UNDEAD───不死人   作:カチカチチーズ

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蠢く思惑:改訂版

 

 

 ツアレが攫われたという旨の報告より数時間も経たない内に王都の屋敷、その一室に彼は集っていた。

 スーツに身を包み鉄板を張り巡らしたような尾を生やした悪魔であるデミウルゴス。

 黒のボールガウンに銀色の髪を持った吸血鬼、シャルティア。

 ダークエルフの双子、その片割れである弟マーレ。

 戦闘メイド・プレアデスより二人、エントマとソリュシャン。

 そして、デミウルゴスの配下である魔将ら。

 およそ、この場にいるのが半数であったとしてもこの王都を滅ぼすには十分であるほどの過剰戦力、それらにセバスを加えた面々がこの一室にいる。もしもこの場にまっとうな人間、それもしっかりと自身が置かれている状況を理解できるような者がこの場にいれば素足で逃走してしまう、そんな異様なこの場で真っ先に口を開いたのはデミウルゴスだった。

 

 

「セバス。今回の作戦における全権はこの私、デミウルゴスが、モモンガ様とネームレス様のお言葉によって握ることになったが、異論はあるかね」

 

 

 普段の彼と変わらぬ冷静な声音、しかしセバスに投げかけられたその言葉にはどこか棘があるように、いや実際にそういう風に言ったのだろうとセバスは理解し、特に否定することもない為デミウルゴスの言葉に首肯する。

 

 

「もちろん、理解しております」

 

 

 セバスの返答にデミウルゴスはひとまず、なにか口挟むことなく頷き今回の作戦についての説明を始めていく。

 

 

「今回、君たちを招集したのは我らが至高の御方方であらせられるモモンガ様とネームレス様の御尊名に唾吐いた八本指という愚か者たちを誅殺することが目的で、つい数時間前に攫われたツアレ、という人間の娘を救出のためではない。それはわかっているねセバス」

 

「ええ、あくまで副なる目的でツアレを助けるということですね」

 

「そういう事だね。もちろん、モモンガ様の仰った通りツアレを助ける以上、彼女が蘇生魔法に耐えられないだろうから、生きている内に救出したいと私も思っているよ」

 

 

 そんな嫌味にもとれる言い方にセバスは顰めるものの、それはあくまで胸中に秘めつつデミウルゴスがこのままセバスにとってあまり気持ちの良くない話へと舵切る前に先に口を開く。

 

 

「それで、八本指を誅殺する為の情報はあるのですか?」

 

「問題ないともセバス。既に情報は入手済みだ」

 

 

 セバスの質問に対して即答したデミウルゴスに周囲はセバスも含め驚嘆の声を上げた。それもそうだろうデミウルゴスがこの王都に滞在していた時間は非常に短い、そんな短時間で八本指についての情報を手に入れるなど並大抵のことではない。

 ましてや、あのデミウルゴスだ。表面的な情報だけではわざわざこんなことは言わない。その手に揃えている情報は間違いなくかなり深い部分の情報だろう。なにより、至高の御方方より作戦の全権を任されている以上、情報の真偽に関しては疑うべくもないだろう。

 

 

「襲撃すべき拠点は複数あってね、後はそこを襲撃し情報を持っている者を数人捕虜として捕縛し、至高の御方方の御言葉に泥を塗ったことへの罰に相応しい損害を与えるために情報を引き出す必要がある。皆、異論はあるかね?」

 

 

 そう言いながら懐より恐らく八本指の拠点についての情報が記されているのだろう羊皮紙を取り出しながらそうこの場にいる者たち全員に問いかけるデミウルゴス。それに対して、

 

 

「な、無いです!」

 

「至高の御方方に対する無礼、その身で贖わせんす」

 

「異論などあるはずがございません」

 

 

二人の守護者と執事がめいめいと返事をし、戦闘メイドと魔将らは沈黙しながらも臣下の礼を持ってそれに答える。

 そんな彼らを見てデミウルゴスは一度頷いてからセバスが八本指から指定されたという場所について聞き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王国では基本的に日が沈むと同時に寝るのが一般的である。明かりを灯すための費用を節約するための貧しい集落らしいといえる習慣であるが、王都ともなれば集落とは異なる様相を呈する。歓楽街などはその差異が顕著であり、

店や住民はさながら夜行性の獣とでも言えばいいのか、活動的になる。

 そんな王都にてひっそりと、光輝なる歓楽街とは正反対である暗雲とした静かな暗黒街をゆく人影が一つ。

 鎧をまといヘルムすら被った人間が明かりも持たずに暗い路地を物音すら立たせずに進んでいく様はよそから見れば奇異以外何物ではないが、彼────クライムが被っているヘルムは闇視の兜(ヘルム・オブ・ダークヴィジョン)と同じ能力を有しているが為であり、彼のヘルムのスリットが見せる光景は15メートルという制限があるものの真昼の光景と何も変わらない。

 また、彼の鎧は鋼鉄製のものとは違い、騒がしい音を立てないミスリルなどを材料にしている為に彼は全身鎧を着込みながらこうもひっそりと行動ができた。無論、金属である以上、多少なりとも音は鳴るものだがさらに魔法を加算することで微かな金属音すら立たなくなった。

 では、何故そんなにも用心に用心を重ねているのか。

 その理由は彼が偵察だから、だろう。

 クライムは路地を抜け、目的地を視界に入れた。周囲が背の高い塀で覆われた監獄か要塞か何かを思わせるような物々しい雰囲気の建物は外側からでは中で何が行われてのかその詳細を知ることは出来ないが、自ずと察することができるだろう。

 

 

「あれですね。間違いないですね」

 

 

 身を低くしながらクライムはそう呟けば、すぐ傍誰もいない空間から声が返ってきた。

 

 

「そうですね、班長。場所的にも雰囲気的にもあれがそうみたいですね。それでは先行偵察に行ってまいります」

 

 

 姿の見えぬ男である元オリハルコン級冒険者の一人であるという盗賊系の能力を持つ男の声に、彼らに同行していたもう一人の男、ブレイン・アングラウスが応えた。

 

 

「気を付けてな。不可視化しているとは言っても、看破できる戦士だっているということを忘れないでくれ」

 

「勿論さ。敵は八本指。俺ぐらいの盗賊を抱え込んでいるか、魔法詠唱者がいると考えて慎重に行動するつもりさ。二人とも失敗しないように祈っておいてくれよ」

 

 

 それだけ言って、近くにあった気配が薄れていく。

 この場に残ったのはクライムとブレインの二人のみ。

 

 

 さて、なぜゆえに彼らがここにいるのか。

 それは偏にクライムの主である王女が発端として八本指の襲撃作戦が今夜決行されることとなったからであり、本来ならば王女やその友人や仲間たち、そしてその協力者が動くだけで、ブレインはその円の中にいるはずがない男であった。

 だが、先日の娼館襲撃の一件で縁が結ばれた、とでもいえばいいのだろうか。

 とにもかくにもブレインは一人の男としてこの国に巣食う腐敗の温床を取り除く為に立ち上がったのだ。

 

 

 

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