UNDEAD───不死人   作:カチカチチーズ

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ようやく書き終わった。
やっぱり大変ですな……ただ、少し変な部分もあるかと思いますがどうぞ。

オバロのアプリは星五一人も当たらずフェンと一緒に頑張ってます。
まさか、ホムンクルス枠とは思わなんだ


処分

 

 

 

 

 

 片や空虚な眼窩に、片や兜のスリットにぼんやりとした赤い光を灯している。上位者二人のその眼光がセバスの全身を舐めるように動いているのが頭を下げているままのセバスにも十分に理解できた。

 緊張が空気に浸透する中、ネームレスが面倒そうに軽く手を振るったのをセバスは感じ取る。

 

 

 ......いい。気にするなセバス。今回のは何も言わずに来た我々の落ち度だ。

 

「それよりも、セバス。いつまでもそのような所で頭を下げていてもしょうがないだろう?早く部屋に入って来い」

 

「はっ」

 

 

 そんな二人の声に、頭を下げたままのセバスは反応し、頭を上げる。それからゆっくりと一歩踏み出して────背筋を震わせた。

 その鋭敏な感覚で、巧妙に隠された殺意と敵意を感じ取ったためだ。

 視線をゆっくりと動かす。二人の守護者も騎士もセバスに注意を払っているようには見えない。だがそれはあくまで常人から見ればの話でしかない。それをセバスは十分に理解していた。

 張りつめている空気に友好的なものは一切なく、むしろまったくの逆だ。

 

 

「そこで止まったほうが良いと思うがね」

 

 

 デミウルゴスの涼しげな声がセバスの足を止める。

 その場所はモモンガらよりやや離れていた。だが、それは会話するうえで不都合な遠さなどではなく、部屋の広さや上位者との謁見という事を鑑みればおおむね適切な距離といえよう。

 しかし、この世界に来てからそこまで言葉も交わしていないネームレスならともかく、いままでのモモンガであればセバスに対してもう少し近づけといった旨の言葉を言うはずだ。だが今回はその言葉がない。

 

 その事実がセバスには距離以上の隔たりを感じさせその背に重くのしかかった。そして、この位置がコキュートスにとって最適な攻撃距離であるということも重圧の要因であった。

 

 

「さて、セバス。何故、我々がこの場にいるのか、説明は必要か?」

 

「......いえ、必要はございません」

 

「ならば、お前の口から聞きたいものだな、セバス。報告は受けていないが、最近、何やら可愛いらしいお嬢さんを招きいれたそうじゃないか?」

 

 

 やはり────モモンガの言葉にセバスはまるで氷の柱でも背中に入れられたような寒気を感じ、それと同時にふと違和感を感じていた。

 だがその違和感を探るよりも先に自分が主人に返事を返していないことを思い出し、慌てて声を張り上げる。

 

 

「――はっ!」

 

 

 返事が遅れたな。セバス

 

「もう一度問おう。可愛らしい人間を招き入れているらしいな」

 

「はっ!招き入れました!」

 

 

 まただ。また、何か、違和感を感じる。

 その違和感がなんなのか、セバスはわからない。故にもどかしさをその胸の片隅に抱きながらモモンガとネームレスを見る。

 そして、セバスの返答にネームレスは熱を感じさせるような視線を向けてその続きを話し始める。

 

 それで?何故、我々に報告しなかった

 

「はっ.........」

 

 

 その言葉に対して、セバスは返事を返したがしかし返答は返さずに微かに肩を震わせながら、その視線を主人らから床へと移動させた。

 それはいったいどのように返せば最悪の事態を免れるのかを思案するための半ば無意識的な行動であり、その行動はとある人物に苛立ちを与えるものであった。

 この場において唯一こちら側で創られた騎士リロイ。彼の崇拝する亡者の王たるネームレスの質問に対してなかなか返答を返さぬセバスに、グラントを握る手が強くなる。その反応にモモンガは気づき、リロイがセバスに対してアクションを起こす前に口を開いた。

 

 

「さて、セバス。私はここにお前を派遣するにあたり、ありとあらゆることを記載してナザリックに送れと命じた。それはどの情報に価値があり、どの情報がゴミか判断するのは、一人では困難だからだ。実際、お前から送られた書類に書かれていることは、街の噂レベルから書かれているな?」

 

「はい。その通りでございます」

 

 

 モモンガの言葉にはきちんと返答したセバスにリロイはやや不満なものを胸にしまい込みながらその手の力を収めた。そんなリロイを視界の端に収めているデミウルゴスはすこしほほえまし気に思いつつその視線は変わらずセバスへと向けている。

 

 

「では、ネームレスさん、デミウルゴス。二人に確認するがセバスより上がってきた書類を二人にも読ませたが、その中に可愛らしいお客人のことは記入されていたか?」

 

 いや?まったくもって覚えはない

 

「ネームレス様同様、数度繰り返し読み返しましたが、そのような記載は一切発見できませんでした」

 

「そうか。改めて、セバスよ。それを踏まえて聞かせてもらおう。何故に報告書に上げてこなかった?……私の、私たちの命令を無視した理由を聞きたいのだ。お前たちが至高の御方と崇める我々の言葉はお前を縛るには相応しくなかったか?」

 

 

 その言葉が室内の空気を大きく揺らす。

 それに対して、セバスは慌てて、必死に言葉を発した。

 

 

「滅相もございません。あの程度のことは至高の御方方にご報告するまでもないと、私が勝手に考えたためです」

 

 

 セバスの全身に突き刺さる殺意が五つ。発生源はコキュートス、デミウルゴス、デミウルゴスに抱かれた天使、リロイ、そしてソリュシャンのものである。主人の一声で、即座に五人がセバスに襲い掛かり殺すことは間違いないだろう。

 死ぬこと自体に恐れはなく、ナザリックの為に死ねるというのはナザリックのシモベとして本望と言えるだろう。だがしかし、裏切り者として殺されるとなればセバスは身が震え上がる。

 セバスがその額に大量の汗を垂らし、リロイが誰よりも先にセバスを砕き潰さんとその足を踏み込んで────

 

 

 いらん。止まれリロイ

 

 

 壁に寄りかかっていたネームレスがその手をリロイの肩にかけた。

 その一言と行動に全ての殺気が霧散した。見れば、ネームレスがその身をリロイらより前へと、つまりはこの部屋の誰よりもセバスの近くへと寄っていた。

 そんなネームレスにコキュートスとリロイが下がるように乞う前にその視線をセバスの視線に合わせて口を開く。

 

 

 なるほど。セバス、お前の言いたいことは理解した。

 

 だが、報告するまでもないことか、どうかを決めるのは我々だ。

 

 

 空気に熱が満ちる。常に身体から冷気を発しているコキュートスはそのスキルを解除しており、熱を緩和するものはこの部屋にはない。

 ネームレスを中心に確かに熱気が発生しており、その最も発生源に近いセバスはその額に珠の汗を滲ませている。扉付近のソリュシャン、コキュートス、デミウルゴス、デミウルゴスに抱かれた天使───ヴィクティムも、そしてセバス自身もいまここで至高の御方の一人にセバスは処刑されるのだと、悟って────

 

 

「ネームレスさん、それはいきすぎだろう」

 

 

 もう一人の至高の御方により処刑は掻き消えた。

 

 

「たしかに今回の件、私たちに報告をしなかったセバスの非は明確だろう。だが、それだけだ。たかだか、元娼婦一人の報告をしなかっただけでそれはいきすぎだ」

 

 .......ああ、そうだな

 

 

 ネームレスを下がらせ、モモンガは改めてセバスを見る。

 その視線はネームレスのような緊張感漂うものではなく、慈悲深さを感じさせるようなものだった。

 

 

「セバス。別に私たちはあの客人をこの館に招き入れたことに対して問題にしているわけではない。私たちが問題に感じているのはお前が今回のことを報告しなかったことだ。別段、助けたという相談さえあれば私もネームレスさんもお前の成したことに対して協力しよう。それはお前の主人として当然のことだ」

 

「だが、今回の件を報告しなかったことでお前たちはこの国に巣食う面倒なものどもに目をつけられた。そうなると、この街での情報収集がすこしばかり面倒になる。いかに何時か掃除する相手だといえども......まあ、いい」

 

 

 そこまで語られてセバスはようやく先ほどまでの違和感が何だったのかを理解した。

 彼女の、ツアレの命の危機は遠くへと消えた。そう、今回自分がこの場に立たされているのはツアレを助けたことに対してではなく、その報告を行わなかったことについてなのだと理解したのだ。

 そんなセバスからモモンガはいったん視線を外し、再び壁際へと移動していたネームレスへと視線を移す。

 

 

「さて、今回の件におけるセバスへの処分だが.........ふむ、ネームレスさん何かちょうどよいのはありますか?」

 

 

 モモンガの言葉に一瞬この場の全員が固まったが既にネームレスから感じていた熱をもつ圧は失せている。

 

 

 ああ……なら今回の王都における任務でのセバスの功績を白紙とするでよいと思うが、いかに

 

「なるほど。デミウルゴス、お前もそれでよいか?」

 

 

 ネームレスの口から告げられた処分内容に再びこの場のモモンガを除く全員が固まった。

 そんな中、問われたデミウルゴスは額に僅かばかりの汗を滲ませながらそれに答える。

 

 

「至高の御方方に仕える身でお役に立てなかった。それは我々ナザリックのシモベにとって何よりも罰であるかと...」

 

「では、セバスに対する処分はそれとする」

 

 

 その処罰は正しくデミウルゴスの語った通り、極々一部を除くナザリックの者らにとって恐ろしい罰であった。なぜなら、この処分によりセバスはこの王都で至高の御方方に不利益を負わせなかったが同時に一切利益になるようなこともしなかった、つまりただの木偶の坊でしかなかったという事なのだ。

 セバスとやや仲が良好ではないデミウルゴスですらこの処分に対して酷ではないかと感じたがすぐにこの処分は大きな警告であるのだと理解した。

 

 ほんの些細な情報であろうとも下手をすれば大変な事になりかねない。それは極当たり前な話であるが今回の一件に対する処罰はそれを再認識させる為のものなのだろう。

 

 

 そう、デミウルゴスは納得し幾度目かの至高の御方方への畏敬の念をより一層強める。

 そんな、デミウルゴスの心中など知らないモモンガはふと、セバスが保護した少女の事を思い出した。

 

 

「それでだ、セバス。お前が連れてきたお客人の事だが……ふむ、どうするかはその者に委ねるとする。ソリュシャン」

 

「はい、モモンガ様」

 

 

 モモンガに礼をし応接室より出ていくソリュシャン。

 既にこの部屋から緊張感は消え失せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、ソリュシャンに連れられてきた彼女、ツアレニーニャ・ベイロンは記憶を消して人間社会で生きていくことではなくセバスと共に生きるというネームレスからして原作とほぼほぼ同じ生き方を選び、ギルド【アインズ・ウール・ゴウン】の保護下に置かれ、外部メイドとしての仕事を与えられることとなった。

 

 刻一刻と運命の夜は近づいている。

 

 

 




「すいません。ネームレスさん……なんか、悪役演じてもらって……」

 いやいや、気にしないでいいですよ。二人揃って優しくしちゃ示しがつきませんから……

「そうですか……あ、ところで帝国はどうですか?」


────────────



ブラボ書きたい。
ブラボ×何かでやりたい。
恐らく次の投稿は少し空くかと思います、また。もしかしたら帝国側での出来事を挟むかもしれませんが……って言っても原作的に次の日か、イベント。

追記────
現在オリジナル作品を構想中です。投稿が何時になるかは未定ですが楽しみにしていただけると幸いです

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