UNDEAD───不死人   作:カチカチチーズ

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うーん、短いけど早めに投稿できてよかった。
ちなみに前回のアンケートですが。あくまで現地ヒロインの中でドラウディロンがヒロインになるのが確定しただけなんで、決してドラウディロンだけがヒロインと言う訳では無いです。運が良ければ他の娘もヒロインになれますよ……ええ、運が良ければ




不可視の刀

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓が守護者の一人、デミウルゴスはナザリックよりそれなりに離れたとある土地にてちょっとした拠点を置いていた。

 遊牧民族が使うゲルの様な形のテントの中で様々な生物の革とおぼしきモノを両手それぞれ違うのを持ち何やら比べていた。

 

 

「ふむ……やはり、ただの獣の革ではスクロールには耐えられませんか……」

 

 

 そう残念そうに呟いて革を丸め机の端へと寄せる。

 現在デミウルゴスが行っているのはナザリックの支配者にして至高の御方々とナザリックの者らが崇拝してやまない存在の一人であるネームレスより命じられた消耗品であるスクロールの素材捜索。

 サンプルとして周辺の様々な獣の革を使ってみたがどれもこれも仕込む魔法に耐えきれず焼け消えてしまっていた……が。

 

 

「ですが……これの革はどうやら第三位階までなら込められるようですね」

 

 

 そう言っていくつかの成功したスクロールとその素材となった革を手に取る。

 それは何やら獣の革とは思えない何処か違ったもの。当たり前だろう、何せその革の持ち主、その種族は獣ではなく

 

 

「人間の皮……意外な価値だ」

 

 

 人間の皮だ。無論、デミウルゴスもその部下も悪魔という人間など弄ぶ対象でしかなく今更、皮の一枚二枚剥いだところで忌避感などはない。

 しかし、デミウルゴスはとある事に慄いていた。

 

 

「よもや、あの御方はこの事を知っておられたのでは……」

 

 

 デミウルゴスは想起する。

 自らに素材捜索を命じた際にネームレスが告げた言葉を。

 

 素材サンプルにするのは消えても問題無い奴にしておけ

 

 消えても問題無い者。すなわちそれは社会において悪とされ、消える事を望まれる者または消えた事が気付かれないような者。

 つまりは盗賊などの悪人、スラムの片隅に転がっている浮浪者。

 

 

「我々異形種や亜人種、そして人間種にすら慈悲を向け安寧を齎す理想郷。ただ支配するのではなく…………ああ、なんという」

 

 

 そして、何よりもその対象となる人間のほんの一部とはいえこうしてデミウルゴスら悪魔の嗜虐心を満たす事とナザリックの物資の為に使う事を許された。

 そういった事からデミウルゴスはネームレスが人間の皮がスクロールの素材となる事を知っていたのでは?と考えそしてその叡智と慈悲に胸を打たれた。だがしかし、ネームレスとしてはそんな考えはなく単純にサンプルの獣がその周囲の環境や生態系に影響を及ぼす様なものじゃない、消えても大して影響のないそういうのにしておけよ、と言うニュアンスだったのだが深読み過大評価のデミウルゴスには察してもらえずガッツリと勘違いされている。

 ほぼ間違いなくネームレスが聞けばその勘違いによるより深い崇拝に胃痛と吐血しかねないだろう。

 

 

「ええ、お任せ下さい。このデミウルゴス、モモンガ様ネームレス様の御期待に応えてみせます!!」

 

 

 応えてくれるのはありがたいが、出来ればこうもう少し俺たちへの期待的なモノは抑えてくれると助かるんだが……。

 そんなモモンガの声が聴こえてきそうだが、デミウルゴスにはそんな幻聴は聴こえるわけはなくモモンガとネームレスへの期待は深まるばかりである。

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 先にどちらが振るったのか刃は互いにぶつかり合い甲高い音をたてた。

 そして互いに鍔迫り合う事もなくすぐさまその場を退く。しかし、そんなのはほんの一時でしかなくすぐに刃を振るい合う。

 セレネが振るうアストラの直剣は地面を削りながら切り上げの一撃として迫り、ブレイン・アングラウスが振るう刀は大気を切り払いながら袈裟斬りの一撃として放たれた。

 互いの刃と刃が打ち合い、またすぐに離れ別の一撃を放ち合い、三度打ち合う。

 

 

「ちッ」

 

 

 これで三度ブレイン・アングラウスはセレネと刃を打ち合わせた。だからこそブレイン・アングラウスは理解したのだ、目の前の騎士は自分や宿敵であるガゼフ・ストロノーフに比肩しうる実力者なのだと。

 だからこそブレイン・アングラウスはやりづらさを感じた。セレネがつい先程まで盗賊を挽肉にするのに使っていた武器、それは国宝などとは比べ物にならない程の大業物であった。だが、それをしまって鞘から引き抜いた剣はなんだ。

 

 

「(よくて俺のコレに届くかどうかの剣だぞ)」

 

 

 確かにアダマンタイトが振るうに相応しい武器だが、先程の様な大業物を持つものが使うには些か格が足らない。強くなる為に秀才の努力をした天才たるブレイン・アングラウスの持ちうる観察眼はそう判断した。

 そしてだからこそやりづらいのだ。

 

 

「(明らかにこいつは手加減している)」

 

 

 こちらを侮り手を抜いているならその傲慢を嘲笑いその首をはねよう。だがしかし、同等いやそれ以上かもしれない実力者が手を抜いている状態で切り殺してどうするというのだ。

 そんなもの、自分が強くなる為には認められない。

 

 

「どうした!様子見か!?手抜いてんならさっさと真面目に剣を振れよ!」

 

 

 だから、俺が強くなる為にお前は本気を出せ。そう吼える彼にセレネはその兜の下でほんの僅かに驚きの表情を浮かべて────そのアストラの直剣を鞘に納め新たな武器を取り出した。

 

 

 まずは詫びよう。確かに私は貴公を下に見ていた、侮っていた、手を抜いていた……だが、そう吼えられたのなら抜いた手を戻さねばならないな

 

「はっ、好き勝手に言いやがって」

 

 

 そう吐き捨てるブレイン・アングラウスだが新たにセレネが取り出した武器を見て鳥肌がたちはじめていた。

 それは異形の剣だ。八つの枝刃に無数の棘を持つ黒い直剣。

 まずそれは到底人間が振るうことなど許されないものだろう、きっと自分が握れば即座に呪殺されそうな程の何かを纏ったそれに警戒する。

 

 だから。

 

 

「殺られる前に殺るッ!!」

 

 

 放たれる連撃、武技ではないがそれは常人では到底成せないもの。しかし、セレネはきちんとそれら全てに刃を滑らせて防いでいく。

 連撃後の隙、それを見逃すようなセレネではない。連撃に刃を滑らせてから流れるように刺突を放つがブレイン・アングラウスは無理矢理に横っ跳びする事でその刺突から逃れ直剣よりややリーチのある刀で逃れる際に斬撃を放つが籠手を薄くかする程度に止まる。

 ブレイン・アングラウスはそれに軽く舌打ち、地面を一度二度転がりすぐさま立って構え直す。

 

 

「(分かってはいたが、奴は強い。身体能力だけの馬鹿じゃない、対人慣れしている……いや、アレは戦士としての頂点に近い……だが、だからこそ俺はこいつに勝つ、勝ってみせる)」

 

 さて、どうするか

 

 

 剣を引き、柄に添えていた左手を離し考える。現在セレネはガゼフ・ストロノーフよりもやや強い程度の力量で戦っているがそれでも決して侮らず半殺し程はするつもりで戦っていた。

 だが意外にもブレイン・アングラウスが奮戦する為、攻め悩んでいた。少し力の天秤を動かせばこの奮戦も無くなるだろうがそれはブレイン・アングラウスが死ぬという事。そのためその選択肢はとうに切り捨てた。

 では、どうするか。

 

 

 なるようになるさ。

 そう兜の下で笑ってその刃を振るう。

 

 

 

 

 

 右からの薙ぎ払い、下段からの刺突、そこからの切り上げ、袈裟斬り、再度切り上げ。

 鋒による刀身をずらす、斜め前へと逆に出ることで刺突の回避、切り上げに合わせて刃を滑らせ袈裟斬りを避ける様に袈裟斬り、切り上げからの退避。

 常人では理解出来ぬ剣戟が繰り広げられている。

 互いに一瞬でも、否ブレイン・アングラウスはほんの一瞬でも気が逸れてしまえばその時点でもはや終わりと言うべきぶつかり合い。

 そんな戦いにブレイン・アングラウスはこのぶつかり合いの最中に髪が白くなってしまうのではと、いや老人になるのでは?と考えてしまいそうになるほどの緊張をもって挑む。

 

 

 次だ────

 

「ッ!!」

 

 

 言葉が呟かれたかと思えば、ブレインは大きく距離を取っていた。一体何が来たのかなど見てはいない、ただただ本能に従いその場から飛び退いたのだ。

 何故、などすぐに気づいた。明らかに先程まで以上の威を滾らせ兜のスリットからまるで炎のような瞳が見えた。

 もはや、なりふり構ってなどいられない。

 

 

「つぅ────」

 

 

 刀を鞘に納め、その鍔に指をかける。すなわち居合いの構え。

 瞬間、ブレインを中心として三メートル程の不可視の円形の領域が発生する。

 これこそがブレインが宿敵ガゼフ・ストロノーフに勝つ為に作り上げたオリジナル武技・領域。この領域内においてブレインは極限までに攻撃命中率と回避率、そして知覚能力を上昇することが出来る。

 

 

 面白い

 

 

 セレネにはその領域は見えない。だが、何かあるのは分かっている、だからこそセレネは一撃を放つのだ。

 地面を蹴り、片腕での刺突。

 先程までのブレインならば視認する前にその胸に刃が突き立てられていただろう。

 だがしかし、知覚能力が極限までに上昇している今なら別なのだ。それこそ、その刺突が胸に触れる前にセレネの首を落とす一撃を放つ事が出来るほどに────

 

 

「秘剣────虎落笛」

 

 

 

 第二の武技・神閃。神速の一刀を放つその武技と絶対必中の領域を合わせる事で成立する、対象の急所たる頸部を対象に知覚させる前に一刀両断するブレイン最強の武技。

 居合切りであるそれは恐ろしい速さで鞘から引き抜かれそのまま直剣よりもややリーチのある刀の鋒が寸分違わずセレネの兜と鎧の繋ぎ目へと放たれて────────

 

 

 

「は────?」

 

 

 吹き上がる血飛沫。

 ブレインの頬を濡らす熱い血潮。

 熱を帯びる腹から右肩への一本線。

 振り上げられた柄だけ握ったセレネの左腕。

 直剣が貫いたのではない、領域ですら知覚できなかった一撃が己を切ったのだと理解し…………そこでブレイン・アングラウスはその意識を闇へと溶かした。

 

 

 

 見事。ああ、貴公…………見事だよ

 

 

 




作者の中でアンリは能登さんボイスです。偽ヨセフカと同じ声優さんらしいので日本語訳なら能登さんやろ、ということで

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