UNDEAD───不死人   作:カチカチチーズ

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様々な予定が重なり、なかなか執筆時間が取れずこうして投稿が遅くなりました。待っていた皆さんにまずはすいません。
とりあえず今週からはある程度時間が取れるので更新を頑張りたいと思います。



後日談

 

 嗚呼、ここは何処だろうか

 

 

 ろくに声が発せず且つ動けない中、私は靄がかった視界をぼんやりと見つめる。

 ここは何処なのか。ぼんやりとした視界が映すのは石室……ひんやりと涼しく決して薄汚くない場所……何処かの牢屋なのだろうか……いや、私はいったいどうしてこんな所にいるんだっけ?

 …………ああ、確か……法国で人形から額冠を剥いで発狂させたんだっけ……うん、その後はどっかの聖典が追っ手になって…………確か、そうエ・ランテルのカジッちゃんの所に行って────────

 

 

「ァ、あぁ……!!」

 

 

 そうだ。そうだ。そうだ。そうだ。

 私は、私は、私は!!あの時、カジッちゃんの計画を手伝ってあの『どのようなマジックアイテムも扱える』という破格のタレントを持った薬師を攫って、それでエ・ランテルの共同墓地で私は……あのいけ好かない全身鎧の大斧野郎と戦ってそれで────────

 

 

 

「おや、漸くお目覚めかな?」

 

「ッ」

 

 

 石室に響く私以外の声。

 声音から恐らく男、そこそこの年齢であろう男だが……明らかにこちらを見下している奴の声だ。私は痛む身体……と言っても何故か首ぐらいしか動かせない為、無理矢理その声のする方へと首を動かし視線を向ける。

 朧気な視界、そこに映るのはオールバックの黒髪に日焼けしたような肌で丸眼鏡をかけた…………何やら仕事の出来る男という風体な男。それに加えて白い装束に身を包んだ烏の嘴を思わせる仮面を付けた何かと腕が太く全身の肌が乳白色に加え体にピッタリとした黒い革の前掛けに頭は隙間が一切ない同じく黒いマスクを付けた二体の何者か………。わかる、経験上これらがなんなのか分かってしまう。

 

 

「ぁ……く、ま」

 

「ほう、どうやら現状が理解出来ているようだ」

 

 

 私の掠れた声で零れた奴らの正体に丸眼鏡の悪魔はまるで問題に正解した生徒に教師が向けるような笑みと言葉で私を見る。

 いったい、どういう事だ。死後の世界だとでも言うのか!?

 そんな私を奴らは嘲るように見て……その表情を正した。

 

 

「……さて、無闇矢鱈に騒ぎ立てないでくれたまえ?我々としては君たち人間の悲鳴は実に愉快であるが…………至高の御方の前に我々の趣向は無視すべきものだからね」

 

 至高の御方?なんだ、それは。こんな悪魔どもが至高と平伏する何かが存在すると?馬鹿げてる……こんな、どう考えても私じゃ勝てないようなバケモンの上位者なんて────

 そこまで考えて私は、自分の元隊長とあのバケモン女の事を思い出した。

 法国の切り札。最強の人類。

 ならば、アレらに類する神人か何かがこれらの裏にいるのだろうか。

 

 

「ぁぁ、あぁ……!」

 

 

 すまない。待たせたな

 

「いえ、そのような事は」

 

 

 また、誰かが来た。

 朧気な視界に姿を現したのは……銀色の騎士風の誰か。

 まるで英雄が討ち倒した獣の皮を纏うように両肩を覆う毛皮、腰に下げてある二本の剣。その佇まいから間違いなくあのバケモン女に近しい力を持っているというのを察せられる……だが、これが神人なのかは分からない。

 得体の知れない何かだというのは分かるがしかし、理解出来ない。

 

 

 ああ、そうだ。蘇生ご苦労

 

「至高の御方々の御命ならばどのような事でも」

 

 本当に助かるよ……そうだ、何か褒美をやろう。何が欲しい?

 

「そ、そのような……御方の御命ならばそれに応えるのが守護者いえこのナザリックのシモベとして当然の事、褒美など畏れ多く……」

 

 むぅ……そうか、なら仕方ないか

 

 

 そう、騎士風の男は悪魔との話を終わらせ私を見下ろす。

 この石室が暗いためか兜のスリットから顔は一切窺えない……いや、いや、覗かれている。

 

 

「ぁ」

 

 

 兜のスリット、その闇に浮かび上がる赤いソレが私を覗き見ている。

 ソレは火だ。熱い視線を送るという言葉があるが、いま向けられているソレは比喩なんかではなく正しくそれそのもの。

 熱量を伴った視線だ。この男がその気になれば私はこの視線だけで焼け死ぬだろう。

 

 

 クレマンティーヌ。我が徒たる、クアイエッセが妹よ。貴公は神に仕える巫女姫を徒に狂わせた背信者。異邦なれども誓約は我が心に健在故に

 

 

 手が伸びる。

 あの糞兄の名前が出てきたがそんなものはどうでもいい。

 身体が動かせれば私は今すぐにでもみっともなく悲鳴をあげて、ここから全力で逃げ出したい。

 嫌だ、やめてくれ。何をされるのか分からない。分からないが……その何かが終わったら私は終わりだ。

 

 

 私が、俺が仕留めたわけではないがその証は貰い受けよう。何にせよ復讐は果たされたのだからな────

 

 

 手が私の頬へと伸びて

 

 

「ぉぁ────────」

 

 

 引きちぎられた。

 焼けた。

 音が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「耳、だけでよろしいのですか?ネームレス様」

 

 ん、構わんよ。もとより私の信条の為に蘇生させたからな……

 

 

 血を抜き乾かすといった処理を終えた一対の証を布に包み懐へしまい込むネームレスにデミウルゴスはやや遠慮気味にそう聞いた。

 そんなデミウルゴスに対してネームレスは兜を揺らすようにクツクツと笑いながら想起し口を開く。

 

 

 なんなら、青ざめた舌を取るというのもあるが……私は暗月の剣、何より復讐の証の方が良いのだ。まあ、今では廃れた風習であるが……

 

「暗月の剣……ネームレス様、御身が時折口にしていたその暗月の剣とはなんなのでしょうか……どうか、この愚か者に御教え頂きたく」

 

 ん、あー……そう、だな

 

 

 まさか、ソレを聞かれるとは思ってもいなかったのかネームレスはやや戸惑ったような気恥しいような態度を取りつつ兜の頬をかく。

 思い出すのはユグドラシル時代、ギルドではなくクランであった頃、ナインズ・オウン・ゴールに入ったばかりの際にこの目の前のデミウルゴスの創造主であるウルベルトより似たような質問をされた時のこと。

 その際は上手く誤魔化したが、この今は違う。

 原作のデミえもんを知っているネームレスとしては下手に誤魔化せば深読み勘違いによる胃痛の運命が待ち受けているのを手早く察した。

 

 

 ん……まず、私はユグドラシルより前にも別の世界で冒険をしていてな

 

「ユグドラシル以前にですか?」

 ああ。神代の時代に一人の人間としてひたすら駆け抜けていた。ただ、ただ、使命に殉じて神を屠り、古竜を屠り、英雄を屠り……まあ、そんな頃に属していたのが暗月の剣という復讐代行、神の敵を始末する者、背信者狩り

 

「なんと……ネームレス様はアンデッドになられる以前から強者であらせられたのですね」

 

 

 ネームレスの過去に感激しているデミウルゴスを余所にネームレスは石室の出口へ歩いていき

 

 

 まあ、そんな頃の名残だ。捧ぐ対象はもはやいないが時折こうしてな。それと、今回の褒美となるのか分からないが……ソレはお前達の好きにして構わない。この世界じゃあ英雄クラスらしいからな、交配実験、スクロールの実験、好きに使うといい

 

 

 そう最後に告げ、感動に打ち震えている悪魔たちのいる石室をあとにした。

 

 

 …………竜王国か聖王国に行きたい

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、今日この時から君たちチーム『漆黒』がアダマンタイト級冒険者チームとして活動する事をエ・ランテル冒険者組合組合長プルトン・アインザックが認める」

 

「ええ、ありがとうございます。組合長」

 

 

 エ・ランテルを舞台に起きた大事件、邪教集団ズーラーノーンによるアンデッド大量発生事件が解決してはや二日。

 早期の事件解決、多くの冒険者の協力により驚くほど被害が少なく済んだエ・ランテルは事後処理を終えたこの日、事件解決に尽力した冒険者たちに対して冒険者組合及び都市から報酬が与えられていた。

 無論、今回の件でしっかりとした活躍をした冒険者は評価されその実力に見合ったランクへと昇格する事を許された。モモンガことモモンもまたその冒険者たちの中の一チームだった。

 

 

 冒険者のランクとして最上級のアダマンタイト。

 今回の事件を直接的に解決したモモンとアクトに与えられた報酬の一つがそれへの昇格、無論如何に今回のような大事件を解決したからといって銅級でしかなかった新人チームが最上級ランクになるなど本来だったらありえない話だ。

 では、何故こうしてモモンはアダマンタイトに昇格出来たのか、それは―――

 

 

(いやぁ、まさかあのクレマンティーヌ?の実力を証明してくれる人がいたとは。ネームレスさんはなんか疲れてる感じ出てたけど、ラッキーだったな)

 

 

 事件の主犯の一人である元スレイン法国の特殊部隊・漆黒聖典所属であったクレマンティーヌの情報を組合長と都市長に開示した人間がいたからだ。

 それは元々裏切り者であるクレマンティーヌの処理を命じられていた────戦神と崇めるネームレスに出会った事でつい忘れていたが────クアイエッセが自らの身分を提示しクレマンティーヌの実力を組合長と都市長へと伝え────正確に言えばあくまでクレマンティーヌは法国が追っていたズーラーノーンの幹部の一人で法国の裏切り者という事は伏せた情報であるが───更には現アダマンタイト級冒険者であるセレネの推薦もあり、こうして彼らはアダマンタイトへの異例の大昇格を手に入れたのだ。

 

 

(あらかじめ用意していた────なわけないか。なんか、ネームレスさん去り際に用意してたものが使えなくなったとか言ってたし)

 

 

 モモンガが思い出すのは組合に呼ばれる少し前、アダマンタイトへの推薦その他の旨を伝えに来たネームレスがまるで苦虫を噛み潰したような表情で言ったこと。

 曰く、本来ならちゃんとモモンら漆黒がアダマンタイトになれるようなものを用意したのだが今回の事件は誤算で仕方なく手を回し、一部のアンデッドを配置したとの事。

 そもそもネームレスとしてはミスリル、運が良ければオリハルコンになるだろうという考えで推薦し、そんなアダマンタイト級冒険者に恩を着せようとした為にこの破格の昇格となった。

 

 

(……いや、でもなぁ。アダマンタイトになったはいいけど、新人がいきなり最上級ランクになるって……絶対ベテラン冒険者に難癖付けられるよなぁ)

 

 

 出る杭は打たれる。陰口、嫌がらせ等の心配がフツフツと湧くモモンガだが、そんな心配は杞憂である。

 原作ならば確かに銅級からミスリルへと昇格したモモンに対して先輩ミスリル級冒険者であるイグヴァルジが突っかかっていたが、この世界においてはイグヴァルジは先日に現れたアダマンタイト級冒険者セレネの勇姿を見て嫉妬心というものを無くし、セレネの推薦があったモモンの実力に納得しているのである。

 

 そんな事は知らないモモンガは組合長から手渡されたアダマンタイトのプレートを見ながら内心で溜め息をついた。

 

 

 

 

 

 

 




クレマンティーヌは冒険者組合の遺体を回収、その後ナザリック行きとなりました。

そういえば仮面ライダービルドの映画公開されましたね。まだ作者は見に行けてないので早いうちに見に行きたいと思います

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