UNDEAD───不死人   作:カチカチチーズ

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 本日二度目の投稿。
 本話は改訂前と改訂後でほぼほぼ変更がないことを先に知らさせていただきます。




迫る火の粉

 

 

 

 ソリュシャンを通じて齎されたツアレ誘拐の一報はまず、手が空いていたネームレスへと伝えられた。これはモモンガは冒険者モモンとして現在移動中であり、近くに他者の目があるために〈伝言〉先であるパンドラズ・アクターによって先にネームレスへ連絡するよう伝えられていたためだ。

 さて、ソリュシャンから報告を受けたネームレスは双剣を掌で一回ししてから腰に下げている鞘へと納め、兜の下でその瞳を細める。

 

 

 モモンガさん、に伝えれば激怒するのは間違いないだろう。だが、彼は移動中でそして今人化の指輪を装備している。そのことを考えれば精神鎮静化は作用しないことは間違いない。となれば、しょうがない、事後承諾になるが……

 

「?どうしたの?」

 

 ン、少しな。

 

 

 先ほどまで斬り合っていた番外席次の頭を軽く撫でつつ、ネームレスは思考を回していく。もとよりセバスの一件があった時点でツアレが攫われるのは予期していた事態であり、これといって焦る理由なんてものはどこにもなく、それ故ネームレスはモモンガへの連絡よりも先に他の者への指示を優先、

 

 

 ‥‥‥いや

 

 

 しようとしたが、しかし。

 昨日のセバスへの処分の際に報告・連絡・相談、報連相の大事さを説いた自分がそれを疎かにするのはいかがなものなのか、そう脳裏に過り連絡する手を止めた。

 ナザリックの者たちは一部を除いて問題ない、至高の御方方は別です、などと宣い始めるだろうがしかし、ほぼほぼ間違いなくモモンガは怒るだろう。何せ、ネームレスもモモンガもまがりなりにも社会人で報連相の重要性は嫌というほど理解している。

そして、なんやかんやでネームレスは自由にさせてもらっている負い目がある、そう言ったことも含め報連相を疎かにすることは憚られ、数分間悩みに悩んだ末に〈伝言〉のスクロールを宙へと放った。

 スクロールは燃え消え、〈伝言〉が発動し繋がる。その相手は

 

 

『───あー、モモンガさん?』

 

『あれ?ネームレスさん?どうかしましたか?』

 

 

 報連相を優先することを決めた。

 もしも、モモンガが切れた場合は近くにいるパンドラズ・アクターが諫めてくれるのを期待して。

 

 

『そのだな、さっきソリュシャンもといセバスから報告というか相談がきてな』

 

『はぁ……何かトラブルが?』

 

『ツアレが攫われた。犯人は例の八本指だ』

 

 

 一瞬、沈黙が流れた。

 その沈黙にネームレスは思わず天を仰ぎそうになるがしかし、視界の端でパリィの練習をしている番外席次を微笑ましく眺めることでこの先のことから一時的に逃避する。

 同時にネームレスはモモンガの近くにいるであろう人間を憐れむ。

 レベル的に隔絶した存在が激怒すればそのまま潰れる可能性がないわけではないからだ。

 だが、いつまで経ってもモモンガの怒りは飛んでこない。

 

 

『モモンガさん?』

 

『……ああ、すいません。大丈夫です、ネームレスさん。報復行為はあり得た話ですし……ええ、ネームレスさん、ツアレを救出しましょう』

 

 

 あまりに予想外の反応にネームレスは思わず瞬きする。

 モモンガのことだから、クソがァァアア!とブチ切れると思っていたのだ。実際、原作においてモモンガはアインズ・ウール・ゴウンの名の下に保護したツアレを攫ったことについてアルベドと話しながらもその感情を露にしていた。彼にとって、アインズ・ウール・ゴウンとは今はいない仲間たちとの確かな絆であり思い出そのものであり、それに泥を塗るような行為に憤怒しない理由がなかった。

 だが。

 この世界では少なくともモモンガは一人ではない。

 

 彼にはネームレスという仲間がいるのだから。

 

 

『それは別に構わないんですが、どうやって?』

 

『それはまあ……報復ですし、壊滅いや王国の後々を考えて吸収が一番ですかね。実行グループは許しませんが………詳しいことはデミウルゴスやアルベドに任せましょう』

 

『あ、はい』

 

 

 ネームレスは理解した。モモンガは間違いなくキレているということを。

 温厚な人間ほど怒った時はヤバいというが、モモンガは間違いなくそれにあたる人間だとネームレスは理解し、同時に自分がモモンガという人間を見誤っていたことを自覚する。

 

 

『それに八本指は王国に害を与えてるんですよね?確か、法国が王国を帝国に併合させようとしたのも八本指の麻薬やなんやらで人類の弱体化を懸念したからとかなんとかっていう報告があった気がします』

 

『そう、ですね。そういう報告もありましたね……』

 

 

 はたして、本当にこの〈伝言〉先はモモンガなのだろうか。実は間違えてパンドラズ・アクターに連絡してしまったのではないか、とネームレスは考え始めるがすぐにそれは不毛だと考え、話の続きを促す。

 

 

『それなら、私たちが八本指をどうにかしても問題ないでしょう?』

 

『なるほど。わかりました、モモンガさん。それじゃ、デミウルゴスがセバスらの集めた物資等をナザリックに運ぶために王都のほうに行く予定だったんでそのままデミウルゴスに指示を出しときます』

 

 

 そこまで言って、ネームレスは〈伝言〉を終わらせ、そのままその場に腰をおろす。

 リング・オブ・サステナンスを装備しているにも関わらず疲れたかのような振舞いのネームレスを番外席次が不思議そうに見ているがネームレスはそんな彼女の視線を気にせずにその手を兜の額に当てる。

 

 

 少し、予想外だったな。まあ、もともと地頭は悪くなかったし、パンドラズ・アクターというナザリックの知恵者の一人が常日頃から付いてるんだ。

 

 

 デミウルゴスやアルベドといった知恵者に頼りっぱなしにならないように、そういった考えなのだろうとネームレスは判断しつつ軽く身体を解しながら、アイテムボックスより二つ目のスクロールを取り出し、再びそれを宙へと投げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ツアレ誘拐の一報をネームレスより伝えられた瞬間、モモンガは驚くほど冷静だった。

 同時にやっぱりな、という考えすら脳裏を過っていた。

 少し前の自分ならアインズ・ウール・ゴウンというギルドメンバーとの思い出であり、仲間たちと名付けたその名を知らぬとはいえ侮り泥を塗ったとでも考えてその身を憤怒に染めていたかもしれない、そう考えながらもモモンガは今回の相手が王国の闇で蠢く犯罪組織であることを思い返す。

 組織であり、さらには悪どいことを生業としているのであるならば、セバスによって潰された面子をそのままにしておくはずがないのだ。

 となれば報復に動くのは当たり前だ。

 モモンガは自分だってそうするし、誰だってそうすると理解していた。

 

 

 だから、モモンガは報復し返すことに決めた。パンドラズ・アクターとの軽い勉強会もどき─────リアルで教師であったやまいこや助教授であるらしい死獣天朱雀の姿になれることが関係しているのかは不明であるがパンドラズ・アクターの教導能力は高かった────により、あるていど頭が回るようになってきたモモンガは中途半端な報復ではいけないと判断した。

 中途半端ではもしかしたら、こちらのナザリックの不利益となるかもしれない。ならば徹底的に、実行犯らを殺し、反抗など不可能であると心を折り砕いたうえで組織を吸収する。

 長年、王国の闇で活動してきた組織を滅ぼすのはさすがに惜しい、と考えたが故の決断だった。

 

 

「(それはそれとして、できる限り静かに終わればいいなぁ)」

 

 

 考え方は変わった。しかし、小市民らしさはどこにも行かなかったモモンガである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「おい、あいつはどうした」

 

 

 王国に巣くう犯罪組織八本指、そのうちの一部門である警備部門が所有する建物。その中にある広場にて大柄な男が警備部門に属する人間らに声をかけていた。

 禿げ上がった頭に隆々と盛り上がった腕や巌の如き肉体の動物を模したような刺青を入れた男、ゼロの問いかけに一番近くにいたレイピアを腰に下げた女、ルベリナが反応する。

 

 

「例のアイツなら、さっきどっか行ったよ……なんで、アイツを自由にさせてんのよゼロ」

 

 

 不満気に答えるルベリナにゼロは面倒くさげな態度で目を逸らしながら、その理由を口にする。

 

 

「お前は見てねぇから言えるんだよ。アイツは多少自由にしてでもこっちの所に置いておいた方がいいんだ」

 

「あっそ……ああ、一応言っとくけどマルムヴィストが連れ戻しに行ったから」

 

「マルムヴィストがか……このタイミングで間に合うと思ってんのか?……たくっ」

 

 

 愚痴るゼロは周囲を見回し、新しい六腕となった男を見るがそれらは特に説明するまでもないそれなりに強い程度の冒険者崩れでしかない輩。デイバーノックやペシュリアン、エドストレームの誰の代わりにもならないような有象無象に苛立ちながら、建物へと向かって歩き出す。

 既に仲間が三人も、いやもしかすればまた一人死ぬかもしれない。

 

 そんならしくないことを考えるが直ぐに頭を振って、意識を改める。今考えるのは今回の一件の原因となった老人のみ。

 

 

 

 


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