UNDEAD───不死人   作:カチカチチーズ

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 被りすぎでは????



互いの仕事:改訂版

 

 

 

 所謂西洋中世的な文化であるこのリ・エスティーゼ王国、その文化とは違う東洋的、正確に言えば和風チックなメイド服のようなモノを身に纏っているメイド。戦闘メイド・プレアデスの一員であるエントマ・ヴァシリッサ・ゼータはため息をつきながら館より出ていく。その際に自分の足に張り付いていた紙きれを剥がして丸めてから、館の奥の方に投げ込んでおく。

 そうして、改めてため息をついて彼女は肩を落とす。

 傍から見れば、何か落ち込んでいる様にも見える。事実、そうなのだ。

 彼女、エントマは今回の任務に対して取り分け張り切っていた。というのも、彼女の姉妹であるプレアデスの面々は基本的にナザリック内で仕事に従事しているがその中でもソリュシャン、ルプスレギナは片方はこの王都での諜報活動、片方はとある村での活動を任務として与えられている。姉妹の中で特定の任務に従事しているのはその二人だけ、長女や三女は特段何もこのことについて何か言う事はないが末っ子的な性格がある彼女は不満というわけではないが、少なからず鬱屈したものをため込んでいた。

 そんなところに今回の作戦への参加の命令。エントマが至高の御方の役に立つためのは当然であるがそれはそれとして元々王都での活動をしていたソリュシャン以上のやる気があるのは当然の帰結であった。

 だが、蓋を開けてみればやらかしてしまったのだ、彼女は。

 

 予定時間に対する超過。

 別に彼女や一緒に来ていたデミウルゴスの配下である悪魔たちが何かやらかしてしまいそれが原因で時間が遅れたわけではない。では、何が原因なのか。

 任務は滞りなく行われた。早々に館内の八本指の構成員たちは掃討し、しっかりと重要書類や金銭的価値あるものも回収することができた。特に問題もなく任務は行えていたのだが、撤収予定時間間際となって彼女らはとあるものを見つけてしまった。

 それはこの館の地下室への入り口。さらにその地下室から山のような量の密輸品や違法薬物が発見されてしまったのだ。これだけならば、どれだけよかっただろうか。追加事項として、地下室はいくつもの部屋に細かく分けられており、また物品は大量の雑多な荷物の中に紛れ込ませるように置くという隠蔽工作が成されていた。

 いったいこんなこと誰が予測出来たろうか。恐らくデミウルゴスも隠蔽工作はしているだろうという予測はしていてもこんな隠蔽工作を撤収間際に見つけるなどとは考えもしなかったろう。思わず本来の顔が引き攣りそうになったエントマは悪魔たちと協力して地下室の物品の見分作業をしていきゴミであると判断したものは一つの部屋に押し込んでいき、なんとか価値あるものをすべて運び出すことに成功した。如何に人間をはるかに超える能力を持つエントマたちもこんな細々とした作業を急ぎながら行うのは多大な苦労がかかった。

 だが、結果として予定時間を大きくオーバーしてしまったエントマは今こうしてショックで落ち込んでいた。それでも仕事は仕事、エントマはもう一度ため息をついてから、自身の職業スキルで呼び出した巨大昆虫(ジャイアント・ビートル)らへと指示を出す。それによって彼らは大量の荷物を掴みやたら重低音な羽音を響かせてこの王都の夜闇を一直線に飛んでいく。

 それを見送りながら、ふと自分が片手に持っていた物を思い出す。

 掃討していた際に引き千切った人間の腕だ。つい数十分前の彼女ならそのままかぶりつくところであったが、陰鬱とした空気を漂わせる彼女はその腕を口にすることなく、館の扉を開けて先ほどの紙のように館内部へと投げ捨てる。

 思考の片隅でマーレが連れ去ったこの館の主人である女がここにいれば、掃討する際に食事をしなければ、こんなことにはならなかったのではないか、という考えが過ったがもはや後の祭りで何度目になるかわからないため息をついて、この襲撃を行った後に向かうべき場所へと移動しようとポテポテと重い足取りで向かい始める。

 もちろん、本来予定していた集合時間に間に合うはずはないが、だからといって急がなくていいわけではなくエントマはその重い足取りながらも急ぐように走り始め────

 

 

 

 

「よぉ、良い夜じゃねえか」

 

 

 エントマはその足を止めざるをえなかった。

 どうしてこうも、うまくいかないのか。そんな鬱屈とした気分が渦巻きながらも彼女は声の主へとゆったりと振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネームレスにとって、今回のゲヘナは極力干渉しないようにするという方針で固まっていた。

 それ自体はツアレが攫われたという報告が来る前に決めたことで、ネームレス自身その方針を崩すつもりはなかった。今現在依頼の関係上他人と共に移動中であるというモモンガと違い、手隙であったネームレスはデミウルゴスから今回の作戦などを伝えられておりまたゲヘナについて考えていた時から存在していた疑問に対してもデミウルゴスとの話合いの中で解決したネームレスはこの王都を歩いていた。

 その姿は王国に所属しているアダマンタイト級冒険者・セレネとしての所謂上級騎士の鎧に身を包んだ姿ではなく、黒い布地に金糸が刺繍されたローブを身に纏っており傍から見ても彼が戦士とは思えない姿。これはゲヘナが始まった際に普段通り鎧姿であると戦力として悪魔たちと戦わざるをえない為、戦闘を避けるためのモノ。

 耐火性は高いが防御力は同ランク帯の装備と比べれば何枚か落ちている代物、無論こちらの世界では並み以上の武器でも防ぎきることのできるモノだが。

 

 

 静か、だな

 

 

 人気の少ない区画を歩いているネームレスはふとそんな事を呟くがそれに対する返答は返ってくることはない。ここにネームレスただ一人だから、というわけではない。ネームレスの数歩後ろをついて歩く護衛が一人いる。

 モモンガによって創造され、ネームレスから数打ちではない装備を与えられ、ネームレスの私兵として運用されている不死の戦士の一体である銀面の騎士。その与えられた装備故にレオナールという個体名を与えられたそれは装備の元ネタとなった騎士同様にやや寡黙的で、明確に問いかけられたわけでないのならばこうして返事をすることはなかった。

 それに対して、ネームレスは別段不満があるわけではない。そもそも会話の為に用意したわけではないからだ。

 だが、それでも会話の一つもないというのは退屈を感じさせる。

 

 

 干渉しない、とは言ったがまあ、端で雑兵を狩る程度はいいか

 

 

 故に自身の方針を守りつつもこの退屈を紛らわすために肩を竦めながら、自身の影に潜んでいる影の悪魔へと指示を出す。

 

 

 デミウルゴスに伝えておけ、例の区画外で雑兵狩りをする、と

 

 

 その言葉に御意、と返事をした影の悪魔は一体ネームレスの影より蠢き飛び出していく。それを見送りすぐにレオナールを一瞥する。

 

 

 お前にも働いてもらうぞ

 

「……仰せのままに」

 

 

 そう返答するレオナールの姿を見て、ネームレスは中身が違うという事は分かっているのだが、やはりその外見のせいで妙な感覚を覚えつつも事前に知らされていた八本指の拠点、その一つへと足を向け歩き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんまり良い夜じゃないかなぁ、今のところぉ」

 

 

 唐突にかけられた問いかけに対してエントマは普段の間延びした甘ったるい喋り方よりも先ほどまでの失敗とこうして遅れているのにも関わらずまた余計な時間がかかることにより一層鬱屈した気分を味わいながら、投槍気味に答える。

 そうして、振り返った彼女の視界にのっそりと姿を現したのは男か女か判別するのがやや難しい人間であった。声はハスキーで女と言えば女ではあるが、その見た目は筋骨隆々の男と言うに相応しいもの。どちらで考えればいいのか、と考えているエントマを余所に男女はしゃべり始める。

 

 

「おめぇはこんなところで何をしてんだ?」

 

「……散歩」

 

「……何をさっき館に放り捨てたんだ?」

 

「腕」

 

「………人間の?」

 

「そおぅ、人間の腕ぇ」

 

 

 冷ややかな男女の言葉にエントマはこんな問答をさっさと終わらせて早く合流したいと考えていた。だが、同時に目の前の男女がデミウルゴスの言っていたナザリックとは別口の八本指と敵対している勢力の人間であるという事を理解し、少なくとも自分のような食人の異形種とはそりの合わない存在であると考えその上でこの場をどうするか思考を回していた。

 このまま無視して合流する。だが、もしも尾行に長けた斥候があちら側にいた場合は?合流した皆で袋叩きすればいい、と考えるがそもそも無様に尾行されている時点で問題であり、何らかの手段で情報をリアルタイムで別の仲間に送られた場合を考えればこの案はすぐにエントマの中で却下された。

 戦闘し、死人に口なし。エントマは純粋な戦士ではない、故に目の前の男女の正確な実力は窺い知れないがそれでも漠然と自分より強いという事はない、と感じていた。ならば、適切に対処すれば殺すのはそう難しい話ではない、が

 

 

「(それはそれでまた時間もかかっちゃうしぃ……その間に他にも人間が集まってきても嫌だしぃ………んー)」

 

 

 何よりもむやみやたらな殺生は避けよ、という至高の御方方の言葉がある以上、そもそも悪人であり至高の御方方に唾吐いた八本指のメンバーならばともかく、どう考えても真っ当な人間に見える目の前の冒険者を殺すことは憚られた。不慮の事故、という風にしてもいいのだが流石にそれは難しいと考える。

 そんな風にエントマが思考を回している最中、男女はゆっくりとその手の刺突戦鎚を構え始める。

 

 

「なるほどな。バケモノの登場ってことかよ。八本指がモンスターまで飼ってるとは思わなかったぜ。飼育にはどうやら失敗したらしいが」

 

「……勘違いしないで欲しいんだけどぉ、私は別に人間に飼われてないぃ。先に手を出してきたのはあっち……だから、お互いにさぁ、見なかったことにしない?」

 

 

 男女の言葉に対して訂正しながら、エントマは一つの提案を出す。

 人間の腕を持っていたところを見られたのは不味かったが、別に食べていたわけではないし、返答に対しても肉ではなく腕と返していた。あくまで報復行為として殺した、というスタンスでエントマは穏便にこの場を離れることに決めた。

 

 

「私もぉ、お仕事で来てるんでぇ、あんまりぃ八本指以外の人間を相手にしたくないの」

 

「ああ?そりゃ、どういうことだ」

 

 

 食いついた。少なくともこちらの言葉を戯言だと切り捨てるような人間ではないと判断し、万が一の時にために自身のスキルを使い遠からず近からずの位置にある影、あちらから見にくい場所に飛行用の蟲を呼び寄せ待機させながらエントマはこの場を切り抜ける為に話し始める。

 

 

 

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