UNDEAD───不死人   作:カチカチチーズ

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新年初UNDEADという事で今回限りの番外編です。
これはあくまでifです。本編には一切関係はありません。



番外編:顔の無い月光

 

 

 

 リ・エスティーゼ王国・王都リ・エスティーゼには一種の不文律がある。

 満月の深夜、王都に昏い鐘が静かに響けば決して家屋の外へと出てはならない、というものだ。いったい、それがいつごろからあるのかはわからない。わかることは少なくともそれがここ十年内の新しいものではないこと、そして決して眉唾物ではないことだ。

 だが、そんな不文律も往々にしてそれを破る者が現れることがある。

 ああ、つまるところ、今夜の物語はそんな不文律とそれを破った者の噺。

 今夜は何時にもまして月は大きく見え妖しく嗤っているように見えた。

 王都。その一画にある貴族の自邸や別邸が立ち並ぶ区画、その中にあるとある屋敷にて男は叫んでいた。

「ふざけるなッ!!」

 やや恰幅がよい、若かりし頃はモテたのであろう整った顔立ちの面影がある老年の男はその手に握られた羊皮紙へ視線を向けながら怒りに顔を赤らめ、その羊皮紙を引きちぎらんと手に力を込めていた。

 なにゆえにこの男はこうも激怒しているのか、それはこの状況を見れば誰にでも察せられることだろう。つまるところ、男が握っている羊皮紙に全てが記されている、ということだ。

 さて、羊皮紙に記載されている内容を語る前に一つ、この男について大まかにだが話すとしよう。

 ボルゴレフ・ワコムス・エイク・フォンドール。それがこの男の名、このリ・エスティーゼ王国の伯爵である。齢六十を超えてなお、色欲逞しいこの貴族は自らの領地にある自邸に妻・妾・奴隷合わせて十数人抱え込んでおり、それに見合うほどの財力があった。

 無論、その財力の根源がまっとうなモノの訳はないのだが。

 そんな事情があるボルゴレフ伯爵の別邸に自らの領地からとある手紙が羊皮紙に添えられて届いた。

 曰く、「秘密をばらされたくなければ、貴様の女を全て寄越せ」

 付属の羊皮紙に記載されていたのはボルゴレフ伯爵の荘園にて行っている麻薬の原材料となる植物の栽培及び麻薬の密売に関する資料、その一部であった。

 あまりにも致命的。

 昨今、この王国に巣食う裏組織と関係のない貴族派の貴族などごく稀なモノだ。故にこの資料が万が一にでも王の下へと送られれば、貴族派からトカゲの尻尾切り同然に切り捨てられ貴族位の剥奪は免れない。腐敗し愚かではあるが、やはり腐っても貴族なのか自らの保身に関してはすぐさま頭が回りどうにかせねば、とボルゴレフ伯爵は考えるがしかし、色欲逞しいボルゴレフ伯爵はそれよりも交換条件に要求されている内容に冷静さを保てない。

 愚かにも、愚かにも、この手紙の送り主は自分の女を奪おうとしているのだ。

 それ故に、その事実がボルゴレフ伯爵から冷静さを奪わせる。

 

 

「おのれ、おのれ、おのれぇ!!……ふざけよって……!!」

 

 

 だが同時にボルゴレフ伯爵は頭を回転させ、この不届き者を殺す為にはどうすればいいのか?と考え始めすぐに答えへと行き着いた。

 さながらそれは天より啓示を齎されたが如く。

 

 

「ハハハ!!私が、私の女を渡すと思っているのだろう?ならば、ならば、殺しに行くぞ……我が屋敷の誰かだ……そうだ、あの男だ。あの若造に違いない……殺す、殺す!!」

 

 

 齎された答えに従う様にボルゴレフ伯爵は自邸にて働く執事の一人が犯人であると断定し、殺意を滾らせるままに屋敷の人間を呼びつけ始めた。

 

 

「今すぐに帰るぞ!領地に戻るぞ!!」

 

「お、お待ちください!伯爵様。今夜は、今夜は満月でございます!!」

 

「知ったことか!そんな迷信を信じて私を止めようとするのか────そうか、貴様も私の敵かァ!!」

 

「ひぃッ────!?」

 

 

 部屋の壁に飾り付けられている儀礼用の剣を使用人に突きつけながら、急かすように馬車の支度をさせるボルゴレフ伯爵。

 使用人の言う通り、今夜は満月である。にも関わらずに外へ、領地へ向かおうとするボルゴレフ伯爵……彼からは不文律を信じる様子は一切感じられない。

 そこに平時の彼らしさは存在しない、平時のボルゴレフ伯爵は自らの保身を優先する男であり如何に自分が色欲逞しいと言えども自らの保身と比べれば苦渋の決断ながらも女を手放すだろう。にも関わらず、この判断はいったいなんだ。

 だがそんな事は誰も考えず、急遽用意された馬車へと乗り込むボルゴレフ伯爵。それを確認して馬車は発車する。

 王都より自らの領地へと。

 

 

 

 こうして不文律は破られた。

 妖しい満月は嗤う。

 かくして、王都へ静かに厳かに昏い鐘の音が鳴り響く。

 

 涙が流れそうになる様な静謐な音色であり、鮮血が噴き出すかのような恐ろしい鐘の音が

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけよって、ふざけよって……」

 

 

 ボルゴレフは馬車の中でその額に青筋を浮かび上がらせながら、自らの爪を噛んでいた。

 王都からそこそこ離れた領地、しかしこの時間から向かえば間違いなく昼頃には着くこととなるだろう。そして、ボルゴレフは自らの手元にあるこの手紙の送り主は間違いなく、仮に来るとしても次の日に出発するだろう、そう考えているだろうと考えそんな相手を不意打つべくこうしてこの満月の夜に出発したのだ。

 無論、満月の夜の不文律などそもそも貴族である自分になんの影響も出さないとボルゴレフは信じている。

 何せ、自分は貴族なのだから。

 そう、あまりにも傲慢な考えを抱いて────

 

 

「……?」

 

 

 ふと、ボルゴレフは違和感を覚えた。

 揺れないのだ。

 馬車がいつの間にかに止まっているのだ。

 いったいどうしたというのか、そう考えて窓をあけ馬車の前方を覗き────

 

 

「なんだと……!?」

 

 

 そこには何も無い。

 何も無かった。

 馬車を引率する馬もその馬を動かす使用人もいない。

 ただ、ただ、馬車の車部分が道の真ん中でポツリとあるだけだった。

 なんだこれは。なんだこれは。なんだこれは。

 同じ言葉が、同じ疑問の言葉がボルゴレフの頭の中をぐるぐるとぐるぐると回っていく。

 

 そうして、あまりにもありえない現状に恐れを抱いて、ボルゴレフはそのまま馬車の扉を開いて、外へ出る。

 

 

「いったい、なにが…………は?」

 

 

 外へと飛び出たボルゴレフはふと視線を馬車の前方へと向けた。

 特に理由なんてありはしない。

 ただ、何となく前方へ視線を向けただけなのだ。

 そこには何も無いと分かっていたのに────女がいた。

 

 

「やぁ、良い夜だな?」

 

 

「────ッッ!!」

 

 

 何だこの女は。

 帽子を被りシルバーブロンドの髪をたなびかせる不思議な意匠の服装に身を包む美しい女を見た瞬間、ボルゴレフの中の何かが逃げろと強く強く叫び散らした。

 そうして、ボルゴレフはその自らの内より響く叫びに正気を取り戻して反射的に馬車の中へと逃げ込んだ。

 内側から鍵をかけて、女が中へと入らないように。

 両手でドアノブを押さえつけながら、息を吐きながら、ボルゴレフは馬車の中で一人腰を抜かす。

 あまりにも恐ろしいものを見てしまった、と。どうしてこんなことになってしまったのかを嘆きながらボルゴレフは息を吐いて……

 

 

 貴公、不躾だな

 

「ッ!?」

 

 

 背後から聴こえた声にボルゴレフは振り返る。

 そこには女はいない。代わりに誰かがいた。

 

 滑り気を帯びた鉄兜に宙の闇に紛れそうな濡羽の外套、血の香りに月の香りを纏った装束に身を包んだ何某。

 人型の人外。

 上位者の化身(アバター)

 人間が、ただの人間が、常人が直視してはいけない何か。

 正しく異界より降り立ったこの世ならざる者。

 

 

 だが、分かるよ。私も昔はそうだった

 

 

「ァォォォァィアアアアッッッッ!!!???」

 

 

 ボルゴレフは発狂した。

 目から、鼻から、耳から、穴という穴から血を噴き出して絶叫する。

 馬車内部に血はぶちまけられたにも関わらずその何某には一切血は触れることは無く。

 

 

 …………ふむ

 

 

 何処と無く寂しそうな雰囲気を垣間見せながら何某は座席より立ち上がりボルゴレフを退かして扉から外へ出る。

 その姿はとてもつまらなそうで退屈そうなものだった。

 そんな何某に声をかけるのは先程ボルゴレフが見た女。

 

 

「ああ、なんともつまらなそうだ」

 

 つまらないとも。狩りこそ我が楽しみ、狩りこそが我が安らぎ

 

 見ただけで狂われるなどつまらないだろう?

 

 

 例え、先触れ一つで死に至るような惰弱な存在だとしても。

 そんな風に愚痴りながら何某は満月の王都を歩き出す。満月の王都、その月夜は彼らの世界。すなわち狩りの夜である。

 彼は何なのか、何某は何者なのか。

 もしも彼の在り方の一片でも知る者がいるならば彼をこういうだろう。

 『プレイヤー』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーガスト・カインハースト

 

性別:区別不明(どっちもなれる)

区分:プレイヤー

種族:無貌の神(ナイアーラトテップ)

レベル:100

職業:神狩り

所属:アインズ・ウール・ゴウン

声優:杉田智和

所有世界級(ワールド)アイテム:トラペゾヘドロン

 

通称:オーガスト、カインハースト卿、ナイアーラ・ヴァン・ヤーナム・カインハースト、至高の四十一人が一人、無貌の御方、血の狩人、ナイアおじ様

 

属性:極悪(カルマ値-500)

 

住居:リ・エスティーゼ王国カインハースト領

 

特記事項:転生者(やはりチーズ)

 

 

 本編の主人公であるネームレスがダクソではなくブラボプレイ時に転生した結果。

 狩人プレイ(PK常習犯)で異形種人間種問わず狩っており、その際にナインズ・オウン・ゴールと出会いたっち・みーとPvPの末、敗北。

 その後、アインズ・ウール・ゴウンとなった彼らの協力を得て、ニヴルヘイムにあるダンジョンをクリアし特殊クエストアイテムを入手してその後、一対一で『闇をさまようもの』を討伐しワールドアイテム『トラペゾヘドロン』を手に入れた事で異形種へと転生。これにより最後の条件を満たした為、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーに。

 ギルド入りしてからはPK等で手に入れたアイテムを駆使してナザリックの第六階層の一画に自由なエリアを入手し、魔改造した。

 本編主人公ネームレスよりも性格がアレな為、割りと問題児側でウルベルトと共にたっち・みーとぶつかる事がしばしば会った。

 自作NPCが四人いる。

 実力はたっち・みーよりは弱いが武人建御雷と同等ではある。

 縛りプレイで絶対にPvPしたくないギルメン一位で、その理由は種族特性上、精神異常に対して完全耐性を持たない相手に二秒おきに精神異常デバフ付与が発動する為。完全でなければ唐突に精神異常デバフが発生するという事故が起きるためである。

 

 見た目は神器級(ゴッズ)装備で揃えたカインの兜に烏羽の外套、そして古狩人装備である。メインウェポンは月光の聖剣である。

 時たま、ミコラ神拳と称して伸びない先触れを掴んで殴ることもある。

 

 

 自らのマイエリアである森と館と共に転移してしまった。

 ランポッサ三世の義理の兄という謎の立場を獲得しており、ラナーにおじ様と慕われ(ラナーに色々仕込んだ)、八本指に対して発言権があり、狩りと称して満月の日の夜に王都で適当に何人も狩った結果不文律を作り出し、いつの間にかに法国の深い所に繋がっていたり、種族通りに色々黒い事ばかりしてる。モモンガ曰くだいたいこいつが悪い。

 

 

作成したNPC

:マリア・カインハースト(時計塔のマリア)レベル100

:ヨセフカ(偽フカ)

:ユーリエ(最後の学徒ユーリエ)

:ワラー(異常者ワラー)

 

エンブレム

:カレル文字『月』

 




世界級アイテム:トラペゾヘドロン
……闇をさまようものを倒したプレイヤーに与えられる世界級アイテム。所有者を無貌の神へと転生させられるアイテムで、無貌の神の種族を持つものにバフを与え、レベル八十代後半モンスターシャンタク鳥を大量召喚出来る。元ネタと違い闇をさまようものは召喚出来ないだって、これの所有者が闇をさまようものを殺し成り代わったのだから。

オーガスト「そうだ。それも私だ、あれも私だ、これも私だ、あの事も私だ、そうあれやこれやも私だ────何?馬鹿な事を無論、それも私に決まってるだろう?」

モモンガ「全部お前じゃねぇか!?」

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