UNDEAD───不死人   作:カチカチチーズ

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やったね、早めの更新だ。
ところでアズレン……エセックス未だに来ないのにイベント期間終わりそうなんですがそれは……
ハロウィン復刻!ところでメカエリ、多分前回とは違う方とるんだろうけども……別鯖扱いになるのだろうか?



奮起

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓、第六階層。

 第六階層に広がる大森林の向かい側、闘技場を挟んだ方向に広がる平原にて夥しい数の戦士達が隊列を組みまるで群体の様に一糸乱れぬ行軍を行っていた。

 彼らはナザリック地下大墳墓にのみ生まれるアンデッドの一種、ナザリック・エルダー・ガーダー……平均レベル三十前後が凡そ五千。レベル三十台が英雄クラスであるこの世界において英雄クラスが五千体という頭の可笑しい軍勢であるがしかし、ナザリックからすれば雑兵もいいとこである。

 そんな彼らがこうして集められ隊列を組み、行軍をするのはもうまもなくに迫るナザリックがこの世界に来て初めての戦争の為である。

 竜王国へと侵攻するビーストマン十万に対してぶつけるには心許ない数字であるがしかし、既にビーストマンの群れを率いている強力な個体も精々がレベル三十台後半でしかなく如何に数の差があろうとも勝利する事は容易いとナザリックの知恵者たちは太鼓判を押した。

 いや、そもそも十万全てを相手にする必要などないのだ。

 

 

「凡そ半分近くのビーストマンは我々別働隊が処理するのだからね」

 

 

 そう告げるのは行軍する彼ら全体を見る事が出来る闘技場上層に佇む赤いスーツの悪魔、ナザリックが第七階層の階層守護者であるデミウルゴス。そんな彼の言葉に耳を傾けるのは今回の戦にて軍勢の指揮を執るライトブルーの蟲の異形、デミウルゴス同様にナザリックの階層守護者……任されるは第五階層のコキュートス。

 

 

「ナルホド、二面作戦トイウワケか」

 

「そうなるね。ネームレス様と君が率いる軍勢が正面から半分を相手取り、私の率いる悪魔が魔法により残りの半分を対処する……そして、ある程度の数になったら眠らせて私の実験場へと運んでいく、という話さ」

 

 

 流石に五万も収容は出来ないからね。

 そう笑うデミウルゴスにコキュートスは頷き、拡声器の様なマジックアイテムで行軍する軍勢に指示を出していく。付け焼き刃でしか無い軍略に未だ慣れていないのか、少しぎこちない指示を出すコキュートスにデミウルゴスはそれを馬鹿にするように笑うのではなく友人の成長を微笑む。

 

 

「まだまだぎこちないがなかなか慣れてきたんじゃないかな?」

 

「ムゥ、ヤハリマダギコチナク見エルカ……マダマダ未熟、精進セネバ」

 

 

 そう意気込むコキュートスにデミウルゴスは頷き、同時に負けられないと言わんばかりにその頭の中で今回の戦での動きを次々とシミュレーションしていく。どんな事が起きようとも問題なく対処出来るように、万が一にも失態を晒さないように。

 そう、思考を回しているとふととある事を思い出したデミウルゴスはシュミレーションを切り上げ、手元の戦略書に目を通すコキュートスに向き直る。

 

 

「コキュートス、そういえばだが」

 

「厶、ドウシタ、デミウルゴス」

 

「実はだね。ネームレス様が今回の戦いに際して戦力の強化にあの御方が所有なさっている世界級アイテムの力でエルダー・ガーダー五千体分の装備を御用意なさるそうだ」

 

「ナント……!?」

 

 

 予想外の言葉にコキュートスはその大顎をカチカチと鳴らし反応する。

 たかだか雑兵らの為にわざわざ至高の御方直々に装備を用意する、というあまりにも、ナザリックのシモべとして大きすぎる栄誉にコキュートスは自らが指揮するナザリック・エルダー・ガーダー達に嫉妬を抱きつつもそこまで期待されているのだ、とより一層に奮起する。

 自らが装備を賜れない事は確かに残念であるが、装備を賜った兵らを指揮する以上コキュートスに敗北という失態は考えられない。

 

 

「ナラバ、ナラバ……!ヨリ一層ノ研鑽ヲ、ギコチナイ指揮ナド見セラレヌ。コノコキュートス、必ズヤ御身ノ御期待ニ御応エシマショウ!!」

 

「ああ、頑張ってくれコキュートス。私も応援しているよ」

 

 

 より一層の奮起を促したデミウルゴスはコキュートスの言葉と態度に微笑を浮かべ、この第六階層を後にした。

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 竜王国への今までに例を見ない程のビーストマン大侵攻の件はすぐ様に周辺諸国へと知れ渡った。それは竜王国より逃げてきた商人たちが、決して叶えられるとは思っていないが藁にもすがる思いで出した救援要請によって知らしめられた。

 それに対してバハルス帝国は自国の護りを強化させ、更には魔法詠唱者(マジックキャスター)の増員及び育成に力を注ぎ始めた。恐らくは竜王国に侵攻しある程度は数が減るだろうと考えそれを迎え撃つ為の行動。

 長年竜王国に手を貸していたスレイン法国は未だ沈黙を保っている。スレイン法国から来た一部の商人らは新たな神が降臨したなどという真偽の疑わしい噂をするだけ。

 ローブル聖王国はやはりと言うべきだろうか、多数の亜人種の紛争地帯であるアベリオン丘陵と隣接している彼らは近頃活発化している彼らを理由に救援要請を断った。

 

 

 さて、それでは、残ったリ・エスティーゼ王国は?

 そんなもの聴くまでもないだろう。

 竜王国を生贄にすれば満足して王国までは侵攻してこないだろう、と腐った貴族たちは一様に阿呆みたいな考えを信じて国王ランポッサ三世の出す救援を取り止めさせたのだ。頭の回る一部の貴族らはそんな腐った貴族と第一王子の考えに頭を抱えるばかりだ。

 

 

「で?どう思うよラキュース」

 

「本当に万を超えるビーストマンの大侵攻なら、私たちだけが行っても……」

 

 

 さて、そんなリ・エスティーゼ王国の王都にある冒険者組合にて二人の冒険者がその事について言葉を交わしていた。

 一人は美しい金糸の如き髪に緑色の瞳を持つ白い鎧を身にまとった女騎士。彼女の対面に座るのはそんな彼女とは対称的な巨石を思わせる大柄な体躯、金髪の髪は短く刈り上げられ肉食獣の様な瞳に女性の太腿を両方合わせたようなサイズの首、その腕は丸太のように太い。正しく巨漢と言うべき戦士であろうがそのハスキーな声音から分かるやもしれないがこれでも女なのである。

 前者の名をラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ、その名から分かる通り彼女はこのリ・エスティーゼ王国の貴族の令嬢である。後者の名はガガーラン、ラキュースとチームを組んでいる冒険者の一人である。

 

 

「確かにな。聞きゃあ、アイツらは普通の人間の兵士の十倍強えらしいからな……そんなんが万超えなんて流石の俺らも不利すぎる」

 

「ええ……私の魔剣キリネイラ厶を使っても……難しいわ」

 

「だよなぁ……」

 

 

 そう、二人はため息をつきラキュースが机のカップへと手を伸ばそうとして、彼女の視界に入っている組合の出入り口から組合へと入ってきた人物が視界に映る。

 

 

「あ」

 

「んん?おっ、こっちだこっち!」

 

 ラキュースの漏らした声にガガーランがラキュースの視線の先を辿り、顔見知りを見つけ声を上げて呼ぶ。

 そんなガガーランの声に気づいたのかその人物は片手を上げて応え、そのままラキュースとガガーランのもとへ歩いていく。

 

 

「よお、久しぶりじゃねえか。どこ行ってたんだ?仕事か?」

 

「うむ、レエブン公の領地にある湖でハウスイーターが群れを作っていた様でな。それらの駆除を頼まれた」

 

「へぇ、ハウスイーターの群れか。流石じゃねえか……これなら、もうすぐオリハルコンか?」

 

 

 ガガーランと和気藹々と話すのは一人の偉丈夫。赤い羽根が一枚刺されたバケツの様なヘルムを被り、鎖帷子の鎧の上から着ている鉄板鎧を覆う白布と背に背負う円形の中盾にほ共に彼が手ずから描いた太陽のマーク。その胸にかけているプレートはミスリル。

 彼はこの王都の冒険者組合にある日、ラキュースらのチーム『蒼の薔薇』に導かれそして瞬く間にそのランクを上げていった冒険者である。竜王国より流れてきた竜殺しであるアダマンタイト級冒険者『白晶』や先日エ・ランテルで起きたアンデッド事件によってアダマンタイトに昇格した冒険者チーム『漆黒』に続いて王国のアダマンタイト級冒険者になるであろうと冒険者組合から期待されている。

 そんな彼は温厚そうな声でガガーランとラキュースに対して話を投げかける

 

 

「ところで、王都へと戻ってきた際に耳にしたのだが……竜王国へビーストマンの大侵攻があるというのは本当なのだろうか」

 

「えぇ、残念ながら本当よ」

 

「流石に十万ってのは誇張だろうが、まあ、万超えなのは事実だろうな」

 

 

 言葉尻の弱い二人に噂が本当であると理解した彼はすぐ様身体の向きをラキュースらから組合の出入り口へと向け今すぐにでも走り出そうとするが、嫌な予感がしたガガーランが彼の肩を掴む。

 

 

「おいおい、どこ行く気だよ」

 

「無論、竜王国へ」

 

「話聞いてたか?万超えのビーストマンだぞ?」

 

 

 言外に無理だと語るガガーランに彼はそのバケツの様なヘルムにあるスリットから見える意思を感じさせる瞳は決して覆せぬものであり、ガガーランはその瞳に睨まれ一瞬後ろへ退りそうになったが持ち堪える。

 と、そんな二人を落ち着かせようとラキュースが席を立とうとして、新たな乱入者が姿を現した。

 

 

「どうした、お前たち」

 

「イビルアイ……!」

 

 

 赤の外套に白地に黒で何らかの模様が施された仮面を付けたおおよそ十代前半の少女ほどの体格の人物、イビルアイが三人に声をかけた。その後ろには双子なのか瓜二つの金髪の少女らがガガーランと彼を見ていた。

 すぐ様、ラキュースは現状と経緯をイビルアイに話しその間に彼がどこかへ行かないようにガガーランは彼の肩を掴む手に力を込める。

 

 

「ふむ……なるほどな。こいつらしいと言えばこいつらしいが……死ぬぞ」

 

「修羅場は何度も潜り抜けている」

 

 

 イビルアイの鋭い言葉に彼は何をいまさらと言わんばかりに胸を張って応える。そんな彼にイビルアイはため息をつき、目の前の男がどういう訳か自分の生き死にを重要視していない事に頭を抑える。そして、恐らくラキュースや自分たちがいくら言葉をかけても止まることのない未来を容易に予想出来ることに再びため息をつく。

 

 

「ラキュース、無理だ。馬鹿につける薬はないぞ」

 

「イビルアイ……」

 

「……たくっ。認める以外にねえって事か」

 

 

 ガガーランもため息をつき、彼の肩を掴む手を離す。

 

 

「もうどうしようもねぇんだ。行きたきゃ行っちまえ、だが死ぬんじゃねえぞ」

 

「ああ、分かっているとも。何より、俺は俺の使命をまっとうするまで死ねんからな」

 

 

 ハッハッハッハ!!と笑う彼にガガーランとイビルアイだけでなくラキュースもため息をつき、双子はオーバーなリアクションで肩を竦めて首を横に振る。

 そうして、いつの間にかに組合から出てった馬鹿がどうなるのか、イビルアイは柄にもなく心配していた。

 

 




コキュートス喋らせるの大変。
今回名前だけ出したハウスイーターってのはまあ、村の家屋ごとバックリ食べちゃうデカいワニのモンスターと思ってくれれば。

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