従いその身に秘めた使命を成すため神話の都へ向かい、火継ぎの旅へと殉じた。

 死者の王を討った、鱗無き白竜を討った、公王らを討った、王のソウルを集めそして不死人は王を倒し世界の礎となった。

 

 されども不死人の魂は眠る事はなく、目覚めた先で新たな使命を成すために遥か北の地にあるという国へと至り、彼の地にて嘗て討ち倒した深淵の主が落し仔を滅ぼした。

 

 そして、三度目の旅路にて再び不死人は火継ぎの旅へと歩みを始めた。

 名も無き灰として、嘗ての己と同じ薪の王であった者らを玉座へ戻すべく旅をした、貧相ながらも王らしい小男、ファランの狼血を流す不死の騎士団、深みの聖職者にして神喰らい、偉大なる巨人の王、双王子。

 彼らを玉座へ戻し不死人は再び最初の火の炉へと至る。

 

 

 

 

 

 そして、彼は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

 私はそこにいる。

 何もする気が無く、私はそこにいる。

 所々岩が生え、幾つもの剣や杖が墓標の様に刺さった地、その中心にあるただの篝火を私はただ、ただ見つめ続ける。

 弱々しい火。しかし、見る者に温もりを与えるそれは私の荒んだ心を癒してくれる。

 もはや、全てが終わる。

 今までの歩み、その終止符。

 私は嘗てを想起する。今まで様々な者らと出会った。多くの困難に出会った。

 それらを私は時に一人で、時に仲間と共に乗り越えてきた…………しかし、それはもはや過去のもの。この手にあるのは燃え尽きた後に残る灰だけ、もはや取り戻す事など出来はしない。

 だから、だろうか。

 私は弱々しい、されども篝火として充分なそれに手を伸ばして────────

 

 

『────ネームレスさん、ヘロヘロさんが来たので一度円卓に来てくれませんか?』

 

 

 …………、…………、…………はぁ。

 気が削がれた。

 私は篝火へと伸ばしていた手を戻し、その場から立ち上がってその指にはめられていた指輪の力を行使する。

 転移の力は問題なく発揮され、私はその場から姿を消した。

 

 一瞬の暗転を挟み、私は先程の場所とは打って変わった豪華絢爛な円卓が置かれた部屋へ足を踏み入れた。

 視線を動かせば円卓には二人の人物が席に着いていて…………人物という括りでいいのか?

 

 

「あ、ネームレスさん」

 

「お久しぶりです、ネームレスさん」

 

 

 どうも、ヘロヘロさん。

 

 円卓の間にやってきた私に気がついたのかこちらへ顔を向けるのは二人の異形。豪華な黒いローブに身を包んだ骸骨と黒い不定形なスライム。

 私が所属する異形種ギルド:アインズ・ウール・ゴウンのギルドマスターことモモンガさんとギルドメンバーの一人であるヘロヘロさんだ。

 私はヘロヘロさんに軽く会釈をして、私の席へと腰掛ける。ふむ、それにしてもヘロヘロさんは疲れているようだ……声音に元気がないな。

 

 

「いやー、まさかナザリックがまだあったなんて……これもモモンガさんやネームレスさんが頑張ってくれてたおかげですね」

 

「……ええ、ネームレスさんにはお世話になりましたよ」

 

 そんなことは無い。私は趣味に走ってその副産物をナザリックの運営資金に当ててただけでほとんどモモンガさんのおかげですよ。

 

 私はそう二人に告げてコンソールを開き弄り始める。どうやら、まだまだユグドラシルのサービス終了まで時間があるようだ。

 さて、ロールが途切れてしまったからな。そろそろ自己紹介といこう。

 私の名はネームレス、プレイヤーネームなのは許して欲しい。君たちとて私のリアルネームなんてどうでもいいだろう?

 まず、私は転生者だ。ダークソウル・リマスタードが発売され、有休を二日ほどとり寝る間も惜しんで墓王ニトまで進め、さてボス戦と意気込みながらおつまみのチーズを摘んでいたら唐突に喉が辛くなり────間違いなくチーズが詰まった────苦しんだと思ったら赤ん坊になっていた。

 何を言っているのか分からないだろうが、私も分からない。さて、赤ん坊になった私はすぐにそれが転生だと理解し、同時にダークソウル・リマスタードが出来なくなった事に絶望した。ついでに言えば転生先の世界を見てさらに絶望した。

 外にはマスクを付けなければ出歩けない、義務教育の撤廃、富裕層と貧困層、アーコロジーなどなど……そんな恐ろしい世界に転生した事は私の心を打ちのめしたが運の良い事に私は富裕層の中でもそこそこの家に生まれ良い暮らしが出来た。そんな世界で育ち前世の性格や口調が変わっていき、企業で上役となった頃にとあるゲームが発売された。

 

 その名を『ユグドラシル』。DMMOーRPGの一つなんだが、それを聞いて私は理解した。

「ここ、オーバーロードの世界かよ」

 それを理解した私はすぐさまユグドラシルを購入し、異形種を選んだ。フロムにより鍛えられた技術────間違いなく衰えてる────を以て異形種狩りプレイヤーやPKを狩るなど楽しい楽しい暗月警察暮らしをしているとある日、正義降臨ことワールド・チャンピオンの一人であるたっち・みーさんと出会いなんやかんやあってアインズ・ウール・ゴウンへと入ることが出来た。ちなみに調べたらフロムは過去に存在していなかった……。

 

 オーバーロード×ダークソウルな二次創作によくあるコラボはない、という事を知ってしまった私はなら私がやるしかないじゃないか!と富裕層で企業の上役という立場を利用し廃課金を行いこのナザリックのNPCにかぼたんを創ったり、装備の見た目をダークソウルにしたり、来る異世界転移の為に様々な用意をしてきた。

 まあ、そんなこんなで現在ユグドラシルはサービス終了日を迎えた。

 

 

「…………ぁ、モモンガさん、すいません。いま、寝かけてました」

 

「大丈夫……じゃないですね。どうぞ、ログアウトしても大丈夫ですよ?ゆっくり寝てください」

 

「……はい、ではお言葉に甘えて…………ユグドラシル2とかがあったらまた……」

 

『ヘロヘロさんがログアウトしました』

 

 

 

 と、どうやらヘロヘロさんがログアウトしたようだ。私はコンソールを切りモモンガさんへと視線を向ける。見た限りでは原作の様な反応は見受けられない……原作ではモモンガさんは一人ユグドラシルを続けて運営資金を稼いでいたが…………なるほど、趣味に走っていたとはいえ私がいた事で決して一人ではなかったからか。

 ふむ……

 

 

 モモンガさん。

 

「っ、はい。なんですかネームレスさん?」

 

 ……ユグドラシル楽しかったですね。

 

「……そうですね。みんなと楽しく騒ぎましたね」

 

 そうだ。実はモモンガさんに隠してた事があるんです。

 

「……?なんですか?」

 

 実はですね。個人でとったウロボロスを五回ほど内緒で使ってました。

 

「は?」

 

 

 私の告白にモモンガさんは疑問符を浮かべ、しばし固まっている内に私は席を立つ。

 そして、次の瞬間のために私は遮ることができる訳では無いが耳を押さえておく。

 

 

「はぁァァァァアア!!??あんた、何してんですかぁ!?」

 

 私の課金だ。問題あるまい。

 

「いや、確かにそうでしょうけど。一言くらい言ってくれませんか!?ギルメン!報連相!」

 

 

 絶叫する骸骨。失笑。

 私はそんな彼を諌める様に言葉をかける。

 

 

 大丈夫。大丈夫。スキル名変えたりアイテム実装させただけだから。

 

「いや、何が大丈夫なんですか!?というか、いったいどんなアイテムを作ったんですか……」

 

 ウロボロス一つ素材に使う無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)の超上位互換。通常のアイテムボックス二枠潰す代わりに無限の背負い袋の四倍入れられて且つ、入れてるアイテムの所持可能上限が無い。

 

「はい?ちなみにどういう理由で作ったんですか?」

 

 趣味と素材集め。

 

 

 正確に言えば、異世界転移した際に必要になるであろうアイテムを溜め込むために作ったんだがな。スクロールやらなんやらを大量に突っ込んである。

 まあ、ダークソウル的な装備品の為のデータクリスタルやら素材を入れるのにとても役立ったのは事実だな。

 

 

「な、なるほど……だから、あんなに副産物っていいながら稼いで来てたんですね」

 

 そういうこと。……と、そろそろか

 

 

 ふと、私はコンソールを開き時刻を確認する。別にわざわざコンソールを開かなくとも設定で視界の端に時刻が出るように出来るのだが、私はもっぱらそういう設定はせずにコンソールをいちいち開いて確認している。

 さて、時刻を見ればもう残り三十分を過ぎている。そんな私にモモンガさんは疑問符を浮かべているので私はきちんと教えておく。

 

 

「あ、ほんとだ。もう三十分ぐらいか……やっぱりネームレスさんは第六階層で終わりを迎えるんですか?」

 

 ええ。私にとっては彼処がマイルームみたいなものですから

 

「わかりました。それじゃあ、私は玉座の間に行くんで」

 

 はい。あ、ギルド武器持ってていいですよ?何せ、作ってから使ってないんですし……最後ぐらい……ねぇ?

 

「そうですね。持っていくことにしますよ」

 

 

 そんなふうに話して私は指輪、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使い円卓の間に来る前までいた第六階層の片隅にある私にとってのマイルームこと最初の火の炉へと転移した。

 

 

 砂とも土とも言える地面を踏みしめ、辺りに生える黒く焼けた岩、突き刺さる槍や剣に杖……さながら墓標の様に見えるそれら、そしてBGMは存在せず地面を踏む足音しか聴こえぬ静寂のエリア。

 その中心にある篝火へと私は近づく。

 

 そんな私に反応したのか篝火の傍らにて跪き祈っていた火防女が立ち上がり私を見る。

 ダークソウルなプレイをする為にやはり、かぼたんは必要だろうと他の人に手伝ってもらいながら作った私のNPC:火防女ことレティシア。名前の由来だが、ダークソウル3の火防女の容姿で見た目がジャンヌっぽいと思ったからだ。異論は認める。

 フレーバーテキストにはダークソウルな設定を色々書いた。名も無き灰と共に火を消し闇の世界ENDの後に消えたがしかし、蘇った名も無き灰────つまり、私によってこの最初の火の炉を模した場に蘇ったという旨を。

 まあ、分かる通り、私自身のフレーバーテキストにもダークソウル的な設定を書いた。無印から3まで経験してる的な…………。

 

 

 じき、世界は終わる。

 

 

 アイテムボックスを確認すればきちんと必要なスクロールやらアイテム、様々な防具や武器、指輪類、サービス終了日故に馬鹿みたいに安売りしていたワールドアイテムが一つ。

 

 

 再び火は消える。

 

 

 まあ、これで異世界転移出来なかったら…………仕方ないな。その時はリアルでペロロンチーノさんやぶくぶく茶釜さん、たっち・みーさん辺りを誘って何かしようか。

 

 

 しかし、どれだけ小さくとも、暗闇の中に火は現れる

 

 

 ふむ……できれば他にもダークソウルNPCを作りたかったな……確か傭兵NPCを自作できる課金アイテムがあった筈だ……カタリナのジークバルトを作っても良かったな。

 …………転移後はどうするかな。フレーバーテキストがアルベドの様に影響しているのであれば私も火防女もそのフレーバーテキストの影響を受けるのだろうか?ともすれば私は自らのフレーバーテキストに記した通り、様々な旅を経た不死人となるわけで……もしかすれば経験したことが無い不死人の記憶が流れ込むという可能性もありえる。

 二次創作の読み過ぎだ、と言われれば終わる話だが……しかし、この現実自体が私にとっては夢幻の体験と何一つ変わらない。さて、どうなるか。

 時刻を見れば既に五分を切ったようだ。

 

 いや、待て。モモンガさんはやはりアルベドのフレーバーテキストの最後の一文。

 『ちなみにビッチである。』を『モモンガを愛している。』に変えているのだろうか?変えていたら……下手すれば私は転移先でアルベドに敵対視される可能性が?いやいや、私は最後までモモンガさんと一緒にナザリックにいたわけだからそれはないだろう……ないと信じたい。

 とりあえずモモンガさんが魔王ルートを歩まないように注意していくか。

 

 

 

『────ネームレスさん』

 

『……モモンガさん、もう終わりですよ』

 

『はい、そうですね。……その、いままでありがとうございました』

 

『いえ、こちらこそ。アインズ・ウール・ゴウンだから今日まで私はやってけたんです。何時辞めてもおかしくなかったのに……』

 

 

 本音だ。

 異世界転移を知っていたが、それでも私はこのユグドラシルをサービス終了までやれたかどうかは分からない。もしかしたら辞めていたかもしれない。

 それを考えると彼に感謝の念を向けるのは当たり前な事だ。

 

 

『…………終わりですね』

 

『ええ……』

 

『その、ヘロヘロさんが言ってましたけど……』

 

『はい。ユグドラシル2があったら……』

 

『その時はまた』

 

 

────五十二、五十三

 

 

『それじゃあ、締めますか』

 

『ええ』

 

 

────五十四、五十五

 

 

 

『『アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!!!』』

 

 

 

────五十八、五十九

 

 

 

────零

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「灰の方、まだ私の声が、聞こえていらっしゃいますか────?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────カハッ」

 

 

「これで、希望をもって、死ねるよ……」「私は汚れ、声を出すべきではありません」「それでは奇跡の話をしましょうか」「不死の勇者よ。わしはここで待っておるぞ」「俺の太陽が……沈んでいく……」「あんたには期待してるんだ。しっかり働いてくれよ」「哀れだよ。炎に向かう蛾のようだ」「……死ぬんじゃねぇぜ。あんたの亡者なんて見たくもねぇ……」「棄てられた都とて、勇者に導きくらいは必要だろう?」「よく参りました、試練を越えた、不死の英雄よ」

 

「よろしい、ならば、汝はこれより暗月の剣となる」

 

「王たるものよ、玉座へ……その先は、貴方にしか見えないのです」「だが、だからこそ……霧の中の答えを求めるのか」「いつの日か、その旅に終わりが訪れんことを……」「火を求める者 王たらんとする者よ……力を手にするがよい そして、汝の望むがままに……」

 

「兄上は私の、ロスリックの剣 だから、どうか立ってください……それが、私たちの呪いです」「さあ、最後の乾杯だ 貴公の勇気と使命、そして古い友ヨームに」「ノーカウントだろ?ノーカウn」「……さあ、これより貴方は暗月の剣」「あるいは、私たちが最後となるか……『最後の王』とは、小人にすぎた栄誉というものだな」

 

「はじまりの火が、消えていきます。すぐに暗闇が訪れるでしょう…………そして、いつかきっと暗闇に、小さな火たちが現れます。王たちの継いだ残り火が…………」

 

 

 

「灰の方、まだ私の声が、聞こえていらっしゃいますか?」

 

 

 

 

 

 

 瞬間、私の頭蓋は軋む、割れる、砕ける、前世も今世も味わった事が無いほどの激痛に襲われ────しかし、何時か味わったであろう痛みに比べれば大したものではなかった。

 痛みより立ち直った私は気がつけば最初の火の炉ではなくまったく知らない何処かの草原に胡座をかいていた。

 そんな事態に対して私は冷静に対応する。

 間違いなく異世界へと転移出来たのだろう……しかし、ここはナザリックでは無い。ではナザリックの外に広がっていたという丘になる予定の草原か?となればこの周辺にナザリックがあるはず…………私はアイテムボックスから一定範囲内のエネミー及びプレイヤー、NPCを探知する事が可能な指輪を取り出しリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンと取り替えて指にはめる。

 

 

 ………………あぁ。なるほど。

 

 

 指輪をはめたことで理解する。私がいる場所はナザリックが転移した草原では無い、何故ならばおおよそ20レベル前後のエネミーの反応が無数にあるからだ。

 そして、私の視認できる距離に街……いや、都であろう場所が見える。そこへ迫っていく大量のエネミー……オーバーロードを知っているならば何となく察せられる。

 

 

 つまるところ獣狩り(Bloodborne)というわけか。同じフロムだが私と作品違うぞ。

 

 

 さて、どうするか。仮にも異形種である私としては人間が彼らに食われるのは別に何か感じる訳ではない……ないが……

 

 

 何、新たな世界。その初陣と考えれば良きものだ。

 

 

 すぐさま私は早着替えのローブを纏い、セットしておいた装備へと姿を変える。

 外見としてはファーナムの騎士装備だろう、特にこの両肩の毛皮部分が拘りでこれの為にいったいどれほどの神獣クラスを狩った事か……んん、指にはリング・オブ・サステナンスとリング・オブ・フリーダム、反応感知の指輪に人化の指輪をはめる……ついでに回数制限がある召喚系指輪をはめておこう。

 さて、足が必要だ。ダークソウルといえばこういう時はシフに乗って駆けるのがロマンなのだろうがしかし、残念ながら私の持つ指輪では狼系のモンスターは呼べない。

 

 

 まあ、レベルを考えれば何度か跳べば着くだろう。

 

 

 適当に屈伸し、私は大地を蹴りつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 竜王国の王都へと侵攻したおよそ五千ものビーストマン。

 それに対抗するべく竜王国の兵士らは決死の覚悟で迎え撃つこととなった。

 

 

「────!!」

 

「────!!!!」

 

 

 しかし、ビーストマンは一体一体が人間の成人男性十数倍もの力を持つ怪物。如何に兵士と言えどもビーストマン五千は並大抵の数ではどうにもならなかった。

 そもそもビーストマンにとって人間とは餌でしかなく、殺す事を目的とする人間に対してビーストマンは人間を食えればいいのだ。仮に兵士の剣がビーストマンの腕を切り落としたとしてもその間にビーストマンが兵士の首へ噛み付けばそれで人間は終わり。

 ビーストマン一体に対して兵士はいったい何人食われるのか、そんな事が分からない彼らではない。だが、それでも彼ら兵士は家族の為に戦うしかない、たとえ死ぬとしても。

 

 

 ああ、だからこそ。

 

 

 唾液を撒き散らしながらけたたましく吼えるビーストマンらが兵士へと躍りかかる瞬間、ただ稲光が迸った。

 

 

「は?」

 

 

 視界を焼く雷光に思わず兵士は目を瞑り、それを開けた瞬間視界に飛び込んできたのは目前のビーストマンが数十個の黒炭へと変貌したというもの。

 いったい何が。それを見た兵士もビーストマンもただそれだけが思考に満ちて────

 

 

────龍雷(雷の槍)

 

 

 戦場へと響く流麗なその言葉に兵士はその視線を向け、ビーストマンは沈黙を捧げた。

 都合六度迸った雷光はビーストマンを尽く蹂躙していく。

 ビーストマンだった黒炭が高野に溢れ、兵士は先程までビーストマンがいた場所に見知らぬ誰かがいるのを視認した。

 

 

 

 それは一人の騎士だ。

 

 色鮮やかな水色のキュレット、肩を覆う毛皮が目に付く流麗な装備。農民上がりで美術品などを見る目などないような兵士ですら、その装備が国宝級を遥かに凌ぐ素晴らしいものである事を理解した。

 左手には直剣が握られ、右手には稲妻の名残が残っており、兵士はその騎士がこの光景を作り出したのだ、と納得し同時に声を上げそうになった。それを止めたのはひとえに騎士の視線────と言っても兜を被っている為兜のスリットが向いている方向だが────が未だ生き残っているビーストマンの群れに向けられているのを知ったからだ。

 確かに雷光は多くのビーストマンを殺した。数にすればおおよそ七百を超えた辺り。つまり、全体の一割少しでしかない、ビーストマンはまだまだいるのだ。

 

 無茶だ、そう呟く者もいる。

 もしかしたら、と呟く者もいる。

 

 

 そんな兵士らの視線を背に受け、騎士はその右手で既に握っていた直剣と同じものを引き抜き双剣のスタイルをとって、一歩、一歩、ビーストマンの群れへと歩んでいく。

 そんな決して速くはない歩みにビーストマンは動けず少しずつ後退していく、がやはり獣なのかそんな緊張を、萎縮する自身を奮い立たせようと雄叫びと言うよりも悲鳴を上げながら騎士へと飛びかかる者が出た。

 

 

 ああ、やはり。振るわれる刃はいとも容易く飛びかかったビーストマンを解体し切り捨てた。

 騎士は切り捨てられたビーストマンの死体には一切目もくれず、ただ、ただ進む。

 もはやビーストマンにとって騎士は怪物だ。餌と似たような姿をしただけの怪物。むしろ、自分たちを鏖殺にする為だけに餌と同じ姿をしているのではないか?と錯覚させるほどに、だから、ビーストマンは逃げた。

 

 

 一切の恥を捨ててその場から逃げ出した。

 あの怪物から逃れられるのならば、プライドなんて捨ててやると言わんばかりのそれに兵士らは唖然とし、しかし騎士は見逃さない。

 大地を蹴り、騎士は跳ね飛ぶ。宙へと身を投げた騎士は大気を蹴りつけ逃げるビーストマンの真ん中へと着地しそのまますぐにビーストマンへとその刃を振るった。

 逃さないと言わんばかりのそれにビーストマンは恐れ、硬直しいったい何が起きたかビーストマンは逃げる事を止め、全員が騎士へと殺到した。

 しかし、四千いくらかのビーストマンがたった一人に殺到するなど同胞を踏み潰しかねない行為であり結果、同士討ちで半分近くのビーストマンが死んでいった。

 

 飛びかかったものは股下から切り上げられ、隙を突かんとしたものは短剣により首を切り落とされ、背後から来たものには脚で蹴り殺しすぐさま体勢を立て直し他のものどもへと対応していく。

 まさに尋常ならざる英雄が如き所業。

 自分たちが何人も束にならねば殺せぬ獣を次々と鏖殺していく様を見て兵士らは次々と叫んでいく。それは食われ殺された同胞たちへ捧げるもの、食われ殺されるだけだった自分たちに降りてきた希望への歓声、そして彼らが守る者らへ伝える勝利の雄叫び。

 それらを背に受けて鏖殺した騎士はその兜の下でぎこちなく笑みを浮かべた……が、それが分かるのはきっと騎士本人だけなのだろう。

 

 

 






 NPCが動くなんて……本当に異世界転移でもしてしまったんだろうか?…………いや、待て、そうだネームレスさん。
 ネームレスさんはどうなったんだ!?あの人は確かあの時、第六階層にいたはず……もしかしたら一緒に来てるかもしれない……でも、だとしたらどうして連絡をくれないのか……
 意を決して伝言を使い────


『《伝言》ネームレスさん、いまどこにいますか!?』

『────《伝言》現在暗月警察中なので後日おかけください』ブツッ

「………………はァ!?」


 え、あ、はァ!?あの人何してんの!?というかどこにいるの!?
 暗月警察ってあの人流のPKKの事だった筈だが……というか伝言が通じたって事はそういうことなのか?少なくともネームレスさんはこの世界にいる……と。
 とりあえず言われた通り後日連絡しよう。
 そして会えたら文句でも言おう。
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