UNDEAD───不死人   作:カチカチチーズ

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難産だった癖に短いです。
もう少し増やそうとしたんですが流石に時間が足りなくて、ここで切って投稿しました。


合間の一幕Ⅱ

 

 

 

 武技・領域。

 

 

 自身を中心としておよそ三メートル程の不可視の円形の領域を創り出す。宿敵に勝つ為に編み出したオリジナルの武技であるそれを使い、鞘に収めた刀の鍔に指をかける。

 相手がその領域に入り込み隙を見せれば、その瞬間もう一つのオリジナル武技による一撃を放つ。

 故にその瞬間を待ち続け……相手がその右手に握った鋭利な刃による刺突を放ち────鞘に収められた刀が走り、その鋒が相手の兜と鎧の繋ぎ目へと吸い込まれていく。

 

 

 コフッ―――

 

 

 腹から右肩へかけての熱、それは自身の血潮によるもの。

 口から血を吐きながら視線を動かせば相手が右手で何か柄の様なモノを持ち振り上げていた。必殺の一撃は外され、絶対の自信があった領域ですら知覚出来なかった不意の一撃。

 薄れゆく意識の中、身体はそのまま崩れ、膝を地面に突き、死の一撃を見る前に終わる。

 

 

「……ああ、またか」

 

 

 意識が闇の中へ消えるその瞬間に男は目を開き、口を開いた。

 視界に映るのは戦っていた相手ではなく、洞窟を利用して造られた戦いの場でもなく、木張りの天井。男がここ最近見るようになった光景でいまだに慣れない光景。

 男は手を伸ばし、握っては広げる動作を繰り返す。

 

 

「また、あの日の事を……」

 

 

 そう辛い様な悔しい様な悲しい様な釈然としない様な声音で呟きながら、男は自分が寝ていたベッドから抜け出す。

 ベッドの脇に置いてあったブーツに足を通し、立てかけておいた愛用の刀を手に取り腰へと吊り下げる。その際にふと、視界に映ったモノへと視線を向ける。

 借りた部屋にある戸棚、そこに立てかけられている一振りの剣。特に飾り立てされているわけでない至って普通の直剣であるがその質は男の愛用している刀に近しいもの。

 それは決して男の物ではない。

 

 

「…………」

 

 

 男の名をブレイン・アングラウス。周辺諸国最強とうたわれるリ・エスティーゼ王国戦士長ガゼフ・ストロノーフに勝るとも劣らない実力を持つ剣士。

 嘗てのブレインは宿敵ガゼフ・ストロノーフに打ち勝ち己こそが最強だ、と示したかった……しかしもはやブレインにはそのような思いはなく、あるのは敗北の記憶。

 立てかけられた直剣の持ち主。それこそがブレインを切り裂いた騎士であり、夢の中で何度も何度も切り裂く人物。

 いったいどういう意図があって、敵である自分を生かし更には武器を置いていったのか、ブレインには分からない。

 

 

「……クソっ」

 

 

 苦々しい表情で吐き捨て、ブレインは部屋から出ていく。

 胸の中に渦巻くグチャグチャな感情、それに上手く向き合えないブレインはいまだ敗北より立ち直れていない。

 しかし、それでも、と。ブレインは足掻いている。

 部屋を出て、廊下を歩き階段を降りていくブレイン。その際に降りた先の部屋に家主がいないことを確認しそのまま玄関へと進んでいく。

 

 

「……今日で何度目だ。少なくとも片手じゃ数え切れない」

 

 

 ブレインが敗北の夢を見始めたのは敗北し、意識を失ったその日から。

 騎士に敗れ意識を失ったブレインは殺される事もなく、切り裂かれた傷もなく、一人用心棒をしていた盗賊団のアジトにいた。意識を取り戻したブレインは自分の身体に傷一つ無かった為に先程の戦いは夢幻そのものであったのでは?と考えたが周囲の状況からそれは違うと断じた。

 何より、ブレインの傍らに一振りの剣、騎士がブレインとの戦いの際に振るっていたものが鞘に収められ置かれていた。

 どうして見逃されたのか、どうしてここにこの剣があるのか、様々な事柄が頭の中に渦巻きながらもブレインは剣を抱えて走った。その理由はブレインには分からない。

 

 

「だが、あの夢も悪いことばかりじゃない……」

 

 

 そう、最後の一撃。あれは俺と同じ刀によるものだ。

 ブレインは何度も夢を見た事でその時では気づけなかったものを僅かながらに気づくことが出来た。夢の中の自分と夢を見ている自分、それは決して同一ではなく夢を見ているブレインは夢の中のブレインと同じ体験をしつつも一歩引いた視点で夢を見ていた。

 だからこそ、あの瞬間では気づけなかった騎士の一撃がどのようなものなのかを知れた。

 

 

「……まあ、知ったからどうなんだって話だな」

 

 

 そう、思考を終わらせブレインは影のある表情を見せ、手頃な店へと足を向けた。

 居合いの剣士、その皮が剥けるのはまだ先の話。

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓以下略。

 私ことネームレスは自室にてモモンガさんと一対一の話し合いをしていた。いや、割といつも通りのことだけども。

 

 

「と、言うわけで今度のビーストマン戦はネームレスさんにお任せしますね」

 

 あー、まあ、別に私としてもそれは構わないんだが。私に押し付ける事に関して罪悪感または謝罪の一つや二つはない?

 

「え?あるわけないじゃないですか。何をいまさら」

 

 おい、ギルマス

 

 

 曰く戦争は遠慮したい、そんなモモンガさんから私は今度の竜王国へ侵攻してくるビーストマンの大軍に対する戦争?蹂躙?の総責任者を押し付けられた訳だがとうのモモンガさんはその事について一切の遠慮はなく。

 清々しい表情で笑っている。殴りたいこの笑顔。

 だが、まあ、これもモモンガさんが原作よりも人間らしいという証なのだろう。

 私としてもこういった傾向は嬉しいものだ。

 だが、それはそれ、これはこれ

 

 

 冒険者稼業!神様稼業(仮)!戦争指揮!私に自由はないのか!?

 

「少なくとも全部貴方が自分で関わってると思うんですが?」

 

 気のせいです!

 

 

 そう、気のせい。気のせい以外の何者でもない。

 そもそも法国に関しちゃ番外席次が来たのが悪いのであって私は一切悪くないと思う。

 

 

「ともかくその件はよろしくお願いしますよ?その後は適当に自由にしてくれて構いませんから」

 

 自由……そうだ、帝国に行こう

 

「帝国ですか?あ、じゃあその時は現地調査お願いしますね」

 

 自由とは何だったのか

 

 

 溜息を吐きながら、事前に自分で用意したミルクティーを飲む。

 ……む、記憶を頼りに作ったから不安だったがそこそこに美味しいな。茶葉か、やっぱり茶葉がいいのだろうな。

 仕方ない。とりあえず既に資料が作られてるから上手い具合にそれを使って指揮をしよう。索敵にはニグレドを借りていこう……あの部屋嫌いなんだよな、怖くて。

 

 

「そういえば、帝国と言ったらデミウルゴスが事前に調査してたんですよ」

 

 おい、なら現地調査いらないのでは?

 

「え、いや、NPC目線ではなく我々目線での調査が必要だと思いまして」

 

 

 モモンガさんの言い分に私は納得し、帝国がどんな国だったかを思い出す。

 憶えているのは多くの貴族を粛清したという鮮血帝とこの世界の住人にしては高レベルの魔法詠唱者……無論、大した相手じゃない。他には鮮血帝の護衛もとい帝国の最高戦力の一つである四騎士……確か、一人だけ女騎士がいた記憶がある。

 呪いか何かを解く手段を探してて、鮮血帝に仕えているのもそれを探す為だとか……そして、それを解いてやれば喜んでこちらに着く……だったか。解呪……解呪かぁ、呪い、バジリスク、集団リンチ……う、頭が。

 

 

「え、ネームレスさん、いきなり頭抱えてどうしたんですか?そんなに嫌だったんですか?」

 

 いや、気にしないでくれ。うん、ほんと。

 

 

 最下層で呪死した挙句、それを解呪する為に小ロンドへ足を運び道中で何度も何度も幽霊に殺され殺され殺され心が折れそうになった時に、不死街教区の鐘がある塔に解呪石を売ってくれる男───名前は忘れた───がいる事を知った私はなんというか、その、つい、無意味にロートレクの前に座っていたなぁ。すまん、ロートレク。

 さて、それは置いといて。……帝国にはワーカーがいたな。

 ろくに憶えていないが確か、カッツェ平野で会った四人組のワーカーがいたな。…………待て、ちょっと待て。名前、名前名前……歳か?いや、恐らくセレネの記憶が圧迫しているのだろうが……本人達からもチーム名は聞いたはずだ……なんだったっけ……

 

 

「それじゃあ、帝国の件とビーストマンの件、よろしくお願いしますね?」

 

 あ、ああ、任されたよモモンガさん

 

「ということで。あ、何かあったら伝言飛ばしてくださいね」

 

 

 そう言い残して退室するモモンガさん。

 そんな彼の背を見送って私はふと、思い出した。

 

 

 クゥ、クソがぁあああ!!だったっけ。

 

 

 何か違う気がしたので私はとりあえず、法国へ行く時の装備をどれにするか考えるべく椅子から立ち上がり、そのまま最初の火の炉へと向かう事にした。

 

 

 

 

 




とりあえず次回は本編に戻ります。
グラブルも11月まで古戦場はありませんから執筆時間は十分に確保出来るので早めに投稿したいと思っています。

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